JPO制度を通じてUNDPへ
平和構築の現場でコミュニティに寄り添う八里さんの歩み
2026年3月9日
Photo: UNDP Philippines
JPO制度を通じてUNDPでのキャリアをスタートした八里直生さんに、UNDP学生アンバサダーがインタビューを行いました。八里さんはUNDPニューヨーク本部およびパキスタン事務所にて、紛争予防、平和構築、危機対応分野の業務に従事され、現在はこれまでの経験を活かし、UNDPフィリピン事務所にてプログラム専門官として、バンサモロ自治地域の「平和と安定」プログラムの立案・プロジェクト実施、および資金動員を担当されています。プロジェクトを牽引する立場として、紛争影響下にあるコミュニティの復興・安定化に貢献する中で感じるやりがいや葛藤、そしてこれまでのUNDPでのキャリアの歩みについて伺いました。
JPO制度を通じてUNDPのポジションへ応募したきっかけ、そして国連機関で働こうと思った動機を教えてください。
国際機関で働こうと思ったのは大学一回生の頃で、同じ大学でロールモデルでもあったいとこが国連を目指していたことを聞き、大学に入ってから本当にやりたいことを模索する中で、「国連機関での勤務」が、自分自身がかっこいいと思える夢・目標になりました。目標を達成するために「国連に入る最短ルートは何か」を自分でリサーチする中で、JPO制度の存在を知り、18歳の時に目標として設定しました。大学時代には交換留学を通して英語力を鍛え、海外で修士号を取ることを考えていました。卒業後は国際協力のキャリアをまず実地で積むためJICAに就職し、経験を得てから国際機関で働けたらいいなと思っていました。
学生時代に取り組まれていたことで、現職に生きていること、また大切にしてきたご自身の軸があれば教えていただけますか?
学生時代は京都のボランティアガイドサークルに所属し、外国からの観光客を英語で案内する活動に務めました。この経験から学んだことは、「人の話を聞く」姿勢の大切さです。この姿勢は今でも一つの軸として大事にしています。ガイドでは、まず旅行者のニーズを「聞く」ところから始まり、その内容に応じてソリューション(=その人に合った旅行プラン)を提供するという流れを英語で行います。この時の経験が、今の仕事にもつながっていると感じます。実際にUNDPでの開発の仕事でも、まず現地でどのようなニーズがあるのかヒアリングし、ニーズに至った相手の文化的背景や経験を理解することで、その内容を実施可能なプログラムに落とし込んでいくという流れが基盤にあります。またこれは、あらゆる仕事に共通するスキルだと思っています。国連ではアウトプットやプレゼンを行うことが求められる状況が多いというイメージがありますが、目の前にいる人の話を丁寧に聞いて、しっかりと自分自身で理解・インプットした上で、それを踏まえた意見をアウトプットするという姿勢を私は大事にしています。
UNDPで勤務される以前のご経験で、国際機関の業務遂行に役立ったと感じるスキルや経験はありますか?
JICAでの経験は、国際機関の業務と共通点が多く、特に途上国でのプロジェクトマネジメントの基礎を学び、紛争影響国での業務経験を得られたことが大きかったです。現地のニーズを聞いて、案件を形成、実施、モニタリングし、評価するという一連のプロジェクトサイクルを勉強できました。また、コロンビアの和平合意後の支援やパレスチナでのガザ復興支援、ソマリア、コソボなど紛争影響国に関わる業務を通じて、各国の具体的なケースを経験として蓄積できたことは、UNDPでの政策立案や実地でのアドバイスに生きたのではないかと思います。加えて、ジェネラリストとしての調整力も大事なスキルだと思います。開発協力は自分一人だけではなく、相手国政府やドナー機関など様々なステークホルダーと関わりながら進めていくものです。そのような方々と向き合い、意見をすり合わせていくことが必要で、その地道なプロセスの重要性をJICAで培うことができました。調整を重ねながら、関係者の理解と賛同を得てプロジェクトを前に進める力は、国際機関、とりわけ平和構築や紛争予防分野で業務を遂行するうえでの基礎体力であり、非常に役立っていると感じています。
UNDPを選んだ理由:開発の目線からの平和構築
大学生のころから国連には関心がありましたが、どの機関で何をしたいかまでは決まっていませんでした。大学での勉強や途上国でのインターンを通じて、国際協力やガバナンス、平和構築の分野に関心を持つようになり、UNHCR駐日事務所でインターンを経験しました。その中で、人道支援は一番大変なところに入って必要な物を、スピード感をもって供与するというのが大切な役割ですが、より長い目線でその国が本当に独り立ちできるようになるところまで思いを巡らせるのが開発の良さだと、 JICAでの経験を踏まえ思うようになりました。開発の目線から、よりコミュニティに近い立場で平和構築や紛争予防に関わることができるのがUNDPでした。
