ウクライナ、シリア、ガザを具体例に、日本企業の参画を支える「エコシステム型官民連携モデル」を提示
UNDP、危機下の国々の復興ニーズをビジネス・投資機会につなぐ「Kakehashi 復興イニシアチブ」を発表
2026年9月25日
東京発 – 国連開発計画(UNDP)は2026年9月8日、東京・国連大学において、「復興・ビジネス・投資フォーラム:Kakehashi 復興イニシアチブ ~危機下の国々の復興に向けたビジネスの役割と、投資・官民連携の可能性~」を開催しました。
フォーラムには対面・オンラインを合わせて218名(うちオンライン107名)が参加し、参加者の約75%を民間企業、経済団体、業界団体等の民間セクター関係者が占めました。日本政府関係省庁、JICAやJETROをはじめとする公的機関、金融・投資関係者、経済・業界団体、国際機関、大学、そしてシリア、ウクライナ、パレスチナの政府・民間セクター関係者が参加し、危機下・復興段階にある国々のニーズを具体的なビジネスや投資につなげる方策について議論しました。
世界では、人道・開発ニーズが拡大する一方、それを支える政府開発援助(ODA)や人道支援資金は厳しさを増しています。今回のフォーラムでは、こうした環境の中で、従来の「援助」を中心とした開発の考え方から、民間資本や企業の技術・能力を活用する「投資」も組み合わせたアプローチへと発想を広げる必要性が強調されました。
開会挨拶では、UNDPのハジアリッチ秀子駐日代表が、今回のフォーラムを6月2日の官民連携セミナーで得られた民間企業の高い関心を、具体的な事業や投資につなげるための次のステップと位置づけました。また、「Kakehashi=架け橋」という名称には、日本の政府、企業、金融機関と、UNDPが世界各地で持つ現場を一過性ではなく継続的につなぐ仕組みにしたいとの考えが込められていると説明し、本フォーラムで提示する「エコシステム型官民連携モデル」と7つの柱を、そのための設計図として紹介しました。
続いて、外務省の上田肇国際協力局参事官・国際保健外交担当大使は、人道・開発ニーズが増大する一方で利用可能な支援資金が縮小する中、従来型の人道支援やODAだけでなく、民間セクターの資本や技術を復興の力として活用する官民連携の重要性を強調しました。さらに、復興需要と日本企業の技術・サービスを結びつけることで、現地の復興に貢献すると同時に、日本企業にとっても新たな市場やパートナーシップを生み出す互恵的な関係を構築できると述べ、政府・国際機関・金融機関・企業が連携して事業環境そのものを整えていく必要性を指摘しました。
その後の基調講演では、UNDPの野田章子総裁補兼危機局長が「危機を、機会に。援助から投資へ。危機・復興市場における日本の役割」と題して登壇しました。 同氏は、人道・開発ニーズが拡大する一方でODA資金が縮小する現在、開発協力の議論を「援助から投資へ」と広げていく必要があると指摘しました。また、世界全体で資本そのものが不足しているのではなく、危機影響国や開発途上国に民間投資が入ることのできる条件を整えることが課題であると強調。相手国を単なる「支援の受け手」ではなく、将来にわたるビジネスパートナーとして捉え、公的資金によって投資リスクを軽減しながら民間資本を呼び込むこと、そして開発途上国への投資を企業にとっての経済的機会であると同時に、より広い地域の安定と安全保障への貢献として位置付ける必要性を訴えました。
今回のフォーラムの中心となったのが、UNDPが提案する「エコシステム型官民連携モデル」です。このモデルは、2026年6月に開催された官民連携セミナー「国際協力とビジネスの交差点~世界の危機対応と復興の現場における 「Made in Japan」 ソリューションの活用に向けて~」での日本企業との対話を踏まえて構築されたもので、危機影響国における復興ニーズを具体的な事業・投資機会へと転換し、日本企業が市場参入から事業展開、投資まで進むために必要となる支援を一体的に提供することを目指しています。
本モデルは、①情報共有、②実証実験、③現地関係団体との接続、④政策提言、⑤ファイナンスとビジネス機会、⑥現地人材育成、⑦現地サプライヤー網構築・現地中小企業×スタートアップ支援の7本柱から構成されます。UNDPの現地事務所が持つネットワークや情報、現場でのプロジェクト実施能力と、日本企業の技術・サービス、日本政府や公的金融機関等による支援を組み合わせることで、企業が危機影響国へ参入する際の課題を軽減していく考え方です。
特に、この7つの支援を日本政府の資金協力によるUNDPの国別プロジェクトを通じて具体化していくことも構想の重要な柱です。UNDPの現地での事業規模や活動が広がることで、現地のニーズや実証機会をより多く特定し、日本企業と現地政府・企業をつなぐ機会を増やすことが可能になります。日本の開発協力を現地の復興や持続可能な成長につなげると同時に、日本企業にとっても市場参入、技術実証、パートナー形成、事業・投資機会につながる実践的なメリットを生み出すことを目指します。
