アルメニアの気候危機リスクを減らす自然を基盤とした解決策

2023年2月2日
Photo: UNDP Armenia

最新の統計によると、アルメニアでは約100年の間に平均気温が1.2℃上昇し、極端な気象現象が20%増加したとされています。複雑な山岳地帯と脆弱な農業地域を持つ内陸国のアルメニアで、気候変動はコミュニティと人々の暮らしに深刻な脅威を与えています。

ゲガルクニク県は、春先の霜、雹、風、干ばつ、土砂崩れなど、アルメニアで最も気候によるリスクや危険にさらされている地域の一つです。なかでも土砂崩れは差し迫った脅威となっています。水分を含んだ土砂が流れ込む流路は状態が悪く、年間を通して泥や瓦礫で埋まってしまっており、春の降雨期と冬の雪解け後には、山々で深刻な問題を引き起こしています。

日本政府の協力の下、国連開発計画(UNDP)がアルメニアで実施しているプロジェクト「気候リスク・レジリエンスに関して国が決定する貢献(NDC)への支援」では、チャンバラク地域において、コミュニティによる流路の清掃と川岸を保護する壁の建設が行われました。これらの活動は、コミュニティの発展を支援し、災害リスクを減らし、さらには気候変動のインパクトから既存の投資や将来の投資を保護するために重要なものです。例えば、土砂災害が起こる可能性があったために何年も遅れが生じていた道路の補修やアスファルト舗装のプロジェクトは、災害リスクが最小限に抑えられたことで、現在では再開できるようになりました。

このプロジェクトの最も重要な点のひとつは、土砂災害が起こるリスクを軽減するために自然を基盤とした解決策をとったことです。河川の護岸工事では、コンクリート擁壁のかわりに、集落近くの採石場から採取した玄武岩質の石や岩を詰めた亜鉛メッキのガビオン(蛇籠)を使用しました。ガビオンは自然の素材を活用しているため、形を変えやすく、排水がしやすいなどの利点があります。また、安価で耐久性にも優れています。

チャンバラクの住民たちは、泥流路の清掃と川岸を保護するためのガビオンの建設は、コミュニティの発展にもプラスの影響を与えていると話しています。

「毎年、夏の時期も含めて流路が機能していなかったので、劣化したコンクリートの壁から泥が流れ出て、庭が水浸しになり、作物にも被害が出ていました」と、コミュニティで教師をしているスザンナ・アバギャンさんは話しています。「流路がきれいになり、ガビオンが設置されたことで、庭や近くの土地で土砂の被害を受ける心配をすることなく、ガーデニングができるようになりました。土砂のために補修ができなかった道路も、早くアスファルトで舗装されることを望んでいます」

このプロジェクトはコミュニティの能力向上にも力を入れており、ガビオンの設置工事などは8人の地元住民によって行われました。それにより、自分たちで同様の工事を行うことができるようになり、ガビオンの維持管理や今後のメンテナンス作業なども適切に行うことが可能になりました。こうした活動は、イベントや集会の場として住民が集う飲食店など、地元企業にもプラスの影響を与えると見られています。

ある飲食店の女性従業員は「土砂崩れで建物の壁が何度も損壊したり、大量のゴミやヘドロがパン屋とその周辺を埋め尽くしたりしていました」と語りました。今回の工事で、今後は土砂災害が起こらなくなることを、彼女は期待しています。

このプロジェクトの成果は、気候変動への適応策とレジリエンスへの投資が多面的な効果をもたらすことを示しています。気候変動の影響が強まるにつれ、適応策、レジリエンス、災害リスクの軽減ツールを強化し、脆弱な人々がそれらを確実に利用できるようにすることがこれまで以上に重要になってきます。

自然を基盤とした解決策を気候変動への適応策に用いることは、生物多様性の損失や気候変動の緩和策など他の課題への対応にも役立ちます。自然を基盤とした解決策のインパクトを測定し、その成功を伝えていくことは、現在と未来の政策を拡充していくのに不可欠です。

日本政府は気候危機が全人類の脅威であると考え、UNDPと連携して各国の気候変動対策を加速させるようリードしています。

2021年、UNDPは気候変動対策に関して「国が決定する貢献(NDC)」の目標を具体的な行動に移すことを目的とした「気候の約束(Climate Promise)」の新フェーズを開始しました。日本政府はこのフェーズの最大の支援国であり、ドイツ、スウェーデン、欧州連合、スペイン、イタリアなどの長年のパートナー、英国、ベルギー、アイスランド、ポルトガルなどの新たなパートナーとともに、この取り組みを加速させるために参加しています。