地球のために、現場から
2026年10月20日
生物多様性は食料生産や医薬品から雇用、娯楽、暮らしやすい気候に至るまで、人間の生活のあらゆる面を支えています。長い目で見れば、危機に瀕した地球で人間が豊かに暮らすことはできません。UNDP(国連開発計画)が健全な地球での人間開発の実現を中心的な使命としている理由もそこにあります。
UNDPのネイチャー・ポートフォリオ(自然・環境保全事業)は世界中に広がっており、140か国以上で350件を超えるプロジェクトを展開しています。ガバナンスや人権、保健から気候変動、包摂的な成長に至るまで、幅広い分野で持続可能な開発目標(SDGs)の達成に寄与するネイチャーポジティブ(自然再興)事業を対象に、約34億米ドルの無償資金供与と134億ドルの協調融資を行っています。
UNDPは世界各地で、ドナーや政府、コミュニティ、そして現地で活動する人々と連携しながら、私たちの環境に関連する重要課題への対処に取り組んでいます。私たちは変革を担う人々を支援し、人間と地球にとって有益な解決策を後押ししていきます。
自然がもたらす癒し
ケニアのマウ複合林に暮らすオギエク族のハーバリストたちにとって、生物多様性の促進は伝統的な癒しの技術の基盤となる固有野生生物種へのアクセスを保つすることを意味します。
「一人ひとりが、人々を癒すために何をすべきかについて、役割を与えられています。妊婦に寄り添い、乳児のケアにつなげる者もいれば、感染症や胃腸、骨、皮膚の病気を直すハーバリストもいます」 —オギエク族治療師のロダ・サーヤさん
伝統医療は、ケニアの一部と世界各地の先住民族や地域社会の医療に欠かせない要素です。伝統医療にまつわる先祖代々の知識や生活様式は、数世紀にわたって世代間で受け継がれてきたものです。
こうした慣習の商業化に対する関心は高まりつつあります。しかし、伝統医療やその知識の持ち主に対する正式な評価や敬意がなければ、バイオパイラシー(生物資源の盗賊行為)や過剰な利用による生態系の劣化にもつながりかねません。
先住民族は、生物多様性の保全において中心的な役割を担います。先住民族が暮らし、管理する全世界のおよそ22%の土地は、地球上で最も生物多様性が豊かで、手つかずの生態系が残る地域と多く重なっているからです。ドイツやノルウェーその他のパートナーから資金供与を受け、UNDPが立ち上げた赤道イニシアチブは、自然や文化、暮らし、人権の保護に取り組む先住民族と地域のコミュニティを認定し、支援しています。
サンゴの約束
パキスタンでは、一人の若者があるがままの自然に着想を得た方法を使って、貴重なサンゴ礁を保護するための活動に取り組んでいます。
「イノベーションに必ずしもハイテクなツールが必要なわけではありません。自然との融和が大事なことも多いのです」 —潜水士のシャビブ・アスガルさん
アスガルさんにとって、ダイビングは単なる生計手段ではありません。それは一生をかけて海を守るための行為です。2025年、アスガルさんとMarine Conservation Pakistanの同僚からなるチームは、イタリア政府が共同で主導するYouth4Climateプログラムを通じ、UNDPローマ・センターからの支援を受けて「サンゴ礁再生イニシアチブ」を立ち上げました。
アスガルさんは人工的構造物を使わず、自然との調和を主旨とするシンプルな哲学に基づき、サンゴを自然な形で増殖させるものです。チームは折れてしまったサンゴの破片を丁寧に回収し、有機触媒を使ってこれを天然の岩礁に付着させたうえで、海の環境をそのまま再現する海中苗床を育てています。
健全な海洋に対するUNDPのコミットメントは、「ネイチャー・プレッジ(自然のための誓約)」と不可分の一体をなす「海の約束」に体現されています。このコミットメントでは2030年までに、すべての小島嶼開発途上国を含む100の沿岸国において、持続可能で気候変動に強い包摂的な海洋経済の可能性を最大限に実現することを目指しています。
注意深く見守る眼差し
カザフスタンでは、鷹匠であり農民でもある男性が、古来の文化遺産と、カザフスタンの放牧地が育む豊かな自然資源を守るために闘っています。
「誰かが私たちの土地を守ってくれるのを待っているわけにはいきません。すべては一人の人間と一つの泉から始めることで、私たちは自らの手で土地を守れるのです。泉の水が流れ続ける限り、私たちが暮らすステップ(草原)は生き続けるのです」 —農民兼熟練鷹匠のトレウカビル・イェセンベクリさん
イェセンベクリさんは、熟練の鷹匠になることによって、忍耐と警戒心を学びました。そして、この2つの美徳を土地の保全という、もう一つの生涯の使命に活かしています。
その注意深い眼差しを地上へと向けたイェセンベクリさんは、協力し合うことで仲間の農民たちの運命をいかに改善できるのかを目の当たりにしました。仲間たちが土壌の浸食や土地の劣化、灌漑・酪農用水の不足に苦しむ姿を見たイェセンベクリさんは、自然の泉を再生させ、飼料作物を栽培するためのプロジェクトを立ち上げました。そのアイデアは、UNDPが実施する地球環境ファシリティ小規模無償プログラム(GEF SGP)を通じた支援の対象となりました。
