浄化槽技術を通じて排水をチャンスに変えるUNDPと日本のパートナーシップ、地域全体で気候レジリエンスを構築

2025年7月14日
Clear water flows from a pipe onto a dry, sandy landscape with trees in the background.
Photo: UNDP Uzbekistan

多くの地域では、淡水資源の蓄えを上回る水の消費が続き、水不足が深刻化しています。特にウズベキスタンのカラカルパクスタン(ウズベキスタン西部の自治共和国)では、降水量の減少と気温の上昇により、水不足の状況がさらに厳しくなっています。加えて、ウズベキスタンでは人口増加と経済成長が進む中、水の需要と供給の不均衡が一層広がっており、持続可能な開発にとって重大な課題となっています。

A wide view of a dusty field with people engaging in activities near a building and trees.
Photo: UNDP Uzbekistan

こうした水問題は、単なる供給不足にとどまらない広範な影響を及ぼしています。カラカルパクスタンの乾燥した平原地帯では、水不足とアラル海の大規模縮小によって、地域コミュニティは基本的な衛生環境の確保にも苦しんでいます。ウズベキスタンの農村部では、下水道などの近代的な排水処理システムが整備されていない地域が多く、家庭や学校、医療施設は老朽化した浄化槽に頼らざるを得ない状況であり、これが深刻な健康被害や環境汚染を引き起こしています。この課題に対応するため、国連開発計画(UNDP)は、日本政府、ウズベキスタン農業省、カラカルパクスタン共和国議会と連携し、革新的な解決策である日本の小型浄化槽システムの導入試験を進めています。

Three men in formal attire stand together, flags of Japan, Uzbekistan, and the UN in background.

左から、アナス・カルマン氏(UNDPウズベキスタン事務所副常駐代表)、羽鳥隆氏(在ウズベキスタン日本国特命全権大使)、アリシェル・シュクロフ氏(ウズベキスタン農業副大臣)。タシケントで行われた、アラル海地域における気候変動に強い農業を通じた自立支援プロジェクトの立ち上げ式にて撮影。

Photo: UNDP Uzbekistan

浄化槽とは

浄化槽システムは、1940年代後半に日本で開発され、当時深刻化していた衛生設備の不足や不衛生な環境によって引き起こされる公衆衛生危機に対応するために設計されました。従来の下水処理が土壌に汚水を浸透させて処理する仕組みであるのに対し、日本の浄化槽はタンク内で固形物と液体を分離し、嫌気分解(酸素を使わない分解)によって汚水を処理し、最終的に消毒まで行います。

Two circular access points with valves and pipes, surrounded by dirt.

浄化槽汚水処理システムの内部。コンパクトなタンク設計と内部配管により、汚水を効率的に分離・処理し、安全に再利用できるようにしています。

Photo: UNDP Uzbekistan

このシステムは、コンパクトで省エネルギー型、かつ高い処理能力を備えており、汚水を分離・浄化して安全に再利用したり、庭や畑への散水に利用したりすることができる等、状況に応じて柔軟に対応できるのが大きな特長です。そのため、従来の下水処理システムが十分に機能しない場所に最適なものとなっています。

2025年3月、日本政府からの96,000ドルの資金拠出を受けて、UNDPはウズベキスタン農業省およびカラカルパクスタン共和国議会と協力し、カラカルパクスタンの3つの主要な公共施設に浄化槽システムを導入しました。設置先にはリハビリテーションセンター、幼稚園、特別支援学校が選ばれました。保健・教育・福祉分野における緊急の衛生ニーズに対して、分散型汚水処理システムがどのように役立つかを実証することが目的とされています。

Modern building with a welcoming entrance, greenery, and two people walking nearby.

ヌスク地区のリハビリテーションセンター

Photo: UNDP Uzbekistan

ヌクス地区にある障がい者リハビリテーションセンターでは、浄化槽システムの導入により日々の運営が一変しました。年間およそ3,500人の患者を受け入れ、地域で唯一の義肢装具ケア部門も備えるこのセンターには、現在、安定した清潔な水の供給源があり、これは敷地内の農業にも活用されています。水を再利用できるようになったことで果物や野菜の栽培が可能となり、深刻な水不足に直面するこの地域にとって貴重な解決策となりました。こうして育てた収穫物は、患者たちに新鮮で栄養価の高い食事を提供する助けとなっており、浄化槽は単なる技術的な改善にとどまらず、患者のケアと健康に直接貢献しています。

施設マネージャーのジェニスパイ・トウルスインベコフ氏は、「浄化槽システムを導 入してから、トマトやキュウリ、カボチャ、果物などの栽培を始めました。灌漑もス ムーズで、処理水のおかげで一滴も無駄にせずに済んでいます。もう収穫を心 配することもありません」と語ります。 

さらに、施設周辺の緑地拡張や植様により、より生き生きとした落ち着きのあ る環境が生まれました。こうした緑豊かな環境は、地域の気候を改善するだけ でなく、患者の心の健康にも良い影響を与え、リハビリ中の利用者に、癒しと 安らぎを感じられる空間を提供しています

A group of healthcare workers greet a visiting official outside a facility.

