AI時代における持続可能な開発という選択

— UNDPの3つの教訓 —

2025年10月14日
Woman smiling while harvesting ripe coffee cherries in a lush green plantation.

コーヒーやカカオなどの商品作物は、世界的な森林破壊の主な原因のひとつとされています。こうした課題に対し、AIはトレーサビリティに貢献する可能性を秘めています。

Photo: UNDP Ecuador

UNDPが発行した人間開発報告書の2025年版は、世界に対して重要な問いを投げかけました。  

私たちは AI の力を借りて繰り広げられるルネサンスを目前にしているのか。それとも無意識のうちに不平等と自由の後退が待ち受ける未来に迷い込もうとしているのか。 

UNDPは、この問いに対して理論的な検討だけでなく、現場での実践を通じて向き合ってきました。 世界各地の開発の現場に携わる関係者は、AIが未来の可能性から現代の実用的なツールへと進化している様子を目のあたりにしています。そしてAIは、格差を拡大する道に進むことも、人類が直面する喫緊の課題の解決に貢献する道にも進むこともできる、まさに分岐点に経っているのです。 

UNDPはグローバルファンドとの連携のもと、AIを活用した携帯型X線撮影装置を導入し、遠隔地域における結核検診の効率化と精度向上を図っています。あわせて、タジキスタン、トルクメニスタン、太平洋地域において、医療従事者のデジタルスキル強化にも取り組んでいます。 

また、60を超える国々で、グローバルと各国の生物多様性目標との政策整合性を迅速に評価するため、AIの活用を支援しています。 これにより、各国政府は調査に費やす時間を大幅に短縮し、戦略的な対話やステークホルダーとの協働に集中することができるようになりました。 

さらに、UNDPは、25か国以上で AIを活用したツール「eMonitor+」を展開。ヘイトスピーチや偽情報、そしてテクノロジーを介したジェンダーに基づく暴力の実態把握と対策に取り組む各国・地域のパートナーを支援しています。 

より広い文脈では、AIは危機の予防、対応、そして復興の分野においても、ますます重要な役割を果たしています。 例えば、ウクライナ、ミャンマー、ハイチにおいて、AIツールが避難状況の予測、被害状況の把握、がれきの分析などに活用されています。 

UNDPのリスク予測ハブでは、リアルタイム分析と会話型AIを組み合わせたプログラムを提供しています。 これにより、7,500人以上の関係者が、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)プラットフォームを介して、リスクの照会、脅威の追跡、知見への迅速なアクセスをシームレスに行うことが可能になっています。 

人と地球を守りながら、責任あるAI活用を推進するために、UNDPグローバル・ポリシー・ネットワークは、組織内の各チームが開発・支援してきた50以上のAI活用事例を検証しました。その結果、 以下の3つの重要な教訓が導き出されました。 

  1. 多分野の専門家を擁するチームの不可欠性 

    AI活用を成功させるには、政策の専門家、AI技術の専門家、そして技術と政策の両分野を理解できる“橋渡し役”を含む、多様なバックグラウンドを持つチームの構成が重要です。 
    分野横断的で多様なステークホルダーによるアプローチが、インパクトのあるAIソリューションを生み出す鍵となります。

    例えば、コーヒーやカカオなどの商品作物は、世界的な森林破壊の主な原因のひとつとされており、持続可能な生産への関心の高まりに伴い、トレーサビリティ(生産から消費までの履歴の追跡)は不可欠な要件となっています。 しかし、小規模農家の多くは、こうした仕組みに参加するためのツールを持っていません。 この格差をなくすため、UNDPはエクアドル、コロンビア、コスタリカにおいて、欧州森林破壊防止規則 (EUDR)の遵守を支援する目的で、AIが生成するデータレイヤーを活用したコーヒーのトレーサビリティの実証事業を実施しました。  

    このプロジェクトは、ProAmazoniaなどのイニシアティブを基盤としながら、協同組合のメンバー、政府関係者、森林やサプライチェーン、そしてデジタル技術の専門家を結集して進められました。 結果として、最先端の技術を駆使したものではなくとも、喫緊の開発課題を確実に解決する実用的なソリューションを生み出すことができました。

