織りなす文化: アフリカンテキスタイルの魅力を探る
イベントレポート:アフリコンバース2025第2回@大阪・関西万博
2025年6月26日
5月25日アフリカの日、アフリカ・デーにあわせて「アフリコンバース2025第2回」が大阪・関西万博会場にて開催されました。本イベントでは、「アフリカンテキスタイル(布)」をテーマに、アフリカと日本の深いつながりを探りました。会場にはアフリカ各地の色鮮やかな布が展示され、日本文化とアフリカ布を融合させたファッションショーが披露されました。またパネルディスカッションでは両地域交流のルーツや、布を通じた今後の文化交流の可能性について活発な意見交換が行われました。
開会
本イベントは、国際協力機構(JICA)理事の安藤直樹氏による基調講演で始まりました。冒頭で安藤氏は、60年以上前には日本からアフリカへ布が輸出されていたこと、さらには日本企業がナイジェリアに繊維生産工場を設立していた歴史に触れながら、日本とアフリカとの深いつながりを強調しました。またアフリカ布の染色技術はインドネシアのバティック技法にルーツを持つことから、アジアとアフリカも古くから繋がりを持っていると改めて述べました。
そして、京都におけるアフリカ布の振袖制作や、元青年海外協力隊員によるアフリカ布を使ったビジネスについて触れ、近年ではアフリカ布が日本に「再上陸」していると評価しました。安藤氏は「アフリカは若くてエネルギッシュで、そして明るくて魅力的な場所である」と話し、JICAは日本とアフリカの若者を繋げる活動を一層広げていくつもりだと強調しました。
ファッションショー「動きの中の布」
ファッションショー「動きの中の布」では、アフリカンテキスタイルを日本の着物スタイルにアレンジした WAFRICA(ワフリカ)が披露されました。WAFRICAとは、京都で100年以上続く老舗呉服メーカーodashoと、カメルーン出身のアフリカ系フランス人デザイナーのセルジュ・ムアング氏のコラボで生まれた着物コレクションです。日本の洗練された服飾文化と、西アフリカのテキスタイルが持つ力強いエネルギーを融合させています。
ファッションショーでは、波に鯉が描かれた荒磯緞子の振袖に、マサイ族戦士がまとう布を使って作られた帯を斬新に合わせた着物が披露されました。odashoのクリエイティブ・ディレクターである下城美香氏は、日本では鯉が縁起の良い出世魚である点を取り上げ、アフリカでも魚のたくさんいる海や川は同様の縁起の良い意味を持つのではないかと述べました。
また、まるで日本の宝尽くし(縁起の良い宝物を集めた吉祥文様)のように、チェーンのネックレスから天使のモチーフまで様々な「宝物」が描かれたアフリカ布を使った着物も披露されました。
トークセッション「テキスタイルで踏み出す、アフリカへの第一歩」
ファッションショーの後には、「テキスタイルで踏み出す、アフリカへの第一歩」と題したトークセッションが行われ、国際協力機構(JICA)アフリカ部次長の上野修平氏がモデレーターを務めました。関西学院大学非常勤講師の上田文氏と、下城美香氏の2名が登壇し、それぞれの視点からアフリカと日本をつなぐテキスタイルの魅力や、そこから広がる国際的な文化交流の可能性について語りました。
アフリカンプリント(100%コットン)の起源は、インドネシアの伝統的な染色技法「バティック(ろうけつ染め)」にあります。この技法はやがてオランダによって機械染色に置き換えられ、アフリカの人々の好みに合うようにデザインや色が工夫され、現在のアフリカンプリントが誕生しました。上田氏は、アフリカ向けに工夫されたデザインの中から、さらにアフリカの人々自身が取捨選択することによって、アフリカらしい布になったのだと述べました。
1960年代には、京都の大同マルタ染工が手がけたプリントがアフリカ向けに生産され、現地へと輸出されていました。上田氏は、日本とアフリカの感性の違いにまつわるエピソードとして、「アフリカでは『型ずれ』がむしろ好まれる」「色が鮮明で深くないとアフリカでは売れない」といった現地のニーズに大同マルタ染工の職員が驚いたというエピソードを紹介しました。
上田氏はさらに、1960年代以降に日本の大手紡績会社がナイジェリアに設立した「アレワ紡」が、日本の政府開発援助(ODA)を受けて、西アフリカ最大級の繊維工場へと発展した経緯について紹介しました。また、そのアレワ紡でかつて現地生産された布を、約60年の時を経て京都の型染技術で蘇らせた2024年の復刻プロジェクトにも言及し、さらなる京都とアフリカ布の繋がりを強調しました。