藤井明子UNDPウズベキスタン常駐代表とリハビリテーションセンターの関係者。ヌクス地区で行われた浄化槽システム導入式典にて撮影。

Photo: UNDP Uzbekistan

「清潔な水への安定したアクセスは、患者に十分なケアを提供するために欠かせません。浄化槽システムの導入によって、センターの機能が大きく向上し、持続可能な運営に向けた新たな可能性も生まれました」と、リハビリテーション・センター長は述べます。

幼い学び手たちに安全な教室を

ヌクスにある第13幼稚園では、小型の浄化槽ユニットが導入され、子どもたちと職員が安全な衛生設備を利用できるようになりました。これまで水質の悪さが健康リスクを高めていたこの環境で、浄化槽は子どもたちの安全と健康を守る重要な役割を果たしています。さらに、このシステムは衛生面を超えて、貴重な教育ツールにもなっています。子どもたちは、水がどこから来るのか、なぜ大切に使わなければならないのか、そして小さな行動がどれほど大きな変化を生むのかを学んでいます。

先生たちは、花壇への水やりや植物の成長観察、水の再利用を学べるゲームなど、屋外での様々な活動を通して子どもたちに「水」に関わる学びを提供しています。こうした楽しい授業を通じて、子どもたちは幼い頃から水を大切にし、環境を守る心を育んでいます。

Children in yellow skirts dance in a circle outdoors, surrounded by greenery and balloons.
Children in purple tutus perform in front of a colorful audience outdoors.

「これで子どもたちは、以前よりも清潔で安心できる環境の中で、思いきり遊んだり学んだりできるようになりました」と、幼稚園教諭のトゥルシナイ・イリャソバさんは語ります。

ホジェイリ地区にある側弯症児童のための州立学校では、新たにジョウカソウユニットが導入され、特別な支援が必要な生徒たちが、より清潔で快適に過ごせる環境が整いました。就学前および学校教育省が運営するこの学校には、ケアとインクルーシブ教育の両方を支える安定した水処理システムが備わっています。

このシステムは、生徒や教職員が水を大切に使う意識を育むきっかけにもなっています。子どもたちは、水の大切さや無駄遣いをしない方法を、上水槽システムを通じて学んでおり、水不足に悩む地域で特に重要な学びとなっています。

ある保護者はこう語しています。「子どもたちが清潔で安全な環境で過ごせているうえに、自然を大事にする気持ちも育っていると聞いて、本当に安心しました。」

計測可能なインパクト

2025年3月に導入されて以来、これらのシステムは累計16,400立方メートル以上の汚水を処理してきました。これは、リサイクル水で年間12〜13ヘクタールの土地を灌漑できる量に相当します。この取り組みは、衛生環境や公衆衛生を改善するだけでなく、水不足に悩む地域で特に重要な、農業における水の再利用という新たな可能性を切り拓いています。

A man in a blue shirt presents a poster to a woman in a white coat and a man in a suit.

リハビリテーションセンターにて浄化槽システムの仕組みについて説明を受ける藤井明子UNDPウズベキスタン常駐代表と関係者

Photo: UNDP Uzbekistan

これらの設置は単なるインフラ整備にとどまらず、持続可能で地域主導型の水管理への転換を象徴しています。施設が清潔になり、環境が安全になることは、その第一歩に過ぎないのです。

衛生環境の改善と同等に、経済的な負担の軽減も重要です。多くの家庭は、浄化槽システムの導入によって高額な井戸建設費という大きな負担から解放されました。その分、家庭にはより多くのお金が残り、日々の生活や子どもの教育、健康のために使うことができます。浄化槽は、ただ水をきれいにするだけでなく、地域全体を強くするソリューションなのです。

水道料金が大幅に削減されたことに加えて、浄化槽は水系感染症のリスクを取り除いたほか、処理水に含まれる栄養分は植物の成長をも促進しました。浄化槽は、単に衛生や水不足の問題を解決しただけでなく、水の使い方そのものを、より賢く安全なものへと変容させたのです。

なぜ重要か

浄化槽システムの利点は、単に水をきれいにすることにとどまりません。具体的には、次のような効果があります。 

  • 学校や医療機関などで公衆衛生を守ることができる
  • 井戸水に頼る地域にとって特に重要な、地下水汚染の防止につながる
  • メンテナンスの手間が少なく、水の再利用も可能なため、長期的なコスト削減を実現できる
  • 小型ポンプのみで稼働できるため、消費エネルギーが非常に少なく効率的に運用できる

今後に向けて 2021年5月18日に採択された国連総会決議により、アラル海地域は生態系イノベーションと技術の導入地域として位置付けられました。この歴史的な決議は、シャフカット・ミルジヨエフ大統領の主導のもと採択され、日本も共同提案国となっています。これにより、この決議によって、環境保全や持続可能な開発、地域住民の生活向上を目的とする多国間協力の枠組みが確立され、国際パートナーはこうした目標の実現に向けて、技術支援や資金提供、能力強化など地域変革への取り組みを一層加速させています。

この決議を土台として、カラカルパクスタンでは、イノベーションを活用することで、複雑な環境課題にどのように対応できるかが実証されています。気候変動、人口増加、環境悪化といった課題に直面するこの地域では、さまざまな分野を統合した解決策が求められています。ここで試験導入されている技術は、ウズベキスタン全土に展開可能なモデルとなるでしょう。

また、こうした協力のあり方は、気候変動に強い開発と人間の安全保障への日本のコミットメントを示すものであり、脆弱なコミュニティを守るというUNDPの使命とも一致しています。日本とUNDPのパートナーシップに基づく協力は、日本の技術的専門性を活かし、地域のレジリエンスを高め、人々の暮らしの向上につなげることに寄与しています。