オンコセルカ症対策に新たな1ページ:ガーナがモキシデクチンを導入
2025年11月25日
ガーナ農村部の多くでは、作物を育み、生計を持続させる水に危険が潜んでいます。流れの速い河川周辺を繁殖地とする黒バエが、オンコセルカ症の原因となる寄生蠕虫を媒介するからです。事実、この病気によって数限りない人々の視力や労働能力、自立能力が奪われています。
河川盲目症とも呼ばれるオンコセルカ症は執拗な痒みと肌荒れを伴うだけでなく、徐々に視力を奪い、場合によっては失明のおそれもあります。壊滅的な影響によって、貧困が連鎖し、機会が失われたりすることにもなりかねません。2023年には、ほぼ2億5,000万人がオンコセルカ症の予防的治療を必要としていましたが、その大多数がアフリカとイエメンで暮らす人々でした。
ガーナでは、積極的な媒介生物防除と毎年の集団投薬(MDA)によって、オンコセルカ症対策を大幅に前進させました。感染の有無に関係なく、コミュニティ全体を治療対象とする戦略が採用されました。こうした取り組みによって、国内の大半で症例数の劇的な減少が見られているものの、142の郡ではオンコセルカ症が今も風土病となっており、580万人が感染のリスクに晒されています。
数十年前から、オンコセルカ症対策戦略は抗寄生虫薬のイベルメクチンを中心に進められてきました。イベルメクチンには、寄生蠕虫の幼虫(ミクロフィラリア)を殺すだけでなく、成虫による幼虫の放出を停止させる効果もありますが、成虫自体を殺す効果はありません。よって、再増殖が起こるため、毎年の集団投薬キャンペーンを永久的に継続する必要があり、感染が根強く残る地域でのオンコセルカ症の完全な撲滅には困難が伴ってきました。
撲滅の可能性を秘めた有望な新薬が登場
モキシデクチン
ガーナのセントラル州トゥイフォ・アティ・モルクワ郡では、特に4月から10月にかけての雨季に、緑豊かな水路が黒バエの絶好の繁殖地となっています。地域住民は古くから、オンコセルカ症の重荷を背負いながら暮らしてきましたが、この状況が変わりつつあります。最近、ガーナで4歳以上に対する使用が承認されたモキシデクチンには、ミクロフィラリアを持続的に抑制する効果があります。治療後12か月間、ミクロフィラリアのレベルを大幅に引き下げることによって、モキシデクチンは集団投薬キャンペーンのインパクトを高め、オンコセルカ症撲滅に向けた進展を加速させることが期待されています。
国連開発計画(UNDP)主導による新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(ADP)の支援を受け、熱帯病医学特別研究訓練プログラム(TDR)、ブリュイエール保健研究所、Medicines Development for Global Health(MDGH)、ガーナ保健局、国立ガーナ健康科学大学が共同で実施中の実装研究では、オンコセルカ症の最終的な撲滅を目標として、イベルメクチンに代えてモキシデクチンを集団投薬キャンペーンに使用することの実現可能性と受容可能性を評価しています。このADPプロジェクトは日本政府が支援しています。
実装研究の一環として、トゥイフォ・アティ・モルクワ郡では2024年7月にイベルメクチン、2025年1月にモキシデクチンの集団投薬がそれぞれ行われました。研究チームは各回の集団投薬後、コミュニティの知識・態度・行動(KAP)調査や地域住民への詳しい聞き取りに加え、地域の薬剤配布担当者やガーナ保健局の責任者とのフォーカスグループ・ディスカッションも実施しました。2025年4月上旬には、モキシデクチン集団投薬の関連で、同じ活動が行われました。
現地でのデータ収集に先立ち、2025年4月7日から9日にかけて、調査を実施するコミュニティ・ヘルス・ワーカーの研修が行われました。
研究チームのメンバーは、個別訪問による調査とグループ・ディスカッションの運営を行い、回答をタブレットに直接入力しました。
