開催報告:アフリコンバース2026 第2回 距離のない世界をデザインする

沖縄からアフリカへ、「誰一人取り残さない」を実現するために

2026年6月9日
Photo: UNDP

アフリコンバース2026の第2回「距離のない世界をデザインする:沖縄からアフリカへ、『誰一人取り残さない』を実現するために」が、2026年5月15日に沖縄(JICA沖縄センター)にて対面およびオンラインのハイブリッド形式で開催されました。本イベントは、第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)のフォローアップの一環として、国連開発計画(UNDP)および国際協力機構(JICA)の共催により実施されました。 

本イベントでは、地理的・社会的な「距離」によって生じる医療アクセスの格差に着目し、沖縄とアフリカに共通する課題と強みを起点に、「誰一人取り残さない」医療の実現に向けた議論が行われました。特に、コミュニティベースの医療体制、デジタル技術の活用、スタートアップによるイノベーション、そして日本とアフリカの共創による解決策の構築が主な論点となりました。 

当日は、オンライン参加者308名、対面参加者59名が参加し、政府、国際機関、研究者、民間企業、スタートアップなど幅広い層が集まりました。沖縄の離島医療モデルがアフリカの保健課題に与える示唆、デジタル技術が切り拓く医療アクセスの未来、そして「誰一人取り残さない」を継続的に問い続けることの重要性が示されました。


〈登壇者(敬称略)〉 

  • 開会挨拶: 中村俊之 JICA 理事長特別補佐 
  • 祝辞: 紀谷昌彦 外務省 沖縄担当大使
  • 基調講演: アフナ・エザコンワ UNDP 総裁補兼アフリカ局長 
  • パネルディスカッション: 古田国之 SOIK 創業者・代表取締役CEO / ヌデウェヌ・クレド・アデルフ・アヒス 国立大学法人琉球大学院 保健学研究科グローバルヘルス学分野 特命研究員 / 萩原明子 JICA 国際協力専門員(保健)
  •  モデレーター: ヤニック・ガヤマ OISTイノベーション ベンチャー・デベロップメントセクション アクセラレータープログラムリード

開会挨拶 

JICA 理事長特別補佐である中村俊之氏は、今回のテーマとして「距離」を取り上げた理由として三点を挙げました。第一に、沖縄とアフリカの多くの地域が、離島・遠隔地という地理的制約のもとで医療アクセスの課題を共有してきた点です。第二に、「距離」が物理的制約にとどまらず、人材確保や保健システムの強靭性に関わる複合的課題である点です。第三に、沖縄における戦後の地域密着型医療を含む公衆衛生にかかる成果等の経験が、アフリカに応用可能な実践的モデルとなり得る点です。 また、沖縄が島嶼環境や感染症、乳幼児死亡などの課題を乗り越える中で築いた「公衆衛生看護婦(現:保健師)の駐在制度」は、遠隔地でも質の高い一次医療を提供した先例であり、アフリカの保健システム構築にも示唆を与えると述べました。そして、「距離を障壁ではなく、イノベーションの設計条件として捉えること」への期待を示しました。

Man in dark suit at a podium, speaking, with banners bearing logos in the background.

中村俊之 JICA 理事長特別補佐

Photo: UNDP

祝辞  

外務省沖縄担当大使の紀谷昌彦氏は、アフリコンバースの創設者の一人として、アフリコンバースが2018年に東京・国連大学でTICAD7に向けた市民・ステークホルダー参画を目的に始まった対話シリーズであり、今回初めて沖縄で開催される意義を強調しました。また、日本の対アフリカ政策として、第一にアフリカにおける平和の実現、第二にアフリカと日本の成長の好循環の創出、第三に若者の共創を通じた、すべての人が豊かさを実感できる社会の実現という三本柱を紹介しました。 

また、沖縄が日本・アフリカパートナーシップへの貢献として有する独自の強みとして、離島環境を活用したデジタル・グリーン技術の実証、亜熱帯気候を生かした公衆衛生・農業・防災知見のアフリカへの適用可能性、そして多文化交流の拠点としての歴史的役割を挙げました。「対話だけでなく、具体的なアクションへ」と呼びかけました。

Speaker at podium wearing a blue shirt; backdrop features UN and JICA logos.

