政策から行動へ、共創で未来を拓く
開催報告: TICAD9 テーマ別イベント – 第3回 ユースドライブ
2025年9月23日
概要
第3回ユースドライブ「政策から行動へ、共創で未来を拓く」は、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の公式テーマ別イベントの一つとして、またTICAD史上初の若者主導サミットとして、2025年8月20日に横浜で開催されました。アフリカでは若年層が人口の大半を占める急速な人口増加に伴って若年層の失業率が高まる一方で、日本では少子高齢化が進み、若年層の経済的負担が増大しています。こうした課題と強みの補完性を踏まえ、両地域の若者は「一方的な支援」ではなく「対等な共創」に基づいた新たな協力のあり方を模索しました。
本イベントには、日本とアフリカの40カ国以上と日本から100名の若者が集結しました。ユースドライブ開催前の2日間、参加者はワークショップや現地調査、ピッチコンテストに参加しました。最終日のユースドライブには235名の一般参加者が集まり、3日間のプログラムの集大成として、地域・世代を超えた共創の可能性について議論が交わされ、日本とアフリカの若者が共に描いた国際目標『Youth Agenda 2055: The Future We Want』が正式に発表されました。
登壇者:
エルシー・ジェキーワ・アタフア UNDPナイジェリア常駐代表
上川陽子衆議院議員 (ビデオメッセージ)
休場優希氏 一般社団法人アフリカアジアユースネスト(AAYN)共同代表
ダニエル・ジニャマ氏 インターコンチネンタル・ユース・コネクト(IYC)渉外部門長
パトランキング氏 UNDPアフリカ地域局親善大使
デイヴィッド・ポンデウ氏 アフリカ・ディアスポラ・ネットワークジャパン(ADNJ) 代表理事
鈴木貴子衆議院議員
渋澤健氏 シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
ウスビ・サコ氏 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会, 副会長兼グローバル・コミュニケーション・ディレクター/公立大学法人東京都立大学理事
テリー・オティエノ アフリカ・ディアスポラ・ネットワーク・ジャパン(ADNJ)アフリカ地域プログラム・政策担当
大場雄一国際協力機構(JICA)理事
英利アルフィヤ外務大臣政務官
モデレーター:フォーリー・バー・ティボー氏 ジャーナリスト/教育活動家
アフリカと日本の若者の力
本イベントは、国連開発計画(UNDP)ナイジェリア常駐代表であるエルシー・ジェキーワ・アタフアによる開会の挨拶で幕を開けました。TICADの歴史においてアフリカと日本の若者が主導する初のサミットとして本イベントの意義を強調し、日本の長年のアフリカに対する取り組みを述べました。加えて、若者が様々な分野でイノベーションを主導していくことで、主体的に現代社会を形作っていることを指摘し、その取り組みが最大の効果を発揮するために支援・投資・パートナーシップ・機会が必要だと訴えました。最後に、若者とベテランの専門家による共創の力こそが、大胆かつ持続可能な解決策を生み出すと強調して締めくくりました。
エルシー・ジェキーワ・アタフア UNDPナイジェリア常駐代表による開会の挨拶
次に、上川陽子衆議院議員がビデオメッセージで開会の挨拶を述べました。TICADがアフリカのオーナーシップと国際社会とのパートナーシップに焦点を当て続け、アフリカの持続可能な開発を支えてきたと指摘しました。さらに、日本とアフリカ双方の若者が世界を変える力として重要な役割を担っていることに言及し、Youth TICADが若者にとって新たなネットワークを構築するとともに、未来の共創者となる機会を提供する意義を強調しました。
開会の挨拶に続き、一般社団法人アフリカアジアユースネスト(AAYN)共同代表である休場優希氏とインターコンチネンタル・ユース・コネクト(IYC)渉外部門長のダニエル・ジニャマ氏が、初めてアフリカと日本の若者が主導してプロセスを形作り、行動計画を共創するYouth TICADの意義を改めて強調しました。過去1年半にわたり、若者たちが協働して『Youth Agenda 2055』を策定してきたことを説明し、本アジェンダが、経済・社会・平和と安定の3つの柱と、人的交流の促進と持続可能性という2つの主要な実現要素で構成されていることにも言及しました。
休場優希氏 一般社団法人アフリカアジアユースネスト(AAYN)共同代表、ダニエル・ジニャマ氏 インターコンチネンタル・ユース・コネクト(IYC)渉外部門長がYouth TICAD 2025を振り返る
ユース・ピッチ:可能性を解き放つ
