学びがもたらす地域復興の取り組み

ウクライナのスーミ州フメリウ・コミュニティの経験

2026年5月28日
Photo: UNDP Ukraine / Stanislav Pantelei

2022年、ウクライナのスーミ州フメリウ・コミュニティは占領下に置かれました。ロシア軍が同地域に侵入し、約10日間にわたり同コミュニティは事実上封鎖状態に置かれました。ペトロ・パンチェンコ村議会議長によれば、幸いにもロシア軍による住民の生命や健康に対する戦争犯罪に該当し得る行為は確認されなかった一方で、地元商店への被害や略奪が発生しました。その後当時の被害はすべて修復されており、また2026年1月に近隣で発生したドローンの爆発により被害を受けた住宅についても修繕が完了しています。

侵攻当時、同コミュニティには子どもを含む約500人の国内避難民が流入し、現在は約5,600人に至る国内避難民が居住しています。2026年1月以降には、住民はコミュニティを離れることなく国内および国際パスポートの申請が可能となりました。

これは、国連開発計画(UNDP)および日本政府の支援のもと、同コミュニティが住民の生活の質向上を目的として実施したプロジェクトの成果の一つです。こうした取り組みは、UNDPの専門的支援を受けながらコミュニティ自身が策定した復旧・開発計画(Recovery and Development Plan)から始まりました。

復旧・開発計画による優先課題の再構築 

フメリウとUNDPの協力は、2023年にフメリウ・コミュニティが地方レベルの復旧・開発計画策定に関するパイロット事業に参加したことから始まりました。 村議会のナタリア・バリウラ第一副議長は、同コミュニティが復旧に向けた優先課題を明確化する上でUNDPとの協力が重要な契機となったと振り返ります。

村議会のナタリア・バリウラ第一副議長

 「時代に対応していくためには、我々は学び続け、様々な機会に参画し、経験を共有し合うことが必要です。支援を受けながら取り組むことで成果につながると実感しています。UNDPは研修の提供にとどまらず、プロジェクトの実施においても支援してくださりました。成果が見えることで、さらに取り組もうと我々も意欲が高まります。2023年以降、私たちは学び、プロジェクト提案書を作成し、それを実行してきました。」

UNDPとの協力の一環として、フメリウは復旧・開発計画を策定しました。

「この計画を策定したことで、その後の取り組みは大きな推進力を得ました。私たちは社会調査を実施し、住民の意見を把握しました。それにより、今後取り組むべき課題の特性をより深く理解することができました。この規模での開発を自力で実現することは極めて困難だったと思います」とバリウラ第一副議長は述べています。

「パスポート・オフィス」

Photo: UNDP Ukraine / Stanislav Pantelei

復旧・開発計画に基づく主要プロジェクトの一つとして、地域の行政サービスセンター(ASC)におけるパスポート申請手続きの処理体制の整備が行われました。 戦時下において、各種書類へのアクセスは安全保障および基本的人権の観点から極めて重要です。 コミュニティ内でパスポートを取得できると、高齢者や大家族、国内避難民の地区中心地への移動に伴う大きな負担を大幅に軽減できます。 パンチェンコ議長は、パスポート・オフィスについて以下のように述べています。

「現在では、他の地域の行政センターからも、『どうやってこれを実現したのか』、『どこに相談したのか』といった問い合わせが寄せられています。この取り組みによってフメリウの認知度も高まりました。住民にとっても非常に便利な制度であり、遠方へ出向いたり長時間並んだりする必要が無いためです。住民は電話で予約を行い、指定された時間に来所すれば、パスポートを申請することができます。」 

「医療目的で海外渡航を予定しているためパスポートを申請する方もいれば、急な渡航に備えて申請する方もいます。全体としては、国際パスポートよりも国内パスポートの発行数の方が多い状況です。手続きは複雑ではなく、UNDPから提供された機材により迅速に対応できています」とASCのオレクサンドル・スポリシュ職員は述べています。

国際パスポートを申請した一人に、村議会のオレクシー・リク土地関係部門長がいます。 「コミュニティ関連の業務でモルドバへの出張を予定しています。ここフメリウで申請できなければ、近隣のロムヌィまで行かなければならず、仕事を休む必要がありました。地域内で手続きを完結でき、本当にありがたいです。近くて便利で、待ち時間もありません。ハルチェンキウ在住の別の住民も、すべての手続きをコミュニティ内で完了できたことに大変満足していると話していました」とリク部門長は述べています。 

