デジタル金融を通じた包摂的な経済参加の推進
開催報告:アフリコンバース 2026 第3回 金融包摂をめぐるアフリカ×日本対話
2026年8月25日
アフリコンバース 2026の第3回「金融包摂をめぐるアフリカ×日本対話:デジタル金融を通じた包摂的な経済参加の推進」が、2026 年7月23 日、国連大学2階レセプションホールとオンラインをつなぐハイブリッド形式で開催されました。当日は、会場とオンラインを含め、230名以上が参加しました。政府、国際機関、研究者、民間企業など多様な立場の登壇者が、アフリカにおける金融包摂の可能性と課題を議論しました。
本イベントでは、アフリカで広がるデジタル金融を、送金や決済を可能にする手段にとどめず、所得の向上、リスクへの備え、事業への投資、資産形成を支える仕組みへと発展させるには、どのような制度や連携が求められるのかが議論されました。主な論点として、異なる金融機関やサービスの間で円滑に取引できる決済システム、デジタル ID、責任あるデータ利用、適切な規制、官民連携に加え、デジタル・リテラシーと消費者保護が挙げられました。
また、若者、女性、農家、低所得層など、十分な金融サービスを受けていない人々にとっての「意味のある金融包摂」を軸に、代替データを用いた信用評価、返済能力に即した融資、地域の信頼や文化への理解、AI の偏りへの対応、そしてアフリカと日本の共創と資金供給のあり方について意見が交わされました。
〈登壇者(敬称略)〉
開会挨拶
・高橋 美佐子 - 外務省アフリカ部長
基調講演・モデレーター
・レイモンド・ギルピン - UNDP アフリカ局チーフエコノミスト戦略・分析・調査チーム長
パネルディスカッション
・菅原 鈴香 - JICA 貧困削減担当シニア・アドバイザー
・井上 武 - 神戸大学大学院国際協力研究科 准教授
・小林 嶺司 - HAKKI GROUP 共同創業者兼 CEO
・デボラ クジョー - Eduvora Connect 代表、株式会社太陽油化 国際事業開発担当
閉会挨拶:
・塩塚 美那子 JICA アフリカ部次長
開会挨拶
開会にあたり、高橋 美佐子氏は、デジタル金融を人々の生計向上や事業成長につなげ、アフリカにおける包摂的な経済参加をさらに推進することの重要性を強調しました。
アフリカでは、携帯電話を活用した金融サービスが一気に普及する「リープフロッグ」が進み、モバイルマネーの保有率は40%と高水準に達しています。その一方で、借入や貯蓄といった金融サービスの利用はなお限られている現状を踏まえ、金融包摂を、単に送金や決済を可能にする段階から、人々が安定した生計を築き、リスクに備え、事業に投資し、継続的に所得を生み出せるよう支える段階へと発展させる必要があると述べました。
また、フィンテックの可能性を十分に引き出すためには、決済システムやデジタルID、責任あるデータ利用、適切な規制、官民連携といった、信頼性と包摂性を備えたデジタル金融基盤の整備が不可欠だと強調しました。一方で、デジタル・リテラシーの格差や消費者保護の弱さが、かえって金融サービスから取り残される人々を増やす可能性にも注意を促しました。最後に、今回の対話が、TICAD9で掲げられたデジタル変革、民間セクターの成長、若者のエンパワーメントを促進し、政府、金融機関、企業、次世代の担い手による実践的な連携へとつながることへの強い期待を示しました。
高橋美佐子 外務省アフリカ部長
基調講演
UNDP アフリカ局のレイモンド・ギルピンは、「共通の優先課題としての金融包摂」をテーマに基調講演を行いました。金融包摂とは、物理的な銀行へのアクセスを超えて、誰もが安全かつ公平なデジタル金融サービスを利用できる状態であり、こうした仕組みは、農村部と都市部、そして男女間にみられる金融サービスへのアクセスの差を縮める役割を果たすと述べました。
それを実現するための条件として、ギルピンは三つの柱を示しました。第一に、少額の送金や決済に伴うコストを引き下げ、日常的に利用できる金融サービスとすること。第二に、携帯電話や地域の代理店網を活用し、銀行支店のない地域にもサービスを届けること。第三に、デジタル金融の利用を送金や決済にとどめず、貯蓄や投資を通じた長期的な資産形成へとつなげることです。アフリカでは、他地域の国家主導型や大手テクノロジー企業主導型とは異なり、通信事業者と地域の代理店ネットワークが普及を牽引してきたと説明し、高い携帯電話普及率と必要性から生まれたイノベーションが、段階を飛び越えた発展を可能にしたと指摘しました。
