野口英世アフリカ賞の受賞者を祝し、アフリカの人的資本開発の重要性を強調

「AFRI CONVERSE」 特別編 開催報告

2023年5月9日
Photo: UNDP

2023年3月16日に開催された、野口英世アフリカ賞の第4回受賞者を迎えた “AFRI CONVERSE” (TICADアドボカシー対話シリーズ)の特別編では、パネリストたちは、アフリカにおける医療、栄養、質の高い教育、技能向上への投資は、貧困をなくし、より包括的な社会を作るために不可欠であることを強調しました。

野口英世アフリカ賞は、20世紀初頭の日本人医学研究者のパイオニアであり、当時の英領ゴールドコースト、現在のガーナで自らの研究対象だった黄熱病に感染して死亡した野口英世博士を記念し、日本政府がアフリカにおける様々な感染症対策や革新的な医療サービスシステムの確立に優れた功績を残した人物を表彰することを目的として設立されました。

内閣府、国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)の共催で行われた今回のシンポジウムでは、2022年8月にチュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD8)で、日本がアフリカの人的資本開発に向けた約束をしたことを背景に、受賞者のこれまでの取り組みが評価されました。

シンポジウムの開会挨拶では、内閣府事務次官の田和宏氏が、野口英世アフリカ賞を契機としたアフリカ大陸におけるグローバル・ヘルス・アーキテクチャの強化に対する日本のコミットメントを再確認しました。「今年はG7の開催国として、日本政府は新型コロナウイルスと人間の安全保障に対する脅威との世界的な闘いに最善を尽くしたいと考えています。新型コロナウイルスはじめとするパンデミックは、アフリカだけでなく世界中の保健システムの脆弱性を明らかにしています」と田和氏は述べました。

野口英世アフリカ賞委員会委員長の黒川清氏は、受賞者がそれぞれの部門で多大な貢献をしたことを称えました。また、この賞がアフリカを支援し、すべての人のために医療と福祉を向上させるという日本のコミットメントを表していることを強調しました。

Photo: UNDP

シンポジウムの冒頭、 国連開発計画(UNDP)アフリカ局チーフエコノミスト兼戦略・分析・調査チーム長のレイモンド・ギルピンが、紛争や暴力、病気などの脅威から人々を守る「人間の安全保障」の観点から、アフリカ大陸の状況について言及しました。ギルピンは、新型コロナウイルスやウクライナ戦争などの外生的なショックは、数十年にわたる開発の成果を台無しにし、多元的な脆弱性を増大させ、経済成長の弱化、不平等の拡大、生産性の阻害、安全保障上の課題の増大を招いたと指摘し、アフリカで持続可能な開発を達成するには、GDP成長のみに焦点を当てるのではなく、人的資本の成長を優先させることが必要だと述べました。

Photo: UNDP

医療研究部門では、HIV/AIDSの予防と治療への貢献が認められ、南アフリカのサリム・S・アブドゥル・カリム博士とカレイシャ・アブドゥル・カリム博士が受賞しました。両氏がHIVの疫学、感染、発症のメカニズムの解明に大きく貢献し、その研究が新たな予防・治療法の開発に寄与してきたことが評価されました。また、サリム・S・アブドゥル・カリム博士は、南アフリカのCOVID-19閣僚級諮問委員会の共同議長を務め、同国の新型コロナウイルス対応戦略の策定に貢献してきました。また、科学的根拠に基づくエビデンスを政策決定に活用することを強く提唱し、研究者と政策立案者との間の橋渡しに尽力してきました。「野口英世博士の名において、この場にいることは実に光栄なことです。彼の功績を見ると、科学と公衆衛生が人々の生活を変える力を体現しています 」と述べました。

