未来に希望を

大阪・関西万博でのUNDPの活動を振り返って

2025年10月30日

UNDP「世界に隠された20の悲劇」の展示

Photo: UNDP Tokyo / Hideyuki Mohri

2025年4月13日から開催された大阪・関西万博が閉幕しました。会期中は世界中から2,900万人以上が来場し、国境を越えた交流が生まれました。より良い、そしてサステナブルな未来を築くためのアイデア、技術、ビジョンが共有される場となりました。 

UNDPは、国連チームの一員として国連パビリオンでの活動に参加し、3回にわたって特別展示を行いました。国連パビリオンのテーマは「人類は団結したとき最も強くなる」。現在、世界は紛争、災害、貧困など、複雑で多様な危機に直面しています。今こそ、団結と連帯の力が求められています。 

Blue building facade with a circular emblem, crowd of people outside on a sunny day.

国連パビリオンの外観

Photo: UNDP

 

日常生活の中で、世界の現状に触れることは簡単ではありません。そこで博報堂のボランティアチームと協働し、「人間の安全保障」をテーマに、来場者に世界で起きているさまざまな問題を分かりやすく伝えるための施策として「世界に隠された20の悲劇」という作品を制作しました。同テーマの展示を4月21日から4月30日まで国連パビリオンで開催しました。世界の危機や日常の中にある悲劇の中から20テーマを選定し、一見幸せそうな人々の生活の中に、戦争や紛争、人身売買、自然災害、ジェンダー不平等といった世界で起きている問題を描きました。それぞれの問題の深刻さはもちろんですが、一見関係なさそうな課題が、実は私たちの生活にも隣り合わせにつながっていることが見えてきます。 

6月15日には、国連と吉本興業が行ったWalk the Talkの一環として、UNDPはシグネチャーパビリオン「Dialogue Theatre −いのちのあかし−」のプロデューサーであり映画監督の河瀬直美さん、お笑いコンビ・ココリコの田中直樹さんと共に、同展示をテーマに対話セッションも実施しました。河瀬監督の「向き合って対話する気持ちを持たなければ。分断をつながりに変えるために」という言葉が心に残ります。やはり、未来をつくるには、人と人との対話、そして共感が欠かせません。 

2025年8月、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)と連動し、「アフリカウィーク」を開催しました。大陸の多様な文化と創造性、そして日本の次世代の想像力を結びつけ、「共に未来を描く」希望の空間を生み出しました。全国2000名以上の小学生がアフリカの子どもたちに向けて描いた「未来をつなぐ絵手紙」プロジェクトは、未来世代が主体となって国際理解と共感を育む象徴的な取り組みとなりました。子どもたちの作品は、アフリカ各地の子どもたちの絵手紙とともに映像として展示され、言葉や国境を越えて「共に未来をつくる」という誓いが共有されました。また、生成AIとアフリカンプリントを組み合わせた「未来ビジュアル」体験では、来場者自身が「アフリカと共に創る未来」をデジタルアートとして表現。文化とテクノロジーの交差点から生まれる新たな創造の力を感じる体験となりました。

アフリカウィークを通じ、日本とアフリカの関係は、過去から未来へ、そして支援から共創へと進化しました。子どもや若者が主役となり、アートとAIを通じて「未来に希望」を描くこの試みは、TICADプロセスを次の世代につなぐ新たな一歩として、多くの共感と可能性を生み出しました。UNDPは、ここで生まれたつながりと学びを土台に、アフリカと日本が共に築く希望の未来をさらに広げていきます。 

万博の重要な要素のひとつがAIを含む先端技術です。UNDPが発行した2025年版『人間開発報告書(HDR)』では、AI(人工知能)をテーマに取り上げました。AIをはじめとするテクノロジーが、より良い未来づくりをどう後押しできるかを探っています。

9月29日から10月4日まで気候変動とグリーン・トランスフォーメーション(GX)をテーマにした展示「Act Now to Shape the Future!(今こそ変革を!地球と共生する未来を目指して〜太平洋の島国とのパートナーシップ〜)」を開催した際には、UNDPアジア太平洋地域局が開発した環境啓発AIキャラクター「Una」のホログラム版を初公開し、「Una」との対話を通じて来場者に気候変動について考えてもらう機会を提供しました。

本展示期間中は会場内で、日本科学未来館のご協力により、同館で通常展示している地球観測データ「ジオ・スコープ」へも自由にアクセスができ、科学データの可視化を通じて気候変動や環境問題への理解を促しました。さらに、特別セッションとして日本のエンターテインメント業界を牽引する吉本興業所属のお笑いコンビ「フースーヤ」が来場。「Una」とともに、一般参加者に向けて笑いを交えながら気候変動に対して一人一人が行動を起こすことの重要性を伝えました。AIやお笑いは、こうした課題を一般市民に伝えるインターフェイスとして大きな可能性を持っており、参加者との対話を通じてその力を実感する機会となりました。 

万博最終週の10月10日にはヴィクトリア・スウェーデン王国皇太子殿下が国連パビリオンを訪問。ヴィクトリア殿下は、2023年よりUNDP親善大使としても活動しています。海洋問題に取り組む日本の高校生やガールスカウト、スタートアップ企業とのパネルディスカッションに参加しSDGs「海の豊かさを守ろう(目標14)」をテーマに議論が行われました。未来を担う若者たちとの対話を通して、一人一人の情熱、そして行動に一歩踏みだす大切さを確認しました。

1970年の大阪万博で国連館が掲げた「協力による開発」というテーマは、今もなお私たちの問いかけとして生き続けています。あの当時の世界は、冷戦の緊張、ベトナム戦争の激化、核兵器の拡散、そして軍事費の増大といった厳しい国際情勢の中にありました。そんな時代にあっても、国連は万博を通じて「われわれは何を選ぶか」という問いを来場者に投げかけ、平和と協力の道を選ぶことの大切さを訴えました。 

現在、私たちは、気候変動や紛争、格差といった複雑な危機に直面する時代に生きています。だからこそ、未来に希望を持ち、より良い社会を想像する力がこれまで以上に求められています。大阪・関西万博は、世界中の人々が集い、対話し、共に未来を考える貴重な機会となりました。UNDPはEXPO2025を通じて、共感と創造の力が持つ可能性を改めて実感しました。アートやお笑い、テクノロジーといった多様な表現が、人々の心を動かし、課題への理解を促す力となりました。 

UNDPはこれからも、創造的なアプローチを通じて、さまざまなパートナーとともに、誰もが希望を持てる未来を描き続けていきます。 


共著者:ハジアリッチ秀子 UNDP駐日代表、毛利英之 UNDP駐日代表事務所 広報官、近藤千華 UNDPアフリカ局TICAD連携専門官、横田未央 UNDP駐日代表事務所パートナーシップ専門官、前田育穂 UNDP駐日代表事務所 広報アソシエイト