興味とバックグラウンドが合致したUNDPでのポスト
JICAで勤務し6年ほどが経ち、働きながらオンラインの修士コースで勉強していた際に、自分に合ったJPOポジションが出たら応募しようと考えていました。そこで幸運にもUNDPニューヨーク本部で平和構築と紛争予防分野の政策担当のポジションの募集が出ました。当時はパレスチナで二年間ほどJICAのプロジェクトを担当しており、よりマクロな政策レベルではどのような取り組みがなされているのか関心を持っていました。自分自身の興味とバックグラウンドが合致したポストで、自分を一番押せるポジションではないかと思い、挑戦しました。
Photo: UNDP Philippines
異なる立場の人々との信頼関係の構築─本当の難しさとは
現在携わっているミンダナオ支援では、プロジェクトを進めるにあたって多種多様な関係者がいる中で、それぞれの方と関係を構築し、信頼を得ていくところに難しさがあります。フィリピン南部のミンダナオ島では、フィリピンにおける少数派である「モロ」と呼ばれるムスリムとフィリピン政府の対立が1960年代から半世紀以上にわたり続いてきました。武力闘争と和平交渉の結果、暫定自治政府が誕生し、今後選挙を通じた正式なバンサモロ自治政府の発足を目指しています。2014年に締結されたバンサモロ包括和平合意の柱の1つが、兵士たちの武装解除と動員解除です。UNDPは様々な分野での支援を行っており、その中で私が担当しているプロジェクトの一つは、戦闘員や民間の私兵から小型武器・軽兵器を回収・正規登録し、治安改善と人々の社会復帰・統合を進めることを目指しています。兵士たちだけではなく、彼らの家族やコミュニティを正常な状態に戻すことを含めて、正常化プロセスと呼ばれていますが、このプロセスを支援することを大きな目標にしています。
フィリピン政府と反政府組織、という垂直的・単純化された関係性だけではなく、ムスリム・ミンダナオ地域の複雑さを理解する一助として、日本の戦国時代をイメージすると参考になるかもしれません。日本各地にいた戦国大名のように、地域を伝統的に治めてきた士族(クラン)同士の水平的関係性、バンサモロ自治政府との関係・距離感(日本とのアナロジーで言えば幕府や朝廷とそれぞれの藩大名の関係性)、それぞれの利益・優先順位を持つクランと彼らの私兵団、ムスリムコミュニティや非ムスリムの先住民コミュニティ、キリスト教徒が多数派のコミュニティ間の関係など、非常に複雑な構図が存在しています。このような関係性がある中で、それぞれの関係者と丁寧に信頼関係を築き、プロジェクト実施に合意を得るプロセスがあって初めて、武器の回収や正規登録につながります。またそこには、最終的にコミュニティの人々皆のためになるよう努めるという大前提があります。つまり、支援活動の前提となる、コミュニティの代表者や伝統的なリーダーを含む人々との合意形成や調整が不可欠で、この調整は表面に出てこない、華々しくないものですが、平和構築の分野ではこの点がとても重要であり、そこに大きな難しさがあります。
私自身も、現地のフィリピン人の同僚と密に連携し、現地の了解を得ながら進めています。開発は根源的には政治的な側面が含まれるものだと考えています。外部の機関が技術的・経済的支援を行っても、政治的解決がなされなければ、本当の開発は達成されないというのは根深い問題です。どうしても開発機関だけでは解決できないということもあり、そこが一番の難しさであり、様々な関係者を巻き込むことの重要性だと感じています。
Photo: Sunao Hachiri
開発分野のキャリア構築に悩める社会人・学生にアドバイスがあればお願いします。
大事な観点の1つは「どの専門分野で働くか」もそうですが、「どういった目線で関わりたいか」を考えることだと思います。開発分野では、マクロなレベルであれば、国連を含む政策やグローバルアジェンダの方向性を決めていく仕事があり、逆にミクロであれば、NGOやJICA海外協力隊などが挙げられ、現場で目の前の人を助けることに注力することになります。また、その中間のメゾレベルとしてUNDPの国事務所で開発プロジェクトを回す私のような立場の人がいると思っています。UNDP本部での仕事はメゾとマクロの間くらいだと思いますが、どのレベル感が自分にとって一番パッション・エネルギーを持って取り組めるのか、自分の力を発揮できるのかを考えることも重要だと思います。大事にしたい専門分野とアプローチのレベル感が自分の中で決まってくるとその後のキャリアの選択肢が明確になってくると考えます。自分は当初「国連で働く」、「JPOに合格する」が目標・ゴールになっていたので、その後国連で働きながら、自分が本当に何に取り組みたいかを見つめ直すことに時間をかけました。
