開催報告:TICAD9ハイレベル・テーマ別イベント アフリカにおける信用格付け

持続可能な投資環境の構築と開発金融の推進

2025年9月22日
Panel discussion on stage with six speakers; audience seated in a conference room.

概要

TICAD9最終日の8月22日、UNDPはアフリカのグローバル開発諮問企業AfriCatalystとの共催でアフリカの信用格付けに関するハイレベル・テーマ別イベントをパシフィコ横浜で開催しました。本イベントでは、アフリカが直面する最も喫緊の開発課題の一つである資金調達へのアクセスについて議論が行われました。参加者は、主権(ソブリン)信用格付けの改善がいかにアフリカの開発潜在力を引き出し、現在他の新興国より200~400ベーシスポイント高い同地域の借入コストを引き下げ得るかについて意見を交わしました。

 

登壇者

アフナ・エザコンワ 国連事務次長補/UNDPアフリカ局長
イスマエル・ナベ閣下 ギニア共和国 計画・国際協力大臣
ソラヤ・ディアロ氏 Bloomfield Investment Corporation 上級副社長
ダウダ・センベネ氏 AfriCatalyst 最高経営責任者(CEO)
仲川聡氏 Double Feather Partnersディレクター
レイモンド・ギルピン UNDPアフリカ局チーフエコノミスト/戦略・分析・調査チーム長

モデレーター

フォーリー・バー・ティボー アルジャジーラジャーナリスト/教育活動家

 

 

開会:金融変革への道筋

セッションは、UNDPアフリカ局長アフナ・エザコンワの開会挨拶で始まり、厳しい現実が示されました。アフリカは世界で最も成長の速い経済圏20のうち12を有しているにもかかわらず、2030年までに持続可能な開発目標を達成するために1.4兆ドルもの資金不足に直面している、という事実です。同氏は「負担可能な資金調達へのアクセスは贅沢品ではなく、生命線である」と強調し、国内資源を最大限動員してもアフリカの開発ニーズを満たすにはなお不十分であることを指摘しました。

さらに同氏は、日本の支援を受けた「アフリカ信用格付けイニシアティブ」の変革の可能性について概説しました。この取り組みは既に25カ国から385名の政府職員を研修し、15名の信用格付けアドバイザーで構成されるハイレベル評議会を設立しています。このイニシアティブは、AfriCatalyst、アフリカ連合、国連アフリカ経済委員会、アフリカ経済変革センターとの協力による取り組みであり、国際金融市場におけるアフリカへの認識を根本的に変えることを目指しています。

 

 

 

Speaker at podium addressing a seated audience; large screen shows a pink wave slide.

アフナ・エザコンワUNDPアフリカ局長

戦略的変革を通じたギニア政府の視点

ギニア共和国のイスマエル・ナベ計画/国際協力大臣は、より良い信用格付けを得るために国家がどのように戦略的に自らを位置付けるかについての見解を示しました。ギニアのアプローチは、単にリスクを管理するのではなく、強靭性と機会を実証することに重点を置いています。ナベ大臣は「アフリカがリスクではなく強靭性で、脆弱性ではなく機会で判断される時が来た」と強調しました。

ギニアの変革戦略の中心には、鉱業を基盤とした長期開発計画の中心である野心的なシマンドゥ2040プログラムが据えられています。同国は鉱業収入を即座に支出するのではなく、持続可能な開発を支援するためにソブリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド/SWF)に投資するという戦略的決定を下しました。このアプローチは、信用格付け機関が評価する長期的な財政計画の具体例を示しています。

さらにナベ大臣は、ギニアの透明性とデータ精度への取り組みを強調し、政府がGDPの基準年改定(リベース化)や全国規模のデータを活用したインフレ測定の改善など、一連の改革について成果を強調しました。ナベ大臣は「格付け機関が我々を訪れた際、評価の焦点は財政状況そのものではなく、政府全体の調整力にありました。そのため、私たちは確実で一貫したデータを提供しました」と述べました。

Three panelists in a conference room sit at a table with water bottles; screen in background.