また、デジタル金融は企業の取引コストを30~40%削減するとともに、現金を家庭内などに保管し、銀行口座を介さずに行われてきた経済活動、いわゆる「マットレス経済」を可視化し、税基盤の拡大や経済活動の制度化にもつながると述べました。
レイモンド・ギルピン UNDPアフリカ局チーフエコノミスト兼戦略・分析・調査チーム長
パネルディスカッション:デジタル金融を経済的な自立につなげるために - フィンテックを通じた金融包摂の再構想
パネルディスカッションでは、基本的なデジタル金融へのアクセスを、信用、資産形成、リスクへの強靭性、事業成長へと結び付けるための方策が議論されました。アカデミア、JICA、スタートアップ、民間事業の立場から、十分なサービスを受けていない人々にとって何が「意味のある包摂」なのかが検討されました。
第1ラウンド:アクセスからエンパワーメントへ
神戸大学の井上氏は、金融包摂を金融発展における新しい概念として捉え、従来、開発途上国では銀行支店網の不足が金融アクセスを制約してきたと説明しました。一方、モバイルマネーによってサブサハラ・アフリカは世界を先導するようになり、モバイルマネー口座の保有率が銀行口座の保有率を上回る世界 20 か国のうち 19 か国が同地域にあると紹介しました。
また、世界銀行の「Global Findex 2021」の分析から、モバイルマネー利用者は比較的若く、識字能力があり、中所得から高所得層で、送金の受取人である傾向がある一方、銀行口座利用者はより年齢が高く、高学歴である傾向も示しました。アフリカで若年人口が拡大することが、今後のデジタル金融普及を後押しすると述べました。
HAKKI GROUP の小林氏は、ケニアのタクシー運転手が 1 日 12 ドルの車両レンタル料を支払い、18 か月では車を購入できるほどの約5,000ドルに達するにもかかわらず、従来の銀行融資を利用できるのは人口の 5%にとどまる状況を紹介しました。こうした金融アクセスのギャップに対応するため、同社では M-Pesa の取引明細や位置情報、API による自動記帳などのデータを活用して返済能力を評価し、車両を裏付けとした融資を提供しています。
その融資の判断にあたっては、タクシー運転手の実際の収入状況を重視し、月間総収入9万5,000ケニア・シリング(約735米ドル)を一つの基準としています。基準を下回る場合にはすぐに融資を行うのではなく、走行ルートや需要の分布を基に収入改善を支援した上で、改めて融資の可能性を検討します。さらに、無担保融資ではなく車両を裏付けとすることで、借り手の返済能力を超えない責任ある融資を目指していると説明しました。
Eduvora Connect 創設者で、TOKYO8 GLOBAL の国際事業開発を担当するクジョー氏は、デジタル金融の普及が、若者、女性、農家の実際の経済参加に必ずしも結び付いていないと指摘しました。ガーナでは新型コロナウイルス感染症以降、モバイルマネーの利用が38%増加した一方、正式な借入へのアクセスは 9%未満にとどまると紹介しました。また、かつて母親が銀行で多くの書類や保証人を求められた経験を振り返り、課題は金融機関への物理的なアクセスから、利用者のニーズに合った金融サービスをどう設計するかへと移っていると述べました。
さらに、十分な金融サービスを受けていない人々に届けるには、地域に根差した信頼、言語、文化への理解が欠かせないと強調しました。アフリカの起業家が、TOKYO8 のバイオ肥料技術など日本の技術と農村部の農家をつなぐ橋渡し役となる事例を挙げ、現地の人材や関係性を生かした仕組みづくりの重要性を示しました。
JICA の菅原氏は、「意味のある金融包摂」とは、単に口座やアプリを利用できることではなく、低所得者や女性が安全に貯蓄し、予期せぬ困難に備えながら、将来の生計に投資できる状態だと説明しました。そのためには、地域の実情に即したコミュニケーションと、ROSCAs (Rotating Savings and Credit Associations)、信用組合、協同組合など、地域で信頼されてきた組織の役割が重要だと述べました。また、デジタル金融を真に包摂的なものにする条件として、「高度な技術」「地域の文脈への深い理解」「人による監督」を挙げました。過去のデータに女性や農村部の人々が十分に反映されていなければ、AI による信用評価が既存の男女差や都市偏重を再生産・拡大するおそれがあるとして、多様な利用者を考慮した設計と人による適切な管理の必要性を強調しました。
左:デボラ・クジョー Eduvora Connect代表 右:小林嶺司 HAKKI GROUP共同創業者兼CEO