カレイシャ・アブドゥル・カリム博士は、パンデミックの際に、曝露前予防薬などの新しいHIV予防技術の開発において、極めて重要な役割を果たしたほか、南アフリカでウイルスの検査・治療戦略の改善にも努めました。「コロナ禍で私たち全員が脆弱性を共有し、相互につながっていることに気づかされました。このようなグローバルな対話は、人間の安全保障を基盤として、アフリカの感染症対策への解決策を見つけるのに大いに役立ちます」と述べました。

医療サービス部門では、米国に拠点を置くカーター・センターが、アフリカ大陸におけるギニア虫症の撲滅に向けて、アフリカ政府やNGOなど現地のパートナーとともに長年にわたり尽力してきたことが評価され、受賞に至りました。

同センターの上級副部長であるメーガン・マーツ氏は、「カーター・センターは、人権と人間の苦しみを軽減するという基本的なコミットメントに導かれています」と、同センターのミッションについて言及しました。「私たちは、紛争の予防と解決、自由と民主主義の強化、そして健康の向上を目指しています。40年間、カーター・センターは80カ国以上の人々のために平和と健康の促進を支援してきました」と続けました。

同センターでギニア虫症撲滅プログラムのディレクターを務めるアダム・ワイス氏は、この取り組みにおけるパートナーシップと対話の重要性を強調しました。 1986年以来、同センターは、ギニアワームの根絶を目指す世界的な運動を主導してきたこと、またこの病気が、40年以上前の天然痘以来2番目に根絶された人類の病気であり、ワクチンや薬を使わずに根絶される最初の病気でもあることに言及しました。またワイス氏は、ギニア虫に汚染された水を摂取することで感染するため、地域の保健員や村のボランティアによる、地域に根ざした健康教育と簡易フィルターによる水のろ過が、重要な介入策となっていると述べました。「国際協力機構(JICA)が、ガーナで支援した安全な水へのアクセスは、ギニア虫の撲滅活動を加速させることができます」と述べ、同センターが1986年にグローバルキャンペーンを主導し始めた当時、年間約350万人が苦しんでいたのに対し、2022年にはわずか13人の発症にとどまったことを強調しました。

国際協力機構(JICA)人間開発部審議役兼新型コロナウイルス感染症対策協力推進室長の瀧澤郁夫氏は、「JICAはグローバルヘルス・医療へのイニシアチブを推進しています。1970年代から日本はアフリカの生物医学研究基盤に投資し、ガーナの野口記念医学研究所のような研究所の設立を支援してきており、同研究所は現在では、アフリカ大陸と世界でトップの生物医学研究施設として成長しました」と述べました。さらに瀧澤氏は、「JICAは、アフリカにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現に向けた努力を続けたいと考えており、この目標を達成するためにパートナーの継続的な協力を期待しています」と続けました。

藤田由布医師は、産婦人科医になられる以前に、青年海外協力隊員としてニジェールでギニアウォーム撲滅に従事したご自身の素晴らしい現場経験を、会場とオンラインで参加の聴衆に共有しました。そして、様々な病気や健康上の課題に苦しんでいるアフリカの人々に対し、さらに多くの貢献がなされるよう呼びかけました。

シンポジウムの閉会にあたり、国連大学学長兼国連事務次長のチリツィ・マルワラ氏は、アフリカの潜在力を守るために、受賞者の模範的な功績や提言を認識することが重要であると強調しました。マルワラ氏は、サリム・アブドゥル・カリム博士とカレイシャ・アブドゥル・カリム博士の功績を取り上げ、ターゲットを絞った訓練と能力開発が、いかにコミュニティや国家が課題を克服するための推進力となるかを実証したと称えました。また、アフリカの労働力を教育・訓練するための適切な措置を講じなければ、第4次産業革命によって生まれる新しい仕事を担う人材が不足することになると警告しました。

シンポジウムは、グローバル化の課題に対応するためには、人材開発資本への投資を促進することが重要であることを強調し、模範となる野口英世アフリカ賞を通じた、健康、教育、ジェンダー平等、持続可能な開発のための人材への投資の重要性に焦点を当て、締め括られました。

当日の動画は以下にてご覧いただけます。