ガーナの魅力とアフリカでのビジネスや貿易の可能性

TICAD9インタビューシリーズ02 - 峰安悠美 UNDPガーナ共和国

2025年8月20日

2025年8月にアフリカ開発会議(TICAD)が開催されるのを記念し、アフリカで活躍する日本人UNDP職員へのインタビュー企画をお届けします。第2回は、ガーナ共和国でアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の地域プログラム分析官として勤務する峰安悠美さんに、現地で感じるガーナの魅力やアフリカ経済発展の可能性について伺いました。


ガーナ共和国は、チョコレートの原料であるカカオ豆を中心とした農業が盛んな国であり、カカオの生産拠点としては世界第2位を誇っています。旧千円札で有名な野口英雄が黄熱病研究を行った場所でもあり、日本とつながりが深い国でもあります。

以上が一般的に知られているガーナの情報ですが、実際に現地で生活してみて感じる、日本でのイメージとの違いがあれば教えてください。

 日本では「ガーナ=チョコレート」の印象が強いですが、現地で暮らしてみると、国内のカカオ加工はこれから伸びる段階で、いまは多くの豆が原料のまま輸出されています。ガーナ産のチョコレート菓子は、まだまだ種類も生産量も少なく、価格が高いです。だからこそ、加工場や加工力の強化、ブランドづくりに大きな余地があり、現地発の高付加価値製品の可能性を感じます。

ガーナの魅力は何ですか?

現地の方はとてもフレンドリーでチャーミングです。ガーナに来た時から笑顔で話しかけてくれ、元気を頂いてきました。また、先日、ガーナ第二の都市でアシャンティー州の州都のクマシに行ってきました。アシャンティー大国としてイギリスと過去に5度も戦ってきた軍事力、冠婚葬祭やイベントで使用されるケンテ織等のガーナを代表する手織物の産地として発展してきたことなど、歴史や文化が豊かだと感じています。

加えて、駐在、仕事をする上で周辺のアフリカ諸国と比べて、政治が安定しており、比較的安全で、英語が通じるため、暮らしやすい点は大きなメリットだと思います。

ガーナで働こうと思ったきっかけについて教えてください。

私は以前、開発コンサルタントとして7年間、主にアフリカやアジアを対象に産業振興や、貿易にまつわる技術協力プロジェクトに従事してきました。そうした自分の専門を活かせる仕事がUNDPで見つかったため、自分が当分野で貢献できるならば挑戦してみたいと思い、当ポジションに応募しました。

AfCFTA地域プログラム分析官としての、主な業務について教えてください。


アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)は、2021年1月に発足した、国の数で世界最大の自由貿易圏であり、13億人の人口と3兆ドルのGDPを有する経済圏です。AfCFTAは、アフリカの統合と経済成長を促進することも大きな目的のひとつとしており、モノやサービスのための単一市場を創設し、関税や通関の遅れなどの貿易障壁を取り除き、中小企業のビジネスを支援します。


アフリカの中小企業や政府や地域機関へのサポート

 私たちのチームは、「地域事務所」として各国のカントリーオフィスを通じて、アフリカ内の各国政府や地域経済共同体(RECs:Regional Economic Communities)、AfCFTAの事務局などへの技術支援や、主に女性や若者が率いる中小企業に対してビジネス機会の提供と貿易にまつわる能力強化などの支援を行っています。その中でも、私は各国の輸出戦略や、産業振興計画のレビューをしたり、企業がより大陸内貿易やビジネスに参加出来るように、貿易や投資にまつわる調査をしてナレッジプロダクトの作成をしたり、中小企業が新規市場を獲得できるようにビジネス同士の対話の機会創設したり、トレードエキスポ等のイベントの企画や調整をしています。

アフリカ大陸内貿易の課題

 地域事務所では中小企業の能力強化や政策提言に向けた研究・分析(ナレッジプロダクト)の作成にも力を入れています。たとえば、ガーナとトーゴ間の貿易において関税以外の課題(いわゆる非関税障壁)について、どのような障壁が存在し、それが企業の活動にどのような影響を及ぼしているのか、また、改善に向けてどのような取り組みが求められるのかを調査しました。具体的には、陸路および海路における通関手続きや必要書類、プロセスに要する時間、発生している課題、さらには実際に国境を利用している人々の声を収集しました。通関に時間がかかることで、保税倉庫の保管料や港での滞船料、輸送スケジュール遅延による追加コストが増えるのみならず、生鮮食品の劣化や、運搬者の危険などの問題が生じやすくなります。また、ドルやユーロによる通関評価(課税価格をドルやユーロにて算定)もビジネスを阻害する大きな要因となっていました。こうした実態を踏まえ、貿易を阻害する構造的な要因を明らかにすることで、より実効性のある政策や制度改善につなげることを目指して政策提言を行っています。

峰さんの携わる業務は、道路や建物といった「ハード」面ではなく、人材育成や制度整備といった「ソフト」面の支援が中心です。ソフト面の支援の重要性は近年高まっているのでしょうか。

