開催報告:ビジネスと人権年次ダイアログ「人権のためのビジネスケース:政策、デュー・ディリジェンス、情報開示を通じた新たな貿易時代の構築」

2026年2月13日
Photo: UNDP B+HR

2026年2月4日(水)、UNDPと外務省は、国連大学ウ・タント国際会議場およびオンラインにて、「人権のためのビジネスケース:政策、デュー・ディリジェンス、情報開示を通じた新たな貿易時代の構築」を開催しました。本イベントは、経済産業省、一般社団法人経済団体連合会、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの後援により開催され、責任あるビジネスの実践が、持続可能で強靭なグローバル・バリューチェーンの構築にどのように寄与し得るのかについて議論が行われました。

会場には、関係各国の政府関係者・専門家のほか、日本の主要企業におけるビジネスと人権の実務担当者を中心に、責任ある企業行動やビジネスと人権の推進に関わる官民・国際パートナー約100名が集まりました。オンラインでも240名を超える皆様にご参加いただき、非財務情報開示をサプライチェーン全体における責任ある企業行動と結びつけ、透明性の向上が信頼構築や中長期的な企業価値の向上につながる点について、持続可能な復興と平和の促進という観点から、多様な立場の関係者が共に考え、共創する機会となりました。

 

 

はじめに、宇山秀樹外務省特命全権大使及びマルコス・ネト国連事務次長補兼UNDP政策・プログラム支援局長より冒頭挨拶が行われました。宇山大使からは、日本政府がこれまで策定してきたガイドラインや行動計画を通じて、企業による人権尊重の取り組みが一定程度定着してきた一方、実践面や救済の実効性確保、中小企業への浸透には依然として課題が残されていることが指摘されました。また、欧米を中心に人権デュー・ディリジェンス(人権DD)に関する規制が進展する中で、複数国にまたがるサプライチェーンを有する日本企業にとって、人権尊重は不可欠な経営課題であるとの認識が示されました。

マルコス・ネトUNDP政策・プログラム支援局長からは、UNDPの最新の研究成果として、人権尊重と企業の財務パフォーマンスは相反するものではなく、人権への投資が長期的な価値創出と経営の安定性に資するとのメッセージが示されました。

続いて、UNDPビジネスと人権プロジェクトリエゾンオフィサーの佐藤暁子から、今年度のUNDPのプロジェクト活動および成果報告がなされ、さらに外務省総合外交政策局人権人道課・西村泰子課長より、日本のビジネスと人権に関する行動計画(NAP)についての説明がありました。西村課長からは、関係省庁の施策を横断的に整理し、8つの重点分野として示した点が改訂版NAPの特徴として紹介されたほか、海外事業展開における人権尊重、包摂的な経済の推進、救済へのアクセス強化の重要性が強調されました。

 

 

「NAPおよびその他の政策を通じた効果的かつ持続的な貿易関係を促進する手段としての責任ある事業活動」と題するパネルディスカッションでは、リビオ・サランドレアUNDPビジネスと人権プロジェクト グローバルアドバイザーがモデレーターを務めました。パネリストとして、シャミラ・シャンムガム氏(マレーシア首相府法務局上級次長)、タレス・カヴァルカンチ・コエーリョ氏(ブラジル連邦検察官)、スマンタ・チョードゥリ氏(インド産業連盟 国際貿易政策主席顧問)、宮崎由佳氏(経済産業省 ビジネス・人権政策調整室長)、長谷川知子氏(経団連 常務理事)が登壇しました。

本セッションでは、人権デュー・ディリジェンスが企業の競争力や財務パフォーマンスを損なうものではなく、事業運営の安定性や企業価値の向上に資するとの認識が共有されました。マレーシア政府からは、NAPがガバナンス・労働・環境を横断する実践的なツールとして、中小企業における人権リスク管理や将来の規制への備えに有効であるとの見解が示されました。また、インドおよびブラジルの事例を通じて、責任ある企業行動が国際市場へのアクセスや信頼構築の前提となりつつあることが確認され、日本政府および経済界からも、人権尊重が持続可能でレジリエントな貿易関係の構築に不可欠であるとの認識が共有されました。

 

Panel of speakers on a stage at a conference, with a large blue slide projected behind them.
Photo: UNDP B+HR

続いて行われたセッション2では、「非財務情報開示を通じた人権デュー・ディリジェンスの推進」をテーマに議論が行われました。佐藤暁子UNDPビジネスと人権プロジェクトリエゾンオフィサーがモデレーターを務め、木村武氏(日本生命保険 執行役員、PRI理事)、永瀬隆行氏(住友ゴム工業株式会社 サステナビリティ経営推進本部 サステナビリティ推進部長)、福地寿江氏(稲畑産業株式会社 サステナビリティ推進部 課長)、戸波朝子氏(富士フイルムホールディングス株式会社 ESG推進部 SVP戦略グループマネージャー)、田中竜介氏(ILO駐日事務所 プロジェクト・コーディネーター)が登壇しました。

本セッションでは、非財務情報開示が単なるコンプライアンス対応ではなく、国際競争力の向上や投資家・ステークホルダーとの建設的な対話を促進する戦略的ツールであるとの認識が共有されました。企業側からは、人権DDの実施や情報開示を進める中で、サプライチェーン全体を巻き込んだ対応の難しさや社内理解の醸成といった実務上の課題が示される一方、透明性の向上が信頼獲得や中長期的な企業価値向上につながっているとの具体的な経験も紹介されました。国際機関からは、国際基準との整合性を確保しつつ、企業規模や業種に応じた段階的な取り組みの重要性が指摘され、非財務情報開示を通じた人権DDの実装が、持続可能なグローバル・サプライチェーン構築の基盤となるとの総括がなされました。

ダイアログの最後には、ハジアリッチ秀子UNDP駐日代表が閉会の挨拶を行い、責任ある企業行動と人権尊重は持続可能な経済成長の基盤であり、政府、企業、国際機関が連携してサプライチェーン全体の透明性と実効性を高めていくことの重要性を改めて強調しました。また、本日の議論を、今後の具体的な行動と協働につなげていくことへの期待が示されました。