紀谷昌彦 外務省沖縄担当大使

Photo: UNDP

基調講演 

UNDP 総裁補兼アフリカ局長のアフナ・エザコンワは、「誰一人取り残さない」を軸に、アフリカの医療課題と可能性について講演しました。アフリカでは、世界の疾病負担の約24%を抱える一方、保健人材は世界全体の3%にとどまり、人口の半数以上が医療施設から5km以上離れた場所で暮らしている現状を紹介し、物理的距離やインフラ不足が医療アクセスを大きく制約していると指摘しました。その上で、遠隔地を単なる「問題」ではなく、「強靭性とイノベーションの最前線」として捉え直す必要性を強調しました。 

また、UNDPの「Timbuktoo Initiative」を通じて、アフリカの若手起業家に資金・メンタリング・ネットワークを提供していることを紹介しました。具体的な事例として以下の二つを挙げました。 

  • MobiHealth International:総合遠隔医療プラットフォーム。10万人以上の医療専門家と患者をつなぎ、太陽光発電・衛星接続を活用したクリニックを通じて、低コストでビデオ診療や電子処方、診断サービスをナイジェリア全土に提供しています。 
  • BetaLife:医療テックスタートアップ。AIによる予測分析を活用し、輸血不足が発生する前に血液需要を予測することで、血液供給管理の最適化に取り組んでいます。 

また、沖縄とアフリカには、若い人口構成やコミュニティを重視する価値観という共通点があると指摘し、コミュニティへの依存や相互支援という価値観が、アフリカのUbuntu哲学とも共鳴し、強靭性と幸福の源泉になっていると述べました。

Photo of a woman in a hijab speaking at a podium in a conference room; UNDP banner on the right.

アフナ・エザコンワ UNDP総裁補 兼 アフリカ局長

Photo: UNDP

パネルディスカッション:距離を越えた医療アクセスの再構築

「距離を越えた医療アクセスの再構築」をテーマに、課題と解決策、そして持続可能な拡大に向けた条件について議論が行われました。

第1ラウンド:課題と解決策

JICA 国際協力専門員(保健)の萩原明子氏は、戦後の沖縄およびその離島地域がアフリカの僻地医療に酷似しており、「距離」とは単なる移動距離ではなく、人材不足、保健システムの脆弱性、文化社会的障壁などが重なった複合的課題であると指摘しました。また、JICAのスーダンにおける母子保健支援プロジェクトや沖縄県看護協会との連携による知識共創プログラム(研修事業)の経験を踏まえ、スーダンは沖縄から以下の三つの教訓―地域密着型のプライマリーヘルスケア、遠隔地の保健師を孤立させない支援体制、そして自治体・医療従事者・住民による連携の重要性―を学んだと紹介しました。

また、スーダンの医療チームが伊是名島を訪問した際、沖縄の遠隔医療システムに強い関心を示したことにも触れました。同システムでは離島の診療所に勤務する医師が、本島の病院の専門医師とオンラインで連携しながら診療を行うことができます。萩原氏は、「ハイテク・フォー・ハイタッチ(high-tech for high-touch)」が重要であり、デジタル技術は人間中心のケアを支える手段であるべきであると述べました。

琉球大学院 保健学研究科グローバルヘルス学分野 特命研究員のヌデウェヌ・クレド・アデルフ・アヒス氏は、ベナンでは妊産婦死亡率が10万人あたり518人である一方、日本では3人であり、出産に伴う死亡リスクに100倍以上の差があることを紹介しました。その上で、「誰一人取り残さない」は距離の問題だけでなく、社会的制約・費用・適切なケアへのアクセスなど、複数の障壁が積み重なることで生じる問題であると指摘しました。

また、ベナン発のデジタル医療ID「Kea Medicals」や、予約・決済・医療記録を統合した「GoMedical」を紹介する一方、個別のデジタルツールが乱立することによる分断リスクにも触れ、沖縄の30以上の施設と離島診療所をリアルタイムでつなぐクラウド型統合システム「沖縄県周産期情報ネットワーク(OPeN II)」を例に、一つの統合的なデジタルネットワークを地域主体で構築する重要性を強調しました。

SOIK 創業者・代表取締役CEOの古田国之氏は、SOIKが開発した妊産婦デジタル医療プラットフォーム「SPAQ」のコンゴ民主共和国での展開を紹介しました。6年間にわたり地域コミュニティと信頼関係を築きながらデータ収集を進める中で、課題は「データの不足」ではなく、「正確なデータの欠如」にあることが明らかになったと述べました。

