ブルー生態系が切り拓く持続可能な未来

ASEANブルーカーボン・ファイナンス・プロジェクト始まる

2025年6月18日
Photo: UNDP Indonesia

海の自然が、実は気候変動対策の“切り札”になるかもしれない。そんな可能性を秘めた「ブルーカーボン(Blue Carbon)」という言葉を、聞いたことはありますか?

私たちが普段あまり意識しない「海の自然」が、実は大気中の二酸化炭素をものすごい勢いで吸収し、地球温暖化を抑える大きな力を持っているのです。そんな海の力に注目し、いまASEAN地域でとても面白いプロジェクトが稼働しています。

ブルーカーボンが鍵を握る― 日本支援のASEAN地域プロジェクト

2025年、国連開発計画(UNDP)が日本政府の支援を受けてスタートした「ASEANブルーカーボン・ファイナンス・プロジェクト」。これは、海草や泥炭地などのブルー生態系が持つ“炭素を吸収する力”=ブルーカーボンに注目し、それを活かして持続可能な経済を実現しようという取り組みです。昨年度の「ASEANブルー・イノベーション・プロジェクト」と同様、プロジェクトの舞台は、海に囲まれ、豊かな海洋資源を持つASEAN10カ国と東ティモール。

「海草」や「泥炭地」は、ただの自然じゃない。

たとえば海草(シーグラス)。静かな海の底に揺れる緑の植物たちは、実は同じ面積の森林のなんと最大35倍もの炭素を吸収してくれる、超優秀な炭素吸収源なのです。

泥炭地(ピートランド)も侮れません。数千年にわたって炭素を蓄え、1ヘクタールあたり1,000トン以上もの炭素を固定できる“天然のカーボンバンク”。これらの生態系を守り、適切に活用すれば、ネットゼロ社会の実現にぐっと近づけるのです。

Group of people in matching shirts holding a banner on a sandy beach.

2025年6月に開催されたブルーカーボンワークショップには、ASEAN10カ国および東ティモールからブルーカーボン専門家が参加し、海草(シーグラス)を対象としたカーボンシンク測定手法が共有されました。

Photo: UNDP Indonesia
Group of people in green shirts conducting beach cleanup, using tools near the water.

ワークショップでは、パイプを一定の深さまで埋め込み、サクションによって海草のサンプルを採取する方法が紹介されました。

Photo: UNDP Indonesia

では、これらの生態系の価値を、どのようにして市場経済の中で評価・活用していくのでしょうか?

そこで重要となるのがブルー生態系の保全や再生・修復により吸収される炭素に市場価値を創出するカーボン・クレジットとの概念。企業が自社の炭素排出量を相殺したり、各国がパリ協定の下に約束した「自国が決定する貢献つまり国別貢献(NDC)」を支えたりするために活用することが可能です。 

こうしたブルーカーボン・クレジットへの需要や、ブルーカーボン関連プロジェクトへの関心が高まっている一方で、依然として資金は十分なスピードと規模で動いていないのが現状です。このようなプロジェクトに対する資金提供自体は可能であっても、適切なプロジェクトに実際に資金が届くまでには、時間と仕組みの壁が存在すると指摘されています。

日本では「Jブルークレジット」という制度がすでに始まっており、ブルー生態系の炭素吸収量が国内ですでに取引されています。 ところが、ASEAN諸国では、まだこの市場が発展途上。多くは国際的なボランタリーカーボン市場や限られた二国間取引にとどまっています。ブルーカーボンの真価を発揮するには、現地に根ざしたしくみを利用し、革新的な資金調達の方法が必要なのです。 

ブルー経済はASEAN諸国のSDGs達成の鍵。

実はASEAN諸国の中には、GDPの30%までもが漁業、観光、海洋エネルギーなど海に関わる産業から生み出されている国もあります。中でも小規模漁業は、何百万人もの人々の暮らしを支える重要な基盤です。こうした背景から、ブルーエコノミーは、持続可能かつ包摂的なSDGsの達成において極めて重要なセクターとなっています。さらに最近では、デジタル技術を使った漁業や海洋バイオテックなど、新しい産業も生まれつつあります。まさにブルー経済は、ASEANの成長エンジンになろうとしているのです。しかし、その成長を持続可能にして包括的にするためには資金が必要です。

実際、気候変動への対応に必要なインフラ投資額は、ASEAN全体で年間2,100億米ドルにのぼると試算されています。しかし、2022年に実際に動いた公的な気候資金はわずか260億ドルにとどまりました。民間資金を加えても、その額は約2倍に過ぎず、全体で必要額の40%にも満たないのが現状です。この深刻な資金ギャップをどう埋めるか。その鍵を握るのが、ブルーファイナンスなのです。

このプロジェクトで目指すこと

このプロジェクトでは、大きく3つのゴールを掲げています:

  1. 海草と泥炭地のブルーカーボン評価:衛星データや現地調査を通じて、科学的に正確なカーボンストック(炭素貯留量)を測定。
  2. ASEANに合ったブルーファイナンスの提案:地域の実情に即した、現実的かつ革新的な資金調達策を考案。
  3. エキスパートネットワークの構築:研究者、政策担当者、投資家をつなぐ知識と行動のハブを作る。

 

本プロジェクトの一つのハイライトは2025年大阪・関西万博!

このプロジェクトの大きな節目となるイベントが、2025年の大阪万博で予定されています。

  • 日程:2025年9月27日(土)
  • 場所:大阪・夢洲の万博会場「エキスポサロン」
  • 内容:ASEAN各国の研究成果をもとに、ブルーカーボンとファイナンスの未来を語るワークショップ。研究者、政府関係者、金融関係者、学生など、100名規模の参加を予定。

このイベントは、アイデアを共有し、実際のプロジェクトにつなげるための実践的な場となります。

未来を変えるのは、私たちの想像力と行動力。

ブルー生態系を守ることが、経済を活性化する。炭素を減らすことが、地域の暮らしを豊かにする。ブルーカーボンは、そんな希望を秘めた自然のシステムです。そして、それを動かすファイナンスのしくみは、まだまだこれから形作っていく段階。

このプロジェクトは、自然と経済の間に橋をかける新しい挑戦。ASEANと日本がともに未来を描く「青い経済革命」、ぜひこれからの展開にご注目ください。

お問い合わせ 

UNDPインドネシア事務所 ブルー経済テクニカルスペシャリスト 岡本聡子(Satoko Okamoto) satoko.okamoto@undp.org