Digital X 3.0がつなぐ、人間の安全保障への実装
Digital X 3.0 日本発デジタルソリューション18選
2026年4月29日
国連開発計画(UNDP)が推進するDigital Xは、各国が直面する課題と、すでに実績のあるデジタルソリューションをつなぎ、国境を越えた実装を後押しするプラットフォームです。
その最新フェーズであるDigital X 3.0では、「人間の安全保障」を軸に、デジタル公共財やオープンソースを含む実用的な技術を、各国の具体的な課題と結びつけることに取り組んできました。単なる技術の紹介にとどまらず、UNDPカントリーオフィスや政府と連携しながら、実際の導入や活用につながる形で支援を行っている点が特徴です。
2025年1月以降、日本発のデジタルソリューション18件が新たにDigital X Solution Catalogueに掲載されました。農業、災害対応、ガバナンス、金融、保健など幅広い分野にわたり、それぞれの現場課題に応える実用的な技術が揃っています。
本記事では、それらのソリューションを分野ごとにご紹介します。
地理空間・衛星データ解析
災害、環境、都市計画、資源管理などの分野では、地理空間情報や衛星データを活用して状況を把握し、意思決定につなげることがますます重要になっています。本カテゴリでは、そうしたデータを取得・解析・可視化し、政府や現場の判断を支えるソリューションをまとめています。
- Shigen AI & Solafune Planetary Intelligence Platform
Solafuneが提供する、衛星データを実用的なインサイトに変えるAI活用型の地理空間解析プラットフォームです。鉱物資源管理、環境変化の把握、災害リスク分析などに活用でき、自然言語で操作できる「ShigenBot」により、専門的な地理空間分析の知識がなくても利用しやすい設計となっています。 - SAR Analytics Solution by Synspective
Synspectiveは、自社のSAR衛星「StriX」に加え、他のSARデータも統合しながら、地盤沈下、洪水被害、違法伐採などを把握する解析プラットフォームを提供しています。天候や昼夜の影響を受けず、広域を高精度で観測できることから、災害対応やインフラ管理、環境監視に役立つソリューションです。 Re:Earth Ecosystem
Eukaryaが展開するオープンソースのウェブベース地理空間プラットフォームです。データ処理、管理、可視化、公開までを一体的に行うことができ、専門的なコーディングや高価なソフトウェアを必要としません。行政、NGO、地域コミュニティなどが地理空間データを扱いやすくすることで、計画立案や災害対応、オープンデータ活用を支えます。- Smart Maps for Development
低帯域環境でも使いやすい、オープンソースかつ設定ベースのウェブ地図ソリューションです。言語やブランドのローカライズがしやすく、軽量な構成で導入できるため、限られた予算や技術体制の中でも、政府や開発・人道支援関係者が地理空間情報を素早く公開・活用しやすくなります。
気候・農業・環境ソリューション
Photo: Unsplash
気候変動や環境劣化が進む中で、農業、水、自然環境を守りながら持続可能な生計を支えることは重要な課題です。本カテゴリでは、AIやロボティクス、センシング技術を活用し、農業生産性の向上や資源管理の効率化に貢献するソリューションをご紹介します。
- AGRIST AI and Harvesting Robot
AGRISTは、AIとロボティクスを組み合わせ、農業分野における労働力不足と収穫ロスの課題に対応するソリューションを提供しています。温室内での自動収穫に加え、生育状況や病害の把握にも活用でき、夜間を含む収穫作業の自動化によって、生産性と収益性の向上を支援します。 - BirdShield AI
鳥による農作物被害に対し、AI、ドローン、早期警戒システムを組み合わせて対応する非致死型ソリューションです。農家や農業普及員からの報告をもとに高リスク地域を可視化し、必要な場所にのみドローンを展開して鳥を安全に追い払う仕組みで、食料安全保障と環境保全の両立を目指しています。 - KnoWaterleak
Tenchijinが提供する、AIと衛星データを用いた水道インフラ管理プラットフォームです。地表温度や地盤変動、配管データ、保守履歴などを統合し、漏水が起こる前の潜在リスクを予測します。これにより、従来の事後対応型の維持管理から、予防的かつ持続可能な水管理への転換を支援します。 - Aqua Quantification and Tracking Network for Observing Waste(AQTNOW)
Alpha Space Designlabによる、宇宙から海洋ごみの状況を可視化するプラットフォームです。衛星観測と地上データを組み合わせ、河川、沿岸部、海域におけるごみの分布や変化を可視化することで、政策立案、研究、地域の行動変容に役立つエビデンスを提供します。
防災・都市レジリエンス
災害の激甚化や都市リスクの高まりに対し、迅速かつ正確な情報把握は不可欠です。本カテゴリでは、災害発生時の状況認識を高めるものから、長期的な都市のリスク管理を支えるものまで、防災とレジリエンス強化に資するソリューションを紹介します。
- Spectee Pro
Spectee Proは、SNS、気象センサー、公共カメラなどの情報をAIで分析し、リアルタイムの災害情報を可視化する危機管理プラットフォームです。ノイズや誤情報を除去し、信頼性の高い情報を迅速に届けることで、行政や防災関係者の初動対応を支えます。
包摂的デジタル経済と生計
