ネパール現地から伝える、3人の仕立て職人の震災復興への思い

2026年8月4日
Four individuals stand behind sewing tables with machines and fabric in a bright room.

左:チャンドラさん、左から2番目:ハリさん、右から2番目:筆者、右:ティケさん

Photo: UN Habitat Nepal

UNDPネパール事務所で勤務する池田麻衣子が、UNDPの実施するプロジェクトの被益者にインタビューを実施、現場の声をお届けします。

ネパールは、日本から飛行機で約7時間。首都カトマンズには複数の世界遺産が点在し、142ものカースト・民族グループが暮らす、多様な文化と豊かな自然に恵まれた国です。今回池田が訪れたのは、首都カトマンズから飛行機と車を乗り継ぎ、およそ1日かけてたどり着くネパール西部・ジャジャルコット郡。エメラルドグリーンのベリ川が流れ、ヒマラヤ山脈の麓に広がる険しい山々と豊かな自然に恵まれた美しい地域です。ところが、この地域は2023年11月に発生した地震によって甚大な被害を受けました。UNDPは、日本政府とのパートナーシップのもと、2025年3月から震災復興支援プロジェクトを実施してきました。


今回インタビューにご協力いただいたのは、本プロジェクトを通じてコミュニティ向けインフラ支援を受けたティケ・ダマイさん、ハリ・ダマイさん、チャンドラ・ダマイさんの3人です。3人は幼なじみであり、現在は新たに整備された共同の作業場で、協力しながら仕立ての仕事を続けています。ハリさんは耳が聞こえませんが、3人は手話や身振りを交えながらコミュニケーションを取り、和気あいあいと仕事をする様子が印象的でした。

まず、みなさんのバックグラウンドについて教えてください。

ティケさん: 私たちはみんなこのジャジャルコットで生まれ育ちました。幼なじみ同士で、お互いのことは何でも知っています(笑)

 仕立ての仕事は何歳頃から始めたのですか。

チャンドラさん: 私たちはダマイというカーストに属していて、仕立てが代々の家業です。そのため、16歳くらいから自然と仕立ての仕事を始めました。

地震による被害について教えてください。

ティケさん: 地震が起きたのは夜中で、その時私は自宅の2階で、そして他の家族は全員1階で寝ていました。突然の大きな揺れに気づいて、私以外はすぐに外へ逃げることができました。しかし、私は2階にいたため逃げ遅れ、屋根があっという間に崩落して、瓦礫が私の肩や足に落下し、身動きが取れなくなりました。その後、近所の人たちに助け出され、ここから約7時間離れた町の病院へ搬送されました。今でも足に少し痛みは残っていますが、命が助かったことに感謝しています。

ハリさん: 私も地震が起きたときは寝ていて、足に瓦礫が落ちてきました。また、代々受け継いできたミシンやアイロンも瓦礫の下敷きになり、使えなくなってしまいました。

ティケさん: 自宅は住める状態ではなくなり、地震の発生以来、家族7人で仮設シェルターで暮らしています。自宅の再建はまだ進んでおらず、最近はモンスーンの季節で雨漏りもします。暑い日でも扇風機がなく、眠れない夜もあります。

ハリさん: 作業場の建物にもひびが入りましたが、他に移れる場所がなかったため、そのまま仕事を続けてきました。

Person in turquoise shirt sits at a sewing machine in a rustic room under a green tarp.

UNDPの支援前、地震の被害を受けひびの入った作業場で仕事をするハリさん

Photo: UNDP Nepal

UNDPの支援を受けて、どのような変化がありましたか。

チャンドラさん: 地震の後は、それぞれがひび割れた危険な建物で別々に仕立ての仕事を続けていました。しかしUNDPの支援のおかげで、今は安全な建物で3人一緒に働くことができるようになりました。それぞれに常連のお客さんがいるので、多くのお客さんがこの店に来てくれるようになりました。急ぎの注文にも協力して対応できるようになり、とても働きやすくなりました。

ティケさん: 現在は、繁忙期には3人で1日に8~12人ほどのお客さんに対応し、安定した収入を得られるようになりました。平均すると、週に約5,000ネパールルピー(約5,300円)の収入があります。この地域には仕立屋同士の競争はあまりなく、3人で協力しながら、これからも仕事をさらに発展させていきたいです。

Two elderly people sewing on a vintage sewing machine beside a window.

UNDPの支援後、安全な作業場で安心して仕事ができるようになったハリさんと妻

Photo: UNDP Nepal

お子さんたちは、仕立ての仕事を継ぐ予定ですか。

ティケさん: いいえ。子どもたちは家業を継ぐことにはあまり関心がありません。もっと収入を得られる仕事を求めて海外へ行ってしまいました。

ハリさん: 私の子どもも今はマレーシアで働いています。

チャンドラさん: 昔に比べて情報も入りやすくなり、移動もしやすくなったので、海外へ働きに出る若者は増えていると思います。

 最後に一言お願いします。

ハリさん: 地震の後は、ひびの入った建物で仕事を続けてきましたが、今は安全な環境で働けるようになり、本当に嬉しいです。

ティケさん: 3人で協力しながら仕事ができるようになり、とても嬉しく思っています。

チャンドラさん: 日本のみなさんのご支援に心から感謝しています。

Photograph of blue storefronts along a dusty street with green mountains in the distance.

本プロジェクトを通じて建てられた作業場

Photo: UNDP Nepal

前回このプロジェクト現場を訪れた際、偶然ハリさんの以前の作業場の前を通りかかり、初めてお話をさせていただきました。その時、仕事場を案内しながら仕立ての仕事について熱心に語ってくださるハリさんの姿がとても印象的で、そのエネルギーと情熱に心を動かされ、「ぜひインタビューをさせていただきたい」と強く思ったことが、今回の取材につながりました。

当日は、ハリさんに加え、チャンドラさん、ティケさんにもご参加いただき、約2時間にわたってじっくりとお話を伺いました。代々家業として受け継がれてきた仕立ての仕事。その確かな技術と仕事への姿勢からは、家業として培われてきた誇りと伝統が感じられました。3人それぞれの経験や思い、震災を乗り越えて仕事を続けてきた歩み、そして未来への希望に耳を傾ける時間は、とても温かく、あっという間に過ぎていきました。また、UNDPの支援が実際にどのような形で暮らしや生計の向上につながっているのかを、改めて深く実感する貴重な機会となりました。

このプロジェクトは無事に終了しましたが、帰り際には3人が笑顔で「いつでも遊びに来てね」と声をかけてくださいました。プロジェクト現場のジャジャルコットはネパールに来てから約10回目の滞在でしたが、毎回現地の方々の温かいに触れ多くの思い出がありますが、その中でも今回の取材は皆さんの優しさと温かさに触れた、忘れられない時間となりました。インタビューにご協力いただいた3人の皆さん、ありがとうございました。

プロジェクトについて: 

UNDPは日本とのパートナーシップのもと、2025年3月から2026年7月まで、ネパール西部に位置するジャジャルコット郡およびルクム・ウエスト郡において、震災復興を支援しました。このプロジェクトでは、「地方政府による行政サービス提供能力の強化」と「生計支援」の2つを柱とし、単に地震前の状態へ戻す「復旧」にとどまらず、将来起こり得る災害にも耐えられる、よりレジリエントな地域社会を築くことを目標としました。

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