開催報告:アフリコンバース2025第1回

Innovating Together:日本とアフリカの学術協力の未来を築く

2025年4月17日
Audience listening to a presentation in a modern room with large screens.

第9回アフリカ開発会議(TICAD)に向けた対話シリーズ「AFRI CONVERSE(アフリコンバース)」の2025年最初のセッションが、3月に広島大学で開催されました。登壇者は日本とアフリカの学術協力の未来を探り、持続可能な開発目標を推進するための研究、イノベーション、そして異文化交流の重要な役割について議論を展開しました。本イベントには、オンラインと対面で240人以上が参加しました。

Panel discussion with four speakers at a conference, with a projection behind them.

パネルディスカッションでは、国連開発計画(UNDP)アフリカ局のチーフエコノミストであるレイモンド・ギルピンが司会を務め、アフリカと日本の大学間での協力の機会拡大と、そのような協力が開発に与える革新的な影響の可能性や、喫緊のグローバルな課題に取り組むために大学間連携を活用する戦略的なアプローチが深く議論されました。また、資金調達や設備へのアクセス、さらにはアフリカの開発ニーズに対応する研究の重要性など、幅広い課題についても言及されました。

 

広島大学のコミットメント

広島大学の金子慎治理事・副学長(グローバル化担当)の基調講演で始まり、広島大学が日本とアフリカの学術協力において果たしている役割についての概要が示されました。金子理事は、広島大学におけるアフリカからの学生数の増加に触れ、現在、同大学には30以上のアフリカ諸国から120人以上の学生が在籍していることを紹介しました。また、広島大学はアフリカ連合やアフリカ9か国の大学と21の連携協定を結んでおり、アフリカ大陸との強固な関係を築くために、カイロに拠点を設立していることを述べました。

A man speaks at a conference, with two women seated nearby and UNDP logo in the background.

基調講演の中で、「トライアングル海外学習プログラム」という、エジプト、ザンビア、マラウイを結ぶユニークで革新的な国際交流プログラムについて紹介されました。コロナ禍の厳しい状況下で、本プログラムは日本からアフリカ北部および南部の諸国へ、50人の学生を送り出すことに成功しました。さらに、金子理事は、広島大学と凡アフリカ大学との戦略的な協定についても触れました。本連携により、今後5年間で毎年20〜25人の博士課程学生が広島に派遣される予定であり、社会科学や教育分野に加え、科学や工学分野にも焦点が広がることが述べられました。

 

大学間協力とその成果

JICA人間開発部次長兼高等教育・社会保障グループ長である上田大輔氏は、JICAの日本とアフリカ間の大学間協力および能力強化への取り組みについて紹介しました。JICAは、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)やケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)などの取り組みを支援しています。これらの大学は現在、地域協力において重要な役割を果たしており、アフリカ全土から留学生を集めています。今後、JICAはアフリカと日本の大学間で共同研究・共同教育を促進することを目的とした「日本・アフリカ拠点大学ネットワーク」の設立に向けた取り組みを進めています。上田氏は、日本とアフリカ間の大学間協力を拡大する上での4つの主な課題を挙げました。

  1. 物理的、文化的、歴史的な隔たりが原因で、相互の関心と理解が妨げられていること。
  2. 特にアフリカから日本への留学生や日本からアフリカへの留学生を増やすことで、人や組織のつながりを築いていく必要があること。
  3. 日本とアフリカの大学間で研究テーマの優先順位を一致させること。
  4. 日本とアフリカ間の移動や輸送コストが高く、また、共同の取り組みに対する資金提供が不足していること。

広島大学大学院医系科学研究科国際保健看護学の新福洋子教授は、タンザニアのムヒンビリ健康科学大学との連携を通じて得た実務経験を紹介し、アフリカ全体で健康科学に対する社会的な需要が高まっていることを強調しました。新福教授は、国際的な協力のメリットとして、ユニークなデータへのアクセスや、インパクトのある学術誌に論文を発表する機会を挙げ、これが日本の大学の研究の国際的な認知度向上に繋がることを指摘しました。また、新福教授は、学生に世界的な健康課題を直接体験させる重要性を述べ、2021年に始まった「トライアングル海外学習プログラム」を紹介しました。このプログラムは、アフリカで学ぶことを通じて、グローバルヘルスの分野でのキャリアを追求するよう、多くの日本人の学生にインスピレーションを与えてきました。

Three professionals participate in a panel discussion at a conference.

広島大学人間社会科学研究科博士課程前期教育科学専攻国際教育開発プログラムの1年生である眞鍋志野氏は、マラウイでのトライアングルプログラムでの貴重な経験を共有しました。眞鍋氏は、マラウイの学生たちの親切さに感銘を受け、マラウイの文化や人々に深い関心を持つようになりました。滞在中、現地の人々と政治や社会福祉、文化的な習慣について話し合い、失敗を恐れずに積極的なコミュニケーションや自己表現をすることが重要であると学びました。眞鍋氏の経験は、マラウイについての理解を深め、文化交流とグローバルな対話の重要性を強調するものとなりました。

 

広島大学大学院先進理工系科学研究科共同研究講座のジョイス・ジャスティーヌ・ナカエンガ助教は、ウガンダから日本への自身の歩みの中で得た学問的および専門的な経験を紹介しました。ナカエンガ助教はウガンダの学者と共に、ウガンダで使われている持続可能な建設材料を日本の研究に取り入れる取り組みを通して、研究室における国際的な協力を一層進めました。このパートナーシップは、共同でいくつかの論文を発表するという成果を上げ、アフリカと日本の学術コミュニティ間での協力機会が増えていることを示しています。

Two women speak at a conference, with one holding a microphone and discussing.