  2. 持続可能性のための政府の主体性と地域の能力強化 

    AIソリューションを持続可能なものにするためには、国家または地域レベルでの主体的な取り組みと、IT分野における能力の強化が不可欠です。 

    「気候レジリエント農業のためのデータ(DiCRA)」プラットフォームは、このアプローチの好例です。 このデジタル公共財(DPG)は、気候変動に強い農業の推進に向けて、地理空間データセットやアルゴリズムをオープンソースかつオープンアクセスで提供しています。これにより、政策立案者や研究者は、科学的根拠に基づいた意思決定を行うことが可能になります。 

    本プラットフォームは、UNDPインドのアクセラレーター・ラボが、テランガナ州政府との連携のもとで立ち上げたもので、100人以上のデータサイエンティストのボランティアと14の組織の協力を得て開発されました。 現在では、全国農業農村開発銀行(NABARD)がDiCRAプラットフォームの運用管理を担っており、持続可能な運用体制が確立されています。

  3. AIガバナンスへの投資 

    AIの恩恵をすべての人々が享受できるようにするためには、倫理的な開発とガバナンスに投資し、安全・安心で環境に配慮した、信頼できるAIシステムの構築に向けて、各国と連携しながら能力強化を進めることが不可欠です。

    多くの機関が、技術的な専門知識の不足や、国内外におけるデジタル政策形成への関与の限界に直面しています。こうした課題に対応するため、UNDPは列国議会同盟(IPU)や英連邦議会連盟(CPA)などのパートナーと連携し、AIを効果的に管理するための研修、ピアネットワーク、実践的な監督ツール、政策ガイダンスを通じて、各国機関を支援しています。 

    さらに、AIがもたらす環境負荷にも、早急な対応が求められています。例えば、データセンターの冷却に必要な電力や淡水、ハードウェアの製造に伴う部品など、AIは大量の資源を消費します。例えば、国際エネルギー機関(IEA)によると、2030年までに世界の電力需要が945テラワット/時に倍増すると予測されます。これに対し、持続可能なAIの実現を目指す「持続可能なAIのための連合(Coalition for Sustainable AI)」のようなイニシアティブが、環境への影響を軽減するための優良事例の共有と協働を推進しています。 

    AIガバナンスは、単なる技術的課題ではありません。包摂的な開発、説明責任、そしてデジタル時代における人権の保護を支える重要な基盤です。

 
今すぐ行動を

ルネサンスか、無自覚な歩みか——私たちの未来は、今日の選択にかかっています。

UNDPは「AIスプリント・イニシアティブ」を通じて、すでに世界各国と連携しながらAIの能力強化に取り組んでいます。国家戦略の策定、政府職員の研修、データ基盤の整備、責任あるAIの導入に向けた助言などを通じて、単なる技術導入にとどまらず、AIが世界の格差を縮小するのか、それとも拡大させるのかを左右するエコシステムを構築しています。

2025年6月に開催されたハンブルク・サステナビリティ会議において、UNDPが共同立案を務めた「SDGsのための責任あるAIに関するハンブルク宣言(Hamburg Declaration on Responsible AI for the SDGs)」が、各国のリーダーによって支持されました。この宣言は、AIを持続可能な開発のために活用するという、共通のコミットメントを示すものです。 

しかし、コミットメントには行動が伴わなければなりません。AIの恩恵をすべての人々にとって包摂的かつ公平なものとし、人と地球の双方にとって有益なものにするために、より広範な連携とパートナーシップの構築が求められています。 

今こそ、関心を持ち、協力し、行動を起こす時です。


(本稿は、大塚玲奈氏、Osama Aljaber氏、Manish Pant氏、Guro Wiik氏、馬目美奈子氏、Andreas Pawelke氏、Nina Grinman氏、Jeremy Boy氏の協力を得て執筆されました。)