アフリカ×日本アグリイノベーション共創対話: 農業を共通の成長分野として再定義する
開催報告:アフリコンバース2026 第1回
2026年4月10日
アフリコンバース2026の第1回「アフリカ×日本アグリイノベーション共創対話:農業を共通の成長分野として再定義する」が、2026年3月に対面およびオンラインのハイブリッド形式で開催されました。本イベントは、第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)のフォローアップの一環として、国連開発計画(UNDP)および国際協力機構(JICA)の共催により実施されました。
本イベントでは、アフリカにおける農業セクターを、食料安全保障と雇用創出を支える基盤産業であると同時に、若者・技術・民間投資を取り込みながら成長し得る分野として再定義することを目的に、具体的な事例や実践経験に基づいた議論が行われました。若者の参画、市場志向型農業への転換、技術・テクノロジーの活用、そして日本とアフリカの協働によるビジネス創出が主な論点となりました。
当日は、オンライン参加者208名、対面参加者46名が参加し、学生、研究者、起業家、民間企業、政策関係者など幅広い層が集まりました。農業を「作るから売るへ」と転換する市場志向型アプローチの重要性、若者とテクノロジーが切り拓く農業の未来、そして日本とアフリカの双方向の学びに基づく持続的な協力の可能性が示されました。
〈登壇者(敬称略)〉
開会挨拶
・上野修平 JICAアフリカ部次長 計画・TICAD推進課担当
祝辞
・川戸重幸 外務省 アフリカ部 アフリカ第一課
第1部
・山本美紀(日本ガンビアユース交流プログラム参加者/TICADユース・アクションプラン参加者)
第2部
・相川次郎 JICA国際協力専門員
・椿進 OS Trading & Investments Pte. Ltd. (OSTI)ダイレクター/AAIC Holdings Pte.Ltd. ファウンダー/代表パートナー
・アデサンヤ・オルワトイン・ファティモ ナイジェリア・バデギ国立穀物研究所 主任研究員
・クンバ・ダフェ・カー Tresor Women Warriors代表
モデレーター:
・近藤千華 UNDPアフリカ局TICAD連携専門官
開会挨拶
開会挨拶では、JICAアフリカ部次長の上野修平氏が登壇し、農業を今回のテーマに選んだ理由として三点を挙げました。第一に、農業はアフリカにおいて食料安全保障と雇用創出の双方を支える極めて重要なセクターであるという点です。第二に、ITやデジタル技術の進展、アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)の拡大を背景に、農業を取り巻く市場環境とビジネス機会が大きく変化しているという点です。第三に、民間セクターの参入が進み、農業が「支援対象」から「投資対象」へと位置づけられつつある点です。上野氏は「農業こそが雇用を生んでいるセクターである」と述べ、本セッションへの期待を示しました。
続いて祝辞を述べた外務省アフリカ部アフリカ第一課の川戸重幸氏は、アフリカが現在約14億人の人口を抱え、2050年には25億人に達すると見込まれていることを紹介しました。国際労働機関(ILO)の報告では、アフリカの就業者の約半数が農業セクターに従事しており、農業の安定が若者の雇用創出、社会の安定、経済発展に直結することを強調しました。
また、TICAD9の横浜宣言で確認された農業・食料システム変革に触れ、日本が年間2.5億人分の食料生産、稲作人材の年間5万人育成、12万世帯の小規模農家の所得向上を目標としていることを紹介しました。その一方で、雨水依存農業、技術不足、資金や市場へのアクセス、輸送インフラの脆弱性といった複合的課題が依然として存在することも指摘しました。日本の人口減少・高齢化とアフリカの若者人口増加という対照的な状況の中で、「若者が農業でどのように活躍できるか」という問いは両地域に共通するものであり、本日の対話を通じてアフリカにおける若者の農業参画の取組から日本農業にも活かせる示唆が得られることを期待していると述べました。
政策提言から現場でのイノベーションへ:ガンビアと日本の若者の声
