開催報告:アフリコンバース2024第4回 アフリカへの第一歩: 豊かな未来のための機会創出

2025年1月24日
a group of people sitting at a desk

2024年12月19日(木)、2024年第4回アフリコンバース2024が開催されました。「アフリカへの第一歩: 豊かな未来のための機会創出」をテーマに、オンライン参加者を含めて全世界から243名以上が参加しました。このイベントでは、アフリカでの具体的なビジネスチャンスを探る場として、アフリカと日本双方からの起業家や投資家、企業関係者、学者などが登壇。実際の成功事例や課題克服の戦略が共有され、日本企業が、物理的・心理的・歴史的な壁を乗り越え、アフリカ市場への「第一歩」を踏み出すためのきっかけが提供されました。

イベント冒頭では、慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岡田正大教授が基調講演を行い、以下の3つの視点を共有しました:

  1. アフリカには日本企業が活躍できる大きな可能性があり、積極的に参入すべきである
  2. 日本企業がアフリカ市場進出に対して抱く躊躇の理由やその背景
  3. より積極的にリスクを取る姿勢を育むことの重要性
     

岡田教授は、多くのアフリカ諸国が世界平均成長率3.8%を上回る力強い経済成長を遂げている一方で、2017年時点で日本の対アフリカ直接投資(FDI)額が870万ドルと低水準にとどまり、フランスの7分の1、インドの半分に過ぎないと指摘しました。この数字は、日本のGDP規模を考慮すると著しく低く、同時にアフリカ市場の未開拓の潜在性を示していると述べました。また、日本企業がリスクを回避する傾向が強いことが、この状況の一因であると分析しました。実際、日本企業は27カ国中で資産利益率(ROA)が最下位、リスク許容度は26位という評価を受けており、不確実性回避指数も日本は88と、世界平均の55を大きく上回っています。岡田教授は、この日本企業のリスク回避傾向は、国、企業、マネージャーレベルの価値観どれもが影響していると述べ、この課題に対し、岡田教授は以下の2つの解決策を提案しました:

  1. アフリカ市場への挑戦意欲を持つ起業家を育成する
  2. 大企業の意思決定者に対して、アフリカ市場への関心を高め、リスクを受け入れる姿勢を教育する

続いて、モデレーターのJICAアフリカ部次長上野修平氏が、本イベントの背景として、アフリカの発展のためにはアフリカ内外からの民間セクターのさらなる関与が不可欠であることを強調しました。同氏は、岡田教授の研究を参照し、多くの社員が学生時代の留学や企業研修等でアフリカに触れる経験を持つことで、企業がアフリカへの進出を決断しやすくなると述べました。また、今回のセミナーをきっかけに多くの人がアフリカへの「一歩」を踏み出し、日本企業のアフリカ進出が拡大することを期待していると語りました。

Afrika Nunyaの創設者兼エグゼクティブディレクターのオラトクンボ・イゲ氏は、アフリカ市場の「独自性」について、アフリカが54の国で構成され、それぞれが異なる発展段階や地理的特徴を持つ多様な市場であると強調しました。また、急増する若年層(世界人口の4分の1を占めると予測される)、豊富な天然資源(石油やレアアースなど)、急速な技術発展への適応力、ユニコーン企業の増加といった具体例を、アフリカ市場の可能性を裏付ける特徴として挙げました。さらに、アフリカがグローバルガバナンスにおいてますます重要な役割を果たしている点を指摘し、世代間や文化間の連携がアフリカの潜在力を最大限に引き出す鍵になると述べました。

一方、ABEイニシアチブ卒業生であり、レックスバート・コミュニケーションズのソフトウェア開発者として日本で働くムカヒルワ・デルフィーヌ氏は、若者向け商品に限らない、日本企業がアフリカ市場に持つ潜在力について語りました。同氏は、アフリカの人々には高い適応力と受容性があるので、日本企業は躊躇せずにアフリカに進出すべきだと主張しました。また、現地企業との協力を通じて現地のニーズに応じた製品の共同開発をすることもできると述べ、「共創」の重要性を強調しました。彼女は、アフリカのビジネス環境において、即座にパートナーや市場が見つからない可能性があるものの、これはむしろ足場を築き、日本の技術力を活用し、現地企業と協力して革新的な解決策を生み出す機会であると指摘しました。また、日本のインフラと資金力がアフリカの創造的なアイディアを後押しし、共に成長する可能性を秘めていると述べました。さらに、戦略的な協力を通じてアフリカの潜在的な可能性を探るよう日本企業に呼びかけ、適切なアプローチを取れば無数のチャンスと長期的な利益を見出せると結びました。

三井住友信託銀行株式会社金融法人部次長白川富久氏は、慶應エグゼクティブMBAプロジェクトのケニア訪問を通じて明らかになった課題についてプレゼンテーションを行いました。具体的には、急速な人口増加による住宅需要の増加、未整備の公共交通機関や通勤手段の不足といった課題が挙げられました。これらの問題に対応するため、白川氏は新たな資金調達手段としてセキュリティトークンを活用するビジネスプランを紹介しました。このコンセプトは、不動産や動産を小口化し、デジタル証券として投資家に販売するというものです。白川氏はアフリカ訪問を通じて、ケニアの不動産業界における主要な課題を特定でき、 モータリゼーションとセキュリティトークン(STO)の活用との強い関連性を再確認でき、IT技術に対する認識の高まりを認識できたと述べました。

