地震からの復興と回復の加速に向けた協力をUNDPシリア常駐代表が語る

2023年4月5日

地震で家を失った男性と話すスディプト・ムカジーUNDPシリア常駐代表

Photo: UNDP Syria

2月6日、シリアがすでに10年以上にわたる戦争の影響に苦しんでいた最中に、大地震が発生しました。UNDPシリア常駐代表は、長く続く危機に対し、今回新たな悲劇が起きたことをきっかけに国際社会からの関心が再度高まることを願っています。

スディプト・ムカジー常駐代表に、当面の支援ニーズと、誰一人取り残さない長期的な復興に向けた取り組みについて話を聞きました。

震災の直撃を受けた地域に到着した時の第一印象はいかがでしたか?

被災地を訪問したことで、これまでの認識は完全に変わりました。それまで、2022年の状況をシリア史上最悪だと思い込んでいましたが、それはまったくの誤りだったことに気づかされたのです。

 紛争と、多数の難民・避難民の発生、水や電気の供給の停止、保健や教育といった必要不可欠なサービスの崩壊、何年も続く深刻な干ばつ、多くのシリア人に影響を与えたレバノン金融崩壊、コロナ禍、シリア通貨の大幅下落、そしてコレラの発生と燃料不足といった複数の危機が12年の間で複合的に影響し、10人に9人が貧困状態にあり、1500万人以上が人道支援を必要としている最中に今回の地震が起きたのです。 

今回の大震災では、まったく備えがない大勢の人々の衝撃と絶望が、ついに希望の崩壊に変わっていき、より大きな代償を払うことになりました。 

想定されたことではありますが、長年にわたる対応力の低下により、地方自治体はこのような大規模な災害に対応するための能力を失っていました。十分な訓練を受けたスタッフ、必要な機材、燃料などが不足していたため、私たちは不利な状況に立たされました。人道支援機関の現地スタッフでさえも被災の影響を受け、対応力に限界がありました。

地震により多くの人々が家を失い、子どもたちも学校に行けない状態が続いています。

Photo: UNDP Syria

地震により多くの人々が家を失い、子どもたちも学校に行けない状態が続いています。 数えきれないほどの建物が倒壊し、数千人の死者と数万人の重傷者を出しただけでなく、多くの人々が家を失い、恐怖のあまり屋内に戻ることができなくなり、完全にトラウマ状態に陥っています。また、多くの建物には住居と事務所など仕事関連の施設が併設されていたため、生活のためのものと、多くの仕事が一日にして失われました。被災者の多くは、親しい人を埋葬したり、病院にいる人を見舞ったりしながら、がれき除去の作業員が機材とともにやってきて、がれきを取り除き、その下に埋まっている貴重品を掘りだしてくれるのを辛抱強く待っていました。

ほとんどの仮設避難所は十分な管理能力を持っておらず、また施設自体も数千人を収容するには不十分でした。私は2つの避難所を訪れましたが、どちらも数千人の避難民でごった返しており、子どもや障がい者などの多くの人々が暖を取ることすらできない状態でした。私が出会った住民のほとんどは、完全にショック状態で、早急な心理社会的支援を必要としていました。最も顕著な問題は、プライバシーを守るための仕切りがないことと、機能しているトイレがほとんどないことでした。また、多くの避難所では充分な給水と照明もなく、特に女性や子どもは、公衆衛生と保護の深刻な危機にさらされています。救援物資が大量に届く一方で、現実のニーズに基づいた適切な分配はまだ始まっていません。避難所では、多くの家族が新たに入居する一方で、親族や友人のもとでより良い避難先を見つけた人々が退去するなど、人の数も常に変化しています。

また、周りに広がる善意にも心を打たれました。宗教団体や地域団体、家族、個人など、あらゆる人が食料品や必需品を配ったり、ボランティアとして協力し合っていたのです。

今回の地震が、シリア危機の完全な解決に向けた緊急性を浮き彫りにし、シリア人が安全で尊厳のある生活を送れるようになることを願います。
スディプト・ムカジー UNDPシリア常駐代表

特にこの冬の時期、人々が緊急に必要とするものは何でしょうか?