行政サービスセンター(ASC)のセルヒー・カルペンコ所長代理は、パスポート・オフィスおよび今後開設予定の運転免許証発行用ワークステーションの機材が、UNDPおよび日本政府により提供されたと説明しています。 「これには、コンピューター2台、モニター3台、カメラ2台、プリンター2台、運転免許証発行用プリンター、指紋採取装置、電子署名用機器などが含まれます。現在、ASCでは105種類の行政サービスを提供しており、地域で利用可能なサービスの幅は着実に広がっています。また、住民が地域内で手続きを完結できるようになったことで、仲介業者を介する必要がなくなり、手続きの透明性も向上しました。」 

パンチェンコ議長は、現在使用している運転免許証が傷んでいたこともあり、新たなサービスが開始されれば真っ先にASCを訪れて更新手続きを行うつもりだと、冗談交じりに語ります。 「パスポートおよび運転免許証の発行はいずれも基本的な行政サービスです。私たちにとって『より良い復興(Build Back Better)』とは、単に失われたものを元に戻すことではなく、小さな村であっても欧州基準に合致したサービスを構築することを意味します」

課題を乗り越える力を育むコミュニティ 

UNDPのプロジェクトマネジメント研修を受けた後、フメリウは積極的に機会を模索し、助成金申請を行うようになりました。 これまでに3件のプロジェクトを実施し、さらに2件が進行中、10件が形成段階にあります。 バリウラ第一副議長は、地域の文化会館に整備された子ども用スペースを紹介しています。わずか1年前までは倉庫として使用されていましたが、現在は子どもたちの遊び場となっています。 

オレナ・マカレツ文化会館館長

「フメリウには約400人の子供が暮らしており、コミュニティには子どものための空間が必要でした。私たちは改修を行い、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の支援を受けた人道支援団体『プロリスカ(Proliska)』が設備を提供しました。文化会館内のシェルターには、寄贈された毛布や懐中電灯、水容器なども備えられています」

コミュニティ内には遊び場が一つしかなかったため、この空間は非常に重要であったと、オレナ・マカレツ文化会館館長は述べます。

「ここにはさまざまなおもちゃがあります。子どもたちには、交流し、社会性を育む場が必要です。3歳から10代の若者まで幅広い子どもが利用しています。ゲーム機やアニメもあり、子どもたちは絵を描いたり、工作をしたりダンスをしたりしています。心理士をはじめとする専門家も訪問しています」 

さらに、パンチェンコ議長は、2023年以降、戦争により避難を余儀なくされた大家族への支援確保に向けた取り組みを行ってきたと付け加えました。 現在では、約30世帯がフメリウで新たな生活を始めており、子どもに優しい環境やレクリエーション施設の整備が、コミュニティにとって重要な優先課題となっています。 

Photo: UNDP Ukraine / Stanislav Pantelei

2025年には、スミリウスキー地区のテチアナ・アンドルシュチェンコ村長がプロジェクトマネジメント研修を修了しました。彼女は本プログラムの一環としてスポーツグラウンド整備プロジェクトを立ち上げ、その後選考を経て採択されたことで、現在支援を受けながら実施されています。 また、村議会のオレクシー・リク部門長も同研修を修了しました。彼が提案した講堂への太陽光パネル設置プロジェクトも承認されており、現在はプロジェクト文書の準備が進められています。

バリウラ第一副議長は以下のように述べています。

 「私たちは、できる限り多くの専門人材を研修や実践的なプロジェクト設計に参画させるため、人材育成とプロジェクト形成に関する能力強化に継続的に取り組んでいます。これにより、追加的な資源の確保と開発事業の効果的な実施が可能になります。また、私たちは同コミュニティを、住民にとって住みやすく成長できる場所とし、この地で将来を築いていける環境を整備することを目指しています。」

Photo: UNDP Ukraine / Stanislav Pantelei

背景

2023年以降、UNDPは日本政府の資金支援を受け、ウクライナのコミュニティに対して包括的な支援を提供しています。当初は10のパイロット地域コミュニティが本プロジェクトに参加していましたが、2024年にはウクライナ全土からさらに20のコミュニティが加わり、取り組みは拡大しました。

本支援の枠組みのもと、パイロットコミュニティは、戦略計画文書、汚職防止プログラム、コミュニケーション戦略を策定するとともに、プロジェクトマネジメントに関する研修を受講し、戦略的コミュニケーション、メディアリテラシー、偽情報対策に関する能力を強化してきました。

また、UNDPは日本政府の資金拠出のもと、複数のコミュニティにおける復旧・開発プロジェクトに対し、必要な機材の提供を通じて支援を行ってきました。その結果、各コミュニティは制度的能力を強化しただけでなく、実践的な取り組みを実施するための資金調達にも成功しています。