科学誌『Nature』で提唱
人と自然の関係を再構築する大胆な枠組み
2025年7月3日
「地球の未来に向けた意欲的アプローチ (An Aspirational Approach to Planetary Futures)」と題され、複数の国の研究者たちにより共同執筆されたこの論文は、人間と自然、そこに生きる全ての動植物との間における相互に有益な関係性を明確化し・向上させるための新たな指標の概念的基盤の構築を試みています。
人間開発指数(HDI)が、経済成長だけでなく人間の能力に焦点を当てることで、世界の開発に関する議論を大きく転換させたように、今回ここで提唱されている「自然関係指数(Nature-Relationship Index – 省略NRI)」も、単に環境への悪影響を測るだけでなく、人間と自然との関係性を開発の本質的な要素として評価することを目指すものです。その目的は、人と地球環境の間に、よりポジティブで相互に有益な関係が築かれているかどうかを捉えることにあります。
この考え方の背景にあるのは、「開発」と「プラネタリー・ヘルス(地球生態系の健全性)」は同時に取り組むべき同一不可分の課題である、という近年の認識の高まりです。現在はまだ概念段階ですが、ここで提案されている新たな指標は、各国が生態系をどれだけ適切に保全し、自然への公平なアクセスを確保し、環境への悪影響を防ぐ努力をしているか評価することを目指しています。また、単に環境の悪化を記録するのではなく、前向きな行動を評価・奨励することに各国がどれだけ重点を置いているかも測ろうというものです。
この指標は、既存の環境的・社会的進捗の測定手法を補完し、人間を含む自然界全体の長期的なウェルビーイングと整合する政策立案や投資行動に寄与することが期待されています。
この論文は、2026年版『人間開発報告書』に向けたより広い議論の一端を担うものです。来年発行予定の同報告書では、地球環境が人間活動により深刻な負荷を受け続けている状況の中での人間開発のありかた、そして人と地球のより良い関係を築いていくとはどういうことかを探求してゆく予定です。
NRIの概念は、現時点ではまだ構想段階にあります。今後は、複合指標としてのNRIがどんな要素で構成されどのように算出されるべきかを整理しつつ、その構成要素となる各分野の指標やデータを検討していく作業に入ります。
この取り組みをさらに強化すべく、皆さまからのご意見やご関与を歓迎いたします。学術誌「Nature」に掲載された論文全文(英語)はこちらからご覧いただけます。ぜひフィードバックフォームを通じてご意見をお寄せください。