ユース・ピッチは、すべてのスピーカーが観客席に着席し、登壇者と観客の境界が曖昧な状態から始まりました。3人の若手登壇者が観客席から次々に立ち上がり、自らのビジョンを力強く語り始め、互いに共鳴していきます。
まず、 UNDPアフリカ地域局親善大使であるパトランキング氏が観客席から立ち上がり、インスピレーションにあふれるアフリカ人と日本人に囲まれていることに胸を躍らせ、この世代が素晴らしい未来を創り出す可能性を秘めていると強調しました。 続いて、アフリカ・ディアスポラ・ネットワークジャパン(ADNJ) 代表理事であるデイヴィッド・ポンデウ氏は、ユース・イニシアチブが若者に発言権と地球規模の課題に取り組む機会を与え、政策を実行に移す原動力を生み出していることを強調しました。 同時にポンデウ氏は、ユースドライブのような若者主導のイベントを日本とアフリカの両方で定期的に開催する計画も提示しました。これらの点を踏まえ、休場氏は Africa-Japan Youth Foundationを紹介し、コミュニティの支援、柔軟な資金提供、キャパシティ・ビルディング、認知度向上を通じた若者への支援に加え、様々なセクターからの投資誘致と資源動員を推進すると述べました。
デイヴィッド・ポンデウ氏 アフリカ・ディアスポラ・ネットワークジャパン(ADNJ) 代表理事が観客席から立ち上がり、ユース・ピッチを発表する
登壇者が全員ステージに揃った後、シニア登壇者がユース・ピッチに対して簡潔な所感を述べます。まず、鈴木貴子衆議院議員は、男女・若者・高齢者から成る社会の鏡となるよう、議会改革の必要性を強調しました。続いて、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役である渋澤健氏は、日本が高齢化に直面する一方でアフリカが若者人口にあふれている現状は、パートナーシップを結ぶ機会を生み出していると指摘しました。このようなイベントが地域間の隔たりを埋める助けとなり、アフリカの情熱と成長が日本の未来を活気づけてくれることへの期待を示しました。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会, 副会長兼グローバル・コミュニケーション・ディレクター/公立大学法人東京都立大学理事であるウスビ・サコ氏は、シニア層が若者に自らの未来を主導させる勇気を持つ時が来たと強調し、若者の声に耳を傾けてオープンな対話を行うことが重要であると述べました。
国境と世代を超えた共創
本セッションは若手登壇者とシニア登壇者間のパネルディスカッションへと移りました。パトランキング氏は障壁を打ち破り、協働して前向きな変化を生み出すよう若者に呼びかけました。その中で、ナイジェリア・ラゴスのスラムで育った自身の過酷な背景や、ミュージシャン兼活動家として絶望する人々に希望を与え、声なき者の代弁者となることを決意した経験を共有し、失敗から学ぶこととレジリエンスの重要性を強調しました。
シニア層に求める具体的な行動について若手登壇者が問われると、ポンデウ氏は、真の進歩は若者同士だけでなく、若者とシニアリーダーの共創から生まれることを強調しました。シニア層には、忍耐強くあること、若者に失敗と学びの機会を与えること、そして何よりも指導を惜しまず、彼らの能力を信じることが求められると指摘し、単にリソースを提供するよりもはるかに価値があることだと述べました 。さらに休場氏は、アフリカの人口増加でアフリカの若者が注目される一方、日本の若者も自らの声を届けたいと望んでいる点を指摘し、日本の若者を忘れてはならないと強調しました。また、世界中の多くの若者が未だ挑戦する機会すら持てない現状を最優先課題として扱うべきだと訴えました。
TICADの理想的なあり方を考察するにあたり、サコ氏は、若者が自らの将来に関わる問題において意見を求められながらも最終的な意思決定に反映されないことに対する若者の不満を指摘したうえで、若者に発言の場を与え、相互理解を深めることの重要性を強調しました。
私たちが望む未来の構想
その後、若者の意思決定を反映させる方法についての議論へと移りました。ポンデウ氏は、若者は単なる傍観者ではなく意思決定のプロセスに積極的に参加すべきであり、日本とアフリカの若者が共に議論の場に席を持つ必要性を強調しました。また、両地域の若者が定期的に集い意見交換する機会の重要性を訴え、アフリカの若者の日本訪問を妨げるビザ問題への対応が必要だと指摘しました。これに対して鈴木議員は、 TICADの本質を「共に未来を築くプラットフォーム」として位置付けながら、若者が真に代表されているのか、それとも単なる象徴に過ぎないのかという問題を提起しました。そして、全ての学生に機会を保証し、若者が単なる象徴に留まらないようにすることを約束しました。サコ氏は、日本が過去にそうであったように、アフリカの若者は自らの未来を決めるにあたって真の主体性と責任を持たねばならないことを強調しました。歴史的にアフリカに関する意思決定はしばしば他者によってなされてきたが、これは変わらなければならないと訴えました。 さらに渋澤氏は、若さとは年齢だけでなくマインドセットであると指摘しました。若者は発言権を持つ一方で、それに伴う責任も負わねばならないとし、若者もシニア層も、望む未来を形作る責任を共に担っていることを示しました。