第1部では、シリアとウクライナを具体例として、このモデルがどのように実行に移されているかを議論しました。シリアに関するセッションには、UNDPシリア事務所に加え、シリア経済産業省及びシリア投資庁が参加し、復興需要を持続可能な投資機会へと転換するための方策について議論しました。シリアでは、復興費用が約2,160億米ドルと見込まれる一方、復興はインフラ再建にとどまらず、製造業、農業・食品加工、建設資材、物流、デジタル、医療、がれき処理等を含む生産能力の再構築が重要とされています。議論では、スマート工業団地の整備、中小零細企業(MSMEs)の強化、信頼できる現地パートナーとの接続、実現可能性調査や実証、金融・保険へのアクセス等を組み合わせ、日本企業の技術・資金・ノウハウを具体的な投資案件につなげる必要性が共有されました。
ウクライナに関するセッションでは、将来のEU市場への展開、復興需要、先行者利益、高度なIT・技術人材といった市場機会がある一方、安全保障リスク、規制上の不確実性、現地パートナーへの依存、物流・オペレーション上の課題などが引き続き企業参入の障壁となっていることが共有されました。こうした課題に対し、構想、現地連携、事業検証、参入・拡大、発展という各段階に応じて、JICA、JETRO、UNDP、国際金融機関等の支援策を組み合わせる「市場参入ロードマップ」が紹介されました。特に、ウクライナにおける金融面の課題は資金量そのものではなくリスクテイクにあり、国際金融機関のリスクシェアリング、官民連携、現地企業との連携等を通じて市場参入を検討する重要性が強調されました。
さらに、日本企業が危機影響国や開発途上国で事業を行いやすい環境を整えるための政策面の取組として、ケープタウン条約及び鉱業・農業・建設(MAC)議定書について、中央大学法科大学院と日本建設機械工業会(CEMA)から紹介が行われました。国際的な法制度の整備を通じ、建設機械等の国境を越えた資産ファイナンスを促進し、買い手国と売り手国双方のビジネス機会を広げる可能性について議論しました。
第2部の「パレスチナ・日本ビジネスフォーラム:復興から投資機会へ」では、このエコシステム型官民連携の考え方をガザという具体的なケースに適用しました。JICAとUNDPがこれまでのパレスチナ民間セクター支援や今後の投資・事業機会を紹介したほか、ガザ商工会議所(GCCI)とパレスチナ産業連盟(PFI)が、現地企業の現在の事業状況、産業復興の見通し、日本企業との連携への期待を共有しました。
さらに、ガザ及び西岸地区から、プラスチックリサイクル、がれき処理、物流・オンラインサービス、ソフトウェア、アグリテックなどを手掛けるパレスチナ企業が登壇。厳しい危機下でも事業活動を継続・再構築している現状を紹介するとともに、日本企業の技術、資本、パートナーシップが参画できる可能性を提示しました。
日本企業によるパレスチナでの事業経験に関するセッションでは、株式会社モンスターラボの鮄川宏樹代表取締役社長が、JICAとの連携のもと、2018年から約4年間にわたり、ガザのIT人材を国際的なソフトウェア開発案件や雇用機会につなげた経験を紹介しました。現地には人材育成の基盤がある一方、仕事につながる機会が限られていることや、契約・送金、顧客理解、事業継続といった実務上の課題も共有しました。その上で、今後の復興では現地の主体性を尊重し、日本や国際社会が資金・技術・市場・ネットワークで支えることの重要性を強調しました。
今回のフォーラムを通じて、復興への民間セクター参画を単なる企業の社会貢献や国際機関による調達にとどめるのではなく、現地ニーズの特定、実証、パートナー形成、政策・制度整備、金融、投資、現地人材育成、現地企業強化までを一つのエコシステムとして構築することの重要性が共有されました。フォーラムの目的も、復興への民間参画についての一般論から一歩進み、主要なアクター、金融手段、市場機会、政策条件を結び付ける「実施環境」を形成することに置かれています。
今後、UNDPは、このモデルを具体的な案件につなげるため、「Kakehashi官民連携ネットワーク(メーリングリストを通した不定期の情報共有、イベント周知ネットワーク) 」を通じ、日本企業や関係機関への継続的な情報提供、現地ニーズやビジネス機会の共有、パートナー形成、実証機会の発掘等を進めていく予定です。
本イベントは外務省の後援を受け、以下の13団体の協力のもと開催されました。
経済産業省(METI)、国土交通省(MLIT)、環境省(MoE)、国際協力機構(JICA)、日本貿易振興機構(JETRO)、日本経済団体連合会(経団連)、海外建設協会(OCAJI)、海外コンサルタンツ協会(ECFA)、日本建設機械工業会(CEMA)、日本貿易保険(NEXI)、株式会社モンスターラボ、国連工業開発機関(UNIDO)、中央大学法科大学院
今回のフォーラムは、危機影響国を「支援の対象」としてのみ捉えるのではなく、日本とともに将来の市場と経済関係を築くパートナーとして捉え直し、復興支援と日本企業の海外展開の双方に利益をもたらす新たな官民連携のあり方を具体化する第一歩となりました。
本イベントに関するお問合せ先:パートナーシップ専門官 河野 雄太(UNDP危機局/駐日代表事務所・yuta.kono@undp.org)