TICAD9インタビューシリーズ04 - 八代 歩弓 UNDPシエラレオネ
シエラレオネのバイクライダーと平和構築
2025年8月29日
2025年8月にアフリカ開発会議(TICAD)が開催されることを記念し、アフリカで働いている日本人UNDP職員の方々にインタビューを行いました。インタビュー企画第3回目は、UNDPシエラレオネ事務所にてプログラムアナリストとして勤務している、八代歩弓さんに話を伺いました。
西アフリカに位置するシエラレオネ共和国は、ダイヤモンドを始めとする鉱業やコーヒーやココアなどの農業が盛んな国です。大きさは北海道と同じぐらい。主食がお米であり、サブサハラアフリカ内で一番お米の消費が多い国となっています。
シエラレオネがどんな国なのか教えてください。
シエラレオネは西アフリカに位置し、ギニアとリベリアに挟まれ、アトランティック沿岸に面しています。公用語は英語ですが、「クリオ語」や「メンデ語」、「テムネ語」なども広く話されています。1990年代に内戦があり、2000年代の終結後から約20年間で平和と安定は大きく進展し、内戦経験国の中では比較的安定しています。気候は熱帯で、乾季と雨季があり、雨量は非常に多く、熱帯雨林が広がる自然豊かな国です。主食は米で、キャッサバの葉を煮てペースト状にした「キャッサバリーフ」をご飯にかける料理が一般的です。魚介類が豊富で、沿岸部の利点を生かした漁業が盛んです。パイナップルも多く生産され、日本企業の伊藤忠商事がDole Asia Holdingsを通して「シエラトロピカル社」を設立し、パイナップル農園を運営しています。
シエラレオネに駐在する前の印象と現在の印象はどの様に違いますか。
赴任前は、シエラレオネは内戦後の平和構築や発展の「成功例」として国際的に評価され、g7プラス(g7+)という紛争や脆弱性の影響を受けた国々のグループやアフリカ連合のアクティブなメンバーとして、2024年からは国連安全保障理事会非常任理事国として、国際社会でリーダーシップを発揮する国という印象を持っていましたが、国内の状況についてそこまで詳しくは知らなかったというのが正直なところとなります。実際に赴任してみると、国内には貧困、不平等、法制度整備、治安部門支援、農業やエネルギー分野の課題など、残された多くの課題に政府が取り組んでいることを実感します。
自身の専門が平和・安全保障のため、経済や生活基盤の課題を事前には十分意識していませんでしたが、現地でその深刻さを認識しました。どんな国でも政治的課題に直面していると思いますが、シエラレオネにおいてもそうした課題は依然存在し、2023年の選挙後にはクーデター未遂も発生しています。この様に、完全に安全な国は世界的にも存在せず、シエラレオネも例外ではないのだと感じます。
アフリカ・シエラレオネで働こうと思ったきっかけを教えてください。
専門性
アフリカや中東は、私の専門である平和構築のニーズが最も大きい地域であり、もともとアフリカで働きたいという強い思いがありました。その中でも、現在自分が話すことのできる英語が公用語として使われている国が適していると考えました。
現場での実務経験
ニューヨークでの5年間、平和構築に関する政策形成に携わる中で、「現地での実務経験」が不足していることを痛感し、現場で平和構築関係のプロジェクトマネジメントを直接担うことができるシエラレオネを選びました。
UNDPの強み
さらに、開発分野で主導的役割を果たし、安全保障や平和構築の分野でも政策から現場支援まで幅広く展開しているUNDPであれば、より現場に近い経験が得られると考えたことも、大きな理由です。
主な業務内容を教えてください。
平和構築の専門家として、国連平和構築基金が拠出するプロジェクトのマネージャーを務めています。国連資本開発基金(UNCDF)及びシエラレオネ政府のMinistry of Youth Affairsとともにプロジェクトを遂行しています。具体的には、脆弱なグループである若いモーターバイクライダーを「平和のエージェント」に育成することを目的とし、日々の実施支援、予算管理、報告、モニタリングなどを担当しています。