いま一番必要なことは、適切な避難先を見つけること、水の供給やトイレなどの衛生設備、エネルギーへのアクセスなどの基本的サービスを復活させ、保護に必要なすべてのニーズが充分に満たされるようにすることだと思います。食料以外では、暖かい衣類や寝具類が特に必要なものです。子どもたちが再び学校に行けるようにして、公共スペースにあるがれきを移動させ適切に処理し、人々が自由に移動できるようにする必要もあります。また、緊急雇用による生計の立て直しも必要で、それにより自立心を取り戻すだけでなく、被災者に「役に立てる」「生産性がある」と感じてもらうことで、少しでも癒しに繋げたいと思います。

長期的な支援とのバランスはどう考えますか? 

シリアのような状況では、緊急の支援と中長期的な支援を同時に始めなければなりません。復興が始まるのを明日まで待つ余裕はありません。つまり、私たちは修復できそうな住宅の修復の支援を直ちに検討する一方で、それが難しい場合には、代替の解決案として避難先を見つけるための支援を始めます。必要に応じて、住宅、土地、財産権の問題に直面している人々が法律やその他の技術的支援を得られるようにすることも、直ちに始めなければなりません。 

自宅で生活できるようにするためには、まず事業を復旧させなければなりません。資産を失い、事業を停止せざるを得なかったり、存続が難しくなったりしている小規模な事業者には、復興支援が必要です。そして、そのことが安定した雇用と経済機会の再生に繋がります。必要不可欠なサービスを回復させるための方法と手段を講じる必要があります。そのためには、がれきの撤去・処理、適切な補償、環境破壊の迅速な評価、復旧措置の提唱と支援などが必要です。誰も傷つくことなく、不当に排除されていると感じないようにするためには、客観性と正確性に基づくターゲティングが必要です。また、互いの活動を強化し、復興と回復を促進させるような形でパートナーシップを結びながらこれらの活動が実施されることで、より持続可能なものとなります。

UNDP常駐代表スディプト・ムカジーがシリアの震災被災地を訪問

Photo: UNDP Syria

今後6ヶ月から12ヶ月の間にかけて何を優先すべきでしょうか?

UNDPは連携機関と共に、震災で被害を受けた公共施設(学校、研修機関、保健医療施設、市民サービスセンターなど)の復旧と、公的な基本的サービス、特に水道、灌漑設備、固形廃棄物管理、大規模ながれきの除去と安全な処理、電力や再生可能エネルギーなど、尊厳ある生活環境と生計手段を回復するための復旧作業を支援する予定です。また、家を失った人々や、早急な再建が不可能な人々のための安全で尊厳が守られる避難所についても検討する予定です。

加えて、小規模事業の復興を支援し、ひいては持続性があり尊厳ある経済機会へのアクセスも強化する予定です。自治体やコミュニティが災害リスク管理を行う上で不足している能力をどう埋めるかということも、復興プロセスの一環として迅速に評価し対処する必要があります。

12年にわたって続いた危機を乗り越えて、UNDPは早期復興へ向けてどのような支援を行うことができるでしょうか?

私たちの活動の特徴は、地域に根ざした取り組みやアプローチで、最も弱い立場にある人々にできる限り手を差し伸べていることにあります。

私たちの早期復興アプローチは、コミュニティが日常を取り戻し、人々が尊厳を保ち、回復力を高めるためのシステムを強化することを支援します。シリアでは、UNDPは現場で人道支援の取り組みを補完する開発ソリューションを提供ししています。

UNDPはシリアで確立されたプレゼンスを有しています。「シリア全体(Whole of Syria)」アプローチとして、7つの現地事務所を通じ、14の州をカバーしながら、人々に貢献し、誰一人取り残さないことに重点を置いて活動しています。

シリアは依然として、世界で最も複雑な人道危機、かつ保護が必要な緊急事態にあります。数多くのシリア人が生存の瀬戸際に追い込まれており、国内では680万人が避難民となり、少なくとも660万人がシリア国外で難民として生活しています。

今回の地震が、シリア危機の完全な解決に向けた緊急性を浮き彫りにし、シリア人が安全で尊厳のある生活を送れるようになることを願います。そして、包摂的な復興や、シリアの人々がもつ正当な願望の前進を妨げている障壁に終止符を打つことを願っています。

復興ができなければ命が失われてしまいます。政治よりも人を優先することが必要です。今、私たちが行動を起こさなければ、震災発生の前も後も、貧弱な復興支援のしわ寄せをシリアの人々が受けることになってしまうでしょう。