SOIKは光学文字認識とAIを活用して血圧データを自動読み取りする仕組みや、AI支援型超音波診断システムを開発し、地域ボランティアでも検診を実施できる体制を構築しました。さらに、これらの個別検査機能を電子カルテと統合し、現場で入力された妊婦健診データを遠隔から集計・可視化できる統合プラットフォームとして提供しています。こうした集計を通じて、マラリアやHIV、梅毒検査など、本来必要な妊婦健診の実施率が10%未満であった実態が可視化され、州保健当局とのワークショップを起点に、データが中央へ報告され、決定が現場に還流し、コミュニティからのフィードバックが上がるというサイクルが動き始めたと説明しました。「距離とは、コミュニティで起きている現実——すなわち妊婦の体で実際に何が起きているか——と、私たちが知っていることとの間に存在する『情報のギャップ』である」と述べました。

Four panelists seated on stage with checkered tablecloths, whiteboard with numbers behind them.
Photo: UNDP

第2ラウンド:拡大と実現条件

続く第二ラウンドでは、こうしたヘルステックをどのように持続可能かつ広域に展開していくかについて議論が行われました。

古田氏は、アフリカでヘルステックを普及させる上での課題として、革新的技術が既存の調達制度では「従来型機器」と同じ基準で扱われてしまう点を挙げました。また、遠隔地において持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジを実現するためには、電子カルテや保険償還制度と連携し、機器導入費や人材育成、デジタル保守まで含めた仕組み設計が必要であると指摘しました。

さらに、SOIKは日本のODA事業を通じてコンゴ民主共和国で実績を積み重ね、紛争影響地域において当初目標の3倍を超える母子保健サービスを提供してきたことを紹介し、「一つひとつの地域や行政との信頼構築がスケールの基盤になる」と述べました。

萩原氏は、JICAの立場から、イノベーションが国家システムとして統合されるには、規制・財源・制度整備を含む保健システムの再設計が不可欠であると述べました。民間スタートアップの初期段階における参入リスクに対して公的支援を行うことは、民間のビジネスモデル確立を助け、長期的な持続性にもつながると指摘しました。さらに、ガボンでのSOIK-JICAのパイロット事業を例に挙げ、アフリカで進む保健医療のデジタル化の取組は、日本の医療DXにも示唆を与える可能性があると述べました。

アヒス氏は、デジタルヘルスツールの乱立は早期に政府主導で整理しなければ、長期的な障壁になると指摘しました。その上で、沖縄周産期情報ネットワークの事例を紹介しながら、システムの持続可能性を確保する上で、地方自治体による主体的な運営とオーナーシップが重要であると強調しました。また、かつて沖縄の離島でも女性が出産場所・方法・立ち会い者を自ら選択できていたことに触れ、「医療の質だけでなく選択肢そのものが失われていくこともある」として、「誰一人取り残さない」という問いは継続的に発し続けなければならないと述べました。

Photo: UNDP

質疑応答

質疑応答では、地域医療における官民連携、デジタルインフラ整備、行政手続きの課題などについて活発な議論が行われました。

IT分野で活動する参加者からは、官僚的な階層を経由しながらコミュニティレベルの課題を解決するための折り合いをどうつけるかという問いが寄せられました。古田氏は、既存の行政報告システムを尊重しつつ、デジタル技術によって情報伝達速度を改善する形で制度内に実装していると説明しました。モデレーターを務めたOIST イノベーションのヤニック・ガヤマ氏は、具体的なプロトタイプを構築し、それを基に関係者との対話を進める重要性を指摘しました。

また、教育分野でアフリカに関わる参加者からは、医療だけでなく教育においても電力や通信インフラが基盤となること、そして分野ごとの縦割り思考ではなく分野横断的・統合的なアプローチが不可欠であることを強調しました。

Panel discussion in a meeting room with several panelists on stage and an audience.
Photo: UNDP

結び

セッションの締めくくりとして、ガヤマ氏は「沖縄の離島という制約の中で磨かれた解決策は、そのまま世界への解決策となり得る」と述べ、沖縄の地域イノベーターや機関に対して、自らの強靭性と創意工夫を高い志をもって世界に発信してほしいと呼びかけました。また、「リバース・イノベーション」という言葉についても触れ、「イノベーションはイノベーションであり、どこで生まれたかによって価値が変わるわけではない」と強調しました。

今回の議論を通じ、医療アクセスの課題解決には地理的距離だけでなく複合的な「距離」への対処が求められること、そして沖縄の歴史的経験とアフリカのテックイノベーションが相互に学び合う双方向の共創こそが、「誰一人取り残さない」を実現する道筋であることが具体的な形で示されました。