人間、地球、平和のためのビジネスと人権の未来

「UNDP法の支配年次会合ハイレベル・セグメント:責任あるビジネスと行動の10年」における岡井朝子国連事務次長補兼UNDP危機局長によるステートメント

2020年8月3日

マリでは、気候変動の影響に対処するため、自国が決定する貢献(NDC)の見直しプロセスを開始しています。Photo: UNDP Mali

ご来賓の方々、パネリストの皆様、加盟国の代表者の皆様,ご列席の皆様、同僚の皆様。

まず、基調講演者であるアニタ・ラマサストリ教授による、ビジネスと人権の過去、現在、未来についての示唆に富んだ分析に感謝いたします。 また、討論にご参加くださったセカール様とマカッサー博士からは、ビジネスと人権の問題を、政府、企業、市民社会の共通の課題にする必要性についてご意見をいただきました。ここに感謝いたします。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により壊滅的な影響がもたらされたことで、責任あるビジネス慣行の重要性が高まっています。 最近の推計では、世界では、最大1億人が極度の貧困に追い込まれ、1億9500万人が職を失う可能性があるとされています。

責任を持って行動し、労働者への給料の支払いと労働者の権利の尊重をしっかりと続けた企業もありましたが、コスト削減に訴え出て、人権基準の尊重の優先度を下げ、利益を守ろうとした企業もありました。

さらに心配なことに、気候誘発型の災害が様々なリスクと負の影響をもたらす兆しがある中、新型コロナウイルスの危機はその序幕に過ぎないのかもしれません。

危機が経済の統治のあり方についての人々の考え方を大きく変えうることを、歴史は示しています。政策立案者や投資家、活動家、起業家が世界中で力を合わせて事態の後退を阻止し、前進することができれば、私たちは希望を持つことができます。

コロナ禍とそれに伴う影響に対抗するため、UNDPは、新型コロナウイルスに対する統合対策である 「復興のその先:2030年に向けて」に基づき、「より良い復興(ビルディング・バック・ベター)」を支援するための取組を進めています。

170の国・地域の事務所からなるUNDPのネットワークは、コロナ禍における国連の社会経済的復興の取組を技術面で主導する役割を果たします。焦点を当てるのはガバナンス、社会保障、グリーン経済、デジタルディスラプションの4つの分野です。これらの各取組の進展は、ビジネスアクターが果たすべき積極的な役割に大きく依存しています。

今やこれまで以上に、将来を見据えた投資家や企業は、政府や市民社会が危機に直面して脆弱な人々の支援に取り組む中で、ビジネスだけが傍観しているわけにはいかないことを認識しています。

多くの企業はすでに危機を受けて立ち上がり、医療用のホテルを準備したり、製造ラインをマスクやその他の個人用防護具(PPE)に変更したり、公共の取り組みに寄付をしたりしています。

しかし、企業には、その社会的責任(CSR)の施策を超えて、従業員たちの人権が尊重され、消費者の権利に対する負の影響が回避され、事業を展開する地域社会で人権が尊重されるように行動することが求められています。

このようなメッセージは、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」を実施手段の一つとして認めた2030アジェンダの採択以来、国連が一貫して伝えてきたものであり、 持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた「行動の10年」が始まった際にも繰り返し強調されてきました。

グローバル・イニシアティブの発足

UNDPは、2016年にアジア地域におけるビジネスと人権に関するプログラムを開始して以来、責任あるビジネスの実践を支援してきました。本日、UNDPの法の支配と人権プログラムの重要な一部として、「ビジネスと人権に関するグローバル・イニシアティブ」を立ち上げ、この分野での活動の拡大を発表できることを大変嬉しく思います。

ビジネスと人権に関するグローバル・イニシアティブは、アジアでの活動を通じて得られた専門知識、パートナーシップ、方法論を基に、他の地域で既に実施されている広範なベースライン調査に基づいて構築されます。 今後18ヶ月間、段階的に実施される予定で、次の4つの主要な側面で、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」の実施を支援するように設計されています。

