パプアニューギニア、その多様性と複雑な開発課題

シリーズ「世界の現場で取り組む」:第一回 人道・開発・平和の連携で平和の礎を築く (全5回)

2024年3月11日

ヘラ州の和平協定署名式での集合写真

Photo: UNDP Papua New Guinea

私は現在、UNDPパプアニューギニア事務所にて、6つの国連機関(注1)により実施中の「ハイランド・ジョイントプログラム」という取り組みのコーディネーターとして勤務しています。パプアニューギニアという国については日本ではあまり聞く機会がないかもしれませんが、コロナ以前までは直行便もあったりと地理的にも遠くなく、また日本が海外から輸入する液化天然ガス(LNG)輸入元の上位にもランクインしています。 

天然ガス、原油、金、銅、コバルトといった天然資源に加えて豊かな自然に恵まれ、世界の生物多様性の9パーセント、そして600以上の部族と800以上の言語(世界の言語の総数の約15パーセントの言語数)が世界の国土の1パーセントにも満たない面積にあると言われており、多様性に富む国です。他方で社会経済開発指標・人間開発指数は189ヶ国中155位(2020年、UNDP)と低く、また島嶼国ゆえの地理的条件といった開発の難しさに加え、部族間の争いや女性の社会的地位の低さやジェンダーに基づく暴力(ここでは主に女性への暴力)、富の不公平な分配といった社会的な問題が山積しており、SDGsの達成には先が長いというのが現状です。

その中でUNDPは同国のSDGsの達成に向けて、平和構築・ガバナンス、女性のエンパワメント、経済復興、そして気候変動等の分野に取り組んでいます。具体的には、地方行政や議会の能力支援やジェンダーに基づく暴力に関する戦略策定、ブルーエコノミーと言ったプロジェクトが進行中で、同国政府とともに中長期的な開発支援に貢献しています。また、同国内にあるブーゲンビル自治州においても、日本を含む各国政府の拠出金により、選挙支援やコミュニティの経済支援、グリーントランスフォーメーションといった活動を実施しています。

住居の敷地からメンディの町を臨む

Photo: UNDP Papua New Guinea

ハイランド・ジョイントプログラムと業務内容

そうした中、現在私は、同国南ハイランド州にベースを置き、同州(人口約50万人)およびヘラ州(人口約25万人)という二つの州で6つの国連機関合同で実施している、「ハイランド・ジョイント・プログラム(HJP)」のコーディネーターとして、プログラムの指針や内容の策定、国連機関間の調整、支援国等との調整といった統括業務を担当しています。南ハイランドの州都メンディは首都ポートモレスビーから北西約530km、飛行機で1時間、車で2時間半の距離にあり、標高は1700mほどで美しい自然に恵まれた土地柄です。

同プログラムは2018年に二つの州に甚大なる被害をもたらした震災により被災したコミュニティへの緊急支援を発端としています。同国の中でもハイランドは開発が進んでいなかったこともあり、震災支援として国連が初めて現地で取り組みを始めたところ、人道的なニーズに加え、紛争仲介、ジェンダーに基づく暴力被害者への支援、農業や生計向上への支援、気候変動対策、といった様々なニーズが浮き彫りにされました。そこで2020年から国連諸機関の合同プログラムとして第一期の活動が開始されました。ハイランドは液化天然ガスの産出量においても同国内の大部分を占めており、この地域の安定は重要と言えるでしょう。

ハイランドで見られるような複合的な開発課題に包括的に対応するため、UNDPは「HDPネクサス」(注2)、そして「地域集中型支援プログラム」(注3)というアプローチを世界各地で実施しています。

