UNDP報告書:国家間の開発格差が広がる中で、AIが新たな分断の時代に拍車をかけるおそれも

2025年12月2日
Graphic: gray panel reads READ NOW beside a blue book cover titled The Next Great Divergence.

ニューヨーク発 – 人工知能(AI)を適切に管理されなければ、そもそもの出発点の大きな違いから、経済的成果や人々の能力、ガバナンスシステムの格差が広がることによって、国家間の不平等が増大しかねないと、国連開発計画(UNDP)の新たな報告書は指摘します。

『次なる大分断:AIが国家間の格差を広げかねないわけ』(The Next Great Divergence: Why AI May Widen Inequality Between Countries)と題するこの報告書は、AIが新たに重要な開発への道を切り開く一方で、この移行の恩恵に浴し、リスクを回避できる能力には各国間に最初から差があることを明らかにしています。強力な政策的措置を取らなければ、こうした格差は拡大し、これまで長く続いた開発面での不平等縮小傾向が逆転するおそれもあります。

世界人口の55%以上を抱えるアジア太平洋地域は、こうしたAIへの移行における中心的な役割を果たしています。域内には全世界のAI利用者の過半数が暮らし、そのイノベーション面での存在感も、中国が全世界のAI関連特許の70%弱を保有し、域内の6つの国と地域で新設されたAI企業が3,100社を超えるなど、急速に拡大しています。AIによって、域内GDP年成長率は約2%押し上げられ、保健や金融などの部門では、生産性が5%も上昇する可能性もあります。ASEAN諸国だけでも、今後10年間でGDPが1兆ドル近く増える可能性があります。

その一方で、倫理的かつ包摂的なAIガバナンスのコア原則が守られなければ、女性と若者を中心とする数百万人の仕事が自動化されるおそれも高まっています。

カンニ・ウィグナラジャ国連事務次長補兼UNDPアジア太平洋局長は「AIが急速に発展する中で、まだスタートラインに留まっている国も多い。アジア・太平洋地域の経験は、AIを操る国と、AIにより操られる国との間の格差が、どれだけ速く広がるかを如実に示しています」と語っています。

この半世紀の間に、相対的な低所得国と高所得国の間の格差は、技術や貿易、開発の前進を受け、徐々に縮まってきました。この「収束の時代」には、健康や教育、所得の面で大きな改善が見られました。報告書は、意図的かつ包摂的な政策を選択しなければ、今度はAIがこうした収束で得られた成果を浸食してしまうおそれがあると警告しています。

アジア太平洋地域の中でも、デジタル化の進展に大きな差が見られます。シンガポールや韓国、中国などの国は、AI関連のインフラやスキルに多額の投資を行う一方で、その他の国の中には、依然としてデジタル・アクセスとリテラシーの基盤整備に取り組んでいるという場合もあります。AIで生まれる機会をすべての国が活用できるようにするためには、こうしたデジタル能力の構築が欠かせません。

インフラやスキル、演算能力、ガバナンス能力が不足していれば、AIで恩恵を得られる可能性が低下する一方で、失職やデータからの除外、さらにはAI集約的システムによる全世界でのエネルギーと水に対する需要増大などの間接的影響が生じるリスクが高まります。

女性と若者は特に弱い立場に置かれています。女性が従事する仕事は自動化される可能性が2倍近く高いほか、特に22歳から25歳の若年層については、AIと競合する職種の雇用がすでに減少し、将来のキャリアが早いうちから脅かされています。南アジアでは、女性のスマートフォン保有率が男性を40%も下回っています。農村部の先住民族コミュニティは、AIシステムのトレーニングに用いられるデータセットに含まれないことが多いため、アルゴリズムにバイアスが生じたり、必須サービスの対象から除外されたりするリスクが高まっています。

機会のほうに目を向けると、AIは域内全体でガバナンスや公務を変容させています。バンコクのプラットフォーム「トラフィ・フォンドゥー」は、60万件近い市民からの報告書を処理しており、市の行政が日常的な問題への対応を効率化することを可能にしています。シンガポールの住民サービス「モーメンツ・オブ・ライフ」は、新生児関連の書類作成時間を約120分から15分に短縮しました。北京では、対象物またはシステムをリアルタイムでデジタル化し、仮想表現する「デジタルツイン」が、都市計画や洪水管理に役立っています。こうした事例は、AIが行政やサービスの提供を改善できる可能性を実証するものです。

しかし、包括的なAI規制を導入している国はごくわずかで、2027年までに全世界のAI関連データ侵害の40%以上が生成AIの悪用で生じるおそれがある中で、ガバナンス枠組みを整備する必要性が高まっています。これは、アジア・太平洋地域の内外を問わず、多くの国々にとって重要な「キャッチアップ」分野と言えます。

フィリップ・シェレケンスUNDPアジア太平洋主任エコノミストは「AI時代の分断の中心は能力の格差です。スキルや演算能力、健全なガバナンスシステムに投資する国々が利益を得る一方で、他の国々は大きな後れを取ることになるでしょう」と語ります。

報告書は、どうすればこのリスクを進歩の共有に向けた道筋へと変えられるのかについて論じています。

報告書はこちらから