国立ガーナ健康科学大学のムスタファ・イムラナ上級研究員は、モキシデクチン投与への移行の潜在的な重要性を、「モキシデクチンは長期的なミクロフィラリアの抑制に効果があることが判明しています。よって、風土病化したオンコセルカ症対策に適しています。ガーナやその他の国でもモキシデクチンが導入されれば、オンコセルカ症を撲滅できる可能性は大きいと考えています」と説明しています。
ムスタファ氏はさらに、「コミュニティの人々は、農作業に出たり水場に近づいたりしたときに、黒バエと接触し、感染しています。4歳以上の人々に投与が認められたことで、若者から高齢者まで幅広い世代に効果が期待されるでしょう。」と付け加えています。
具体的な結論を出すには早すぎるものの、調査は円滑に進んでおり、モキシデクチンの効果と潜在的な利点に対する理解が広まる中で、地域住民も積極的に関与するようになっています。
ワマソの医療従事者エマニュエル・サム氏にとって、地域住民の積極的関与の重要性は、1つの大きな教訓となっています。「オンコセルカ症について十分に理解していない人が多ければ、治療薬を受け入れてもらうのも難しくなりかねません。コミュニティへの説明会では、住民から副作用に関する質問が出されたので、私たちはその懸念に対処しました。多くの住民は新薬を受け入れる意思があると思います。」
コミュニティによる賛同を得るうえで、提唱者として大きな役割を果たしたのが、トーマス・エイドゥー氏をはじめ、数年前から現地で対応を支援してきたコミュニティのボランティアです。「この地域でオンコセルカ症の感染者が初めて出たときには、大きな不安が生まれ、私たちは自らを守るための方策を取りはじめました。そのおかげで、これまで影響は最小限に抑えられ、近年はあまり大規模な感染が見られなくなっています。」
エイドゥー氏や他の地域ボランティアにとって、すべきことは明確です。感染者がこれまでよりも減っているとはいえ、特に雨季には今でも黒バエが多く発生しています。「ポリオを克服したように、私たちが一貫した取り組みを続ければ、オンコセルカ症も克服できるはずです。」
トーマス・エイドゥー氏のような地域ボランティアの採用は、コミュニティの賛同を取り付けるのに役立ちました。
下院議員でコミュニティの保健委員も務めるジョージ・フリポン・セム氏は「私たちは新薬について話し合い、コミュニティに教育を施すための会合を開きました。オンコセルカ症と闘うには、治療を受け入れねばなりません。それ以外にほとんど手はないでしょう。投薬を続ければ、最終的に私たちのコミュニティからこの病気を廃絶できると信じています」と説明しました。
下院議員でコミュニティの保健委員も務めるジョージ・フリポン・セム氏は、コミュニティへの説明会に参加し、オンコセルカ症対策への市民参加の重要性に対する意識の向上を図っています。
研究チームは現在、次段階の調査を準備しています。2025年7月には第2回のモキシデクチン集団投薬が計画されていますが、その後のさらなる評価で、コミュニティの意識や受容性の変化のほか、新薬の効果も測定される予定です。これらの一連の調査は国内全土への新薬展開の参考として欠かせないデータを提供することになります。
健康への投資は将来への投資
モキシデクチンの導入には新薬の普及以上の意味があります。イノベーションへのアクセスを拡大し、壊滅的な影響を及ぼす顧みられない熱帯病による大きな被害の撲滅を加速し、人々の生活を改善することにつながるからです。
ムスタファ氏は「私たちは政策立案者や政府、あらゆるステークホルダーに対し、顧みられない熱帯病対策への投資を呼び掛けています。投資する価値は十分にあります」と語ります。
UNDP主導のADPプロジェクト、TDR、ブリュイエール保健研究所、Medicines Development for Global Health(MDGH)、ガーナ保健局、国立ガーナ健康科学大学、そして地域社会の協調的な取り組みによって、その未来はこれまで以上に近づいています。