実際に経験してみることの大切さ
やりたいことの解像度を上げるためには、やはり実際に経験してみることが大事です。今の時代、オンラインで情報をいくらでも得られる中で、現地での体験や人との対話から得られる気づきはやはり大きいのではないでしょうか。インターンやボランティア、短期の現地滞在など、時間がある時に現場を経験してみると、自分の適性ややりたいことが見えてきます。例えば私はお腹が弱く、出張中に胃腸炎に何度もかかったことがあるので(笑)、紛争地のど真ん中で活動するのは自分に向いておらず、現場の情報を得ながらも全体を俯瞰的に見て戦略を考え、プロジェクトの方向性を検討するほうが向いていると気づくことができました。
過去の経験を遡り、自分の軸を探すプロセス
JPO制度に受かるためにも、またJPO制度に受かってから自分のインパクト・貢献を最大化するためにも、「どのような立場で、何をしたいかをはっきりさせる」ということが大切だと考えています。その目線を持ちながら自分の過去の経験を遡ることで、目指すポジション・ポストの職務内容に今までの経験がどのように関係してきたのか気づくと共に、自分の語りたいストーリーが生まれてきます。そのストーリーをもとに、「他の候補者もいる中でなぜ自分がポジションに一番マッチしているのか」をプレゼンする、そのために自身の強みを理解することが大事なプロセスになると思います。このプロセスは、JPO制度に受かって仕事を始めた後、次のキャリアに向けた戦略を考える際にも役立ちます。自分のやりたいことと過去の経験、そこに対する自分のアプローチ(専門分野・地域・目線)に自覚的であるということは、開発分野で長期的なキャリアを考えるときに大切なポイントだと思います。
今後どういうキャリアパスを歩まれていきたいか、また目指していることがありましたら教えていただけますか。
これまでの10年ほどのキャリアでは、10年以上前に描いていた戦略プラン・道筋、そのステップをコツコツ一つずつ達成してきた結果、今の自分があると感じていますが、同時に運・縁やタイミングに大きく左右されてきました。また特に平和構築や紛争予防分野でのキャリアは、家庭との両立が難しくなりやすいと感じています。ライフステージの変化に合わせて、人生の中で自分が面白いと思えるキャリアを短・中・長期的にどう築くかを最近は強く意識するようになりました。色々な制約や条件がある中でベストの選択をするというところで、直近では、UNDPの現場でプロジェクトを回しながら紛争影響国へのアプローチを実践的に学んでいます。この経験を基に、今後はUNDP地域ハブなどで専門性を活かしつつ各国支援に関わるようなポジションも視野に入れています。ただ、国連でのキャリアはポストが空くタイミング次第の部分もあるので、まずは今いる場所でベストを尽くし、良い機会があれば挑戦したいと思います。
また、仕事の軸とは別に人生の軸を考えるのも大事で、その軸は自分では”happiness”だと思っています。自分がこの仕事をやる意義もそうです。自分がハッピーでないと、関わるコミュニティの人達もハッピーにならないはずです。最終的には、自分や家族、そして関わるコミュニティが前向きになれるような形で、仕事を続けていければ良いなと考えています。
UNDP学生アンバサダーからのコメント:
髙木美咲 | 山本杏珠
今回のインタビューを通して、平和構築という難しい分野において、目の前のコミュニティの人々に寄り添い、丁寧に話を聞いて理解したうえで、それをアウトプットにつなげていく日々の積み重ねの重要性を学びました。「聞く」スキルの大切さについてのお話も強く印象に残っています。国際協力と聞くと、まず自分の立場からどのようなアクションができるのかを考えてしまうことも多いと思います。その中でも第一歩として、コミュニティなど関わる人々の話を「聞く」ことで、背景を理解することができるようになります。それを踏まえ、良いアプローチを考えて行動に移していくという視点は、オンラインツールが便利な現代において、私たちのように日本で生活している国際協力やSDGsに関心のある人々にとって、とても大切だと感じました。
また、関わるコミュニティにより貢献できるよう、自身に足りない点を見つめ直しながらスキルアップに努め、新たな挑戦を続けていらっしゃる姿にも感銘を受けました。特に印象的だったのは、「コミュニティの人々を幸せにするためには、自分自身も幸せであることが大切」というお話です。自分も相手も幸せであることを軸に、仕事やプライベートを含めた人生全体の中で活動を続けていく姿勢は、私たちを含め、国際協力の分野でキャリアを描こうとする人々にとって大きなロールモデルだと感じました。改めまして、貴重なお時間をいただきありがとうございました。