公平なイノベーションの実現:第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)のテーマ別イベントがアフリカの医療技術における未来を描く

2025年11月4日
Six panelists seated on stage at a conference, audience in foreground.

TICAD 9テーマ別イベント「医療技術のイノベーションと公平性の新時代」のパネリストが、アフリカ全域における包括的なイノベーションの推進と医療技術への公平なアクセスに関する見解を共有。

Photo: GHITFund

横浜 - 第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)は、グローバルヘルス分野におけるイノベーション、公平性、そして強靭性に関する対話を深めるための重要な場となりました。2025年8月20日、国連開発計画(UNDP)新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(Access and Delivery Partnership: ADP)イニシアチブおよびグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)が共催したテーマ別イベントでは、世界各国のリーダーや専門家が一堂に会し、アフリカにおける医療技術のイノベーションと公平なアクセスの未来について議論しました。

このハイレベルイベントでは、研究開発(R&D)の加速化、新たな医療技術の提供拡大、気候変動からパンデミック、経済的ショックに至るまで、複合的な危機に対応する上での強靭性のある公平なシステムの構築に焦点があてられました。

外務省と厚生労働省の後援で行われた同イベントは、グローバルヘルスと持続可能な開発への日本の長年の取り組み、そしてユニバーサル・ヘルス・カバレッジと人間の安全保障の推進における日本の役割を改めて示す機会となりました。

Photograph of a man in a blue suit at a wooden podium with a microphone.

冒頭の挨拶において、元厚生労働大臣であり、長年にわたりグローバルヘルスを牽引してきた武見敬三氏は、世界が直面している喫緊の課題の深刻さを強調。また、世界を取り巻く複合的な危機や世界的な混乱、持続するパンデミックの脅威が、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、持続可能な開発、そして人間の安全保障の進展を脅かしていることも指摘しました。

さらに、革新的な医療技術を提供し、こうした技術を最も必要としている人々のアクセスを確保するという低中所得国のニーズに応える上で、日本政府とUNDPおよびGHIT Fundとのパートナーシップが重要であることを強調しました。また、感染症研究とグローバルヘルス協力の強化に向けた日本の重要な取り組みとして、最近発足した国立健康危機管理研究機構(JIHS)と、今後設立予定のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ナレッジハブについても言及しました。

Photograph of a man in a suit delivering a speech at a podium with a microphone.

冒頭の挨拶に続き、UNDPのハオリャン・シュウ総裁代行兼副総裁が、アフリカにおける新たな健康安全保障の課題について基調講演を行いました。

ハオリャン・シュウ総裁代行は、アフリカの保健システムに影響を与える複雑な開発課題がある一方で、類を見ない機会も存在することを指摘。デジタルヘルス、人工知能(AI)、保健財政におけるイノベーションにより、様々な国がアクセスにおける従来の障壁を乗り越えられるようになっていることを強調しました。戦略的かつ分野横断的なパートナーシップは、顧みられない疾患に対する医薬品、ワクチン、診断薬といった新たな解決策を広げ、これらを持続可能で包摂的なものにする上で不可欠だと述べました。

ハオリャン・シュウ総裁代行は、「健康とは、開発の原動力であると同時に、その成果でもあります。TICADにおけるアフリカと日本のリーダーシップは、進歩を加速させるために必要となる、効果的な共創を示すものです」とし、こう付け加えました。「UNDPは国連ファミリーの一員として、アフリカの保健開発に向けた革新的な解決策を実現するために、この重要な協力体制のもと活動を行っていきます」

続いて行われたパネルディスカッションでは、イノベーション、規制、民間セクターからも多様な意見が述べられました。

H3Dのディレクター兼H3D財団CEOおよびケープタウン大学の教授であるケリー・チバレ教授は、AIがアフリカ主導の創薬を加速させ、様々な人を対象とした医薬品の開発および適応の手段を大きく改善している点を強調しました。同教授のチームは、デジタルソリューションを活用することで、マラリアや結核治療薬の代謝に影響を与える遺伝子変異を特定しています。こうした活動から得られた知見は、大規模なバイオバンクがない場合でも、より効果的な投与量を推奨できるよう活用されています。

