私たちの力、私たちの地球

エクアドル高地の地元コミュニティの取り組みが、世界に希望をもたらす

2026年5月21日

日本の環境省、在エクアドル日本大使館、生物多様性条約(CBD)事務局、UNDPエクアドル国事務所、SGPチームの代表者とともに、エクアドルのパラモ(高山湿原)を訪問

Photo: courtesy of Bladimir Herrería

南米・エクアドルのアンデス山脈の高地で、日本の「SATOYAMA」ー自然と調和して暮らす社会を象徴するコンセプトーが、単なる抽象的な理想ではなく、実際の暮らしの中に根づいています。

3月上旬、日本の環境省と経団連自然保護基金の支援により実施されている「SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(COMDEKS)」のパートナーとともに、スレタのコミュニティを訪れ、それを現地で体感してきました。

重要な水源地を形成し、アンデスグマに代表されるようなユニークな生物多様性をはぐくむ「パラモ( páramo )」と呼ばれる繊細な高山生態系。強い風の吹く中で、そこに裸足で身を置き、地元コミュニティのメンバーであるカルロス・サンドバルさんとマイラ・ペルガチさんの話を聞くうちに、気持ちが落ち着き、物事の見方が少し変わるような静かな感覚を覚えました。

若手の環境エンジニアのカルロスは、 学業を終えた後に地元のスレタへ戻り、生物多様性を生かした事業の強化に取り組むとともに、次世代の環境リーダーの育成にも力を注いでいます。

一方コミュニティの副代表であるマイラは、家族を養う責務を担いながら、先住民族のリーダーとしての役割も果たしています。母であり、娘であり、そしてスレタの自然環境・生態系の守り手でもあるマイラは、強靭性、ジェンダー平等、環境の公正といった、コミュニティ社会に欠かせない複合的な価値を体現する存在です。彼女のコロナ禍におけるコミュニティのエンパワメントの経験は、人と人とのつながりが、どんな技術的解決策にも劣らぬほど重要であることを示したと語ります。

控えめながらも希望に満ちた、自分たちの土地と深く結びついた彼らの語りを聞くひとときは、今回のスレタ訪問中、特に印象深いものでした。小さなコミュニティ社会の美しさや意義は今も確かに息づいていること、そしてこのようなコミュニティこそが、私たちが自然との関係を再構築してゆくために必要な知恵を持っているのだと感じました。

Listening to Mayra Perugachi.

マイラ・ペルガチさんの話を聞く一行

Photo: Rissa Edoo

コミュニティにより形づくられるランドスケープ

カルロスやマイラのような人々が、スレタにおける保全の取り組みを支えています。このコミュニティは、UNDPが実施する地球環境ファシリティ(GEF)小規模助成プログラム(SGP)の支援も受けつつ、約2,400ヘクタールに及ぶ高山生態系を30年以上守り続けてきました。

エクアドルのSGPは、重要な社会や生態系を内包するランドスケープの再生と保全を進めるため、地域コミュニティに対して資金面と技術面の支援を行う生物回路(バイオコリドー・アプローチ)を採用しています。この支援により、スレタのコミュニティでは次のような取り組みを実施してきました。

  • 在来樹木種を100ヘクタール以上の土地に植林し、生息地の分断を防ぎ、生物多様性の回復を図る
  • 防火帯の整備や森林火災への対応力の強化を通じて、気候変動への適応力を高める
  • 地域の環境ビジネスを支援し、持続可能な生計手段を創出

このアプローチは、自然保全、文化、生計を一体として捉えることで、SATOYAMAの考え方を体現しています。プロジェクトの設計過程では、コミュニティのメンバーから「土地とは『リャクタ(llacta)』である」との言葉が聞かれました。現地語のケチュア語でこの言葉は、単なる村ではなく、人と土地、そして生命がつながる一体の存在、まさにSATOYAMAを意味します。

Zuleta village in the Ecuadorian highlands.

エクアドル高地にあるスレタ村

Photo: Rissa Edoo

持続可能な地域経済づくり

このプロジェクトで特に印象的なのは、スレタが自然環境の保全と地域の社会経済活動をいかに結びつけているかという点です。13の環境ビジネスが一つのネットワークを形成し、女性や若者が中心となって運営されています。生産者や行政、地域のリーダーたちが連携し、貴重な生態系を守ることが、そのまま地域住民の持続的な生計につながる仕組みが築かれているのです。例えば、アルパカの繊維を使った衣類やリサイクル木材の工芸品、環境に配慮した農産物、伝統的な刺繍製品などが生み出されています。

イノベーションも広がりを見せています。アルパカの繊維を使った衣類には、スレタならではの刺繍が取り入れられ、地域らしさや独自のアイデンティティを感じさせる商品として、ネットワークを通じて地元を超えた全国市場にも届けられています。実際に現地の市場を訪れた際には、スレタの刺繍の鮮やかな色彩や模様がとても印象的でした。そこには、地域の人々が協力し合うことで、環境保全と経済的自立を両立しながら、文化的な伝統も守っている姿が表れていました。

スレタ刺繍や、支援を受けた13のバイオビジネスのメンバーによって制作されたその他の製品サンプル

地域の取り組みから、世界を動かすインスピレーションへ

スレタの成功は、私たちの世界がいま必要としている変化に向けたひとつのモデルであり、UNDPの「ネイチャー・プレッジ(自然への誓い)」のビジョンが現場でどのように実現されるかを示しています。草の根レベルでの経験を重ねてきた小島嶼開発途上国(SIDS)の出身である私は、最も本質的な解決策は多くの場合、現場から生まれてくるものだと確信しています。現在、SGPを担うグローバルチームの一員として、地域の行動がどのように世界規模のインパクトにつながっていくのかを日々実感しています。

「Our Power, Our Planet(私たちの力、私たちの地球)」をテーマに迎える2026年のアースデイにあたり、地球環境保全に向けた前進は、スレタのような現地コミュニティに支えられている事実を改めて実感しています。今回の訪問は、単なるプロジェクトの活動視察以上に、コミュニティや自然のレジリエンス、それを守るための協働、人間と生態系との間の深い関係性を、改めて力強く感じさせるものでした。

風が吹き荒れるパラモの大地に裸足で座りながら、私はパチャママ(Pachamama)「母なる大地」に根ざしたアンデスの精神を思い出しました。自然は人間の影響にさらされやすく、時に無力であるが、その行く末は私たちの選択と行動にかかっています。つまり、私たちこそが自然の声を代弁する存在なのです。スレタのようなコミュニティは、このような自然の守り手としての役割を体現しており、コミュニティのレジリエンスがいかに人と生態系の間、そして世代を超えて形作られているものであるかを示しています。土地と深く結びつき、それを守り続けようという意思をもつコミュニティからこそ、持続的な変化が生まれるのだと実感し、私は新たな希望を胸にその地を後にしました。


著者:リサ・エドゥ UNDP地球環境ファシリティ(GEF)小規模助成プログラム(SGP)パートナーシップ・スペシャリスト