下城氏は、現在では京都からアフリカへの布の輸出はほとんど行われていないものの、かつて輸出が盛んだった時代の名残は、今でも身近なところに残っていると語りました。また、下城氏はWAFRICA着物に使用するアフリカ布には、ワックスプリント(綿に模様をプリントしたもの)の他にも、ガーナのケンテやセネガルのバザン、カメルーンで王族が冠婚葬祭に着用する手刺繡生地など、様々な伝統的な生地があることを述べました。アフリカには、地域によって様々な種類の布があることが強調されました。
ファッションショー「次世代と布」
アフリカ布ロリータファッションブランド Melanger Etranger(メランジェエトランジェ)によるファッションショー「次世代と布」が行われました。伝統的なアフリカの布地と現代の日本の原宿ファッションを斬新に組み合わせたファッションが披露され、両地域のダイナミックな創造性と文化交流が表現されました。
Melanger Etranger創設者の小林結花氏は、2017年にJICAの青年海外協力隊として西アフリカ・ベナンに派遣された際に、現地の鮮やかなアフリカンワックスプリントに魅了され、2021年に「Melanger Etranger」を立ち上げました。ブランド名はフランス語で「海外のものを混ぜる」という意味で、その作品はアフリカ布のパワーと中世ヨーロッパのような華やかなスタイルと原宿の少女のようなポップさを共存させて います。
ファッションショーでは、小林氏がベナンの市場で購入したアフリカ布を使って制作したロリータファッションの衣装や、2023年のミラノ・コレクション2024春夏に出展した作品が披露されました。小林氏は「今までにない新しいファッションを生み出していきたい」「ファッションを通じて新しいコミュニティと出会えることがロリータファッションの魅力」と語りました。
トークセッション「ファッションを社会変革の力に」
「ファッションを社会変革の力に」と題したトークセッションでは、小林結花氏と、ナイジェリア連邦予算および経済計画省の Anieheobi Frances Chinwe氏が登壇し、国連開発計画(UNDP)アフリカ局 TICAD 連携専門官である近藤千華がモデレーターを務めました。
フランシス・アニエヘオビ氏は、ファッションがアイデンティティや文化のルーツを表現する手段であることを強調しました。多様なアフリカのデザインを紹介し、伝統衣装は着用者の出身国や文化的誇りを示す役割を持つと話しました。そして「私はアフリカに生まれたからアフリカ人なのではない。アフリカが私の中に生まれたからアフリカ人なのだ」というクワメ・ンクルマの言葉を引用しました。
日本でのアフリカンテキスタイルの認知度に関する質問に対し、小林氏は特にバッグなどのアクセサリー分野で人気が高まっており、過去半年で日本の店舗でも増えてきたと述べました。そして近藤は、控えめな色彩を好む文化を持つ日本の人々も、小物などのワンポイントアイテムにアフリカ布を取り入れることで、カラフルな色使いが特徴的なアフリカ布に親しみを持つことができるのではないかと話しました。
フランシス・アニエヘオビ氏は、近年アフリカ布がグローバルトレンドとして世界の注目を集め始めているとしました。ナイジェリア出身の者として、「外国の人々がアフリカの布を身に着けているのは嬉しく思う」「布を通してアフリカのルーツやアイデンティティを発見し、世界中の人々がアフリカを知るきっかけになってほしい」と述べました。また、ブルキナファソなどの国々では伝統衣装が公式服として採用されており、アフリカのアイデンティティを世界に示す動きが進んでいると紹介しました。
最後に小林氏は、アフリカ文化に興味がない層にも積極的にアプローチしていきたいと語り、会場の来場者に対しては、アフリカ布を身に着け、アフリカの魅力を周囲に発信してほしいと伝えました。また、フランシス・アニエヘオビ氏は、「アフリカの人々はビジネスパートナーだけを探しているのではなく、自分たちの文化を理解してくれる『友人』や『家族』を求めている」と伝えました。
閉会
閉会の挨拶にて近藤千華は、2025年8月17日から24日まで、万博の国連パビリオンにて「アフリカ・ウィーク」が開催され、アフリカ布をテーマに据えたデジタルワークショップが実施されると発表しました。UNDPはとりわけ若い世代に焦点を当て、「アフリカ・ウィーク」に向けて学校などと連携して、子どもたちにアフリカ布の文化的背景や魅力を紹介しています。そして、日本とアフリカの子どもたちによる絵手紙の交換を通じて、相互理解の深化を目指します。
AFRI CONVERSE 2025 #2では、テキスタイルが国境を越えて、アフリカと日本の共通の歴史や創造性、そして未来への可能性をつなぐ「糸」となり得ることを示しました。布が団結の言語となり、大陸を越えた共創の大胆なビジョンを提示しました。