第2ラウンド:アフリカと日本の協働
続く第2ラウンドでは、国境を越えた知識移転、資金供給、対等な国際連携のあり方が議論されました。
井上氏は、南アジアとインドの経験から、Aadhaarのような生体認証型デジタル ID によって本人確認コストを下げること、UPI のような相互運用可能な決済基盤によって分断された市場をつなぐこと、規制サンドボックスなど柔軟な制度によってイノベーションと消費者保護の均衡を図ることの重要性を示しました。また、バングラデシュのbKash を、支援的な規制が包摂的なデジタル金融の成長を後押しした例として紹介しました。
小林氏は、日本企業が約360兆円の余剰資金をほぼゼロの金利のもとで保有する一方、アフリカでは借入金利が 15~20%に達するという資本のミスマッチを指摘しました。日本企業に対し、アフリカで事業を展開するフィンテックの成長を支える、長期的視点に立った低コスト資金の提供を呼びかけました。
クジョー氏は、アフリカと日本の協力を一方向の支援にとどめず、アフリカの起業家や地域社会をパートナー、そして意思決定者として位置付ける共創へ移行する必要があると述べました。既に現地にある考え方と能力を基礎にし、地域で実践できる形で知識を移転すること、また、状況に応じて無償資金ではなく融資を用いることで、説明責任を強めることを提案しました。
菅原氏は、開発パートナーには、投資リスクを下げ、規制とデジタルエコシステムを強化し、金融イノベーションが包摂的かつ責任あるものとなるよう支える役割があると述べました。同時に、デジタル金融で先行するアフリカの主導性を認めた上で、アフリカと日本が共に解決策をつくることの重要性を強調しました。
菅原鈴香 JICA貧困削減担当シニア・アドバイザー
質疑応答
農村部で採算がすぐに見込めない場合でも、通信・フィンテック企業にサービス維持とネットワーク整備の責任をどう求めるかという質問に対し、井上氏は、デジタル金融が成熟するほど、政府による強固な制度と規制が重要になると回答しました。中長期的には、国家が民間事業者を支援すると同時に監督し、包摂的なインフラとサービスを維持する必要があると述べました。
また、フィンテックは従来の信用制約を置き換えるものか、一時的な橋にすぎないのかという問いに対し、ギルピン氏は、デジタル金融は基礎的な金融システムの全面的な代替ではなく、人々の力を引き出すための手段であり橋であると説明しました。技術には、支援的な規制、リスク軽減、利用者自身の主体性を組み合わせる必要があると強調しました。
協同組合型金融や地域固有の知識をデジタル技術と組み合わせる可能性について、菅原氏は、信頼に基づく協同組合型・関係性重視型の金融には学ぶべき点があると応じました。地域のマイクロファイナンス機関や協同組合は既に信頼を有している一方、大手フィンテックとの競争の中で存続するためには、業務レベルでのデジタル化が必要だと述べました。
デジタル基盤が弱く、政府への信頼も低い地域で何を優先すべきかというオンライン参加者からの質問に対し、クジョー氏は、文化や社会的受容は固定されたものではなく変化すると指摘しました。新しい技術を既存の現場に押し付けるのではなく、国の発展に資する手段として誠実に受け止め、地域社会との協力と包摂的な調整を重ねる必要があると述べました。
さらに、脆弱・紛争影響地域で責任ある金融を維持する方法について、小林氏は、国家規制が弱い市場や高リスク環境では、民間の貸し手が厳格な内部コンプライアンスと自主規制を徹底する必要があると回答しました。過度な金利を課すのではなく、地域の中小企業を直接支える、価値観を共有した双方に利益のある事業モデルを追求すべきだと強調しました。
塩塚美那子 JICAアフリカ部次長
閉会挨拶
閉会挨拶で、JICA の塩塚氏は、意味のある金融包摂は、経済参加、強靭性、機会を広げるものでなければならないと述べました。ルワンダでの経験を踏まえ、モバイルマネーが小規模事業者、女性、若者にもたらす利点を示す一方、より強いデジタル・リテラシーと消費者保護の必要性を指摘し、アフリカと日本のより深い共創を呼びかけました。
今回の議論を通じ、金融包摂の成否は、口座やアプリへのアクセスの有無だけでは測れないことが示されました。人々が安全に貯蓄し、ショックに備え、事業や将来の生計に投資できるようにするには、技術だけでなく、地域の信頼、包摂的な設計、人による監督、責任ある規制、長期的な資金、そしてアフリカと日本による対等な共創を一体として進めることが重要です。