凡アフリカ大学科学技術院の所長代理であるロセンジ・トゥループ教授は、日本と同大学との協力に関する2つの重要な目標を提示しました。マクロレベルでは、研究や学術における資源の共有を通じて、日本とアフリカ間の移動性を促進し、研究の推進、能力開発、スキル向上を目指しています。ミクロレベルでは、協力により文化交流が促進され、研究能力が向上し、凡アフリカ大学と広島大学の双方に社会的な影響を与えることが期待されています。

 

相互成長と革新への道

ギルピンは、広島大学における教育交流プログラムの発展を歓迎し、日本とアフリカ諸国にとって明らかな相互利益があると述べました。また、関係者に対し、これらの協力を一方的な関係ではなく、相互の投資として捉えるよう呼びかけました。そして上田氏は、日本とアフリカ間の学生交流を促進する科学技術振興機構(JST)のような取り組みを、よりバランスの取れた協力的なパートナーシップを育むための重要な要素として取り上げしました。

 

新福教授は、健康、エネルギー、環境保護といった課題への取り組みを挙げ、広島大学が世界平和と持続可能性に重点を置いていることを強調しました。また、共同学位プログラムやオンライン学習の可能性が、共に成長するための重要な手段であることにも触れました。これに対してギルピンは、広島大学のような大学がアフリカの医療課題、特にマラリアの問題にもっと注力すべきだと提案しました。マラリアはアフリカの経済や労働力に大きな影響を与えている問題であるためです。そこで、新福教授は自身の革新的な研究プロジェクトの一つである、アフリカにおける母子の健康改善を目的としたスマートフォンアプリの開発を紹介しました。このアプリでは、限られた資源の中でも、母親たちが正確で科学的な情報にアクセスできるようサポートしています。

 

協力関係の強化

議題が協力関係の強化に移ると、ナカエンガ助教は、資金調達の課題と共同研究を支援するための長期的な計画の必要性に言及しました。アフリカの大学が高度な研究を低コストで行えるように、日本企業から研究設備をリースするか、または研究設備の寄付を受けることを可能にする政策が有益であると提案しました。

 

ギルピンは、資金調達の課題に対応するための官民連携の重要性を強く訴え、アフリカの大学とのパートナーシップを築き、さらにアフリカの大学と民間セクターを結びつけて革新的なアイデアを市場に提供することに重点を置くべきだと述べました。また、アフリカの成長する中産階級におけるビジネスの可能性を指摘し、協力は単なる慈善活動ではなく、将来への投資であるべきだと強調しました。

 

トゥループ教授は、アフリカとヨーロッパの大学間での研究、移動、カリキュラム開発を促進したエラスムスプログラムのような成功事例について話しました。トゥループ教授は、日本がアフリカの機関との連携を強化するために、同様のプログラムを採用することを提案しました。

 

眞鍋氏は、短期留学プログラムやオンライン交流プログラムといった、交流を促進する環境を整えることの重要性を述べました。これらのプログラムは、学生に異なる文化と触れ合う機会を提供し、新しい視点や感情的なつながりを育むものです。

 

実証的な研究の必要性

大学連携において注目すべき研究は何かという点について、ギルピンは、アフリカの特定のニーズ(例えば雇用創出、公共衛生、持続可能な開発など)に対応する研究に焦点を当てるよう大学に呼びかけました。パンデミックの対策や持続可能な経済成長の促進といったアフリカが直面する喫緊の課題に直接取り組む実証的な研究の必要性を訴えました。

 

これに対して、新福教授は、母子保健に関する応用研究の一例を紹介しました。日本の政府機関から資金提供を受けたモバイルクリニックが、アフリカの遠隔地での妊娠中の死亡率を減少させ、赤ちゃんの健康改善に寄与した事例です。新福教授は、プロジェクトを成功させるためには、現地のニーズに応じたものにするためにアフリカの研究者と協力することが不可欠であると述べました。

 

ナカエンガ助教は、ウガンダのシロアリの巣に注目した建設分野の実証研究の一例を紹介しました。シロアリが作り出す強固な土壌を研究することにより、ナカエンガ助教の研究チームは日本の土壌を改善するための解決策を開発しました。

A man in a suit passionately speaks into a microphone, with his image projected behind him.

閉会の挨拶で、JICAアフリカ部次長である上野修平氏は、「交流の様々なメリット」と「第一歩を踏み出すことの重要性」という2点を強調しました。上野氏は、イノベーションを生み出す学術交流の長期的な価値と、その交流を持続可能にする官民連携の重要性を訴えました。また、オンラインや対面での交流、または模擬アフリカ連合会議のようなイベントに参加することを通じて、積極的にアフリカと日本の協力に関わるよう促しました。特に、横浜で開催されるTICAD9を見据え、若者たちにこれらの機会を活用してアフリカと日本の関係の未来を形作っていくよう呼びかけました。