フォーリー・バー・ティボー氏、パトランキング氏、休場優希氏、デイヴィッド・ポンデウ氏、渋澤健氏、鈴木貴子衆議院議員、ウスビ・サコ氏
彼の回答を受けて、若手登壇者に「どんな未来を見てみたいですか?」という最後の質問が投げかけられました。ポンデウ氏は、日本とアフリカの若者が共創し、障壁なく互いを訪問できるあり方を見ることだと述べました。休場氏は、 Youth TICADが一時的な機運にとどまらず、今後も継続されることの重要性を強調しました。最後にパトランキング氏は、アフリカと日本の間でより大きな連携と機会創出を呼びかける一方、国際的なパートナーシップを求める前に、自らのコミュニティ内で結束し協働することの重要性を強調し、国内外で連携と機会が豊富にある未来を語りました。
会場からの発言では、パン・アフリカ・ユース・ユニオン 代表のモウモニ・ディアラ氏が日本とアフリカの協力強化を呼びかけ、失業対策としての職業技術訓練、経済・ビジネス機会の共有、文化交流の促進、青年団体間の連携強化、平和と安全保障の推進の5つの重点分野を強調しました。さらに、マックビーハニーハーベストSMC株式会社 最高経営責任者であるアンペア・ダフィーヌ氏は、技術と農業分野におけるアフリカと日本の連携強化を呼びかけ、政策立案者に対して持続可能な未来を共創する機会を若者に提供するよう促しました。上智大学学生/ TWEBWE 創業者である中武そら氏は、アフリカと日本の未来は一方的な支援ではなく、異文化間のチームワークと若者による共創にかかっていると強調しました。
本イベントは、大場雄一国際協力機構(JICA)理事の閉会の挨拶で締めくくられました。大場理事は、未来の力として若者の声と『Youth Agenda 2055』を挙げながら、日本とアフリカ・世代を超えた共創を強調しました。信頼と相互理解が将来の日本とアフリカの関係の鍵であると指摘し、JICAのプログラムを通して若者の交流と実践的行動を支援するとともに、若者からの提案を取り入れることを約束しました。
最後に、『Youth Agenda 2055: The Future We Want』と題する文書が、英利アルフィヤ外務大臣政務官に手渡されました。アルフィヤ政務官は900人以上の参加した若者たちの決意とたゆまぬ努力を称え、日本政府がこれらの若者の提案を政策と行動に反映させるよう取り組むことを約束しました。また、未来を形作る上で若者のリーダーシップが果たす重要な役割を強調しました。
休場優希氏とデイヴィッド・ポンデウ氏が英利アルフィヤ外務大臣政務官に『 Youth Agenda 2055』を正式に手渡す
TICAD9における第3回ユースドライブは、TICAD史上初の若者主導のサミットとして重要な節目となりました。両地域の若者は情熱を行動に移す準備ができているだけでなく、共通の課題に対する大胆かつ実践的な解決策を形作る能力をすでに持っていることが示されました。アフリカと日本の若者とシニアリーダー間の対話を通じて、単なる象徴的な協議ではなく、大陸や世代を超えた意味ある共創へと発展すべきであることが強調されました。このユースドライブの成功は今後のTICADにとって重要な先例となりました。今後は、この若者のリーダーシップを一時的な勢いとして扱うのではなく、国際協力の永続的な柱として位置付けていくことが重要です。
日時:2025年8月20日 12:00~13:20(JST)
会場:パシフィコ横浜 展示ホールD
形式:ハイブリッド(対面参加:150名、オンライン参加:85名)
使用言語:英語、日本語、フランス語
共催: Youth TICAD実行委員会、アフリカアジアユースネスト (AAYN)、在日アフリカ人ネットワーク (ADNJ) 、国際協力機構 (JICA)、国連開発計画 (UNDP)、国連ボランティア計画 (UNV)
協力:G7/G20 Youth Japan、インターコンチネンタル・ユース・コネクト(IYC)、持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム(JYPS)、MPJ Youth Japan、Network of African Students in Japan(NASJA)
後援:経済同友会、東京大学、東京倶楽部、豊田通商株式会社、三井住友銀行、横浜市