デジタル技術は、新しい収入機会やサービスアクセスを生み出す一方で、接続性やスキルの差によって恩恵が届きにくい人々もいます。本カテゴリでは、そうした格差を埋めながら、より多くの人がデジタル経済に参加できるようにするソリューションを取り上げます。
- d.CONNECT
Dots forによる、低コストの分散型メッシュWi-Fiネットワークとデジタルサービス基盤を組み合わせたソリューションです。電力や通信インフラが限られた農村部でも接続性を確保し、金融、教育、保健、電子商取引などへのアクセスを広げることで、地域経済への参加を支えます。 - Robo Lab® – Innovation OS Without Border
Robo Co-opによる、難民や避難民を中心とした人々に対し、デジタルスキルトレーニング、実務経験、就業機会を一体で提供する協同組合型の人材プラットフォームです。学び、働き、次の参加者を支える循環型モデルを通じて、包摂的なデジタル生計の実現を目指しています。 - Tourist Smart Pass
TOPPAN Ecquariaが提供する、観光に関わるサービスを一つのデジタル基盤に統合する政府連携型プラットフォームです。旅行者には利便性を、政府には観光動向の把握を、小規模・地域密着型の事業者には正式な市場参加の機会をもたらし、観光収益のより包摂的な分配を支援します。 - AI Coach for Children
I'mbesideyou Inc.による、子どもの心理的・認知的な発達を支えるデジタルコーチングプラットフォームです。答えをすぐ与えるのではなく、対話を通じて自分で考える力や自己理解を育てることを重視しており、メンタルヘルスや成長支援の観点からも意義のあるソリューションです。
ガバナンスと公共サービス
行政、司法、文化資源管理などの分野では、情報を適切に蓄積・分析・共有することが、より良い公共サービスの基盤になります。本カテゴリでは、公共性の高い領域におけるデジタル化を支えるソリューションをご紹介します。
- Crime Nabi
Crime Nabiは、犯罪発生リスクの高い場所や時間帯を予測し、パトロールや監視資源の配置を最適化するAIベースの治安支援システムです。犯罪履歴や人口動態、建物情報、衛星画像、環境要因など多様なデータをもとにリスクを可視化し、より効果的かつ説明可能な公共安全運用を支援します。 - Digital Archive Content Management System
Local Media Labsが提供する、図書館や博物館などが所蔵する歴史資料をデジタル化し、オンラインで公開・活用できるようにするコンテンツ管理システムです。IIIFなどの国際標準に対応し、ライセンス管理や二次利用ルールも整理しながら、教育、研究、文化継承に資するアクセス拡大を実現します。
デジタル金融と包摂
金融サービスへのアクセスは、生活の安定だけでなく、経済活動への参加や地域の成長にも直結します。本カテゴリでは、従来の金融インフラから取り残されがちな人々も含め、より多くの人が安全で効率的な決済や資金移動を利用できるようにするソリューションを紹介します。
- BAKONG and Central Bank Digital Currency(CBDC) platform
Soramitsuが設計した、カンボジアのブロックチェーンベースのデジタル決済・CBDC基盤です。既存の金融機関と接続しながら、リアルタイム決済、低コスト送金、デジタルウォレット利用を可能にし、銀行口座を持たない人々も正式な金融システムに参加しやすくすることで、金融包摂を促進します。
デジタルヘルスと社会サービス
保健医療分野では、気候変動や都市化の影響により、感染症リスクがより複雑になっています。本カテゴリでは、リアルタイムデータやAIを活用して、予防的かつ効率的な公衆衛生対応を支えるソリューションを取り上げます。
SORA Mosquito Control & Health Intelligence Room
SORA Technologyによる、衛星データ、ドローン、気候・水文モデル、地上データを組み合わせた公衆衛生向けのリスク分析プラットフォームです。マラリアやデング熱などの媒介感染症リスクを可視化し、高リスク地域の特定や現場対応の優先順位付けを可能にすることで、気候変動下でのより効果的な保健介入を支えます。- AI Maternity Alert-Monitor
Spikerが提供する、AIによる胎児モニタリングと日本の助産ケアの知見を組み合わせた母子医療支援ソリューションです。医療人材やスキルが限られた環境でも、AIが胎児のリスク状態をリアルタイムで検知し、早期対応を可能にします。低コストかつ導入しやすい設計により、周産期医療の質の向上と母子の安全確保に貢献します。
おわりに
今回追加された18のソリューションは、それぞれ異なる課題に対応しながらも、共通して実社会の課題解決につながる高い実用性を備えている点に特徴があります。
Digital X 3.0は、こうしたソリューションを単に掲載するだけではなく、各国のニーズと結びつけ、実装に向けた対話や連携を進めてきました。その積み重ねが、カタログの拡充と、具体的な協働の可能性の広がりにつながっています。
日本のデジタル技術と知見が、世界各地の課題解決にどのように貢献できるのか。Digital Xは、その可能性を具体的な形で示していく取り組みでもあります。
Digital Xの詳細や掲載ソリューションについては、以下をご覧ください。
・Digital X公式サイト:https://digitalx.undp.org/
・Solution Catalogue:https://digitalx.undp.org/catalog_1.html