第一に、ビジネスと人権に関する国家行動計画(National Action Plan:NAP)の策定と実施において政府を支援します。UNDPはこれまでアジアで6つのNAPプロセスの支援に携わってきましたが、今後は他のすべての地域(アフリカ、ヨーロッパと中央アジア、ラテンアメリカとカリブ諸国、アラブ諸国)の加盟国にも取組を広げていく予定です。

第二に、UNDPは、ビジネスに関連した人権侵害の被害者のために、司法へのアクセスと適切な救済手段へのアクセスを強化することを目指します。その際、UNDPは、国内人権機関世界連合(Global Alliance of National Human Rights Institutions)と国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)との三者パートナーシップの下での国内人権機関に対する既存の支援を基盤としながら、市民社会グループ、司法機関、弁護士会との関わりを深めていきます。

第三に、UNDPはサプライチェーンにおける人権リスクの評価と対処方法について、企業に助言を提供します。新型コロナウイルスが労働者、地域社会、脆弱な人々に与えた壊滅的な影響を考えると、これは特に緊急の課題です。このため、UNDPはすでに「人権デュー・デリジェンスと新型コロナウイルス:企業向け自社評価簡易チェックリスト」というツールを開発しました。このツールは、コロナ禍の最中及び事後において、自社の事業が人権に与える影響を企業が考慮し、対応するのに役立つもので、既に日本語を含む9カ国語に翻訳されています。

第四に、UNDPは、政府関係者、企業、国内人権機関、市民社会グループ、その他の人々に対して、ピアラーニング(協働を通じた相互学習)の機会を引き続き提供します。例えば、最新の事例としては、今年6月初めに「アジア太平洋地域の責任あるビジネスと人権フォーラム」をオンラインで開催しました。企業による人権侵害は国境を越えた性質を持つことが多いため、これらのフォーラムは、重要な情報を交換し、各グループが互いに学び合い、企業による人権侵害への取組について合同戦略を練ることを可能にするという点で、非常に貴重なものであると評価されています。

その他のパートナーシップとグローバル・イニシアティブ

グローバル・イニシアティブを実施するにあたり、UNDPは、ビジネスと人権の分野における主要なアクターとの既存のパートナーシップを深めていきます。その中でも特に重要なのが、「国連ビジネスと人権作業部会」です。作業部会とのこれまでのパートナーシップは非常に成功しており、アニータと他の作業部会メンバーに感謝したいと思います。UNDPと作業部会との連携は今後12ヶ月間でさらに拡大する予定です。

基調講演でラマサストリ教授が言及された「ビジネスと人権に関する国連指導原則」(UNGPs)の次の10年間の実施に関するプロジェクトの一環として、私たちは共同で地域協議を開催し、ビジネスと人権に関するロードマップの策定の指針とする予定です。

5つの地域事務所と170の国事務所を擁するUNDPのネットワークを利用し、先住民族や移民労働者など、脆弱で疎外されたグループの代表を含むすべての関係者が関与して、今後10年間の方向性がグローバルに協議されるようにします。

UNDPは、OHCHR、ILO、UNWOMEN、UNICEF、OECDなど、他の重要なパートナーとの強力なパートナーシップを頼りに、このグローバル・イニシアチブを開始します。 責任あるビジネスと人権の分野における協調した行動と一貫した政策が、私たちの共通の目標となるでしょう。

最後に

また、この場をお借りして、これまで、特にアジアを中心とした私たちのビジネスと人権に関する活動を支援してくださったスウェーデン政府、欧州連合(EU)、ドイツ連邦共和国に感謝の意を表したいと思います。

私たちは、これらのパートナーシップを世界中に拡大し、より持続可能なビジネスへの道が可能であると確信し、志を同じくするアクターたちによるコミュニティの形成と継続的な成長を支援することができるように願っています。SDGsを羅針盤として、人間開発の進展が大きく反転しようとしているこの瞬間を、歴史的な飛躍に変える機会にしようという私たちの熱意を、皆様に共有していただけることを願っています。

ご清聴ありがとうございました。