第1部では、UNDPの交流プログラムでガンビアを訪問した山本美紀氏が、現地での経験を共有しました。GISや衛星リモートセンシングを専門とする山本氏は、技術を活用した課題解決を想定して現地に赴いたものの、実際の農業現場で強く印象に残ったのは「適正技術」の重要性であったと述べました。
現地では、技術導入の可能性はあるものの、必ずしも最先端のデジタル技術を導入することが最適解ではなく、地域のニーズや資源に即したオーガニックで循環型の農業システムが、現実的かつ持続的に機能している事例が多く見られました。山本氏は、「この現場に本当に必要な技術は何かを問い直すこと自体が重要なプロセスだった」と振り返りました。また、ピッチコンテストで上位入賞を果たしたガンビアの若手農業起業家の姿に触れ、農業をビジネスとして捉え、主体的に行動する若者の存在に強い刺激を受けたと述べました。
日本とアフリカの若者が農業を通じて協業できる可能性について問われると、山本氏は「継続的なコミュニケーション」の構築が最も重要だと強調しました。スタディツアーを単発のアクティビティで終わらせるのではなく、継続的に情報を共有し合えるコミュニティの仕組みを築くことで、大きな可能性が生まれると述べました。
パネルディスカッション
JICA国際協力専門員の相川次郎氏は、世界人口が増加する一方で農家人口が減少している現状を踏まえ、農業は「成長せざるを得ない産業」であると指摘しました。食料需要が増え続ける中で、生産性向上を伴わない農業の停滞は、食料供給そのものを脅かすことになると述べました。
相川氏は、JICAが開発したSHEP(小規模農家向け市場志向型農業振興)アプローチについて、その本質は農家の意識と行動の変化にあると説明しました。「作ってから売り先を探す」のではなく、「売れるものを調べてから作る」ことを農家自身が実践する点が特徴であり、ケニアで約5,000人の農家を対象に実施された無作為化比較試験では、SHEPを実践した農家の収入が、実践しなかった農家と比べて約70%高かったという結果が示されました。
現在、このアプローチはアフリカ30カ国を含む60カ国以上で導入されており、セネガルでは農業収入が10倍に増加し、フランスへの移民を断念した農家の事例も紹介されました。相川氏は、こうした市場志向型の考え方は日本農業にも共通の重要事項であり、「消費者を意識して生産する農家と、作ること自体を目的とする農家では、成果に明確な差が生じている」という日本の研究者による調査結果を共有し、日本への示唆にも言及しました。また、農家の高齢化および耕作放棄地が課題となっている日本では、農作業の省力化が日本人の新規就農のカギになっており、アフリカの技術協力の現場における簡便な栽培方法が、日本における変革に役に立つことが出来ないか、JICAとしてそうした「環流」の在り方を検討すべきと考えている、と述べました。
加えて、アフリカにおける事業を実施する際は、「アフリカの小規模農家」というひとくくりで見るのではなく、個々の農家には意思があり、それぞれのプライオリティが違うことを理解し、より心理に光を当てることが肝要であると述べました。さらに、決して能力が低いのではなく、機会が限定的であるだけという認識を持つことの重要性も指摘しました。例えば、SHEPを通じて「外の情報を積極的に取りに行き、その情報をベースに自身の営農を変える」という経験をきっかけに、驚くような成果を上げる農家が多く存在しています。ODAとしては、こうしたきっかけをより公平に多くの人々に届けることが求められており、引き続き質の高い事業を行うことで、対象国における日本の信頼を維持していくことが重要であると述べました。
ナイジェリア国立穀物研究所の主任研究員であり、現在東京農業大学で博士課程に在籍するアデサンヤ・オルワトイン・ファティモ氏は、農業を成長産業とするためには、技術導入そのもの以上に、研究成果を現場で活かす「文化」の形成が重要であると指摘しました。精密農業やスマートアグリカルチャーといった技術は、農家が農業をビジネスとして捉え、自ら意思決定する枠組みの中でこそ機能すると述べました。
