開催報告:アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)セミナー(JETRO、JICA、UNDP、UNIDO共催)
2025年1月8日

2019年5月に発効したアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)は、アフリカ連合(AU)の加盟国間で関税撤廃や規制の調和を通じて域内貿易の統合を促進することを目指しています。
2025年8月に横浜で開催される第9回アフリカ開発会議 (TICAD9) に向け、日本とアフリカの協力関係が一層強化されることが期待される中、ジェトロ、国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)、国連工業開発機関(UNIDO)は共同でAfCFTAに関するセミナーを2024年11月24日(木)に開催しました。本セミナーはAfCFTA事務局やさまざまな支援機関、AfCFTAの枠組みを活用しているアフリカ現地企業の代表者が登壇し、AfCFTAの特徴、実施状況、将来展望について、日本とアフリカからの265名の参加者に向けて発表を行いました。さらに、この枠組みが特に日本企業に提供する可能性についても強調しました。

藤井麻理氏
セミナーの冒頭では、JETROの藤井麻理氏(海外調査部主査)が、AfCFTAがアフリカ全体で貿易促進と関税障壁の撤廃を目指す重要な貿易エリアであると主張しました。藤井氏は、JETROの調査によると、アフリカ進出日系企業の56%が戦略的なツールとしてAfCFTAを活用することを検討していることを、AfCFTAが日本企業にもたらすメリットを示唆しました。また2025年8月に横浜で開催されるTICAD9や、2024年12月にアビジャンで開催の第3回日アフリカ官民経済フォーラムなど今後のイベントについて紹介しました。

ソテツィ・マコン氏
同時に、AfCFTA事務局のソテツィ・マコン氏は、AfCFTAとその「ガイデッド・ドレード・イニシアチブ (GTI) 」の概要を紹介し、その大きな可能性について力説しました。アフリカ大陸のもつ広大な機会と、AfCFTAのビジョンである「物品およびサービスの統一市場の創設」を目指す取り組みについて説明しました。また、アフリカ域内貿易を加速させ、グローバルな貿易交渉において大陸の声の統一と政策的な発言力を強化することでアフリカの地位を向上させるというAfCFTAのミッションについても述べました。
マコン氏は続けて、AfCFTAを設立する協定の範囲について説明し、市場を統治する法的手段として機能する規制枠組みに焦点を当てました。これらの枠組みは消費者だけではなく企業も保護することを目的としており、気候変動や知的財産権などさまざまな分野をカバーしています。AfCFTAの実施についても議論され、2022年10月にはAfCFTAガイデッド・ドレード・イニシアチブ (GTI)が開始されました。これにより、特恵貿易地域の試行が進められ、本格的な展開に先立って協定の実施が可能となりました。
発表の締めくくりに、マコン氏は日本企業に対し、AfCFTAに関する情報収集を怠らず、必要に応じて事務局に相談するよう呼びかけました。AfCFTAを活用することで、日本企業がより少ない障壁で、アフリカ大陸内やアフリカを通して貿易やビジネスを展開できることをアピールしました。最後に、若い世代が推進するアフリカ大陸の潜在力を再度取り上げ、リスクに対する偏った見方だけでアフリカの未来を判断すべきでは無いと訴えました。

イフィ・オゴ氏
国連開発計画(UNDP)のAfCFTA地域スペシャリストであるイフィ・オゴ氏は、「日本企業がいかにAfCFTA を活用して貿易・投資を行うか」についてプレゼンテーションを行いました。ここではAfCFTAを通じて日本企業が活用できる主な機会に焦点が当てられました。この協定により、アフリカ大陸で物品やサービスの統一市場が形成され、関税や非関税障壁などの貿易障壁が削減され、その結果、日本企業は多様な市場へのアクセスが広がります。また、規制の調和を進めることで、標準化などの課題を解決し、日本企業はより効率的にアフリカへの輸出が可能になり、通関手続きが簡素化されることでコスト削減の恩恵を受けることができます。さらに、この協定は地域経済統合やインフラ開発を促進することで、より魅力的な投資環境を提供し、日本企業にとって新たな機会を提供します。デジタルトレードやイノベーションの推進にも寄与しており、eコマース、フィンテック、デジタルサービスなどの分野で、日本企業が技術を活用できる可能性を示しています。加えて、現地のアフリカ企業と戦略的パートナーシップを結ぶことで、市場をより効果的に攻略し、現地の知識を活用しながら現地の貿易基準を順守することが可能になり、日本企業の競争力が強化されます。最後に、AfCFTAの規制や政策枠組みに準拠することで、市場ルールを遵守し、大陸全体で予測可能かつ安定したビジネス環境を確保できるという点を明言しました。
イフィ氏は発表の締めくくりに、アフリカ大陸全体における成長と投資の大きな可能性を持つ主要な分野について述べました。これには、ガーナ、ルワンダ、南アフリカなどで新たな拠点が形成されつつある「自動車および関連機器産業」、アフリカの医薬品の90%以上が輸入品であることから現地生産の可能性が期待される「医療・医薬品産業」、大陸全体で高い需要が続く「加工・包装機械産業」が含まれます。さらに、「技術分野」と「食品加工分野」についても言及しました。食品加工においては、付加価値を高めフードロスを削減するための機械やシステムへの需要が増加していると指摘しました。また、イフィ氏は、特に女性や若者が主導する中小企業(MSMEs)を支援するUNDPの取り組みについても触れ、これらの企業が急成長するビジネス分野での協力や投資の可能性を秘めていると述べました。

