国内避難民の記録的増大への対処は、人道支援だけでは不十分

気候変動や紛争、危機により家を追われた人々には緊急対策が必要

2022年12月6日
UND Pakistan

パキスタンで起きた洪水により避難を強いられた子供たち

UNDP Pakistan / Munner Marri

ジュネーブ、11月29日発— 2022年、家を捨てて避難することを余儀なくされた人々の数は、1億人を超えました。紛争や暴力、災害によるこれら避難民の大半はしばしば数年、さらには数十年も、国内で身動きが取れなくなっています。しかし、こうした国内避難民(IDPs)が大きな問題として取り上げられることはほとんどありません。国連開発計画(UNDP)によると、この見えない危機は、開発支援の隔たりから生じています。

国連開発計画(UNDP)の新たな報告書、『国内避難民対策の方向転換を:解決に向けた開発アプローチ(Turning the tide on internal displacement: A development approach to solutions)』は、気候変動でさらに多くの人が故郷を追われると見られる中で、記録的な数の国内避難民が生まれる状況を一変させるためには、より長期的な開発支援の活動が必要だと論じています。気候変動によって、2050年までに2億1,600万人以上がより安全な場所へと逃れるために、現在の暮らしと生計手段を諦めて故郷を捨てるおそれもあります。

2021年末時点で、国内での避難を強いられた人々は5,910万人に上っています。国内避難民は、基本的ニーズを充足することにも、ディーセント・ワーク(やりがいのある人間らしい仕事)を見つけることにも、安定した所得を得ることにも、健康を保つことにも、子どもを学校に通わせることにも困難を覚えています。中でも、女性や子どもなど、社会から取り残された人々は、最も深刻な影響を受けています。2022年に事務総長が発表した「国内避難に関する行動指針」も、現状は容認できないとしています。

アヒム・シュタイナーUNDP総裁は「国内避難民が社会的に置き去りにされている現状に終止符を打ち、ヘルスケアや教育、社会保障、雇用機会などを通じ、市民としての権利を全面的に行使できるようにするためには、さらに取り組みが必要です。人道援助は極めて重要ではあるものの、恒久的平和と安定、復興へとつながる道を進める条件を整備するためには、それと並び、より開発に重点を置くアプローチが欠かせません」と語っています。

国内避難民モニタリングセンター(IDMC)が提供したコロンビア、エチオピア、インドネシア、ネパール、ナイジェリア、パプアニューギニア、ソマリアおよびバヌアツのサンプルデータを分析すると、調査対象の国内避難民の3分の1が失業状態に陥っていることが分かります。回答者の68%には、家族を養うだけの資金がないのに加え、家を離れてから健康状態が悪化したとする回答者も3分の1に上ります。

自国政府が国内避難民の権利とニーズを充足できるようにすることは、2015年に世界のリーダーが合意した持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための必須条件ですが、その達成期限は刻一刻と近づいています。

報告書では、国内避難民の権利を守り、彼らが基本的サービスを得られるようにし、社会経済的統合を促進し、治安を回復し、社会的一体性を構築するなど、政府が開発面における重要な施策を実行しない限り、国内避難民問題は克服できないことを明らかにしています。

この見えない危機を国際的な議論の俎上に載せることはとても重要です。報告書はよりよいデータと調査を求めています。UNDPは「国内避難民問題解決指数(Solutions to Internal Displacement Index)」を用いて進捗状況を監視し、政府が人道援助から開発へと対応をシフトできるよう支援することで、この隔たりを埋めていきます。

報告書全文はこちら(英語)

 


背景解説:

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、全世界で迫害や紛争、暴力、人権侵害、公的秩序を大幅に乱す事件によって避難を余儀なくされた人々の数は、記録上はじめて1億人を超えました。

IDMCは、全世界の国内避難民(IDPs)の数は、2021年末までに5,910万人に達したとしています。UNHCRによると、それ以降、ウクライナでは、約620万人が国内避難民となっています。

世界銀行によれば、気候変動によって2050年までに、2億1,600万人以上が国内での避難を強いられかねません。

『方向転換』報告書では、2021年1月から2022年1月にかけ、コロンビア、エチオピア、インドネシア、ネパール、ナイジェリア、パプアニューギニア、ソマリアおよびバヌアツの国内避難民と受け入れコミュニティ住民2,653人からIDMCが収集したデータを分析しています。

サンプルを代表的なものとするための取り組みは行われたものの、各国の国内避難民と受け入れコミュニティの全体像を示すことはできていません。また、選ばれた8か国が、国内避難問題を抱える他の国々の国内避難民の実態を反映しているわけでもありません。

受け入れコミュニティの住民と比較した場合、国内避難民は平均して、調査時点で家族に就業者が少なくとも1人いる可能性が14%低い一方で、身体的健康を害したことのある可能性は12%高くなっています。避難先でヘルスケアを受けることがより難しくなったと回答している国内避難民は特に、健康を崩しやすくなっています。

国内避難民の子どもは平均で、受け入れコミュニティの子どもよりも何らかの時点で学校に通えなくなっている可能性が28%高くなっているほか、教育を中断されたことのある国内避難民の少女は、調査時点で他のどの子どもよりも就学率が低くなっています。

調査によると、避難民女性は、同じような属性を持つ受け入れコミュニティの女性と比べ、仕事を見つけられる可能性も、健康を維持できる可能性も大幅に低くなっています。