アフリカと日本の女性起業家の連帯を強化するパートナーシップ

2022年6月28日

 

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に先駆けてウェビナーが開催され、世界の他の地域と同様、アフリカにおいても女性は起業や事業拡大において特有の課題に直面していると登壇者達が発言しました。

UNDP、アフリカ開発銀行、アフリカ連合開発庁(NEPAD)が共催し、経済同友会が後援した本オンライン・シンポジウムは、アフリカと日本の女性起業家の連帯を強め、教訓を共有し、ネットワーキングを促進するために、UNDPアフリカ局長のアフナ・エザコンワの来日の機を捉えて2022年5月27日に開催されました。

シンポジウムの冒頭、司会を務めた経済同友会アフリカプロジェクトチームの永山妙子氏は、本シンポジウムは、ビジネスで活躍・成功しているだけでなく、社会貢献も行っているアフリカと日本の女性起業家を紹介し、アフリカでの起業に関する経験や見解を共有できる貴重な機会であると述べました。

歓迎の辞として、経済同友会アフリカプロジェクトチーム委員長・日本アフリカビジネス協議会共同議長の岩井睦雄氏は、日本が官民一体となってアフリカの持続的発展に取り組んでいることに触れ、次のように述べました。「日本の企業経営者は、大きな潜在力を持つアフリカ大陸とともに成長したいという強い思いを持っています。コロナ禍の状況では、医療、農業、教育、グリーン、デジタルといった分野に特に注目が集まっています」と述べました。

また、社会的課題の解決には、情熱とエネルギーを持ったアフリカと日本のスタートアップや起業家の役割が不可欠であるとし、女性起業家が知識や経験を共有するためには、対話が不可欠であると指摘しました。「TICAD8に向けて、アフリカで活躍するスタートアップを支援する仕組みを作り、今日の交流が皆にとって実りあるものとなり、アフリカと日本双方の発展につながることを期待する」と強調しました。

 

岩井睦雄氏 経済同友会アフリカプロジェクトチーム委員長、アフリカ・ビジネス協議会共同議長、日本たばこ産業 取締役会長

 

開会の挨拶として、UNDP総裁補兼アフリカ局長のアフナ・エザコンワは、「2019/2020 Global Entrepreneurship Monitor」の調査結果を強調し、過去5年間に起業した世界中の数百万人の女性のうち、アフリカ出身者が最も高い割合を占めると指摘しました。

「この事実は説得力があります。歴史的に見ても、アフリカの女性たちは起業と貿易の中心的存在でした。リスクを取り、新たな事業に投資し、利益を上げる方法を知っているのです。私たちは、女性が本来持っている力を引き出し、世界の進歩の原動力として、さらにはアフリカの社会経済の変革の原動力として、女性に投資しなければなりません」とエザコンワは述べました。

続いてエザコンワは、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)は、皮革、繊維、農業、自動車、医薬品などのバリューチェーンにおける市場機会を創出する上で貴重であると指摘し、UNDPの「Futures Report 2021」には、「Made in Africa Revolution」に投資するための参考となる具体的な提言が含まれていると強調しました。 最後に、女性の起業を阻む主な要因は、起業資金が少なく、担保がほとんどないため、商業銀行から融資を受けられないことであると言及しました。

 

 

AfDBアジア代表事務所長の花尻卓氏は、AfDBの女性起業家支援ツールに言及し、AfDB総裁や女性幹部から寄せられた女性起業家を鼓舞し励ます力強いメッセージを紹介しました。これらのメッセージでは、女性のエンパワーメントを真に達成するためには、資産や金融、技術サービスといった生産資源へのアクセスと、資源や利益の管理手法、能力、自信、意思決定力といった女性の能力に配慮する必要があることが指摘されました。

続いて、AUDA-NEPADの人材育成・制度開発部長のファティ・ンズィ・ハサネ氏 氏は、女性のビジネスベンチャーを促進するための投資拡大の必要性に同意しました。アフリカは世界で最も起業率が高く、自営業者の58%が女性であるにもかかわらず、女性は資金や有意義なビジネスチャンスへのアクセス、適切なトレーニングへのアクセスなどの面で、十分なサービスを受けられないままだと述べました。