金子和代氏
同時に、JICA AfCFTA企画調査員の金子和代氏が、AfCFTA推進にJICAの支援について発表しました。金子氏は、JICAと事務局との連携における主なマイルストーンを紹介しました。JICAは2020年6月から2021年1月にかけて調査を実施し、AfCFTAの実施状況と課題を評価するとともに、JICAの役割や今後の支援について検討しました。JICAは2020年6月から2021年1月にかけて調査を実施し、AfCFTAの実施状況と課題を評価するとともに、JICAの役割や今後の支援について検討しました。2022年8月にチュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)においては、JICAはAfCFTAの推進に対するコミットメントを再確認しました。この間、JICAはAfCFTA事務局との協力合意に関する一連の協議を進め、事務局の関係者をさまざまなイベントに招待しました。その後、2022年12月にJICAとAfCFTA事務局の間で協力覚書(MoC)が締結されました。
締結された協力覚書(MoC)において、JICAとAfCFTA事務局は4つの分野で協力することに合意しました。 最初の分野は、貿易円滑化と物流回廊の開発です。JICAは、税関やワンストップ・ボーダーポスト(OSBP)の職員の能力開発など、貿易円滑化に向けた支援を行っています。また、物流回廊の開発を含むインフラ整備を支援しており、これによってアフリカ大陸における物流の改善を図っています。このように、JICAはソフト面とハード面の両方から貿易環境の向上と物品・サービスの円滑な流通を目指しています。2つ目の分野は、産業化推進と地域バリューチェーンの強化です。具体的には、カイゼンアプローチの普及、中小企業やスタートアップの能力開発、稲作振興のための技術支援、さらに日本企業によるアフリカ事業展開を支援しています。3つ目の分野は、ASEAN諸国や日本が持つ経験をアフリカ諸国と共有すること、そして後に、AfCFTAの推進を支えるための能力開発とアドボカシーです。
JICAはアフリカ全域に30以上の事務所を構え、各国政府や地域機関との信頼関係を維持しながら、長年にわたり貿易円滑化、インフラ整備、産業化、地域バリューチェーン、そして現地企業や人材の能力開発を支援してきました。さらに、ASEAN諸国や他のアジア諸国との協力の経験を活かし、その知識をアフリカ諸国と共有する取り組みを進めている。これらはJICA支援の独自性と強みとして評価されています。
パネルディスカッション:「日本から見たAfCFTAへの期待と展望」
パネルディスカッションは、AJA Limitedのマネージングディレクターであり、AfCFTA女性および若者のプロトコルのチャンピオンでもあるハピネス・ニティ氏によるプレゼンテーションで始まりました。

ハピネス・ニティ氏
タンザニアに本社を構えるAJA Limitedは、サイザル繊維を専門とする業界のリーディングカンパニーです。ハピネス氏は、AfCFTAにおいて自身の事業が直面している機会と課題の両方について説明しました。AfCFTAは広大な市場へのアクセスを提供し、さまざまな機会を生み出しています。同者の製品は中産階級向けの手頃な価格の建築資材を提供しており、この産業は経済発展を促進しながら雇用を創出している一方で、古い機械に依存し続けているため技術革新が不足していることが、事業の進展における課題です。また、AfCFTAの下で多くの東アフリカ製品が西アフリカや北アフリカへ輸出されており、AfCFTAの大きな可能性に言及しました。

