パートナーシップで効果を最大に

UNDP邦人職員インタビュー: 内藤綾也佳 UNDP 駐日代表事務所 民間連携コンサルタント

2022年10月28日
ayaka naito
Photo: UNDP Tokyo

現在UNDP駐日代表事務所にて民間連携業務に従事する内藤綾也佳。アパレル企業から国連機関へキャリアチェンジしたきっかけとは。UNDPでの民間連携の業務や新しい取り組みについてインタビューしました。


Q. 国際協力の世界に興味を持ったきっかけは何ですか。

A. 岐阜県に生まれ、海外と無縁の生活をしていた私が、「国際協力」に出会ったのは大学生のときでした。所属していた観光ガイドサークルでイスラエルの方をガイドしたことをきっかけにパレスチナ問題に興味を持ちました。当時は何度も現地に渡航し、人々の暮らしや厳しさを目の当たりにしました。実際に経験してみると、他人事だった問題が自分ごとのように捉えられ、私自身のキャリア構築の原点となりました。

Q. 内藤さんは大学卒業後、民間企業でのファーストキャリアを選び6年半勤務したそうですが、なぜ民間企業へ進んだのですか。これまでの職務経験を教えてください。

A. パレスチナ問題を通して、政治的な行き詰まりと既存の援助形態の限界を目の当たりにし、新しいアプローチで開発に関わることはできないかと、大学卒業後はグローバルアパレル企業へ就職しました。海外含め8店舗で、商品管理から人材育成まで様々な組織のマネジメントに携わったことで、人の強みを活かして組織の成果を最大化することを学びました。特に50店舗以上を展開しているマレーシアでは事業の現地化を進めるために、スタッフを雇用し、店長へと育て上げていく中で、人づくりがお店や会社の成長、そして現地社会への貢献へとつながるやりがいを感じました。また国連機関とのパートナーシップに基づいたロヒンギャ難民への衣料支援、店舗での障がい者雇用の促進などを通じて、企業が社会に果たす役割の大きさも感じました。

一方で、デジタル化の推進で単純労働を減らすと近隣の途上国からの出稼ぎ労働者の方の雇用機会が減少したり、法律の障壁で難民雇用の実現には制約があったりと、経済的利益とのバランスを取りながら既存の制度や仕組みに対して起こせる変化には限界があることも知りました。そこで、企業の強みを活かしながら誰一人取り残さない形で社会課題に取り組む仕組み作りの必要性を感じ、大学院への進学を決めました。

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アパレル企業勤務時代。マレーシアでの新店オープン時の様子

Photo: Ayaka Naito

大学院卒業後は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所の民間連携部でのインターンを経験後、国連ボランティアとして、ウズベキスタンの国連常駐調整官事務所(RCO)でパートナーシップ担当官として勤務しました。RCOは、その国で活動する国連機関のまとめ役です。気候変動、ジェンダーなど様々な課題が分野横断的になり、多くの国連機関の活動内容に重なりが生じてきたことで、長期的な開発戦略を「一つの国連」として再構築する必要性がありました。そこで現地の24の国連機関と連携して、5か年の国別開発計画と、その資金調達戦略の策定に取り組みました。またウズベキスタンでの民間連携を活性化させるために、民間企業のSDGs促進を支援する国連グローバルコンパクトと協力してウズベキスタン支部立ち上げにも奔走しました。 

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ウズベキスタンで国連諸機関のパートナーシップ担当官を対象に行った研修

Q. 最近は民間企業においてもSDGsや社会課題への取り組みが進んでおり、国連機関とパートナーシップを組むような動きも加速しています。内藤さんはこのような潮流をどのように捉えていますか?

A. 現在の世界で、SDGs課題を解決するには公的セクターの力だけでは十分でなく、民間企業の力が欠かせません。コロナ禍以前でさえ、 SDGsを達成するための資金は途上国だけでも年間2.5兆ドルも不足していると言われていましたが、公的資金の伸びが限界に達している今、民間資金はこのギャップを埋める鍵になります。また開発分野でもデジタル化やイノベーションを進め、既存の解決策に新しい突破口を開いていく必要があり、資金面だけでなく企業の技術力や課題解決力の面でも民間と国連機関のパートナーシップはますます重要になっています。民間企業側でも、慈善事業的な側面の強いCSR(Corporate Social Responsibility=「企業の社会的責任」)から、本業を通じて社会課題に取り組み貢献するCSV(Creating Shared Value=「共有価値の創造」)へと、サステナビリティと経営との距離が一段と近くなってきています。

その中で、私は企業の持つ失敗できる力に期待しています。それはイノベーションの創出に欠かせないものだからです。公的資金で運用している国連機関等が新しいことに挑戦して失敗を許容することは困難ですが、自己資金で事業運営を行っている民間企業の強みは常に変化を恐れず挑戦しイノベーションを生み出し続けられることにあると思います。民間企業のそんな失敗ができる自由、だからこそ生み出される最先端の技術や新しい課題解決力こそが、今求められていると思っています。