NPO法人CLOUDY 代表理事兼株式会社DOYA代表取締役である銅冶勇人氏は、アフリカの文化的な豊かさとビジネスの可能性について語りました。同氏は、アフリカの地域社会が直面する喫緊の課題を解決するための活動が、自身のビジネスの構築につながっていると述べ、自身がNPO活動と営利企業の両輪で、貧困、教育格差、ジェンダー不平等といった現地の課題に取り組んできた経験を共有しました。その具体例として、政府や現地の自治体、コミュニティと協力し、地域の人々自身で運営可能な公立学校を設立した取り組みを紹介しました。この学校では、敷地内で農業活動を行うことで自給自足のサイクルを構築し、持続可能な運営を目指しています。さらに、現地の女性たちに安定した雇用と自立のためのスキルを提供する取り組みとして、アフリカの伝統的な布の製造技術を教える活動についても紹介しました。これにより、女性たちが自立し、経済的に安定する機会を得られることを目指しています。こうした活動において、現場に足を運び、現地の実情を直接見て問題の本質を見極め、何が本当に必要かを考えること、それを協力的かつ持続可能な解決策で根本的に解決する重要性を強調しました。また、アフリカの人々の、身近なところに幸せを見出し、それを皆で共有し合う姿から幸せの価値観を学んだという彼自身の経験について語りました。そして、参加者に対し、アフリカを直接体験することを呼びかけました。

慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岡田正大教授は、自身が担当するエグゼクティブMBAコースの一環として行なっているアフリカ向けビジネス戦略教育への期待と、アフリカへの「第一歩」を促進する取り組みについて発表しました。岡田教授は、アフリカ市場の課題と可能性に焦点を当て、最近の日本企業に対する調査で回答者の4分の3がアフリカ市場に対して前向きではないというデータを共有しました。多くの企業は、市場参入の障壁として、現地でのビジネス運営ノウハウの不足、信頼できるパートナーの発見の難しさ、現地企業との提携やM&Aの手法がわからないなどといった外的要因を挙げています。しかし、岡田教授は、これらの課題はアフリカでの直接的な経験を通じてのみ克服可能だと強調しました。彼のプログラムでは、社会人学生が自らのビジネスモデルを検証するために、アフリカ諸国で実地研修(フィールドスタディ)を行う仕組みが組み込まれていると説明しました。岡田教授は、日本企業がアフリカ大陸での「第一歩」を踏み出す取り組みが増えることを期待していると述べました。

さらに、岡田教授のコースにおけるアフリカ訪問カリキュラムに参加した住友信託銀行の白川富久氏は、この訪問が選択制であるものの、約半数の学生が熱意を持って参加を選んだことを説明しました。

これらの議論に加えて、ムカヒルワ・デルフィーヌ氏オラトクンボ・イゲ氏は、アフリカと日本の協力の可能性についてさらに洞察を共有しました。

デルフィーヌ氏は、文化・言語的なギャップに対処し、ポジティブな職場環境を育む重要性について強調しました。特に、職場における静寂や騒音といった要素が集中力に与える影響について触れ、これらを適切に管理することで、アフリカと日本の企業がより良い協力関係を築けると述べました。自身が日本企業で働き始めた際、日本のオフィス環境の静けさに驚き、慣れない状況で集中力を保つのが難しかったことを例に挙げ、逆に日本人がアフリカで働く際には、活気ある環境への適応が課題になるだろうと述べました。

一方、オラトクンボ氏は、日本とアフリカには共有できるものや相互に補完できる部分が多く存在すると指摘しました。特に、料理や芸術分野での文化的な共通点を挙げ、彼女の友人がトーゴで経営するレストランで日本人シェフの料理が地元で人気を博している事例を紹介しました。また、アフリカの人々が外部から学ぶ意欲や新しいものを探求する姿勢について述べ、それが両地域の交流や協力を深める可能性を広げる鍵になると強調しました。さらに、農業分野では冷蔵保存施設の整備などにおけるビジネスの可能性についても指摘し、日本とアフリカの若いエンジニアが協力し、伝統的な知識と革新的な技術を融合させることで、双方に利益をもたらす解決策を共創できるとの見解を示しました。最後に、オラトクンボ氏はビジネスにおけるリスクを受け入れる姿勢の重要性を強調しました。どの国でビジネスを行う場合でもリスクは避けられないため、リスクを効果的に軽減し、適切に管理する戦略を持つことが成功の要であると述べました。

Q&Aセッションでは、アフリカ市場への外国企業の参入が新植民地主義につながる懸念が提起されました。これに対し、岡田教授は、この問題が歴史的にセンシティブなテーマであると認めつつ、現代のアフリカ諸国は経済成長に向けて海外の技術やノウハウ、外国投資の価値を認識していると述べました。銅冶氏は、ビジネスを行う際には社会的影響を十分に考慮し、地元コミュニティの支援や政府との協力を通じた包括的なアプローチが必要であると強調しました。

また、アフリカ市場進出時のリスク軽減策としてフランチャイズの有効性について質問が挙げられた際、岡田教授は、フランチャイズの仕組みが企業にとって比較的低リスクで事業を拡大する効果的な手法となり得ると述べました。

さらに、日本のビジネスリスクへの姿勢が他のG7諸国とどう異なるかという質問に対し、岡田教授は、日本が高度経済成長期においてノーリスク・ハイリターン型の戦略に依存してきたことや、2008年のリーマンショック後にリスク回避の傾向がさらに強まったことを指摘しました。また、日本人の不確実性を回避する国民性も影響している可能性があると述べました。

閉会の挨拶で、JICAアフリカ部次長上野修平氏は、アフリカ市場の多様な可能性や日本とのパートナーシップ、現地経験の重要性、課題解決に基づくビジネスの面白さなど、今回の議論から得られた知見を2025年8月に開催されるTICAD9に活かしたいと述べ、イベントを締めくくりました。

TICAD 9 Logo - Color

本イベントはTICAD 9パートナー事業です。