イスマエル・ナベ ギニア共和国計画・国際協力大臣 

アジアの成功からの投資家の洞察と教訓

Double Feather Partnersディレクターの仲川聡氏は、アジアの経験、特にインドネシアが多国間・二国間融資への依存から国際資本市場へのアクセスへと移行した成功例から重要な教訓を示しました。この移行には主権(ソブリン)信用格付けが不可欠であり、資本市場との対話において主権(ソブリン)信用格付けが中心的役割を果たすため、強固なソブリン投資家関係の構築が極めて重要であったと強調しました。

仲川氏また、「成長ストーリー」(株式投資家に魅力的)と「信用ストーリー」(債券投資家と信用格付け機関に魅力的)の重要な違いを指摘し、成長ストーリーは経済的潜在力に焦点を当て(アフリカに豊富に存在)、信用ストーリーは債務返済能力を裏付ける安定性と強靭性に重点を置いていると述べました。

さらに仲川氏は「IIF(国際金融協会)の調査によれば、強固な投資家関係と債務透明性を持つ国は、より良い信用格付けを得る傾向があり、最新の報告書によると、インドネシアとフィリピンがソブリン投資家関係の面で最も優れた成果を示している」と述べました。そして、アフリカ諸国が専用のソブリン投資家関係事務所を設立し、政策情報を英語で定期的に発表するなど、国際市場との関りを深めるためのベストプラクティスを採用することを推奨しました。

加えて仲川氏は、アフリカにおいてAMRO(ASEAN+3マクロ経済調査事務所)に類似した地域マクロ経済調査機関設立がもたらす潜在力を強調し、これにより投資家コミュニティに独立した分析を提供できるとしました。特に現地通貨建て債券市場の発展を通じて国内資源の動員を促進し、国際的な信用格付け機関への依存を減らす道筋を指摘しました。ここでは、アジア債券市場イニシアティブ(ABMI)の20年にわたる経験が有用な前例となり得ると述べました。

Man in a suit speaks into a microphone at a panel discussion, with a laptop nearby.

仲川聡Double Feather Partnersディレクター

現地通貨に基づく革新的な格付けアプローチ

Bloomfield Investment Corporation上級副社長のソラヤ・ディアロ氏は、従来のハードカレンシーによる評価ではなく、現地通貨での評価に焦点を当てた代替的な信用格付けの手法を提示しました。ディアロ氏は「WAEMU諸国(西アフリカ経済通貨同盟)については、XOF(CFAフラン)で格付けを行い、中央アフリカの事業体についてはXAF(中央アフリカフラン)で、DRCについてはCDF(コンゴフラン)で行います。これは国際格付け機関が従来採用してきたアプローチとは対照的です」と説明しました。

この方法は、外貨準備の少なさを理由にアフリカ諸国を不当に低く評価することを避け、地域経済の実態に即し、アフリカ経済の状況により敏感な評価を提供します。ディアロ氏は、すべてのWAEMU諸国を格付けする西アフリカ中央銀行との共同作業を強調し、改善された金融格付けが地域市場における借入コストをいかに引き下げるかを検証することを目標としていると述べました。

さらにディアロ氏は、データの正確性と利用可用性を高める上でデジタル化とAIの導入が不可欠であることを指摘しました。日本をはじめとするアジア諸国の国際的なパートナーシップ支援を受け、中央アフリカでも同様の取り組みが検討されていることを紹介しました。

Panel of suited men at a conference table with microphones and water bottles.

