日本の教訓と共に、アジア太平洋地域の安全とレジリエンスを共創する
2025年6月5日
ソロモン諸島で実施した津波避難訓練の様子
国連開発計画(UNDP)は、日本政府とのパートナーシップのもと、アジア太平洋地域における災害に強い社会の構築に取り組んでいます。同地域は世界で最も災害リスクの高い地域であり、近年もミャンマーやタイで大規模地震が発生しています。加えて、気候変動の影響によってそのリスクはますます深刻化しており、防災・減災(DRR)における日本の支援はかつてないほど重要性を増しています。
その代表的な取り組みの一つが「アジア大洋州地域津波プロジェクト」です。本プロジェクトでは、生徒、教員、地方行政、地域コミュニティが連携し、津波への備えを強化してきました。
2025年3月、宮城県仙台市で開催された世界防災フォーラム(WBF)において、UNDPはこの流れをさらに推進すべく、防災フォーラム本会合にて、対話型セッションを開催しました。UNDPは過去全てのWBFに参加しており、今年も例外ではありません。本セッションでは、地域津波プロジェクトの主な成果と得られた教訓を紹介するとともに、レジリエンスの強化に対するUNDPの継続的なコミットメントを改めて発信しました。
日本における今回の取り組みを通じて、仙台市、内閣府、外務省、JICA、東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)、さらには民間セクターのパートナーとの対話の機会も広がりました。これらの対話は、2025年2月にバンコクで開催された「アジア太平洋持続可能な開発フォーラム(APFSD)」中にUNDPが主催したサイドイベントで得られた知見をさらに発展させるものとなりました。
今回の世界防災フォーラムへの参加を通じて得られた重要な3つの教訓を共有します。
- 学校と若者に焦点を当てた防災教育の推進
アジア太平洋地域の沿岸部のコミュニティは、津波リスクに最もさらされやすい地域のひとつであり、学校はその最前線に位置しています。世界防災フォーラム(WBF)では、日本の高校生たちが、自らの学校や地域のために津波ハザードマップを作成した取り組みを誇らしげに発表しました。こうした若者の主体的な行動は、「学校」と「若者」に焦点を当てることが、将来を見据えた防災・減災において極めて重要であるという大きな教訓を示しています。
UNDPの地域津波プロジェクトでもこういった学校教育と若者の参加を軸とした防災教育・実践を重視しており、2024年12月時点で、24か国・約800校において計22万人以上の生徒・教員・行政関係者・地域住民を巻き込んだ避難訓練を実施しました。知識の伝達にとどまらず、行動に繋がる教育を推進しています。
こうした学校発の防災活動は、今や地域全体のレジリエンス向上にも貢献しています。アジア太平洋地域では、若者たちが単なる参加者としてではなく、UNDPとシティ財団が共催する「Youth Co:Lab」などのイニシアチブを通じて、積極的に解決策の共創に取り組む存在となりつつあります。
今後の防災・減災には、若者を設計段階から巻き込むことが不可欠です。
- 知見の国際的な共有を可能にする仕組みづくり
日本は長年にわたり、防災・減災(DRR)分野における世界的リーダーとして、国際社会に貴重な知見を提供してきました。世界防災フォーラム(WBF)では、各国が日本の支援を受けてつくりあげた地域主導の防災ソリューションを紹介しました。とはいえ、今後さらに重要となるのは、国境を越えた知見の共有です。互いに学び合い、新たな解決策を共に創出していく取り組みこそが、より持続可能なレジリエンスの鍵となります。
一例として挙げられるのが、日本の支援を受けてUNDPが実施した「DX4Resilience」プロジェクトです。本プロジェクトでは、インドネシア、ネパール、フィリピン、スリランカの4か国において、防災分野におけるデジタル成熟度の評価を行い、各国政府が自国の進捗状況を把握し、国家レベルのデジタル化戦略を策定する支援を行いました。さらに、この手法は、世界13か国におけるSDGsおよび仙台防災枠組の指標に対応した「災害損失データ」の現状分析にも活用されています。
地域・都市・機関を超えたパートナーシップを拡大することで、複雑化・連鎖化する災害リスクに、より迅速に対応できる体制づくりが可能となります。
- 民間セクターとの連携強化
災害は、アジア太平洋地域の開発を大きく後退させるリスクをはらんでいます。WBFでは、AIを活用し、SNS・衛星画像・CCTV映像などを用いてリアルタイムの災害情報を可視化する最先端の民間ソリューションも紹介されました。
現状では、民間セクターはまだ防災分野で十分に活用されていませんが、日本の経験はその可能性を強く示しています。UNDP・富士通・IRIDeSが連携して進める「災害統計のためのグローバルセンター(GCDS)」では、カンボジア、インドネシア、モルディブ、ミャンマー、ネパール、フィリピン、スリランカの7か国において、災害統計能力の向上を支援しました。これにより、各国は自国のリスクを可視化し、実効性ある対策を講じることができるようになっています。
今後はさらに、民間セクターとの協働を深化させることが、アジア太平洋地域の強靭性を高める上で必要です
よりレジリエントなアジア太平洋に向けて
日本で得られた経験と教訓は、防災・減災(DRR)をより包摂的に、革新的に、そして実効性のあるものにしていくという、日本とUNDPの共同のコミットメントを改めて強く裏付けるものとなりました。
仙台防災枠組の達成期限まで、残された時間はわずか5年を切りました。今こそ行動のときです。UNDPは、日本とともに、より包摂的で、革新的かつ実効性のある防災・減災を推進していきます。若者を中心に据え、国境を越えた知見の共有を促進し、民間セクターとの連携を強化することで、アジア太平洋地域のすべての人々にとって、より安全でレジリエントな未来を共に築いていきます。
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