「点と点をつなぐ」国際協力

久保田あずさスリランカ常駐代表の歩み

2025年12月2日
Photo: UNDP Tokyo

当時最年少のJPOとしてキャリアをUNDPでスタートした久保田さん、現在はUNDPスリランカ事務所の常駐代表を務めています。常駐代表としての役割、今までのキャリアや国際協力の醍醐味について聞きました。

久保田さんから見て、スリランカはどんなところだとお考えですか。

スリランカは、インドの南東沖に位置する島国です。1983年から2009年まで続いた内戦からの復興をとげ、以降順調な経済成長を遂げてきました。しかし、コロナ禍の後も経済危機や災害、内政問題など多くの問題を抱える国でもあります。

私がスリランカに着任してまず感じたのは、現地の人々が温かく接してくださることでした。しかし、着任当時はスーパーに卵や牛乳がないなど、経済危機の影響の名残を感じることもありました。さらに、仕事を通じて見えてきたのは、スリランカの社会の複雑さでした。玉ねぎの皮がたくさん重なっているように、スリランカには色々なレイヤーがあって、1個1個めくっていくと違う顔が見えてきます。表面的には穏やかでも、30年間続いた内戦の傷は人々の心にまだ根深く残っていることがわかります。

そのため、私は「全てを知っているような発言はしない」ことを心がけています。外から来た立場であることを自覚し、謙虚に学ぶ姿勢を見せ、そして、多角的な視点で物事を見る姿勢を大切にしています。

常駐代表として働くなかで心掛けていることを教えてください。

現在スリランカ常駐代表として働くなかで、どんな話題でも解決案を提案できるジェネラリストとしての素養が求められていると感じます。各々のプロジェクトの目標や意義をしっかり発信し、協力してくれるステークホルダーを見つけることで、プロジェクトをより効果的なものにする必要があるからです。

また、私が大事にしている「点と点をつなげる力」が役に立っています。常駐代表として事務所全体のプロジェクトを俯瞰する中で、一見関係がないように見えるプロジェクト同士にも、実は共通する目的や背景があることに気づくことがよくあります。そうしたつながりを見出し、プロジェクトや機関を越えた協働を促すことで、各プロジェクトがより効果的に、そして成功に向かって進むよう後押ししています。

Five officials sign a document at a formal ceremony, with flags displayed behind them.

「腐敗防止制度の確立を通じた腐敗行為訴追推進計画」の開始を記念した署名式にて スリランカの村の女性から手織りのサリーを直接購入することも

Photo: UNDP Sri Lanka

約20年にわたり、国連でキャリアを積まれてきた久保田さん。マラウイ、モルディブ、ラオス、ソロモン諸島、ブータン、そして現在のスリランカ――それぞれの国で出会った人々との対話と挑戦の積み重ねが、今日のキャリアを形づくっています。そんな久保田さんに、これまでの歩みと、その背景にある想いを振り返っていただきました。


国連で働こうと思われたきっかけを教えてください。 

国連の道へ進むに至った原点のひとつは、高校時代にさかのぼります。当時、ヨーロッパに単身で留学していた私は、旧ユーゴスラビア内戦から逃れてきた難民の厳しい現実を目の当たりにし、仲間とともにボランティアクラブを立ち上げました。 

その団体の活動として、高校一年生の夏休みに、地元の人々や学生とともにチャウシェスク政権崩壊直後のルーマニアを訪れました。障害のある人々やHIVで親を失った子どもたちの孤児院、精神病院で物資を届ける活動に取り組む中で、テニスボールを物珍しそうに眺める子どもたちに出会いました。テニスボールの何に惹かれているのだろうと思い理由を尋ねると、「弾むボールを見るのは初めて」と彼らは答えます。日本では当たり前に存在するテニスボールに、目を輝かせて遊ぶ子どもたち。バブル期の日本で育った私にとって、その光景は大きな衝撃でした。 

一つのボールを通じて世界の貧困や不平等という厳しい現実に直面した私は、「一つの団体や個人の力だけでは解決できない問題が世界には山積している」と痛感し、「国連のように、多くの人や国をつなぎ課題解決に挑む場で働きたい」という思いを抱くようになりました。 

あの時出会った子どもたちの姿は、今でも私の原動力になっています。 

UNDPのキャリアの中で心に残っている場面を教えてください。 

特に印象に残っているのは、2019年から2022年までブータン常駐代表を務めていた時に取り組んだ、ブータン中部における灌漑事業です。 

ブータンは、東部ヒマラヤ山脈の南麓に位置する国で、北は中国、南はインドと国境を接しています。国土の半分が2000m以上の高地となっており、土砂崩れが頻発しており、開水路は土砂崩れ、木の枝の落下、瓦礫によって塞がれることが多く、それがさらに土砂崩れを誘発します。   そこで、UNDPは緑の気候基金から支援を受け、「ブータンにおける農業セクターの気候変動レジリエンスと変革支援プロジェクト」を立ち上げ、活動の一環としてブータン中部にも灌漑事業を行うことになりました。 

ブータン中部では、地理的な問題や水の配分に関する対立から灌漑施設の建設を行うことができず、長年深刻な水不足に悩まされていました。たとえば、パンギュル・ゴエンパ村では、田植えができたのは20年前が最後で、休耕地は80%近くにも達し、村を離れる人もいました。この地域に住む人たちに水を届けるため、私たちは現地に向かいました。 

最初のうちは、何世代にもわたる根強い民族間の土地問題の禍根が深く、話し合いがなかなかうまくいきませんでした。そんななか、村に住むおばあさんから、「私は水があった頃の村を知っている。水をどうにか引いてきてほしい。」と涙ながらに訴えられました。なんとかしてこのプロジェクトを成功させなければならない、と気を持ち直し、今まで学んできた知識や、協力してきた人たちの力を最大限にお借りして、粘り強く交渉を進めました。その結果、現地の人々の間で合意に至りました。地理的な難しさもありましたが、最新の灌漑技術を駆使して、なんとか灌漑事業をスタートさせることができました。   

新たなパイプ灌漑計画を祝うパンギュル・ゴエンパ村の人々(ブータン)

Photo: UNDP Bhutan

私は灌漑事業の完成前にスリランカに移ることとなりました。その後、事業が完了し、耕作ができるようになったことで何年も土地を離れていた人が戻ってきたことを知りました。そんな中、以前私に懇願してきたおばあさんが、水で潤い豊かになった村を見て感謝のビデオメッセージを送ってくださいました。その時、大変なことも多かったけれどこの事業をやってよかったと思いましたし、人の心に寄り添える開発の奥深さを感じました。 

感謝のビデオメッセージを送ってくださったおばあさん

久保田あずさ
UNDPスリランカ常駐代表

 2023年1月、UNDPスリランカ常駐代表に着任。スリランカ着任以前の2019年から2022年にかけては、UNDPブータン常駐代表として、UNDPのコロナ禍対策を先導した。UNDPでは長年にわたり、ソロモン諸島、ラオス、モルディブなどの地域で要職を歴任。2008年から2011年にかけては、UNDP評価部に勤務する傍ら、各地域の多くの国で、UNDP独自の国別プログラムとテーマ別評価を主導した。 米国ニューヨークのコロンビア大学国際公共政策大学院で経済・政治開発を専攻、国際関係学科修士号を取得。

Group of professionals standing in a conference room around a banner displaying SDG icons.

久保田あずさ(左から4番目)、ハジアリッチ秀子 駐日代表(左から5番目)とUNDPインターン

Photo: UNDP Tokyo