トルコで震災対応の最前線に立つ現地企業

2023年5月8日
Workers walking in front of a crumbling building

トルコで発生したマグニチュード7.8の地震を受け、現地企業が対応に動き出しています。

写真:Levent Kulu

2月6日、トルコ南東部をマグニチュード7.8の地震が襲いました。その直後の強い余震に加え、さらに小さい余震が数日間にわたって続く中で、アルダさんとそのチームは、中小企業に壊滅的な打撃が及び、トルコ経済が数か月にわたって大きな影響を受けることを認識していました。

アルダさんはまた、中小企業が緊急のニーズを抱える人々に直ちに援助を提供できる絶好の立場にあることも知っていました。事実、トルコの民間セクターは数時間のうちに、政府や国際パートナーと密接に連携しながら、物資の寄付と義援金を集めました。

Volunteers distribute donations

現地企業から寄付された物資を配給するボランティア

写真:TÜRKONFED

アルダ・バトゥさんは、トルコで6万社以上が加入する団体「トルコ企業・経営者連合TÜRKONFED)」の事務局長兼理事を務めています。TÜRKONFEDはBusiness for Goalsとともに、緊急事態の前後と最中に現地企業の動員を図る国際的プロジェクト「OCHA-UNDPビジネス連携枠組み(CBi)」に参加しています。

アルダさんは「トルコは災害の多い国です。問題は、死傷者を出す危機が起きるかどうかではなく、それがいつ起きるか、そして、私たちがどのような準備態勢を整えられるかです。そこで、私たちTÜRKONFEDは、大企業から小さな商店主に至るまで、会員企業に緊急事態が起きたら何をすべきかを知っておいてもらうということを心がけています」と語っています。

TÜRKONFEDは過去数年にわたり、数百社の中小企業を対象に、有事にもビジネスを継続するための研修を施すとともに、ソーラーランプや浄水錠剤、防災用毛布、携帯電話用電池など、有用な物資の入った緊急対応キット「災害パック」の配給を始めていました。

TÜRKONFEDは震災当日から直ちに、各地域の連絡網を活用しました。そして、現地企業による支援を調整する危機対応センターとホットラインを立ち上げました。さらに、トルコ政府の首相府防災危機管理庁(AFAD)による正式な行動の呼びかけを支援するための募金キャンペーンにも着手しました。

Volunteers in a warehouse with donated goods

ガジアンテップで、民間企業から寄付された物資の仕分けと配給を行う現地ボランティア

写真:TÜRKONFED

民間セクターによる現金と現物の寄付の結集

トルコの企業は素早く物資の寄付を開始しました。3月1日の時点で、CBiトルコ支部だけでも1,100万米ドル相当以上の現物寄付が報告されており、トラック243台分の食料・非食料品の配給が行われています。CBiのネットワークは、被災地に下記の物資を提供しています。

  • 毛布2万1,000枚以上 
  • コンテナ住宅395棟 
  • テント1,000張、ベッド1万5,000台以上 
  • 炊き出し所4か所とキッチン・カー3台 
  • 簡易トイレ・浴室100か所 
  • 発電機53台、ヒーター1,000台など

また、人道支援パートナーに宿泊施設や翻訳サービスを提供するほか、職員向けの輸送手段や捜索・救助機材も供与しています。

Food served through a mobile kitchen

民間のパートナーはテント、簡易トイレ、キッチン・カーなど、数百万ドル相当の現物寄付を行っています。

写真:TÜRKONFED

アルダさんは「震災発生直後から、TÜRKONFEDの危機対応デスクは、トルコ各地から被災地向けの援助の調整を行っています。私たちはこの関連で、トルコ全土の6万社を超える会員企業のほか、その他多くのステークホルダーとの連携も図っています。これだけの規模の災害では、国内・国外の支援者の協力が必要になります。よって私たちも、中長期的な復興プロセスに向けて、包摂的で参加型の協働関係を広げてゆく必要があります」と語りました。

さらにCBiでは、全世界の国際的な企業やビジネス団体からの支援の申し出を調整しています。フィリピン、インドネシア、メキシコのCBiメンバー・ネットワークは、寄付や医療物資とともに、正式な政府ミッションを通じ、捜索・救助専門家のほか、医療チームと技術者の派遣も行っています。

地震の数日後、アルダさんは震源地に出向き、実際の援助提供の様子をつぶさに観察しました。「私が目にしたのは、壊滅的な被災状況と悲嘆にくれる人々でした。誰もが友人や家族を亡くしていました。一夜にして数万人が家を失いました。しかし私は、数百人のボランティアが受入センターやキッチン・カーで支援にあたり、連帯が機能している様子も目にしました。暗闇の中で見た光が、私に将来への希望を与えてくれたのです」