本間徹氏
同時に、JICA国際協力専門員(民間セクター開発)/アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)長官シニアアドバイザーの本間徹氏が、AfCFTAと東南アジア諸国連合(ASEAN)の包括的な比較を共有しました。
本間氏は、日本企業がAfCFTA よりもASEANに馴染みがあることを指摘しながら、現在AfCFTAは発展を遂げていると述べました。アフリカ連合(AU)は現在G20の正式メンバーとなり、その重要性はますます高まっています。AfCFTAとASEANの貿易圏のGDPはほぼ同じですが、AfCFTAの人口はASEANの約2倍であり、さらに増加しています。一方で、ASEANは世界の成長センターと見なされていますが、その人口増加は停滞し、一部の国では中所得国の罠に直面しています。加盟国数に関しては、AfCFTAが50カ国以上をカバーしているのに対し、ASEANは10カ国にとどまります。
統合の歴史については、ASEANは石油危機やアジア通貨危機といった外部ショックにより統合に時間がかかりましたが、1992年のASEAN自由貿易地域(AFTA)や2015年のASEAN経済共同体(AEC)といった前向きなステップを通じて着実に進展しました。ASEANはこれまで、民間セクター主導で加盟国間で製造プロセスを分担し付加価値を生むという形で成長し、製造業の中心地と見なされています。
ASEANの域内貿易比率は23%で、AfCFTAの16%とそれほど大差はありません。しかし、東アジア/東南アジア全体として見ると、域内貿易比率は59%に達し、日本、中国、韓国といった東アジアとのグローバルバリューチェーンと非常に強く結びついていることが分かります。一方で、AfCFTAは異なるタイムラインと統合規模にあります。本間氏は講演の最後に、「アフリカには成長の余地がある」と、大陸の成長可能性を強調しました。
UNDPイフィ氏に対して、現在AfCFTAが直面している課題についての質問が寄せられました。イフィ氏は、以下の3つの主要な課題を挙げました。
一つ目に、投資機会に関する情報が不足しており、この不透明さによって投資家が状況を把握することが難しくなっていること。
二つ目に、AfCFTAは現在、主に中小企業(MSMEs)によって主に使われていますが、彼らを支援しより大規模な事業へと成長させる必要があること。
三つ目に、企業や投資家が、市場や貿易ルールを理解するための具体的な手段が不足していること。
これらの課題を克服するため、UNDPは市場情報ツール、市場アクセスプログラム、政策アドバイザリーサービスを提供し、この重要なギャップを埋める取り組みを行っています。
まとめとして、イフィ氏は、AfCFTA内の進化する機会に適応できなくなった従来の貿易慣行から脱却することの重要性を指摘しました。
次に、ソテツィ・マコン氏に「日本の民間セクターに何を期待するか?」という質問が寄せられました。マコン氏は、日本の民間企業に対して、事務局に積極的に相談してほしい旨を伝えました。事務局は、投資可能な分野を特定したり、日本企業へ協力の機会を模索していると述べました。
さらに、大陸全体で進むデジタル革命を支えるため、特にデジタルトレードプロトコルを活用する上で、技術移転が極めて重要であることを主張しました。また、TICADが企業間取引(B2B)パートナーシップを促進するための貴重なプラットフォームとなることへの期待も表明しました。
Q&Aセッションでは、次のような質問がありました。
1つ目は、「ガイデッド・トレード・イニシアティブ(Guided Trade Initiative)を利用せずにビジネスが可能になるのはいつか?」 という質問です。
これに対しマコン氏は、その国の発展度や適応能力という2つのカテゴリによって、そのプロセスは国によって5年から10年程度異なると説明しました。
2つ目は、「JICAの活動の中でインフラや産業化に焦点を当てているものはあるか?」 という質問です。
金子氏は、JICAは、カイゼンアプローチの普及、地元企業やスタートアップの能力開発、ビジネスサービスプロバイダーの強化などを通して、アフリカにおける産業発展を長年支援してきたと回答しました。また、JICAはアジアの知識や経験をアフリカ諸国と共有していると説明しました。
さらに、JICAはAfCFTA事務局とだけではなく、AfCFTAの実施を推進する上で重要な役割を果たしている各国政府やその他の関係者とも連携を続け、それぞれの国の事務所を通じて密接に協力していくと述べました。

足立文緒氏
セミナーの締めくくりに、国連工業開発機関(UNIDO)東京投資・技術移転促進事務所(ITPO TOKYO)の足立文緒所長は、1989年に国連が、アフリカの産業化に向けた国際社会のコミットメントを喚起することを目的として、11月20日を「アフリカ産業化の日」と指定したことに言及しました。さらに足立所長は、翌年には産業化をテーマとした新たなフォーラムが開催される予定であることを共有し、横浜で開催されるTICAD 9に向けてUNIDOのさらなる関与を活かす機会への期待を述べました。
登壇者
開会挨拶:
- 藤井 麻理 JETRO調査部部長
基調講演:
- ソテツィ・マコン氏 Chief Technical Advisor Capacity Building, Trade Negotiations and Trade Policy, AfCFTA 事務局
- イフィ・オゴ氏 UNDP地域AfCFTAスペシャリスト
- 金子和代氏 AfCFTA推進/貿易円滑化担当JICA企画調査員
パネルディスカッション:
- ソテツィ・マコン氏 Chief Technical Advisor Capacity Building, Trade Negotiations and Trade Policy, AfCFTA 事務局
- イフィ・オゴ氏 UNDP地域AfCFTAスペシャリスト
- ハピネス・ニティ氏 AJA Limitedマネージングディレクター/ AfCFTA女性および若者プロトコルのチャンピオン
- 本間徹氏 JICA国際協力専門員(民間セクター開発)/アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)長官シニアアドバイザー
モデレーター:
- 渡守麻衣氏 JICAアフリカ部計画・TICAD推進課
閉会挨拶:
- 足立文緒氏 UNIDO東京投資・技術移転促進事務所 所長
司会:
- 更科亮 JICAアフリカ部計画・TICAD推進課