チバレ教授は、「私たちが行ったのは、AIを活用して、十分なデータがないという障壁を乗り越えることでした」と述べた上で、こう続けました。「アフリカにはバイオバンクがありません。そこで、転移学習として知られる技術を活用しました。この技術によって、マラリアや結核の治療薬の分解や代謝に影響を与えうる遺伝子変異を、アフリカで流行している人工知能を使って特定したのです。次に、これらの遺伝子変異の影響を既存の数学的モデルに組み込み、個々に合わせて使用すべき投与量を予測しました」

NECの国際協力事業推進統括部長である前川健太郎氏は、官民パートナーシップを通じてガーナとバングラデシュにバイオメトリクスとデジタルツールを導入した経験から得た教訓について紹介しました。同氏は、意義のあるイノベーションは、地域コミュニティでの使いやすさ、信頼性、そして環境への適応力にかかっていると強調しました。また、NECのデジタルヘルス・プロジェクトの成功の背景は、地域住民の声に耳を傾け、現地のパートナーと緊密に協力したからであると強調しました。真の進歩とは、企業や技術がもたらすものではなく、むしろ、その恩恵を受ける人々自身がかかわり、自らの生活に即した実践的な解決策を形作ることで築かれるものだと見解を示しました。

GHIT Fundの投資戦略アソシエイトヴァイスプレジデントである浦辺隼氏は、マラリア、結核、顧みられない熱帯病(NTDs)をはじめとする、顧みられない疾患のR&Dへの資金提供において、10年以上にわたる自らの経験について語り、GHIT独自の官民モデルについて紹介しました。

同氏は、開発初期段階からアクセス計画を組み込むことの重要性を、学びのひとつであると強く訴えました。「アクセスを後回しにするべきではありません。私たちは、住血吸虫症に対する新たな小児用治療法について、2018年から協議をしています。これは早期に取り組むべき課題なのです」。さらに、GHIT Fundの助成案件において、デジタル技術やAIを活用した提案が増えており、アフリカの機関や研究ネットワークが推進する新たなイノベーションが徐々に増加している傾向についても指摘しました。

AUDA-NEPADのアフリカ医薬品規制調和(AMRH)プログラム責任者であるチムウェムウェ・チャムディンバ氏は、アフリカの規制当局が基準や手続きを調和させることで、イノベーションとアクセスのギャップをどのように埋めているかについて意見を述べました。AMRHのイニシアチブとアフリカ医薬品庁(AMA)の設立によって、アフリカ大陸では、医薬品承認プロセスがこれまでに比べ、迅速かつ統合的に進められるようになっており、国内法を地域的な規制の枠組みと整合させるための重要な一歩である「医療用品規制に関するアフリカ連合のモデル法」を、21カ国が採択していることにも言及しました。AMAの設立が進む中、規制体制を確保するために、国、地域、そして大陸レベルの調整と民間セクターとの協力が不可欠な中、「必要とする技術をタイムリーかつ効率的に導入する準備が整っている」と、同氏は述べました。

こうしたディスカッションを通じて浮かび上がったのは、「テクノロジーだけではインパクトを与えることはできない」という共通認識でした。真の進歩は、包括的なガバナンス、長期的な投資、地域に根差したリーダーシップを基盤としたパートナーシップを通じて、イノベーションとアクセスを結び付けられるか否かにかかっています。AIを活用した創薬から、調和の取れた規制制度まで、地域社会とともに公平な医療ソリューションを創り上げることの重要性を示しました。

Man in a suit at a podium giving a talk, microphone and water bottles nearby.

外務省地球規模課題審議官(大使)の中村亮氏は、グローバルヘルスにおけるイノベーションと協力の重要性を強く訴え、同イベントを締めくくりました。同氏は、公平かつ効果的な方法で健康課題に対応するには、革新的な手段、技術、戦略が不可欠であると強調した上で、今後の展望として、技術開発、資金調達、そして医療分野全体の強固なパートナーシップにおける協力体制が、将来の原動力になるだろうと主張しました。