次世代へつなぐ、より明るい未来
母の願い、エネルギーを自分たちで生み出す暮らしへ
2026年3月12日
スリランカ北部ムッライティブ県の農村、プトゥクディイリップ。
28歳のラジット・ダンシさんと夫のシスラヴェル・ラジットさんは、この地で困難を乗り越えながら暮らしを築いてきました。内戦とその後の混乱を経験してきたダンシさんにとって、食料や水さえ十分に手に入らなかった日々は、今も忘れられない記憶です。現在も課題は残っていますが、彼らの家庭では静かな変化が起きています。その原動力となっているのは、再生可能エネルギーです。クリーンエネルギーがもたらす小さな革新が、家族の暮らしに新たな希望を灯し始めています。
2016年に結婚したダンシさんとラジットさんは現在、生まれたばかりの赤ちゃんを含む3人の幼い子どもを育てながら、小さな家庭菜園の手入れや家禽の飼育にも日々取り組んでいます。ラジットさんは日雇いのパルミラヤシの樹液採取を生業としており、仕事は季節に左右されます。そのため、家計は天候や市場の状況に大きく影響を受けやすく、不安定な状態が続いています。
これまで長年にわたり、料理をするということは、薪を集めるために長い時間を費やすことを意味していました。薪集めは多くの労力を要する作業であり、作物の世話や家族と過ごす時間を十分に確保する余裕がありませんでした。しかし2025年1月、状況は大きく変わりました。ダンシさん一家は、日本政府の補正予算(JSB)の支援を受けたUNDPの「気候の約束(Climate Promise)」事業を通じて、小型バイオガス設備の供与対象として選ばれました。
「以前からバイオガスには関心がありました」とダンシさんは語ります。
この技術については、ソーシャルメディアを通じて初めて知ったといいます。地区事務所を通じてこの支援の案内を受けた際、彼女は迷うことなく応募しました。
設置からわずか3週間で、その効果が表れ始めました。現在では、毎日およそ2時間、家族の食事をバイオガスで調理できるようになり、お茶の時間や軽食づくりにも活用しています。
「以前は、料理にとても時間がかかっていました。薪を集めるだけでも本当に大変でした。今は、その時間を家庭菜園や子どもたちと過ごす時間に充てられるようになりました」とダンシさんは話します。
恩恵はエネルギー面にとどまりません。バイオガス設備からは栄養豊富な液体肥料が生成され、ダンシさんは家庭菜園を完全な有機栽培へと移行することができました。以前は、肥料や農薬に週およそ5,000スリランカルピー(約2,000〜2,500円)を費やしていましたが、有機の液体肥料に切り替えて以来、化学資材を購入する必要がなくなりました。
バイオガス設備に加え、ダンシさんの家庭には養鶏小屋とひな鳥も提供され、今後は太陽光パネルの導入も予定されています。再生可能エネルギーと農業支援を組み合わせたこうした包括的な支援は、持続可能な農村開発の一つのモデルとして期待されています。ダンシさんは、妊娠中であっても畑仕事を続けてきました。「努力と機会が重なれば、人生は変えられるということを子どもたちに示したいのです」と彼女は語ります。
困難から希望へと向かうダンシさん一家の歩みは、今も続いています。UNDPの「気候の約束(Climate Promise)」事業を通じて導入された再生可能エネルギー技術により、朝を迎えるたびに、少しずつエネルギーの余裕が生まれ、少しずつ貯蓄が増え、そして未来への大きな希望が育まれています。
UNDPの気候約束(Climate Promise)と日本:
日本は気候危機を全人類への脅威と捉え、UNDPと協力して各国の気候変動対策を主導しています。UNDPの「気候の約束(Climate Promise)」は、パリ協定の目標達成に向けて各国が自国の目標や約束を実現するための世界最大のイニシアティブです。2021年、UNDPは「気候の約束」の新たなフェーズとして、パリ協定に基づく「国が決定する貢献」(NDC)の目標を具体的な行動に移すことを目指す「誓約をインパクトへ」を開始し、多様なパートナーとの連携のもと、120以上の途上国に対してNDCの強化と実施を支援しています。日本はこのフェーズにおける最大の支援国であり、ドイツ、スウェーデン、欧州連合(EU)、スペイン、イタリアといった長年のパートナーや、英国、ベルギー、アイスランド、ポルトガルなどの新たなパートナーと共に、これらの取り組みを加速させています。