バイクライダーの社会的地位と社会に与える影響
バイクライダーは日本で言うタクシー運転手のようなもので、バイクの後ろにお客さんを乗せて移動のお手伝いをする職業となります。シエラレオネで主要な交通手段を担う存在です。しかし、彼らの多くが経済的に不安定で脆弱な立場にあり、政治的に利用されやすく、過去には警察との衝突も多く「トラブルメーカー」と見られてきました。
バイクライダーに焦点を当てたプロジェクト
現在、UNDPはUNCDFの共同事業として、バイクライダーと警察との対話促進や、暴力防止、ジェンダーに基づく暴力の防止、リーダーシップ、アドボカシー、紛争予防等の研修を行い、平和のメッセンジャーとしての意識向上を図っています。この様な対話や研修は平和構築していく上での土台やメッセージとして、とても重要な役割を果たしています。
また、同時にバイクライダーの脆弱性を改善するために経済的な支援も行っています。
プロジェクト開始後は、バイクライダーと警察の関係改善や、若いバイクライダー自身による平和キャンペーンの主導など、具体的な成果が見られています。私自身、活動に取り組む中で、これがコミュニティに根ざし、若者に焦点を当てた包括的かつ実践的な平和構築アプローチであると実感しています。
平和構築のアプローチ
このバイクライダーを介した平和構築のアプローチは、一般的にイメージされる対話やハイレベル会合による平和構築とは異なるかもしれません。しかし、社会の内部から、そして人々の意識レベルから平和を築くためには、こうしたボトムアップの取り組みも同じくらい重要です。
さらに、近年の平和構築アプローチにおいては、経済的な脆弱性や不平等といった課題も、不可欠な要素として重視されるようになってきています。
日本はどの様にシエラレオネの課題に関わっていけると思いますか?
人的支援
私自身も日本政府が支援するジュニアプロフェッショナルオフィサー(JPO)として勤務した経験から、人を派遣する人的支援も有効な支援形態であると思います。
日本の経験の共有
他にも、日本は第二次世界大戦からの復興や南南・三角協力の経験を有し、それを平和貢献に活かせる国だということを証明してきました。シエラレオネは内戦経験国であるため、復興の経験共有による支援も有用だと思います。また、農業、製造業、ICT等様々な分野における日本の技術の専門性の高さを生かした支援も有意義だと考えます。
UNDPとの連携
UNDPはシエラレオネ政府にとって重要なパートナーであり、特に政治・平和構築・安全保障・安定の分野で主導的役割を果たしているため、日本と連携して平和構築プロジェクトを実施できれば意義深いと考えます。
しかし、シエラレオネは日本国内で知名度が低いことを実感しています。シエラレオネが舞台となった映画『ブラッド・ダイヤモンド』である程度知名度を獲得したと思いつつも、まだまだ日本でシエラレオネを知っている人は少ない印象です。まずは、日本国内での認知度が上がり、歴史や現状について知ってもらうことが重要なのではないでしょうか。シオラリオネは人口約800万人の小国であるものの、支援ニーズは極めて高く、日本政府とUNDPが協力して取り組むことにより、大きな貢献をすることが可能です。
八代 歩弓 | UNDPシエラレオネ事務所 プログラムアナリスト
大阪大学法学部国際公共政策学科を卒業後、英国ロンドン大学キングズ・カレッジ(King’s College London)にて、紛争・治安・開発分野の修士号を取得。コンサルティングファームにて経営コンサルタントとして勤務した後、ボスニア・ヘルツェゴビナのNGOで実務経験を積む。2019年よりニューヨークの国際連合日本政府代表部にて専門調査員として、国際法および平和構築分野を担当。2022年より国際連合事務局政務平和構築局平和構築支援オフィスにて、アソシエイトポリティカルオフィサーとして勤務。2024年7月より現職。平和構築の専門家として、関連プロジェクトのマネジメントを担当。
聞き手:直井ひな TICAD Unit