南ハイランド州での和平協定署名

Photo: UNDP Papua New Guinea

「HDPネクサス」とは、人道支援(Humanitarian)、開発(Development)、平和構築や紛争予防(Peace)の取り組みを効果的に組み合わせて相乗効果を出そうとする取り組みで、また「地域集中型支援プログラム」とは特定の複合的な開発課題が見られる対象エリアで、包括的なプログラムで対応する取り組みを意味します。これらは二つの異なるアプローチですが、お互いに非常に親和性が高く、プログラムの効果を最大限に発揮するため同時に適用されることが多くあります。今回のハイランド・ジョイント・プログラムもまさにその好例で、例えば部族間紛争の一因として、傭兵になってしまう若者たちの存在が挙げられます。職がない若者は収入がないため生計を立てることが難しく、コミュニティ内でも尊重されないため、社会的な疎外感を感じて傭兵になってしまうのです。手に職をつけられるようにして生計の機会を与えれば良いのでは、とも考えられますが、そのためには支援機関が安全に雇用機会の提供や若者の能力強化等の支援を実施できるよう、治安も改善しなければなりません。つまり、紛争仲介と生計向上の取り組みを同時に実施しないといけないのです。また、ジェンダーに基づく暴力への対応も、被害者への支援のみを実施していても不十分です。女性の地位が虐げられている、という根本的な原因を同時に対処しなければ、いつまでも問題は継続します。このように、複数の対応策をHumanitarian(人道支援)・Development(開発)・Peace(平和)の3つの観点から組み合わせて、選択的かつ集中的に展開する必要があるのです。これが「人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)」の意義です。

かつて2018年から2021年まで私自身が従事したミャンマーにおけるUNDPのロヒンギャ危機対応のプログラムにても、複合的な課題に対処するために同様のプログラムをUNDP、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連女性機関(UN Women)、そして国連常駐調整官事務所(RCO)と協働して実施し、高い相乗効果を上げることができました。今回HJPも第二期が始まるにあたり、関係者の声を反映し、参加する国連諸機関の強みを最大限に活かしたプログラミングができるよう、日々尽力しています。

UNDPのスタッフと南ハイランドにて (筆者左)

Photo: UNDP Papua New Guinea

現場で考え抜き、つなげることの意義

こうしたアプローチは、議論もさることながら実践も重要です。国連には’Stay and Deliver’(現場にとどまり、届ける)というモットーがあり、私も日々現場で往々にしてモノなし、電気なし、水なし(なので自分で歩いて汲みに行く)、治安悪し、といった状況で勤務しています。

と言うのはHDPネクサス、そして地域集中型支援プログラムが効果を最大限に発揮するには、俯瞰的な「鳥の目」と現場からのボトムアップの「虫の目」を戦略的に組み合わせることが肝要だからです。UNDPパプアニューギニア常駐代表のニコラス・ブースも「現場は生き物で、机の上から組み合わせたパズルのような解決法だけでは当てはまらない状況が多く、実際は機能しません。かといって、現場で日々の活動をこなしているだけではこの壮大な問題は解決に至りません。コミュニティにとって本当に意味のある効果をもたらすには、現場主義を通じて、変化し続ける現実に対応する必要があるのです。」と強調します。HJPの第一期の4年間では、焦点は各機関の支援がどうコミュニティに受け入れられるか、といった試行期間、言うなればトップダウンのアプローチを試すことが多かったと言えますが、2024年からの第二期では、いかにコミュニティと政府にその役割を託していけるか、といった、現場に根ざした中長期的な視点への移行が求められています。現場と向き合いながら本質を考えに考え抜いたところに、コミュニティの本当のニーズは何なのか、そのレジリエンス(強靭性)をコミュニティと共にどうやって強化し、発現するか、限られた時間と予算の中で国際機関に何ができるのか、といった答えが見えてくると信じています。

次回以降、紛争仲介、女性・平和・安全保障(WPS)、気候安全保障といった各分野とUNDPの取り組みを掘り下げてお伝えします。


注1: 国連開発計画(UNDP)、国際移住機関(IOM)、国際食料農業機関(FAO)、国連人口基金(UNFPA)、国連児童基金(UNICEF)、国連女性機関(UN Women) 

注2: 脆弱ないし危機的な状況において、人道支援(Humanitarian)、開発(Development)、平和構築や紛争予防(Peace)の取り組みを効果的に組み合わせて相乗効果を出そうとするアプローチ。 

注3: Area-based programme。特定の複合的な開発課題が共通して見られる対象エリアで、包括的、包摂的、参加型かつ柔軟なプログラムで対応するアプローチ。


筆者略歴: 池田祥規(いけだよしのり)

国連開発計画(UNDP)パプアニューギニア事務所 ハイランド・ジョイントプログラム調整官
早稲田大学理工学部学士、英国グラスゴー大学大学院開発学修士。これまでに、NGO、開発コンサルティング会社、国際協力機構(JICA)、国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)、国連開発計画(UNDP)、国連ボランティア計画(UNV)にてヨルダン、スリランカ、南スーダン、ミャンマー等において、主に紛争下・紛争後社会でのコミュニティ開発、人道と開発と平和の連携(HDP Nexus)等の業務に従事。2023年9月から現職。