また、日本の長野県や佐渡の農地を訪問した経験に触れ、農業環境が整っているにもかかわらず担い手が不足している現状に強い問題意識を示しました。その上で、日本がアフリカに技術を提供するだけでなく、アフリカの若者が農業を通じて得た知見を日本に還元することで、人口減少が進む日本農業にも貢献できる可能性があると述べました。
OS Trading & Investments Pte. Ltd.(OSTI)ダイレクターであり、AAIC Holdings Pte. Ltd.のファウンダー/代表パートナーである椿進氏は、農業を投資対象として成立させるための条件として、「生産性の抜本的向上」と「加工による付加価値創出」を挙げました。中国が50年かけて主要穀物の農業生産性(単収)を約5倍に高めた事例を引き合いに、アフリカでは肥料投入量が中国の約30分の1、機械化率が約50分の1にとどまっており、この差を埋めることが最大の課題であると説明しました。
椿氏は、自身が取り組むルワンダおよびタンザニアでのマカダミアナッツ農園の運営や加工工場の設置、日本向け輸出モデルを紹介し、生産から加工・輸出までを含むバリューチェーンの構築が、雇用創出や農村経済の安定につながっていると述べました。また、農村人口流出や移民の問題については、農村において加工業や複合的なビジネスを育成するとともに、適切な教育を受けた上での出稼ぎを農村への仕送りや再投資につなげる「ハイブリッドモデル」も現実的な選択肢であるとの見解を示しました。
Tresor Women Warriors代表のクンバ・ダフェ・カー氏は、ガンビアで7,000人以上の女性農家ネットワークを率いる立場から、農業を自給的活動としてではなく、持続可能なビジネスエコシステムとして構築する必要性を強調しました。農業の成長は生産そのものではなく、加工、貯蔵、物流、市場アクセスを含むバリューチェーン全体にあると述べました。
同氏は、農業ビジネス拡大の障壁として、土地へのアクセス、スタートアップ資金の不足、農地の細分化による機械化の困難さを挙げました。これらの課題に対応するため、協同組合モデルによる土地・資金の共有化と、近く操業開始予定のトマト加工工場の設立を進めていると紹介しました。この工場は、地元農家に安定した販路を提供すると同時に、農業を通じた若者エンパワーメントの中核拠点として、18〜35歳の若者10名を採用し、農業技術と起業家育成を行う拠点となる予定です。農家の平均年齢が49〜60代に達しつつある中、若者を農業に引きつける仕組みづくりが急務であると述べました。
質疑応答
質疑応答では、会場およびオンライン参加者から、キャパシティビルディングの在り方、日本とアフリカ間の農産物貿易、そして農業への取り組みが若者の移民意識にどのように影響するかといった幅広い質問が寄せられました。
移民との関係について、相川氏は中米ホンジュラスでSHEPアプローチの演習に参加した高校生を対象に実施したアンケートを例に挙げ、移民を希望する割合が事前の42%から事後24%に低下したことを紹介しました。農業を「やらされるもの」ではなく、「自ら考え、調べ、計画し、決定できるもの」として捉えられるようになるだけで、若者の意識や将来選択に変化が生まれる可能性が示されたと述べ、今後もデータを収集しながら検証を続ける意向を示しました。
椿氏は、キャパシティビルディングが最終的には資金力と密接に関係している点を指摘しつつ、農業組合やリースファイナンスなど、現地で取り入れられ始めている段階的な解決策もあると説明しました。また、海外での出稼ぎについて、違法な移民は避けるべきとしつつも、適切な教育や準備を経て働きに出るケースは、農村への仕送りや再投資を促す「ハイブリッドモデル」として一定の役割を果たし得ると述べました。
結び
セッションの締めくくりとして、モデレーターの近藤は議論を二点に整理しました。第一に、アフリカを一括りにせず、国ごと・地域ごと・農家ごとの文脈を丁寧に理解することの重要性。第二に、日本からアフリカへの適正技術の提供にとどまらず、アフリカの実践から得られた知見を日本にも還元する「双方向の共創」の必要性です。
今回の議論を通じ、農業分野における課題解決と産業発展には、若者・技術・民間セクターの役割がますます重要であることが改めて確認されました。あわせて、日本とアフリカが双方向の学びを通じて協働を深化させていく意義と可能性が、具体的な形で示されました。