UNDP、アジア太平洋の人間開発前進に向け、 迅速な行動と新しい方向性を要求

アジア太平洋地域はいま、向上心が満たされず、不平等が広がり、民主的空間が徐々に削り取られる時代に迷い込みつつあります。国連開発計画(UNDP)が発表した新たな報告書によると、グローバルな緊張状態の高まりや新たな技術、両極化の進行、そして気候変動に関連する生存への脅威が、この数十年間に域内で見られたウェルビーイングの向上を中断させてしまうおそれがあります。

2023年11月6日

2023年11月6日 東京発 − きょう発表された「2024年アジア太平洋人間開発報告書」は、長期的な前進が見られる一方で、格差が縮まらず、混乱が広がっているという全体像を示しながら、混乱の強まる開発環境を予測し、人間開発の推進に向けた新たな方向性を緊急に求めています。

『私たちの未来をつくるために:アジア太平洋における人間開発の新しい方向性』と題する今回の報告書は、向上心が満たされず、人間の安全保障への不安感が高まり、将来的にさらに混迷が深まるおそれがある中で、変革の必要性が差し迫っていると論じています。

そして、アジア太平洋地域では、気候変動と将来のパンデミックによる生存への脅威、変わりゆくグローバリゼーションのパターンと自動化、さらには民主的空間の縮小、ポピュリズムの台頭、両極化による改革の停滞という3つの「リスク・クラスター」の収斂が見られると警告しています。

アジア太平洋地域は2023年において、全世界の経済成長の3分の2を占めていますが、所得と資産の格差は拡大しており、特に南アジアでは最富裕層10%が所得全体の半分以上を占めるに至っています。所得が1日2ドル15セント未満という極度の貧困状態で暮らす人々は、今でも1億8,500万人を超えていますが、報告書によると、コロナ禍による経済へのショックを受け、この数はさらに増えるものと見られています。

カンニ・ウィグナラジャ国連事務次長補兼UNDPアジア太平洋局長は「このたびの報告書は、各国がそれぞれ独自の進路を決めるという理解に立ちながら、人間開発への投資を優先しない限り、既存の課題を克服できないことを強調しています。私たちは人間第一の政策と、自然資産に高い価値を置くスマートな成長戦略を育てることにより、さらに数百万人にとって、より安全かつ平和であるだけでなく、持続可能で豊かな未来に道を開くことができるのです」と語っています。

報告書は、この変革を実現するため、人間開発に3つの新たな方向性を求めています。すなわち、開発の中心に人間を据えること、より多くの雇用を創出し、環境を尊重できるよう、成長戦略の調整を図ること、そして、アイデアを実行に移すための変革の政治と、実践の科学に対する焦点を当てることです。 

報告書はまた、各国が不確実な未来に、現存する不平等の幅を縮め、人間の安全保障に対する不安感を低下させるために、どのような形で開発戦略を再活性化できるのかについての全体像も提示しています。

人間起点の戦略の手始めとして、まずは構造的な排除への対処、人間の尊厳の擁護、能力の構築などにより、あらゆる人の選択肢を広げねばなりません。構造的な排除への対策は単に「正しいこと」であるだけでなく、大きな経済的利益も生み出します。報告書によると、男女平等を進めただけでも、域内全体の年間国内総生産(GDP)は2025年までに、4.5兆ドルも増える可能性があります。

外部市場環境で競争がますます激しくなる中で、競争力と多角化にしっかりと焦点を絞ることは欠かせません。今回の報告書では、低炭素の「グリーンエコノミー」とテクノロジーの分野で、新たな経済機会が生まれることに加え、ブルーエコノミーの一環として、新技術や投資を通じ、域内の海洋資源を最適化し、持続させることが、特に小島嶼開発途上国にとって重要である点も明らかにしています。

報告書の主筆者であるフィリップ・シェレケンスUNDPアジア太平洋局主任エコノミストは「経済成長を求める声を抑えるのではなく、さらに大きくすべきです。成長は依然として人間開発に欠かせないからです」と述べ、さらに次のように付け加えています。「成長と雇用創出に対する向かい風が強まり、さらなる混乱の兆しも見えている中で、輸出主導型と内需主導型の成長戦略をともに調整すべき時は来ています」

域内の約13億人を数える大量のインフォーマル労働者が取り残されようとしています。フォーマル部門がまともな雇用機会を提供できていないために、多くの労働者が質の低い雇用から抜け出せなくなっているのです。また、報告書の指摘によると、域内では民主的実践が1970年代後半に見られた水準にまで着実に後退しており、しかもコロナ禍によって、政府は市民の自由をさらに厳しく制限することが可能になっています。

政府は新たな進路を決めるために、将来を見通し、今後生じる課題に対処できるようにしておく必要があります。それによって、変革の実現にさらに重点を置く姿勢をリーダーシップと、さらに先を読む適応可能かつ機動的なガバナンスに深く根づかせるためには、どうしたらよいかが分かってくるのです。

報告書全文は、次のURLから入手できます:https://www.undp.org/asia-pacific/rhdr2024


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バンコク:Cedric Monteiro, Regional Communications Advisor, UNDP Cedric.monteiro@undp.org 

ニューヨーク:Raul de Mora Jimenez, Communications and SDG Specialist raul.de.mora@undp.org