One of the shipping containers donated to supply temporary shelter

TÜRKONFEDは震災被災者に当面の住処を確保するため、このようなコンテナ住宅を400棟近く提供しています。

写真:TÜRKONFED

国連との密接な連携

緊急事態発生の直後に一気に流入する寄付は、管理上の課題にもなりかねません。そこでCBiやその他の機関は、被災者により速く支援を提供できる手段として、義援金の提供を呼びかけています。CBiは、民間企業が国連との取り組みの調整を最善の形で行えるよう、具体的な指針を提供するビジネスガイドも発行しました。

CBiはさらに、民間のエンゲージメント専門家を派遣することで、国連による人道対応を支援しています。CBiでネットワーク調整専門家を務めるリザ・ネリーさんは、国内・国際の民間セクターとのつながりに便宜を図ることにより、国連の調整体制を支援しています。

リザさんは「私は民間の担当窓口として、民間セクターと人道支援連携機関の間の中立的な仲介役を務めています。民間セクターには援助提供の意志があります。私の役割は、可能な限り効率的な形で被災者に手を差し伸べられるよう、さまざまな主体とのつながり作りに便宜を図ることにあります」と語っています。

UNDPはトルコ政府やパートナーと連携し、再建の前提条件として数百万トンのがれき撤去を図っています。

写真:Levent Kulu

災害への抵抗力をつけるための長期的なアプローチ

TÜRKONFEDは緊急対応から復興へと、徐々に軸足を移しつつあります。

アルダ・バトゥさんは「これまでも経験してきたとおり、被災地域の経済は壊滅的な打撃を受けており、自力での復興は難しくなっています。だからこそ、今からみんなで中長期的なことを考え、企業がいかにして復興に欠かせない存在になれるのかを理解することが大切なのです」と語っています。

CBiのネットワークはすでに、震災の経済に対する影響評価を開始しており、数千棟の家屋の修理費用708億ドル、国民所得の損失104億ドル、就業日の損失29億ドルを含め、被害総額を840億米ドル以上と試算しています。

復興の重要な側面の一つとして、崩壊した家屋数千棟の再建が挙げられます。TÜRKONFEDはトルコ政府AFADとの密接な協力のもと、被災地にコンテナ住宅を提供し、被災者の中期的な住宅問題解決を図っています。

UNDPは、トルコでの65年にわたる開発とレジリエンス関連事業の経験を活かし、政府主導の対応を支援しながら、復興活動の一刻も早いスタートに努めています。UNDPによる支援のねらいは、数千棟の建物崩壊で生じた数百万トンのがれきを撤去すること、暮らしの復旧と中小企業の再生を図ること、地方自治体による重要な社会サービスの提供を援助すること、そして、被災地で損傷を受け、存続が危ぶまれている文化遺産の保護を支援することにあります。特に国事務所や、CBiトルコ支部のあるイスタンブール国際民間セクター開発センターを通じたUNDPとトルコ主要企業とのパートナーシップは、民間セクターの資源や能力、専門能力を活用するうえで欠かせないものとなるでしょう。

今回の地震は、今世紀で最も多くの死者を出す災害の一つとなりました。しかし、悲嘆や破壊の中にも希望はあります。この緊急事態の当初から、現地の民間セクターがまれに見る結束を示したことで、防災力構築に向けた現地主体への投資で得られる付加価値が明らかになったからです。今後数か月、さらには数年間にわたり、UNDPはその国事務所と様々なイニシアティブを通じ、こうした主体との連携を続け、将来の危機によりよく対応できる体制づくりを進めてゆきます。

* * *

国連人道問題調整事務所(OCHA)と国連開発計画(UNDP)による共同の取り組みとして発足したビジネス連携枠組み(CBi)は、災害の前後と最中に行われる取り組みへの民間セクターの参画を支援しています。UNDP内部で、CBiの拠点はイスタンブール国際民間セクター開発センター(IICPSD)に置かれています。2016年の発足以来、CBiのメンバー・ネットワークは、100件を超える危機対応を支援し、約1,800万人に援助を提供しています。詳しくは2021年CBi年次報告をご覧ください。 

CBiについてさらに詳しくは、connectingbusiness.orgをご覧ください。

「被災地域の経済は壊滅的な打撃を受けており、自力での復興は難しくなっています。だからこそ、今からみんなで中長期的なことを考え、企業がいかにして復興に欠かせない存在になれるのかを理解することが大切なのです」
アルダ・バトゥTÜRKONFED事務局長