アラル海地域の持続可能な開発を支える「一村一品(OVOP)」による地域連携
2025年6月3日
ウズベキスタンのカラカルパクスタン自治州から「一村一品(One Village One Product、略: OVOP)」プログラムの現地代表者とUNDPウズベキスタン事務所関係者は、キルギスにおける日本発のOVOP事業の現地における成功事例を学ぶため、隣国キルギスへ5日間の研修訪問を実施しました。本訪問は、2021年よりアラル海地域で展開されている同プログラムの実施方法をさらに強化するための知見・手法を得ることを目的とした日本政府との連携でUNDPが実施する「アラル海地域における気候に対して強靱な農業を通じた自立支援事業」の一環として実施されました。
隣国キルギスでの現地訪問の前に、ウズベキスタン首都タシケントにて国際協力機構(JICA)の阿部直美・企画調査員およびシャリフゾーダ・シャリポフ シニア・プログラム・コーディネーターとの意見交換から始まりました。UNDPカラカルパクスタン・オフィスの、アリシェル・ウテミソフ プログラム・マネージャーは、カラカルパクスタン地域におけるOVOPの成果や今後の発展可能性について説明し、地域資源のみを活用するというアプローチの重要性を強調しました。
JICAウズベキスタン関係者は、カラカルパクスタンで展開されている商品開発やマーケティング戦略に強い関心を示しました。面談では、伝統的なレシピや技術を現代の市場ニーズに適応させる方法、パッケージデザインの課題、商品のブランディング、そして「一村一品」製品の販路拡大に向けたプロモーション戦略などが取り上げられました。
カラカルパクスタンでは、現地で生産活動を行う4名のOVOP手法を導入する代表者(以下、ファシリテーター)が、UNDPプロジェクトの対象4つの地区で起業を志す人々に対して研修を実施しています。彼らは、地域資源の見極め方、競争力ある製品の開発、効果的なマーケティング手法について指導しており、日本発の「一村一品」や「カイゼン」の手法を地域レベルで導入しています。
こういったOVOP運動の制度的支援において重要な役割を担っているのが、ウズベキスタンと日本の専門家によって運営されている「OVOP Aral」組織です。同団体は、国内外での製品プロモーションを進めるとともに、認証取得、パッケージデザイン、マーケティング、販路開拓など、起業家への包括的な支援を提供しています。また、「OVOP Aral」は、生産者同士の知見共有や、地域全体の統一ブランドの形成に向けたプラットフォームとしても機能しています。
今回のキルギス訪問は、同国の全7地域で国家レベルの取り組みとして成功を収めているOVOPの実践事例を学ぶ機会となり、カラカルパクスタンのファシリテーターたちは、生産体制の構築や販売システムの運営といった実務的な側面を視察し、多くの知見を得ました。なかでも特に有意義だったのは、以下の視察先での学びでした。
- フェルト製品、化粧品、食品、管理部門の4部門が一体となった、カラコルの生産センター
- OVOPネットワーク全体の効果的な運営を担う、ビシュケクにあるハブとして機能するセンター(兼オフィス)
- ブランドショップやガソリンスタンド併設店舗を通じた販売ネットワーク
「キルギス・モデルは、OVOPプログラムが単なる経済的ツールにとどまらず、農村地域、特に女性や若者の雇用を支える社会政策の重要な要素となり得ることを示しています」と、チンバイ地区のファシリテーターであるグルナー・アキルベコワ氏は語りました。
JICAによるキルギス一村一品プロジェクトリーダーの原口明久氏は、カラカルパクスタンへの応用を検討中のキルギスOVOPモデルの特徴として、以下の5つの点を挙げました。
- 天然資源の活用:地域の環境にやさしい原材料を活用
- 社会的包摂性:脆弱な立場にある人々のための「グリーン雇用」の創出
- 手工芸的アプローチ:伝統的な手仕事を活かした独自性ある製品づくりの推進
- 観光との相乗効果:観光客の流れを活かした商品のプロモーション
- カイゼン(改善)手法:製品品質や生産プロセスの継続的な改善
上記のような習得した知識と経験は、カラカルパクスタンのOVOP生産者向け研修プログラムに体系的に組み込まれる予定です。
「OVOPは、地域の特性に合わせたニッチな製品の開発を通じて、アラル海地域の経済を再生するためのユニークな機会を提供しています。これは単なるビジネスモデルではなく、環境再生と社会的持続可能性を支えるツールなのです」と、UNDPカラカルパクスタンオフィスのプログラム・マネージャーであるアリシェル・ウテミソフ氏は強調しました。
「一村一品(OVOP)」プログラムについて
「一村一品(OVOP)」は、日本で発展した地域振興の取り組みで、地域固有の資源と知識を活かして、独自性ある製品を開発・販売することで、地域経済の活性化を目指すものです。ウズベキスタン・カラカルパクスタンにおいては、UNDPの「アラル海地域における気候変動に強い農業を通じた自立支援プロジェクト」の一環として、日本政府の財政支援を受けながら実施されています。