15年間で25か国の多次元貧困指数が半減 但し、11億人が依然として貧困状態に

明らかな前進が見られるものの、コロナ禍による影響の全体像はまだ不明

2023年7月23日
Photo: UNDP India

国連開発計画(UNDP)とオックスフォード貧困・人間開発イニシアチブ(OPHI)は7月11日、オックスフォード大学で、最新のグローバル多次元貧困指数(MPI)を発表し、110か国に関する推計値を明らかにしました。今回の報告書は、貧困の削減が達成可能であることを実証しています。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)に関する包括的データがないため、当面の見通しを立てることは難しくなっています。

比較対照可能な時系列データのある81か国を中心に、2000年から2022年までのトレンドを分析すると、この15年間で25か国がグローバルMPI値の半減に成功しており、飛躍的進歩の達成が可能であることが分かります。こうした国の例としては、カンボジア、中国、コンゴ、ホンジュラス、インド、インドネシア、モロッコ、セルビア、ベトナムなどが挙げられます。

特にインドの貧困削減は目覚ましく、わずか15年(2005/06年〜2019/21年)で4億1,500万人が貧困を脱しました。中国(2010〜14年に6,900万人)とインドネシア(2012〜17年に800万人)でも、多くの人々が貧困を脱しています。

4年間から12年間という極めて短期間にMPIを半減させている国があることは、各国の定義に基づく貧困を15年以内に半減させるという持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットが実現可能であるという何よりの証拠です。グローバルMPIは同一の尺度で多次元貧困の評価を行っていることから、各国の貧困の定義を反映し、各国の事情に即した形で多次元貧困指数を考えることが極めて重要と言えます。

こうした心強いトレンドにもかかわらず、グローバルMPI算定対象の110か国のほとんどではコロナ禍以降のデータが得られていないため、コロナ禍が貧困にどのような影響を与えたかを把握することは難しくなっています。

ペドロ・コンセイソンUNDP人間開発報告書室長は、次のように所見を述べています。「持続可能な開発のための2030アジェンダの達成期限まで折り返し点に達したいま、コロナ禍発生以前に多次元貧困の削減が着実に進んだことがはっきりと分かります。しかし、コロナ禍は教育などの側面に大きな悪影響を与えているため、その余波が長期に及ぶおそれもあります。最も大きな悪影響が出ている側面を把握するための取り組みを本格化することが欠かせませんが、そのためには、データ収集の強化と、貧困削減を改めて軌道に乗せるための政策努力が必要になります」

メキシコ、マダガスカル、カンボジア、ペルー、ナイジェリアなど、2021年または2022年のデータが収集できているごく少数の国を見ると、コロナ禍の中でも貧困削減の勢いは続いていた可能性もあります。カンボジアやペルー、ナイジェリアでは、最新のデータで大幅な削減が見られており、まだ前進が可能であることが期待できます。中でも、カンボジアの事例は最も希望を抱かせるもので、コロナ禍を含む7年半(2014〜2021/22年)の間に、貧困率は36.7%から16.6%へと低下する一方で、貧困人口も560万人から280万人へと半減しています。

しかし、世界的な影響の全容はまだ分かっていません。私たちはデータ収集を改めて重視するとともに、その範囲を広げ、子どもに対するコロナ禍の影響も把握する必要があります。過半数の調査対象国では、子どもの貧困に統計上有意な低下が見られていなかったり、子どものMPIが成人のMPIほど大きく低下していない時期があったりするからです。このことからも、特に就学率や低栄養という点で、子どもの貧困は今後も引き続き喫緊の課題になると見られます。

オックスフォード大学のサビーナ・アルカイアOPHI事務局長は、次のように語っています。「多次元貧困に関するデータが驚くほど少ないという事情は、正当化はおろか、理解することさえ困難です。すでにデータの洪水に見舞われている世界は、次なるデジタル成長の時代を迎えようとしています。にもかかわらず、多次元貧困層11億人のうち10億人について、コロナ禍後の状況が把握できていません。この問題は簡単に解決できます。多次元貧困に関するデータを把握するには、私たちが行っている調査の質問のうち、わずか5%に答えてもらえば足りるため、ほとんどの人が考えるよりも収集に時間がかからないからです。私たちは資金提供者やデータ科学者に対し、貧困層を襲う相互関連性のある欠乏をリアルタイムで追跡、把握するため、貧困データの突破口を開くよう呼びかけています。」

グローバルMPIは、教育と医療へどのぐらいのアクセスがあるか、または住宅や飲み水、衛生設備、電力利用などの暮らしの水準はどの程度かなど、日常生活のさまざまな側面で人々がどのように貧困を経験しているのかを示すことで、貧困削減状況のモニタリングと政策立案への情報提供に寄与します。貧困指数としてのMPIは、貧困層の一人ひとりが経験している相互関連性のある困窮を積み上げる形で表現するもので、こうした困窮をすべてなくすことをねらいとしています。

2023年MPI報告書によると、110か国では人口61億人のうち11億人(18%強)が深刻な多次元貧困の中で暮らしています。特にサハラ以南アフリカ(5億3,400万人)と南アジア(3億8,900万人)は、多次元貧困層の6人に5人程度を占めています。

多次元貧困層全体のほぼ3分の2(7億3,000万人)は中所得国で暮らしているため、グローバルな貧困を削減するためには、これらの国で行動を起こすことが欠かせません。低所得国はMPI対象国の人口全体の10%しか占めていないものの、多次元貧困層に占める割合は35%と大きくなっています。

18歳未満の子どもは、多次元貧困層の半数(5億6,600万人)を占めています。貧困率は成人の13.4%に対し、子どもは27.7%に上ります。貧困の影響が特に著しい農村部には、多次元貧困層の実に84%が暮らしています。世界のどの地域でも、貧困は都市部よりも農村部で広がっています。

MPIは、さまざまな指標が世界の各地域から国内の各地方に至るまで、また、コミュニティ間、あるいはコミュニティ内で、人々が経験する貧困は異なる形をとって表出するという、貧困の複合性に光を当てる尺度です。グローバルな貧困について最新の包括的データを確保することは、こうした課題に対処し、より平等な世界に向けた前進を続けるうえで欠かせない第一歩です。


2023年多次元貧困指数について、さらに詳しくは、hdr.undp.orgophi.org.ukをご覧ください。