ソラヤ・ディアロBloomfield Investment Corporation 上級副社長

大陸的解決策の構築

AfriCatalyst CEOのダウダ・センベネ氏は、アフリカの信用格付けが直面する構造的課題について包括的な分析を示しました。センベネ氏は、不十分な証拠に基づく認識のギャップ、主要格付け機関の現地での存在感の限界、そしてアフリカ経済の実情を十分に反映していない方法論上の欠陥など、いくつかの根本原因を指摘しました。

センベネ氏は「アフリカ諸国は、信頼性の高いデータを整備し、タイムリーに発表する責任がある」と強調し、そうしたデータがなければ格付け機関が古いまたは不正確な情報に依存し、結果として格付けに悪影響を及ぼす可能性があると警告しました。

さらにセンベネ氏は、二つのアプローチを提唱しました。第一に、現地の信用格付け機関の強化、第二に国レベルおよび大陸レベル双方における堅固な規制枠組みの構築です。その具体例として、ギニアとコートジボワールにおける改革が格付け改善につながった南南協力の成功例を挙げました。

Three panelists in suits seated at a conference table with microphones and water bottles.

ダウダ・センベネAfriCatalyst最高経営責任者(CEO)写真

参加者とのQ&A

セッションでは、長期的な信用力の向上と、差し迫った資金調達ニーズとのバランスをいかに取るかといった重要な問いが参加者から投げかけられました。これに対しセンベネ氏は、多くのアフリカ諸国が長期戦略と並行して喫緊の資金需要に対応するため、歳入基盤の拡大を目的とした国内改革を継続的に進めていることを強調しました。ナベ大臣もこれに同調し、ギニアにおける税制改革や国内資源動員への転換の取り組みを紹介しました。さらに、政府が2024年には予算に占める投資配分を20%から40%へ引き上げたことを説明しました。

また、持続可能な開発を支える革新的な資金調達メカニズムについても質問が寄せられ、ナベ大臣はこれに、ディアスポラの関与、現地ビジネスリーダーへの支援、輸出信用機関の戦略的活用などの重要性を挙げました。ナベ大臣はさらに、若く意欲的な起業家をコーチングや研修を通じて支援することによる人的資本育成の重要性を強調し、ディアスポラ投資を一層促進するためには制度への信頼と信用の構築が欠かせないと指摘しました。

Photograph shows panelists on stage; a man in the foreground addresses them.

閉会:行動のロードマップ

閉会の辞は、UNDPアフリカ局チーフエコノミストレイモンド・ギルピンによって行われ、議論は次の3つの重要な行動課題に整理されました。第一に、信用格付けプロセスに精通したアフリカ諸国の数を増やすこと。第二に、正確なガバナンスおよび制度データを確実に利用可能とすること。第三に、アフリカを「リスク」ではなく「投資機会」として位置付ける国際的な認識の転換です。

同氏は「外部資金調達の選択肢が縮小し、コストが過大となっている今、信用格付けはアフリカの開発金融の中核にある」と述べました。さらに、Bloomfield Investment Corporationをはじめとする機関の取り組みが、代替的な評価手法を通じてアフリカの投資ポテンシャルを既に実証していることを強調しました。

Photograph of a man at a podium addressing a panel, with a presentation slide on a screen behind.

レイモンド・ギルピンUNDPアフリカ局 チーフエコノミスト/戦略・分析・調査チーム長

今回の議論が示したのは、アフリカの信用環境を変革するためには、正確なデータ、透明性の高いガバナンス、地域協力、そして革新的資金調達メカニズムを組み合わせた多面的アプローチが不可欠であるということです。信用格付けの改善は、単に資本へのアクセスを広げることにとどまらず、現在債務返済に費やされている多額の資源を解放し、開発の優先課題に振り向けることを意味します。

前進への道は、単なる技術的改善にとどまらず、アフリカが自らを世界に示す方法を根本から変革するものです。すなわち、「リスクの大陸」から「かつてないほど機会に満ちた大陸」への転換です。

日時:2025年8月22日(金)10:00~11:30(JST)
会場:パシフィコ横浜 展示ホールD
形式:ハイブリッド(対面参加:31名、オンライン参加:53名)
使用言語:英語、日本語、フランス語
共催:UNDP、AfriCatalyst