「AUDA-NEPADでは、十分な数の女性起業家を支援するためには、意図的に女性をターゲットとし、それに応じたサービスを提供する必要があることに気づきました」と述べています。このため、AUDA-NEPADは「Gender Makes Sense」プログラムを立ち上げました。これは、農業分野における公的・民間の起業家および職業訓練機関のための能力開発支援プログラムです。

「アフリカ出身であれ、日本出身であれ、女性起業家は、自分たちが属する国の社会的・文化的規範に潜む同様の課題や逆境に直面しています。だからこそ、私たちはここで連帯を表明し、日本の女性がアフリカで、アフリカの女性が日本でビジネスができるようにするのです」とハサネ氏は述べました。

本セッションモデレーターの池亀美枝子教授は、エザコンワがこのシンポジウムのためにはるばる来日したことに感謝し、このテーマに対する強い意志を表明しました。 また、10年前に初めて会った際に、エザコンワがレソトの国連常駐調整官としてビジョンとコミットメントを持って効果的なリーダーシップを発揮していたことを振り返りました。

池亀氏は、アフリカではトヨタやソニーなどの日本ブランドを通じて日本が認識されているが、アフリカの人々は通常、日本人として日本の人々、特に女性についてあまり知らないことを指摘しました。

「経済発展の面でアフリカが日本から学ぶことが多いのは事実ですが、社会問題に関して、日本はアフリカから学ぶことが多いのです。女性の社会的地位について、日本は150カ国中120位程度です。 ルワンダをはじめ、多くのアフリカの国々は日本よりはるかに進んでいます。近年、アフリカの社会的課題の解決に貢献するビジネスで活躍・成功している日本の女性起業家が注目されていますが、現在の開発課題の大きさからすると、まだまだ少数派です。アフリカでのビジネスやアフリカとのビジネスに関心を持つ日本の女性起業家はたくさんいます。しかし、ネットワーク作りの難しさや情報不足、コロナ禍による渡航制限の現状などからアフリカに行くことができず、ビジネス・アイデアの実現を阻んでいます」と指摘しました。

池亀教授は、このシンポジウムがアフリカと日本の女性起業家にとって、経験を共有し、ネットワークを作り、互いに学び合うまたとない機会であると述べました。

続くテーマ別セッションの冒頭、池亀氏は「アフリカ経済にとって農業は非常に重要である」と指摘しました。 ウクライナ戦争は、アフリカだけでなく、全世界に食糧危機をもたらしました。 現在の状況は、アフリカ大陸における食糧供給と食糧安全保障における自己効率化の重要性を示しています。

 

 

池亀美枝子氏 (AUDA-NEPAD CEO特別アドバイザー)

 

食品・農業セクターでは、南アフリカに拠点を置く「Reel Gardening」の創設者兼CEOのクレア・リードは、革新的なビジネス・アイデアを持つ女性が、いまだに投資家や金融機関から拒絶されていると強調しました。

16歳のとき、南アフリカでガーデニングがいかに難しいかを目の当たりにしたリード氏は、紙製の種子片を開発しました。この技術により、ガーデニングを志す人は正しい間隔と深さで種を植えることができ、水の使用量を減らし発芽率を高めるだけでなく、そうしなければ飢えてしまう家族のために食糧を提供することもできるのです。

「私は、企業や政府、NGOと協業する方法を探しましたが、どこも踏み切れませんでした。収入の少ない人たち向けの新しい農業技術に賭けてくれる投資家を探しましたが、誰も乗ってきませんでした」とリード氏は述べました。現在、彼女のビジネスは成功していますが、すでに成功しているビジネスモデルを拡大するために、投資家の関心を集めることに女性はまだ苦労していると指摘しましました。

続いて日本からは、アフリカの自然、特にモリンガの木からインスピレーションを受けたナチュラルセルフケアブランド、JUJUBODYの創業者である大山知春氏が登壇し、ビジネスを軌道に乗せるために乗り越えなければならなかった物流や管理のハードルをいくつか紹介しました。

「2つの課題を経験しました。ひとつは、完成品を日本に紹介したかったのですが、各国の食品安全基準に関する政策が厳しいこと。もうひとつは、薬物政策の影響で、日本でのモリンガの認知度を上げる方法がわからなかったことです」と大山氏は述べました。