Q. 民間企業の資金の流れを生み出す仕組みづくりは簡単ではなさそうですが、UNDPはどのような活動をしているのですか。

A. UNDPの民間連携の柱は以下の3つです。

  1. SDGs達成に向けた投資や寄付の増加
  2. SDGsに沿ったビジネス慣行の改善
  3. インクルーシブでグリーンな経済の促進

それに加えて、日本では、日本の民間セクターがSDGs達成に向けより深く関与できるよう、さまざまな機会を提供しています。例えば、日本企業の技術・ノウハウで途上国課題解決を目指すJapan SDGs Innovation Challenge for UNDP Accelerator Labsの実施や、日本企業のビジネスの行動変容を促し、民間資金の流れを加速させるための、SDGインパクトという活動などです。

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SDGインパクトとは

SDGインパクトには主に2つの活動の柱があります。まずは、事業運営の意思決定の中核にサステナビリティを据えるための「SDGインパクト基準」を策定し、企業等に対して、この基準を導入するための研修を実施します。その後、基準を満たした企業を認証する構想です。既存の事業活動の負のインパクトを軽減し、正のインパクトをさらに伸ばすことでインパクト志向経営の実現に貢献します。

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また、SDGインパクトの活動の一環として、「SDGs投資情報プラットフォーム」という場もできました。事業活動が社会にとって良い方向へ向かっても、世界全体を見た時に、本当に資金を必要としている場所に届くとは限りません。そこで、途上国の社会的価値と経済的リターンを両立する投資有望領域を集めたプラットフォームを運営しています。

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Q. SDGインパクトの業務に携わる中で困難だったことはありますか?

A. 今年の7月、UNDP総裁訪日時に、日本は世界で初めてSDGインパクト基準研修を実施する国となりました。SDGインパクト基準研修準備の過程で最も苦労したことは、SDGインパクトが企業に求める基準と、企業の取り組みの現在地との間にある差をどのように埋めるかということでした。それは本基準が目指しているものが「企業の創出するインパクトのマネジメント」を基軸としており、その実現には経営層を含めた全部署を巻き込んだ大胆な変革が必要だからです。このSDGインパクト基準を日本の皆さんの考えやニーズにかみ合うように届けるため、認定講師になった「社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ」の皆さんやSDGインパクトの本部チーム等と多くの議論を重ね、あるべき社会とビジネスの向き合う現実を繋げられるよう内容の改変を重ねました。

また、研修は企業の皆さんのやる気スイッチを押すものではありますが、万能薬ではありません。SDGインパクトの運営委員である渋澤健さんが、「できるかできないかじゃなくて、やりたいかどうかだ」とおっしゃっていましたが、実際の企業の行動変容につなげていくためには、なぜサステナビリティを本業として取り組む必要があるのか、腹落ちする必要があります。だからこそ、研修では、企業が社会に生み出す価値やインパクトを「どのように測定してマネジメントするか」だけではなく、そもそも「なぜ」そして「何を」マネジメントしていくべきかという根本的な意識の変革を重視しています。 SDGインパクトが、企業が社会に生み出す価値を言語化できるツールとして、今後普及することを期待しています。

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SDGインパクト基準の解説ウェビナー

Q. UNDPでの仕事のやりがいを教えてください。

A. UNDPの民間連携の仕事の魅力は、世の中の取り残された課題に、政府だけでなく民間企業の課題解決力をもって一緒に取り組んでいけることです。例えば「空飛ぶ車で災害救援」など、企業の持つ技術の社会課題への活用により、新しい価値が生まれます。アインシュタインの言葉に「いかなる問題も、それを作り出した時と同じ考え方によって解決することはできない」とありますが、このUNDPの民間連携という仕事はまさに、この新しい解決の仕方や資金の流れを企業と共に創っていくものです。まだ道が整っていないため苦労も多いのですが、この過渡期の生みの苦しみに挑戦できることに、とてもやりがいを感じています。

Q. 最後に、今後のキャリア展望や、仕事をされる上で大切にされている価値観を教えてください。

A. 店長だったとき、上司に「自分が120%の力で頑張るのではなく、自分の周りの人が120%の力で頑張れるために自分の時間を使え」と言われていたことは、今でも自分が仕事をする上での指針となっています。パートナーシップという仕事は、それぞれの人や組織の持つ強みを最大限に発揮することができるよう、輝ける場とその組み合わせを創ることだと思います。特に誰一人取り残さない社会を作っていくためには、ますます様々な分野の専門家集団の知見を結集させて、新たな解決方法に取り組んでいく必要があり、それを支える役割を担っていきたいです。

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内藤綾也佳(左)と聞き手(UNDP駐日代表事務所インターン佐藤)

Photo: UNDP Tokyo

内藤綾也佳
UNDP 駐日代表事務所 民間連携コンサルタント

岐阜県出身。立命館大学国際関係学部を卒業後、ファーストリテイリング(UNIQLO)に入社。日本とマレーシアにて6年半勤務。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)紛争・開発学修士号取得。UNHCRの民間連携部でのインターンを経て、国連ボランティアとしてウズベキスタンの国連常駐調整官事務所(UNRCO)で開発金融・パートナーシップ担当官として勤務。2020年より国連開発計画(UNDP)にて民間連携を担当。企業の技術を途上国課題解決に活かすJapan SDGs Innovation Challengeや民間資金の流れを変えるSDGインパクトなどを推進。