気候変動時代における防災の方向性

第3回世界防災フォーラム (3/12)における岡井朝子国連事務次長補 兼 UNDP危機局長スピーチ

2023年3月13日
UNDP Pakistan floods

気候変動による損失と損害は、すでに数百万人の生活と生計を根こそぎ奪っており、異常気象はあらゆる場所で地域社会を危険にさらしています。2022年のパキスタンでの洪水では国土の3分の1が水没しました。

Photo: UNDP Pakistan

世界防災フォーラムにお集まりの皆様

UNDP危機局長の岡井朝子です。この度、JICA主催による「気候変動時代における防災の方向性」という大変時宜を得たトピックでメッセージを寄せる機会を頂き、心より感謝申し上げます。

今日、人類と地球は危機に瀕しています。

気候変動による損失と損害は、今すでに何百万もの人々の生活と生計を根底から覆し、異常気象による災害は、あらゆる地域のコミュニティを危険にさらしています。 パキスタンは国土の三分の一が水没しました。太平洋の島国は水面上昇で存亡の危機に瀕しています。

2020年だけでも、980の自然災害が、世界経済に2100億米ドル以上の損害を与えました。

将来の展望はもっと深刻です。

気候リスク軽減に取り組まなければ2030年には世界で毎日1件以上の災害が発生すると予測されています。

最近のUNDPの調査によると、排出量の削減が中程度にとどまった場合、今世紀末までに気候変動の影響で4000万人以上の死者が出る可能性があります。

そして今、私たちは、気候変動に加えて、紛争、貧困、不平等の拡大、食糧不足、エネルギーショック、債務危機など、他の大きなショックに対処しながら、さらに最近のトルコとシリアでの地震のような大災害が重ねて起こりうるという複層的危機の時代にあります。

今私たちが直面している危機、リスクは、前例のないほど複雑、大規模、深刻なものです。これらの計り知れない連鎖的な影響は、世界が様々なリスクに対し、より強いシステムを必要としていることを知らせる警鐘ととらえなければなりません。

このような状況下で、私たちは防災へのアプローチをより広い視野から見直すべき時期にあると考えます。

最近、仙台防災枠組みの実施状況の中間レビューの結果がまとめられましたが、その所見と提言は、今私が申し上げたこと、すなわち、従来のリスクへの対応システムでは現在の複層的脅威に対処できないということを共通認識としています。報告書は、仙台防災枠組みの2030年までの実現のためには、伝統的な防災関係者に加えて、その他の関係者との協力が不可欠であり、食料・エネルギーシステム、水、安全保障、貧困、気候変動、紛争などの取り組みとも一体性を高めるべきこと、またその際に、インクルージョンを強化し、もっと公平な社会を作るきっかけとしなければならないこと、そのためにも、民間セクターを含む社会全体の関与とパートナーシップをもっと大規模に推進していかなければならないこと、を訴えています。

人々がリスクやショックに耐え、回復する能力を高め、リスク軽減を促進するためには、より包括的なアプローチが必要です。

ご列席の皆様

UNDPは、より包括的な行動を、パートナーとともにもっと大胆に進めることに注力しています。その際に留意している点を3点に集約して申し上げたいと思います。

まず第一に、防災と気候変動の政策、計画、行動との間の一貫性を高めること。

第二に、災害と気候リスクの情報を エネルギー、産業、土地、生態系、都市システムなどの開発計画に織り込むこと。

第三に、女性や障害のある人々を含む取り残されがちなコミュニティにまで届く、人中心のシステムを構築すること。

です。

これらが具体的にどういう意味か、UNDPが日本との協力で行っている事例をご紹介しながら、述べたいと思います。

UNDPには、Climate Promiseといって、35以上のパートナーとの協力のもと、パリ協定の下での国家気候変動計画を策定・実行しようとする140か国以上の国々への包括的支援イニシアティブを実施しています。

Climate Promiseには、排出量削減の道程づくり、気候変動資金、循環型経済、エネルギー、森林・土地・自然の問題、都市問題、気候安全保障など様々な分野が含まれます。とりわけ、防災と共通するところが多い適応とリジリアンス強化の分野は、約75%の国が、戦略に挙げ、人命の保護、水と食料の安全保障、生活と経済資産の保護などへの対応を強化したいとしています。

日本はClimate Promiseの実践にあたって、最大のドナーの一つである他、日本の官民の知見とノウハウが反映されたプロジェクトが数多く実施されています。

例えば、ウズベキスタンでは、頻発する異常気象に対して、自動気象観測所や小型農業気象観測所から得られるデータと疎外された脆弱な農業コミュニティをつなぎ、1,000万人に恩恵をもたらしています。これは、京都大学や神戸大学のイノベーションを通じた節水農業にかかる研究プロジェクトから構想を得ています。

アルメニアでは、日本気象庁、JICA、応用地質株式会社との協力で、日本の鉄砲水リスクモデリングの経験を教育カリキュラムに応用し、気象予報と水文気象観測を強化して、脆弱な地域の50万人の住民を支援しています。

このほかにも、日本政府の支援で、DX4Resilienceプロジェクトがあり、ネパール、フィリピン、スリランカで脆弱性のマッピングと分析を行い、最も脆弱な人々は誰か、どこにいるか、彼らが直面している災害リスクを軽減し、災害への備えを高めるために何が優先事項か、その他緊急措置が必要なニーズは何かについて、デジタル技術を活用して政府や自治体を支援をしています。

危機的状況にある人々と地球のニーズに応えるためには、このようなリスク削減と気候変動対策へのより統合的なアプローチを様々なアクターの強みを活かしてもっと大胆に推し進め、点と点を結び、個人、コミュニティ、行政、システム全体の各レベルでレジリアンスを強化していく必要があります。

何世紀にもわたる防災の経験と、新しい技術やノウハウを併せ持つ日本は、この道をリードし、その模範となるような取り組みを進めていくことが期待されています。

今こそ、安全で回復力のある持続可能な社会を構築するために、持続可能な開発目標SDGsとパリ協定、仙台防災枠組みが掲げる諸目標を必ずや達成するとの意気込みを再確認し、3者一体として強力 に推し進めるべきと考えます。

主催者のJICAをはじめ、本日の登壇者、ご列席の皆様は、この重要な仕事にすでに強くコミットされている方々と存じます。地球と人類が直面しているこの難局を乗り越えるためには、目標をより高く掲げ、皆様の英知を結集した幅広いパートナーシップを通じて、行動を加速化させていく必要があります。この難局を乗り越えていく同志として、皆様とのより強固かつ永続的なパートナーシップと協働co-creationに大いに期待しております。

ご清聴ありがとうございました。