 インフラ支援などのハード面の支援と、人材育成や制度整備などのソフト面の支援では、それぞれが担う意味合いや役割が異なります。たとえば、私が関わっている貿易や産業化の分野でいえば、道路や国境施設といったハード面の整備とソフト面の支援の両方が非常に重要です。

 実際、アフリカでは国境を越える際に使われる建物や設備、デジタルシステムなどのインフラに投資することで、国境を越える手続きがよりスムーズになり、貿易の促進につながります。また、国と国を繋ぐ整備された道路も物を運ぶ上では重要です。

 それと同時に、人材の能力強化や知識のアップデート、そしてルールや法制度の整備といった「ソフト面」の支援も不可欠です。どちらか一方だけを進めても、持続的な効果は得られません。両輪で進めていく必要があります。

現在、アフリカ域内でのモノや人の移動は、中国やヨーロッパとの間よりも時間とお金がかかります

One African Market(アフリカ大陸で単一市場を目指す)というAfCFTAの目標達成にはモノや人の移動の容易化は重要です。そのため、インフラの整備と同時に制度面の改善や関わる人たちの理解を促進することで、徐々に流通コストが下がり、かかる時間が短縮され人々が大陸内で物を売ったり移動したりするインセンティブが高まっていきます。

 つまり、ハードとソフトの両方を一体的に進めていくことが、持続可能で実効性のある地域経済統合には不可欠なのです。

ビジネスを通じたアフリカ開発のアプローチには、どの様な利点や可能性があると思いますか?

ODAからビジネスを通じた開発へ

 日本のOfficial Development Assistance(政府開発援助)も、特にTICADのような枠組みを通じて、従来の「お金や技術を提供する支援」から、民間も巻き込みながらビジネスを発展させ、その国の経済を成長させていく方向へと変わってきています。私はこの流れは非常に良いことだと思いますし、そうあるべきだと感じています。

 そう思う理由の一つは、私が以前、開発コンサルタントとして、日本のODA事業を現地で実施していた経験にあります。ODA案件は3~4年単位で進められますが、資金が途絶えるとプロジェクトも終了し、支援も止まってしまいます。実施期間中は効果が出ても、その後は、現地の人たちの自助努力に頼る形になり、持続可能性の面で課題が残ると感じていました。

ビジネスを通じた開発の持続性

 一方、ビジネスを通じた開発は、持続可能性の面で優れています。例えば、日本とアフリカの企業がパートナーを組むことで、技術移転が可能になり、現地の制度や仕組みも根付いていきます。日本企業にとっても、現地のことに精通して、知識やコネクションがある現地パートナーと組むことで仕事がしやすくなります。現地生産が進めば、輸入に頼っていた製品を国内で作れるようになり、バリューチェーン全体が発展します。こうして産業化や経済発展が持続的に進むのです。

 開発分野で利益を出しつつ、社会的な発展にも貢献できるこうした取り組みは、関わるすべての関係者にとってプラスになると考えています。

AfCFTAの発展は、日本にどの様な影響があると思いますか?

アフリカの市場としての魅力

 日本企業にとって、日本のマーケットを越えて新たな成長機会を模索するのであれば、約13億人の人口を抱え、若年層が多く今後も大きく成長が見込まれるアフリカ市場が非常に有望であると考えています。その中で、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)は、大陸内でマーケットを拡大する際に非常に有効なツールです。アフリカ大陸内で輸出を行う際、現在は国ごとに関税が課されるケースが多く見られますが、AfCFTAの進展により、今後は大きな変化が期待されます。具体的には、全品目の90%が今から5年後までに、そして97%が8年後までに関税撤廃の対象となっており、将来的には異なる地域経済共同体(RECs)をまたぐ貿易においても関税がかからなくなっていきます。さらに、各国・地域で異なっていた規制の共通化が進めば、貿易に伴う手続きやコストの削減が可能となり、輸出の効率化が図られます。加えて、各国のビジネス環境が全体的に整ってくれば、日本企業にとっても市場拡大の機会が広がります。これにより、これまで輸入に頼っていた製品を現地で生産・調達する動きが促され、現地生産率の向上にもつながると期待されます。現在、AfCFTAのもとで成功しているビジネスの例として、ニッチな製品で、まだ市場に出回っていないものは、物流コストがかかっても売れ行きが好調です。また、AfCFTAの元ではSpecial Economic Zone(特別経済区域)で製造されたものも輸出の際に関税メリットを享受することが出来るので、日本の製造力を生かすことも出来ると考えています。


峰 安悠美 | Regional Programme Analyst (AfCFTA), UNDP アフリカ地域事務所

同志社大学商学部卒業後、重機メーカーにて勤務。バーミンガム大学にて修士号(国際開発学)を取得後、国連工業開発機関(UNIDO)、開発コンサルタント会社勤務を経て、2023年1月よりJPOとしてUNDPガーナ事務所に赴任。前職では、アフリカ、アジアの産業開発、貿易、評価等のJICA技術協力プロジェクトに従事をし、現在はアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)プロジェクトに従事し、域内貿易を通して女性と若者が裨益できるようにするための支援を行っている。

聞き手:直井ひな TICAD Unit