それでも大山氏は粘り強く取り組み、今ではガーナのモリンガ生産者200人以上が、約1万8000人の現地の農家に栽培・収穫・加工方法を指導するまでになったのです。生産と販売の面でアフリカと日本の間にある溝をどのように埋めたかについて、彼女はガーナでのネットワークとビジネスパートナーの存在が、JUJUBODYの立ち上げの成功に極めて重要であったと語りました。

 

大山知春氏(JUJUBODY)

 

池亀氏は、モリンガを日本に紹介することは、アフリカの伝統に基づいた健康志向の製品として革新的な取り組みであり、モリンガビジネスを成功させるためには、地域社会を巻き込むことが重要であると指摘しました。 また、南アフリカにおけるアグリ・ビジネスについて、南アフリカの安定と平和という新たな問題は、地元の独創的な人々が農業生産の拡大と存続可能な市場のための新しい技術や技能をいかに手に入れるかにかかっており、農村コミュニティ、特に先住民族のコミュニティを巻き込むことの深い価値を指摘しました。

ファッション・コスメセクターでは、2019年にスポーツウェアのライン「FIERCE Sportswear」を立ち上げたチュニジアの起業家ファトマ・ベン・ソルテイン氏が登壇し、女性起業家が銀行からの資金的裏付けなしに事業を立ち上げなければならないことを示しました。

FIERCE Sportswearはサステナビリティを重視しており、ベストセラーのレギンスはリサイクルされたペットボトルから作られています。また、チュニジア綿を再利用した商品もあります。「チュニジアは経済規模が小さいので、エコフレンドリーな製品を推し進めるには、製品のマージンを低く抑えて購買意欲を高める必要がありました」と彼女は説明しました。

ソルテイン氏は、アフリカのファッションやビジネスのアイデアには政府による財政支援が必要であり、女性起業家が国内外に製品を展示できるよう支援することができると強調しました。 日本からは、ウガンダでシングルマザーを雇用し、高品質のアフリカンプリントのファッションやアクセサリーを生産し、日本に輸出しているRICCI EVERYDAYのCOOを務める仲本千津氏が登壇し、アフリカのビジネスコンタクトとのネットワークがブランドの成長を維持するために不可欠である点を同感しました。

彼女は、ある国に拠点を置きながら、別の国でビジネスを展開する方法もあると述べました。

「私は日本とウガンダで全く異なる2つの会社を持っていますが、行ったり来たりするのを避けるために、ウガンダで日々の業務を運営するマネージャーを任命しています」と仲本氏は説明しました。

仲本氏は、フィードバックシステムやネットワークチャネルを活かすことで、アフリカのものづくりに携わる女性たちが大きな夢を持ち、自分たちのユニークなデザインや才能を国際市場に出すことが可能であると励ましてきました。

ファッションビジネスについて、池亀氏は、パリや東京をはじめ、世界ではアフリカのファッションを評価する傾向がある、と述べました。 日本やアフリカで起業するには、勇気と革新的なアプローチが必要であり、 両氏とも、現地の状況下でビジネスを成功させ、資金力の前に自信を示したこと、自信は起業の大きな要素であると指摘しました。 さらにウガンダでは、シングルマザーの女性たちが、ビジネスを通じて自分に自信を持つきっかけを作ったことが注目に値すると述べました。

続くデジタル・グリーンセクターでは、ナイジェリアを拠点とする女性主導のデジタル技術を推進する事業「Learntor」のCEOであるマーシー・ジョージ・イグバフェ氏が登壇し、女性が経営するビジネスに対する支援の不均衡を強調しました。

「2021年現在、アフリカには60億ドル近い技術資金が投資されています。しかし、その資金を利用できるのは、女性主導の企業のわずか8%というのは衝撃的です」とイグバフェ氏は述べました。

アフリカの高い失業率を背景に、Learntorは女性や若者の技術ギャップを埋め、彼らの雇用可能性を高めるとともに、ビジネスの成長にも寄与しています。しかし、イグバフェ氏は、ビジネスを拡大するための投資家や資金を集めるのに苦労していると述べました。

続いて日本からは、西アフリカの村々に電気とインターネットを届ける「SUCRECUBE Japon」の共同創設者である佐藤美帆氏の事例が紹介されました。

佐藤氏は、セネガルではすでに保健・教育分野を支えているが、さまざまな分野でも活用できると述べました。「日本の技術力や人材育成力は、アフリカと非常に高い親和性を持っています。そして、両国の女性の強力なネットワークによって、さらに良い相乗効果が生まれると信じています」と語りました。

