池田麻衣子 UNDPネパール事務所/UNVプログラム・アシスタント
変わる気候、変わる暮らし〜ネパールの人々とともに希望をつなぐ
2025年5月8日
プロジェクト現場のジャジャルコットにて(筆者右)
現在、私は国連開発計画(UNDP)ネパール事務所にて、気候・レジリエンスチームに所属し、日本政府が支援するプロジェクトのマネジメントに携わっています。
ネパールは、北にそびえるヒマラヤ山脈、そして100以上の民族が共存する壮大な自然と多様な文化に溢れた国です。一方で、後発開発途上国に分類されており、インフラ整備やガバナンスなど多くの課題を抱えています。また温室効果ガスの排出量は決して多くないものの、気候変動の影響を大きく受けている国の一つです。
その対策の一環として、気候変動対策プロジェクトが、2023年3月から2024年12月にかけて、日本政府の支援のもと実施されました。私が担当した本プロジェクトでは、人間の安全保障に焦点を当て、農業、エネルギー、早期警報、インフラ、キャパシティ・ビルディングといった多岐にわたる分野を通じて、気候変動への適応、レジリエンス向上を目指しました。
プロジェクトの対象分野が多様であったため、各分野の専門家と協力しながら進めることになり、気候変動対策に関する多様な技術や知見を学ぶ貴重な機会となりました。例えば、日本では当たり前となっている災害時の気象情報も、ネパールではまだ十分な体制が整っていません。そこで、プロジェクトの対象地域にある川の流域に3ヶ所の水文観測所を設置しました。これにより、川の水位情報が地元の自治体に共有されるようになり、水位の上昇時には住民へ速やかに警戒情報を伝えることが可能になりました。こうした仕組みが、現地の人々の命と暮らしを守ることにつながっています。
地域住民の命を守る水門観測所の設置
またこれまでは料理の際、部屋中に煙が充満し、健康へのリスクや危険が伴っていた調理コンロが、本プロジェクトで設置された改良型調理用コンロにより、きれいな空気を保ちながら料理ができるようになりました。これにより、暮らしがより健康的で快適になったという言葉を、現地の人々から多くいただきました。
気候変動への対応には、さまざまな分野からの総合的なアプローチが欠かせないと改めて実感しています。 このプロジェクトは、ネパール政府をはじめ、大学機関やNGOなど多様な組織とのパートナーシップのもと実施され、連携が生み出す新たな可能性を強く感じました。
持続可能な暮らしと気候変動への適応を後押しする改良品種ヤギの提供
人にも地球にも 優しい改良型調理ストーブの導入
このプロジェクトは、人間の安全保障の向上に地域レベルで取り組むという、 これまでにあまり例のない試みでした。 そのため、プロジェクトチームやパートナーなどのステークホルダーとコンセプトの共通理解を築くことは容易ではなく、試行錯誤を重ねながら進めてきました。
人間の安全保障とは、人々の命や暮らしを脅かすあらゆるリスクから守り、尊厳ある生を支えることを目的とした、個人の暮らしや尊厳に焦点を当てる包括的なアプローチです。この「人間の安全保障」という概念は、UNDPが1994年の人間開発報告で初めて公に取り上げ、日本政府も外交の主要な柱として位置づけています。そして、気候変動は人間の安全保障に対する大きな脅威の一つです。人間の安全保障を基盤としたアプローチは、危機に直面する地域の状況を緩和するだけでなく、持続的なレジリエンス構築にもつながります。
日本政府によるジャジャルコット訪問の際の集合写真
このプロジェクトを出発点として、人間の安全保障の視点を取り入れた開発や気候変動対策がネパール全土に広がり、さらなるレジリエンス強化につながるよう、今後も尽力していきたいと思います。
池田麻衣子(いけだ・まいこ)
国連開発計画(UNDP)ネパール事務所/UNVプログラム・アシスタント
明治大学国際日本学部学士。大学卒業後、UNDPネパールにて、国連ボランティアとして同国の気候変動対策のプロジェクトに携わっている。
動画:ネパールにおける気候レジリエンスの現場から