やがて、イェセンベクリさんが設立に助力した農民団体は長年にわたり数件の無償・有償の資金供与を受けるようになり、これがシェト地区全体の生活条件の改善、農業の生産性向上、自然資源の保全、そして土地の劣化防止に役立てられました。
平和に根差して
シリアでは、女性たちが力を合わせて植林活動を立ち上げ、土地を再生させながらコミュニティを再建しています。
「植林によって、私たちが協力して取り組むべき有意義な目的が生まれました。人と人とのつながりを取り戻すことにも役立っています」 —農民のガイター・モハンマドさん
経済学部卒の農民で3児の母のモハンマドさん(40歳)は、10年を超える避難生活を終え、シリア沿岸部の故郷の村、ラビアに戻ってきました。周辺の土地が荒廃していることに気付いたモハンマドさんは、デンマークが「自然・気候・エネルギー資金調達窓口」を通じて支援する、女性主導型の気候変動適応に関するUNDPプロジェクトに加わりました。この取り組みを通じ、ラビアの女性たちは保全農業や堆肥化、集水などの気候変動適応型の農業実践に関する訓練を修了しました。
そこでの学びに刺激を受けたモハンマドさんは、ラビアで他の女性たちとも協力し、小さな植林活動を始めました。そして一緒に、紛争や山火事で被災した近くの丘の斜面に月桂樹の苗木を植えました。この取り組みには、土地を再生させることと、共通の使命の下に人々を団結させることという2つの目的がありました。
女性は大人も子どもも、食料の生産、水や薪の採取、家族の世話、そして伝統的な知識の継承などを通じで、生物多様性を守り、天然資源を持続可能な形で利用するうえで欠かせない役割を果たしています。適切な支援と政策が整えば、その影響力をさらに大きくできる可能性があります。
対立から共生へ
コロンビアでは、ジャガー保護回廊を通じて、生物多様性の保全と地域住民の生計向上を両立する取り組みが進められています。
「持続可能性を実現するには、経済的な利益も伴わなければなりません。そうでなければ、成果は長続きしません。」 ─ ディエゴ・ディアスさん(地元ツアーガイド)
ジャガーは世界で3番目に大きなネコ科動物です。食物連鎖の頂点に立つ捕食者であるだけでなく、健全な生態系を示す重要な指標でもあります。しかしコロンビアでは、少し前までジャガーの足跡は、その力強さへの畏敬と恐れの対象でした。
人間の活動がジャガーの生息地へと広がるにつれ、人と野生動物との対立が深刻化しました。人口増加や狩猟、持続可能ではない牧畜によって森林破壊が進み、生態系同士のつながりも失われていきました。自然の餌となる動物が減少すると、空腹のジャガーは家畜や飼育動物を狙うようになり、その結果として報復的な駆除が行われ、ジャガーの生存そのものが脅かされるようになりました。
野生動物と地域住民の暮らしの双方を守るため、地域団体はUNDPやパートナーと協力し、「ジャガー保護回廊」戦略を立ち上げました。また、地球環境ファシリティ小規模無償プログラム(GEF SGP)がこの取り組みに加わり、持続可能な生計手段につながるコミュニティ主導のエコツーリズム事業に対して、技術支援と資金提供を行っています。地域住民はジャガーをはじめとする野生動物のモニタリングを行いながら、農業、畜産業やエコツーリズムを通じた生計向上と自然保護が両立できることを広く伝えています。
お金は食べられない
生物学的な多様性、通称「生物多様性」とは、地球上のあらゆる生物種の繁栄に欠かせない生命の微妙なバランスを織りなす構造(生命のタペストリー)を表す言葉です。
そのタペストリーにほころびが見え始めています。
国連環境計画(UNEP)によると、人間は100万種の生物を絶滅に追いやろうとしています。
2026年には、私たちの未来と、私たちと故郷を共有する生物種を脅かすこのトレンドを逆転させる機会が多く訪れます。5月22日の「国際生物多様性の日」は「グローバルなインパクトのためのローカル・アクション」をテーマに、自然の損失を食い止め、これを逆転させて昆明・モントリオール生物多様性枠組の目標達成に向けた前進を図る取り組みを称えます。
「国際生物多様性の日」は、2026年に開催される3つの重要な環境関連会議に向けた機運を高める役割も果たします。多国間の行動を促すこれら重要なフォーラムでは、それぞれ個別の課題ではなく、相互に、そして経済や世界全体の安全保障と複雑に結びついた関係にある問題として気候変動、生物多様性、健全な土地という3つの議題を中心に話し合います。
私たちが自分自身だけでなく、将来の世代にもふさわしい世界を想像するとすれば、健全な地球環境の維持は決して譲れない必須条件です。UNDPは「ネイチャー・プレッジ(自然のための契約)」に基づき、130か国以上が昆明・モントリオール協定の変革志向のターゲットや目標を達成し、人間と地球がともに繫栄できるネイチャーポジティブで低炭素の未来への移行を加速できるよう支援しています。私たちの『人間開発報告書2026年版』には、各国が人間とその他あらゆる生命体との互恵的な交流関係をどれだけ育てられているかを評価する「自然関係指数」が新たに加わる予定です。
「最後の木が伐られた時、最後の魚が獲られた時、最後の川が汚された時に初めて、私たちはお金が食べられないことに気づくのだ」 —アメリカ先住民族のことわざ