開発途上国は今、日本の支援を受けながら、気候変動対策に新しい技術や革新的なアプローチを取り入れています。
イノベーションと技術を通じて気候変動対策を変革する4つの方法
2025年12月21日
各国が温室効果ガス削減のために次世代型の「国が決定する貢献(NDCs)」の実施に乗り出す中、気候変動対策を加速し、強靭性(レジリエンス)を高め、持続可能な経済成長を促進するための投資を呼び込む戦略が求められています。この課題を達成するには、各国の継続的なコミットメントに加え、気候資金のギャップを埋めるための多国間協力の強化が不可欠です。アフリカだけをとってみても、毎年必要とされる3,000億米ドルの気候資金のうち、実際に確保されているのはわずか300億米ドルに過ぎません。
こうした背景において、開発パートナーは、開発資金の援助にとどまらず、知見の共有、イノベーションの活用、そして技術革新で主導的な役割を果たすことで、世界中の気候変動対策を加速させる上で極めて重要な役割を担っています。
近年、UNDPは開発途上国がグリーン経済へ移行できるよう、革新的な解決策や技術の普及を支援してきました。UNDPの「気候の約束(Climate Promise)」における主要パートナーの一つである日本は、この取り組みにおいて重要な役割を果たしています。日本の支援は、新技術の導入、革新的なアプローチの推進、民間セクターとの連携を通じた再生可能エネルギーや気候変動に強いインフラ開発及び自然を活用した適応策などの拡大に貢献してきました。2021年以降、日本がUNDPの「気候の約束」プログラムに対して行った約7,700万米ドルの支援は、28の国や地域に革新的な成果をもたらしています。本稿では、日本による支援が、イノベーションや技術改革を通じて気候変動対策をどのように変革してきたのか、4つの事例とともに紹介します。
ベトナム:よりクリーンな都市を目指して環境に優しい交通・輸送手段を開発
急速な経済成長を遂げるベトナムでは、新たな気候変動対策が求められています。特に都市部では気温の上昇率が世界平均の2倍の速さで進んでおり、大気汚染や交通渋滞がヒートアイランド現象を悪化させています。そのため、環境に優しい輸送手段や電動車両への移行は国家の優先事項となっており、同国の最新のNDCおよびネット・ゼロ公約の中心に据えられています。
2050年までに全ての道路車両を電気またはグリーンエネルギーでの稼働に転換するというベトナムの目標達成を支援するため、UNDPは日本の自動車メーカーを含む複数の自動車メーカー、物流、観光、配車サービスなどの多岐にわたる企業の協力のもと、電気自動車のインフラに関する4つの技術基準を含むEモビリティのエコシステム構築を支援しました。フエ市やその他の都市で行われたパイロット事業では、クリーンな輸送モデルが実装可能であることが確認され、温室効果ガスの排出削減と大気汚染の改善への貢献がみられました。
さらに、この取り組みの成果の定着と環境に優しい輸送手段の普及を確実なものにするため、UNDPはEモビリティを公共政策や炭素市場メカニズムに組み込むための政府機関向け研修を実施しました。また、数万人を対象とした啓発キャンペーンを展開し、社会的弱者、特に女性が電動自転車や電動バイクを購入できるよう支援する低利融資制度の開始も支援しました。
フエ市の配送業者は、無利子のローンを利用し、購入した新しい電動バイクを使用しています。
環境意識の向上を取り入れた電動車両のパイロット事業は、今後、国内の他地域におけるモデルとなる予定です。
ケニア:クリーン・クッキングへの変革
安全で環境に優しい調理法「クリーン・クッキング」は、ケニアの温室効果ガス削減目標を達成するための重要な取り組みです。最近の分析結果から、この目標を前進させるには、技術だけでなく、人々、特に女性に焦点を当てることが不可欠であることが明らかになっています。
2028年までにクリーン・クッキングへのアクセス率100%を達成し、2030年までに温室効果ガス排出量を32%減少させるというケニアの目標を支援するため、UNDPは新技術を取り入れ、バイオマスへの依存を減らす現代的な調理ソリューションの普及を支援しました。この取り組みの一環として、1万世帯の脆弱な家庭に省エネ型調理用コンロが提供され、従来のかまどによる調理法からの切り替えにより、年間推定2万5,000トンの温室効果ガス排出を削減し、健康被害の低減にもつながっています。また、5つの寄宿学校におけるクリーン・クッキングへの移行も支援し、5,650人の生徒とスタッフが恩恵を受けるとともに、温室効果ガス排出削減と大気汚染の改善を実現しました。
新技術の導入に加え、これらの変化を持続させるためには「人」を中心に据えた開発が必要です。UNDPは、女性や若者の起業家556人を対象に、クリーン・クッキングに対応したコンロの製造、保守管理、マーケティング、流通に関する技能習得の研修を行い、それらの起業家がクリーンクッキングのバリューチェーンに参入できるよう支援しました。その結果、参加者の3分の1以上がクリーン・クッキング関連のビジネスを立ち上げるのにつながりました。さらに 、UNDPは、政府関係者向けにクリーン・クッキングに関するカリキュラムの研修を実施することで、3つの郡において林業・農業・エネルギー戦略を統合した地域エネルギー計画の強化に貢献しました。