 

佐藤美帆氏 ( SUCRECUBE Japon)

 

デジタル・グリーンビジネスについて、池亀氏は、ワーキングマザーから起業家へと大胆に転身した佐藤氏の決断を賞賛しました。さらに、イグバフェ氏がモバイルバンキングを例に、男性中心の技術産業に足を踏み入れた勇気に拍手を送りました。そして、アフリカの技術革新の可能性を強調しました。

また、登壇者一同は、女性による起業の機会は、ビジネスネットワークの育成や適切なビジネスメンターの特定を困難にする行政、民族、家父長制の社会構造によってさらに複雑になっていると指摘しました。

さらにIT分野に関して、池亀氏は、男性との競争が激しいビジネス分野で、両氏の堅実な成功を賞賛しました。 特にアフリカの社会経済発展の核となる人材育成に力を入れ、強い意志と決断力で目覚ましい成果を上げたことに着目しました。

最後に池亀氏は、今回のシンポジウムは、アフリカと日本の女性起業家が出会い、交流し、それぞれの経験や創造的なビジネス・アイディアを共有するための革新的なイベントであったと述べました。このような交流は一過性のイベントに終わらせることなく、持続可能な形で奨励されるべきと強調しました。 共催者とパートナーは、アフリカと日本双方の社会、経済、政治の発展における女性の役割を強化するという長期的な目標を達成するために、日本とアフリカの女性起業家の間のこのような対話の機会を定期的に設けるよう要請しました。

パネル登壇者へのコメントとして、経済同友会副代表幹事で、株式会社価値経営研究所代表取締役会長の栗原美津枝氏は、新しい視点での女性主導のビジネスが、日本の再成長と社会変革の原動力となると述べました。

栗原氏は、日本のビジネスウーマンの継続的な発展を支援するために、日本政策投資銀行と共同で、女性の新規事業を奨励・支援するDBJ女性起業家センター(WEC)を立ち上げました。「WECは、2011年から日本の女性起業家を対象としたビジネスコンテストを開催し、資金、ネットワーク構築、ビジネスマッチング、起業のスキルや経験などの分野で包括的な支援を行っています」と述べました。

また、「日本の女性起業家の成功は、日本とアフリカの両方で、女性のビジネス開発を支援し、後押しする環境づくりが不可欠であることを再確認させました」と述べました。

コメンテーターとして登壇したAfDBジェンダー・女性・市民社会局首席事業開発官のネーマ・フェレイラ氏は、女性起業家がビジネスネットワークを広げ、事業を拡大するための金融・非金融サービス情報にアクセスする能力を高めるために、2019年に50 Million Africa Women Speak (50MWASP) platformを立ち上げたことを紹介しました。

「50MWASPは金融・非金融サービスのワンストップショップとして、女性起業家のデジタルスキルを支援・強化します。今回、このプラットフォームをアップグレードすることにより、情報や新しい市場へのアクセスが可能になります」と フェレイラ氏は述べました。 

シンポジウムの最後に、エザコンワは、8月にチュニジアで開催されるTICAD8を前にした今回のセッションは、UNDPのアフリカに対する新たな戦略的提案を支えるプロミス・レンズに満ちたものであると述べました。

「私たちは、女性起業家を変革のプロセスの一部として捉えることにしています。プロミス・レンズは、人々を第一に考え、才能のショーケースを広め、創造性、回復力、機知に投資します」と述べました。

資金、技術、スキルのギャップを埋め、アフリカの女性起業家を含む起業家に機会を与えるため、UNDPは10億ドルのスタートアップ資金を調達し、アフリカ大陸自由貿易圏の発展のためのイノベーションに必要な条件を整えるべく政府と協力するイニシアチブ「Timbuktoo」を開発していると説明しました。

「日本政府と経済同友会、アフリカ開発銀行、AUDA-NEPAD、日本企業を含むすべてのパートナーがTimbuktooを支援し、女性起業家の必要性と機会を主張し、官民パートナーシップ、共同投資、企業間ネットワーキングのプラットフォームとしてTICAD8を活用していただくよう期待しています」と締めくくりました。