JPO制度を通じてUNDPへ
人々の生活につながる支援―タンザニアで実践する開発の意義
2026年3月26日
「国家管轄区域外の海洋生物多様性(BBNJ)協定に関する履行支援プロジェクト」第1回運営委員会会合にて
UNDPタンザニア事務所でプログラムアナリストとして、自然資源管理や国境地域の安定化を目的としたプロジェクト形成に携わる堀場千鶴さんに、UNDP学生アンバサダーがインタビューを行いました。開発の現場へキャリア転換したきっかけやUNDPで働く魅力に加え、国際機関でのキャリアを目指す方々に向けた実践的なアドバイスを伺いました。国際開発の最前線で、多様なステークホルダーとの調整を重ねながら、政策と実践をつなぐ役割を担う堀場さんの歩みをご紹介します。
JPOに応募したきっかけ、そして国連機関で働こうと思った動機を教えてください。
幼いころから人の役に立ちたいという思いがありました。大学では総合政策学部、大学院では社会学部で学びを深める中で、政策や社会の開発という形で人の役に立ちたいと考えるようになりました。卒業後は在フィジー日本国大使館の政務・経済・総務・広報文化班や国際連合日本政府代表部の政務部で勤務しました。勤務を通じ多国間の決議、総意、及び議論に携わる中で、国レベルの利益や優先順位を踏まえた政策や計画づくりに加え、それらを地域やコミュニティレベルに落とし込み、「現地の人に届く支援」を実践してみたい思い、JPOポストに応募しました。
UNDPを選んだ理由:包括的な開発アプローチを求めて
これまでの経験を通じて、国際社会で合意された政策や方針が、各国・各地域の文脈を踏まえながら現場で着実に実装され、最終的に人々の生活の変化につながっていく――そのプロセスを担う存在の重要性を強く感じてきました。また、各国の優先課題や政策動向を調査・分析する中で実感したのは、開発課題は決して個別に存在しているわけではなく、相互に深く結びついているということです。一つの課題を解決するためには、その背景にある複合的な要因を理解し、他分野への影響も見据えた包括的な視点が不可欠だと思います。ある分野への介入が、別の分野にどのような波及効果をもたらすのかまで考え抜くことが求められます。
その点、UNDPは、ガバナンスの強化、危機の予防と復興、貧困削減や包摂的な経済成長、さらには気候変動への対応など、幅広い分野を横断的に扱いながら、必要に応じて他の国連専門機関とも連携し、現地のステークホルダーと共に解決策を構築していく組織です。包括的かつ長期的な視点をもって開発に携わることができる環境であると感じ、UNDPを志望しました。
UNDPで勤務する前のご経験で、国際機関の業務に役立ったと感じるスキルや経験はありますか?
まず1点目に、多様なステークホルダーと協働しながら、構想を具体的な成果にしていく力が挙げられます。在フィジー日本国大使館では、日・フィジー外交関係樹立50周年を祝すための広報文化戦略の企画及び実施に携わる機会をいただきました。同事業では、40を超えるフィジーの政府機関、民間企業、現地NGO、メディア関係者などと協議を重ね、連携しながら15件以上の事業を計画・調整・実施しました。立場や目的の異なる関係者の間に立ち、信頼関係を築きながら共通の目標を見いだし、具体的な成果へと導く経験は、現在UNDPでのプロジェクトを形成・実践するうえでも確実に活かされていると感じています。
2点目として、合意を形にしていく文書構築力です。国連日本政府代表部での勤務では、各国の立場や優先順位を読み解きながら、決議案や声明文の文案作成・調整に携わりました。単に文章を整えるのではなく、異なる立場の間に横たわる論点を整理し、どの表現であれば合意可能かを見極めながら文書を構築していく経験を重ねました。この経験は、現在UNDPでプロジェクト文書や、ホスト国・ドナー向け提案書を作成する際にも大いに生きています。各国の政策的関心や優先分野を踏まえながら、プロジェクトの意義や戦略的整合性を的確に言語化することは、プロジェクト形成、資金調達やパートナーシップ形成において不可欠です。国連主要機関やそのアドバイザリーを担う機関において経験した「合意を設計する力」は、開発の現場においても重要な基盤となっていると感じています。
JPO応募前に、事前に取り組んでおくべきだったと考える対策があれば教えてください。
UNDPのJPOとしての業務遂行という観点からは、UNDP特有の戦略、アプローチや業務の進め方を、事前により体系的に理解しておくことは有益だったかもしれません。とりわけ、プロジェクト形成のプロセス、評価・モニタリングの枠組み、報告様式など、UNDPならではの制度や手法については、関連文書を通じて理解を深めておけば、着任後の立ち上がりはさらにスムーズだったと感じています。
UNDPの関連文書という点では、Strategic Plan、応募予定国のCountry Programme Document(CPD)、United Nations Sustainable Development Cooperation Framework(UNSDCF)などが挙げられます。それぞれを深く読み込むというよりは、先ずは応募するポジションにおいて、実際に自分がどのような分野・役割でどのように貢献できるかを考察していく上のガイドラインとして読んでみることをお勧めします。