クリーン・クッキングはエネルギー効率を向上させる技術を用い、化石燃料の使用や森林破壊を低減することで、ケニアの温室効果ガス排出削減目標の達成に貢献します。
ケニアのクリーン・クッキング協会は、数百人の女性や若者起業家が、クリーン・クッキングの使用と普及に関するスキルを学ぶための研修を支援しました。
アルメニア:気候リスクを低減するための気象予報の改善
アルメニアでは、地滑り、土石流、洪水といった気候関連の災害が、食料安全保障、水の供給、エネルギーの安定性、インフラ、そして全体的な公共の安全性に深刻な脅威をもたらしています。特に農村地域が脆弱とされていますが、国全体としても経済的影響が懸念されており、農業生産性の低下による損失は、2100年までに国内総生産(GDP)の8%を超えると予測されています。
こうした状況下では、早期警報システムと気候リスク管理の改善が、国全体の気候変動への強靭性を強化する助けとなります。アルメニアではUNDPの支援により、全国11か所の気象観測所が近代化され、予報のカバー率が国土の50%から80%へと拡大しました。この成果を受けて、アルメニア政府は国家予算を投入し、残る9か所の気象観測所の近代化を完了させ、全国すべての地域をカバーする気象予報網を実現しました。さらに、アップグレードされた観測所から収集された新データに基づき、同国は一般向けの気象情報ポータルとモバイルアプリも立ち上げました。それに加え、地理情報システム(GIS)を活用した、地滑り、洪水、土石流の危険性をマッピングした自然災害ハザード指数も公開しています。
わずか11カ所の気象観測所を近代化したことで、アルメニアの天気予報のカバー率は国土の50%から約80%へと拡大しました。
近代化されたアルメニアの気象観測所は、2秒ごとに情報を送信し、迅速かつ正確なデータを提供します。
民間セクターの参画を促すインセンティブの創出
新たな気候資金源を確保するため、各国は市場主導型のインセンティブを生み出し、民間企業の有意義でインパクトのある参画を促そうとしています。UNDPは日本の民間セクターと連携することで、世界中で革新的な気候ソリューションの先行的事業を行っています。
エクアドルでは、トヨタ自動車とのパートナーシップにより、持続可能な交通・輸送のための新たなロードマップが描かれています。UNDPによって実施された同国の複数の都市における持続可能な都市モビリティ調査の結果を受け、2025年には、トヨタ自動車がハイブリッド技術に関する情報をUNDPによる「気候の約束」の取り組みのために提供するなどの協力が実現しました。これは、気候変動により生物多様性が脅かされている127の島々からなるガラパゴス諸島の当局とUNDPの双方から強い関心を集めています。
今後、UNDPはトヨタ自動車の最新技術を活用したハイブリッド車のパイロット事業や都市レベルの評価を支援するためのデータなど、(脱・低炭素)モビリティに関するさらなる情報を集約していく予定です。これにより、温室効果ガスの排出と島々のエネルギー負担を削減するための最も効果的なモビリティ・ソリューションの特定を支援します。同国のガラパゴス諸島およびクエンカ、マンタ、ヤンツァサの各都市では、さらなる評価調査や投資前調査が計画されており、各都市の「持続可能な都市モビリティ計画」の実施と、持続可能なモビリティ促進に関する同国の新たなNDCへの貢献が期待されます。
エクアドル沖1,000kmに位置するガラパゴス諸島は、豊かな固有種が集まる世界でも屈指の自然の宝庫です。
トヨタは、ガラパゴス諸島での気候変動対策支援の可能性を探り、「国が決定する貢献(NDC)」に沿った民間投資を推進しています。
スリランカでは、太陽光発電を利用した害虫駆除技術により、農家が省エネ型の農業慣行を採用できるようになっています。また、アルメニアやウズベキスタンでも、ダムのリスクモデリング、脱炭素技術、炭素市場といった主要な技術分野において、日本の民間セクターの専門知識が活用されています。
UNDPは、これまでの日本とのパートナーシップによる成果を基盤に、新たな投資機会を創出し、グローバルな知識交流を促進、NDCsが環境と社会経済の両面に利益をもたらすよう取り組んでいきます。
今後は、気候変動の緩和策や適応策への投資拡大に加え、デジタル公共インフラや包摂的な人工知能(AI)を活用して、気候目標の達成を加速させます。日本の技術力と民間企業のイノベーションは、今後も世界の持続可能な変革を支える重要な柱です。UNDPは、日本企業がこの取り組みに積極的に参加し続けるよう後押しします。
日本は気候危機を全人類への脅威と捉え、UNDPと協力して各国の気候変動対策を主導しています。2021年、UNDPは「気候の約束」の新たなフェーズとして、NDCの目標を具体的な行動に移すことを目指す「誓約をインパクトへ」を開始しました。日本はこのフェーズにおける最大の支援国であり、ドイツ、スウェーデン、欧州連合(EU)、スペイン、イタリアといった長年のパートナーや、英国、ベルギー、アイスランド、ポルトガルなどの新たなパートナーと共に、これらの取り組みを加速させています。
「誓約をインパクトへ」は、多様なパートナーとの連携のもと、120カ国以上に対し、パリ協定に基づく「国が決定する貢献(NDCs)」の強化と実施を支援しています。