人間開発報告書2015「人間開発のための仕事」

人間開発報告書2015「人間開発のための仕事」

2015年12月14日

人間開発とは、単なる経済的な豊かさだけでなく、人々の生活の 豊かさに焦点をあて、人々の選択肢を広げることに他ならない。こ の過程にきわめて重要な意味をもつのが労働である。労働はさま ざまな形で世界中の人々に関係し、人々の生活の大きな部分を占 めている。世界73億人のうち32億人が仕事に就き、その他に家事労働や創造的活動、ボランティア活動、あるいは将来の労働に向けて準備している人々がいる。

人間開発の観点から捉える仕事の概念は、職業あるいは雇用と いう概念よりも広く深い。職業という枠組みでは、人間開発に重要 な意味をもつ家事労働やボランティア活動、執筆や絵画などの創造 的活動といった仕事を捉えられない。

仕事と人間開発は相乗効果をもつ関係にある。仕事は所得や生 計をもたらし、貧困を減らし、公平な成長を確保することによって、 人間開発を高める。また、人々に威厳と価値の意識をもたらして完 全な社会参加も可能にする。そして、他者の世話に関わる仕事は社 会的結束を高め、家族やコミュニティの絆を強める。

人々の協働は物質的な福祉を高めるだけでなく、文化と文明の 土台である広範な知識の蓄積にもつながる。そして、すべての仕事 が環境にやさしいものであるなら、その恩恵は世代を超える。究極 的に仕事は、人間の可能性、人間の創造性、人間の精神を解き放つ。

しかし、仕事と人間開発のつながりは自ずと生まれるものではな く、人権を侵害し、人間の尊厳を踏みにじり、自由と自律を犠牲にす る強制労働などのように、人間開発を阻害する仕事もある。また、 危険を伴う業種での仕事のように、労働者をリスクにさらす仕事も ある。適切な政策を講じないと、仕事の平等な機会と報酬が損なわ れ、社会における不平等が永続化するおそれがある。

仕事のグローバル化とデジタル革命によって急激に変化する仕事の世界は、新しい機会をもたらしているが、同時にリスクも突きつ けている。この進化する仕事の世界がもたらしている恩恵は平等に 分配されておらず、勝者と敗者が生まれている。有償労働と無償労 働における不均衡の是正が、特にどちらでも不利な立場に置かれ ている女性のために大きな課題となる。

仕事が人間開発を高めるためには、政策によって生産的で十分 な報酬と満足感を伴う労働機会が拡大され、労働者の技能と可能性 が高められ、労働者の権利と安全と保護が確保されることに加え、 個々の課題や特定の集団に的を絞った戦略の策定が求められる。 また、新しい社会契約、世界的な取り決め、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)のための行動のアジェンダも必要である。

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