もっとも、実際の業務を通じて初めて理解できることも少なくありません。現場の文脈や人との関係性の中で学ぶことは多く、それもまた国際機関で働く醍醐味の一つです。だからこそ私は、常に学ぶ姿勢を大切にしながら、一つひとつの業務に誠実に向き合うことを心がけています。
タンザニア平和維持訓練センターにおけるニーズ調査・議論の様子
対話と協働を重ね、持続可能な解決策をカタチに
UNDPの業務の中で最も印象に残っているのは、長期にわたる調整と協議を経て、プロジェクトを実行することができた時です。現在UNDPタンザニア事務所でJPOとして、国境地域におけるコミュニティの強靭性強化や人間と動物の共生、それを通じた社会経済活動の強化を目的としたプロジェクト形成に携わり、政府機関、民間企業(海外のテクノロジー関連企業等)やドナーなど、多様なステークホルダーとの意見調整を重ねてきました。現場の実情や当事者の声を丁寧に踏まえながら実効性のある取り組みを検討し、プロジェクト文書として統合し承認を得るまでに約一年を要しましたが、最終的に実施承認を得た際には大きな達成感を感じました。成果が可視化される以前の段階であっても、課題を実行可能な形へと落とし込むプロセスに携われたことに、UNDPで働くやりがいを強く感じました。
堀場さんが取り組まれたUNDPのプロジェクトが現地でどのようなインパクトに繋がったか教えていただけますか?
例えば野生動物密猟・違法取引対策に関するプロジェクト(IWT: Combating Poaching and Illegal Wildlife Trade through an Integrated Approach)では、制度的能力の向上、組織体制の強化、法制度の整備、イノベーションの推進、さらには社会経済開発の促進といった統合的なアプローチで、タンザニアの天然資源・観光省および森林庁(TFS)との協力の下、過去4年間でタンザニアにおける野生生物犯罪は90%以上減少しました。
気候変動による脅威に対する森林自然保護区の生物多様性保全のための強靭性の強化に関するプロジェクト(BUREFOBI: Building the Resilience of Forest Nature Reserves for Biodiversity Conservation Against Climate Change Threats)では、保護区インフラの建設・維持管理、気候変動リスク評価、森林火災管理研修、能力強化、保護区の村営化に向けた取組を通じて、約1,378名(男性1,005名、女性373名)の短期雇用機会の創出、約4,100ヘクタールの森林管理の強化、地域レジリエンスおよびガバナンスの向上に貢献しました。
ンジンバジ洪水観測地点における日本企業4社による視察・議論の様子
“Think Outside the Box” 挑戦を後押しする環境
JPO制度の大きな魅力は、国連という多国間の現場で実務を担いながら成長できる点にあります。UNDPは170以上の国・地域で培われた知見とグローバルなネットワーク、そして現場密着型の実践力を併せ持つ組織であり、政策形成から案件形成、資金動員、パートナーとの調整まで、開発の一連のプロセスに横断的に関わることができます。
また、現在の職場環境では “Think outside the box” の姿勢が強く奨励されています。既存の枠組みにとらわれることなく、新たな視点からプロジェクトを構想し、革新的なアイデアを提案することが期待されています。さらに、自ら積極的に行動し、新たなドナーや民間パートナーを開拓することも歓迎されており、主体的に挑戦できる組織文化があります。そのため、JPOとして単に与えられた業務を遂行するのではなく、UNDPの価値を体現し、さらに発展させていく役割を担える点に大きなやりがいを感じています。
具体的には、例えばプロジェクトを通じて、目に見えにくい「予防」や「制度強化」を進め、平和と安定の基盤を築く取り組みがあります。私自身、国連日本政府代表部で安全保障や平和構築を担当してきましたが、その長期的な意義を、今は開発の現場で実践として形にすることができています。このように、自身の専門性やこれまでの経験を生かしながらプロジェクトを推進できる環境が広がっていることこそ、UNDPで働く最大の魅力だと考えています。
開発分野のキャリア構築に悩める社会人・学生にアドバイスがあればお願いします。
開発分野のキャリアにおいては、万人に共通する正解や定型的な進路があるというよりは、自身の強みを活かし、どのような立場から貢献していきたいのかという軸を明確にし、それに沿って経験を積み重ねていくことが重要だと思います。一見すると遠回りに見える経験であっても、後に必ずつながります。私自身、異なる分野で培った知見や技能が、現在の政策やプロジェクト形成に生かされています。焦らず自分の軸を見極め、自身の力を発揮できる場を探し、時には自ら機会を創出する姿勢が持続的なキャリア形成につながると考えています。
UNDP学生アンバサダー:
Sun Yan | 星野香菜