グローバルヘルスのリーダーシップとは、他者が後退する時にこそ立ち向かうこと
日本、TICADでアフリカの保健の未来を後押し
2025年8月21日
ワクチンの現地生産からデジタルインフラの整備、再生可能エネルギーの普及に至るまで、日本はアフリカの保健イノベーションに投資しています。
グローバルヘルスが大変革期を迎える中で、連帯はかつてなく重要になっています。他の国々がコミットメントを弱める中で、日本は逆に、人間の尊厳と安全保障に重きを置きながら、共有の未来への着実な投資を続けています。
アフリカ主導型の開発を提唱するフォーラムである第9回アフリカ開発会議(TICAD9)で、日本は若年雇用とデジタル・トランスフォーメーション(DX)を課題の中心に据えることで、この理念を守り抜く決意を改めて確認しています。こうした優先課題に沿い、独立行政法人国際協力機構(JICA)はアフリカ全土でインフラ整備、教育、イノベーションを支援するため、債券発行による1億6,000万米ドルの調達を発表しました。この取り組みは、日本の企業と金融機関に対し、アフリカ諸国と連携し、これに投資することによって相互に利益を得るよう働きかけるという点で、大きな意味を持っています。
グローバルヘルス分野での日本のリーダーシップは古くから、責任の共有と連帯の強い意識に根差しています。豊かな国々は日本を模範として、アフリカでパートナーシップを構築し、確立されたイノベーションの普及を図るとともに、持続可能な成長を促進すべきです。このアプローチは国内の製造業、デジタルヘルス面でのイノベーション、気候変動に強い医療システムという、アフリカ主導型のソリューションがすでに進展しつつある分野で、特に大きな変革を実現できる可能性があります。ガーナのジョン・マハマ大統領が招集した「アフリカ保健主権サミット」で採択された「アクラ・コンパクト」は、アフリカ諸国に国民の健康状態を決定づけるリーダーシップと主権が備わっていることを確認しています。
日本は10年以上にわたり、新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(ADP)とグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)の双方を支援し、医療技術の開発と、これを最も必要とする人々への提供を図ってきました。国連開発計画(UNDP)とGHIT Fundのこの革新的パートナーシップは、検査施設から病床に至るまで、ワクチンや医薬品、診断法を含む医療関連イノベーションのプロセス全体を支援しています。GHITが研究開発を促進する一方で、UNDPが主導するADPは、各国やコミュニティとの連携により、最終製品の導入と普及を図っています。
日本は10年以上にわたり、UNDPが主導する新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップを支援し、アフリカ大陸全体への医療技術の普及を図ってきました。
最近の成功例として、就学前児童に対する住血吸虫症の新たな治療選択肢の開発と展開が挙げられます。これは寄生蠕虫を原因とする感染症で、未就学児5,000万人が罹患しています。主に熱帯地域で見られる住血吸虫症は貧血や発育不全、認知発達障害を引き起こします。
6歳以下の幼児は、小型の錠剤で治療が可能になりました。GHIT Fundとドイツの製薬会社メルクが主導する「小児用プラジカンテル・コンソーシアム」が連携してこの薬を開発し、ケニアの製薬会社Universal Corporation Limited(UCL)に技術移転を行ったからです。UCLはこの協業により、ケニア国内でこの新薬を製造できるようになったため、影響を受けているコミュニティに治療薬への持続可能なアクセスが確保されました。
この現地生産への移行は、アフリカ全土で広がっています。セネガルからルワンダ、そしてさらに多くの国々が急速に、診断法やワクチン、医薬品の地域的な生産拠点へと進化しつつあります。2024年には、ダカール・パスツール研究所(IPD)が治療薬製造施設を新設したのに加え、2023年にはルワンダがBioNTechとの協業により、アフリカ初のmRNAワクチン製造拠点となる可能性のある施設を立ち上げています。
同時に、デジタル技術とAIもアフリカにおける医療システムの未来を変えつつあります。
6月には、アフリカ連合(AU)加盟50か国がオンコセルカ症、デング熱などの顧みられない熱帯病(NTDs)の撲滅を加速するため、アフリカ疾病予防管理センター、世界保健機関(WHO)その他のパートナーが共同で製作したデジタル・マイクロプランニング・ツールを承認しました。現地で開発されたツールが普及すれば、防疫体制が強化される一方で、疾病が流行した場合にも、これを抑え込み、壊滅的な影響を避けられるようになります。
このようなイノベーションの台頭は、アフリカがDXの新たな拠点となりつつあることを如実に示しています。アフリカのデジタル経済が2035年までに7,120億ドル規模へと成長する見通しの中で、投資家には、このデジタルインフラ・ブームを支援する強力なインセンティブがあります。
「アフリカ諸国は、他の国々も参考とできる気候変動に強い医療システムへのアプローチを切り開いています」
日本はすでに時代を先取りしています。ここ数年来、日本はガーナとの連携により、同国の主な入国地点4か所に移動検査所を設け、防疫体制の強化を図っています。今年に入ってからも、日本とコートジボワールは共同で、UNDPのトンブクトゥ・イニシアティブに対する支援を表明しました。若いアフリカ人が主導するスタートアップの起業機会を促進する取り組みですが、その中には、アフリカ全土の保健医療部門でイノベーションを広めることに重点を置く医療技術アクセラレーターも含まれています。
そして最後に、イノベーションと投資は異常気象の不当に大きな影響を受ける国々で、特に緊急性が高まっています。アフリカ諸国は、他の国々も参考とできる気候変動に強い保健医療システムへのアプローチを切り開いています。地域の先進的な取り組みである「アフリカ適応加速プログラム」は、各国を気候変動のショックから守るため、すでに150万ドル以上を動員しています。また、UNDPと各国政府その他のパートナーが共同で進めている「ソーラー・フォー・ヘルス」や「スマート・ヘルス・システム」といった取り組みによって、14か国の保健医療施設1,000か所に電力が安定供給され、医薬品やワクチンの冷蔵保存と継続的な照明が確保されています。
医療システムへの気候変動の影響が加速する中で、こうしたプログラムを持続可能な形で拡大し、今後の脅威から医療システムを守らなければなりません。
投資の優先順位もこれに整合させねばなりません。日本が先頭となって取り組めば、他の国々もこれに続き、持続可能で公平、包摂的かつ相互に利益となる施策に資金を提供するはずです。それは単に健全な政策であるだけでなく、私たちが共有する未来にとって欠かせない条件でもあるのです。
この記事はNikkei Asiaに掲載されたものを翻訳した記事です。