SMILEアプリでマラリアと闘う: インドネシアにおける革新的なデジタル・ソリューション

2023年6月23日
SMILE Malaria App

東ヌサ・トゥンガラ州南西スンバ地区において「SMILEマラリアアプリ」の試用版を試す参加者

Photo: UNDP

デジタルツールが、健康と福祉の向上に役立つことはすでに広く知られています。予防接種・物流監視デジタルシステムSMILE (Electronic Immunization and Logistics Monitoring Systemの略)の新機能として開発されたSMILEマラリアアプリは、医療従事者がマラリアの蔓延をより適切に管理、監視し、インドネシアの脆弱なコミュニティの人々の命を救うことができる可能性を持つツールのひとつとなっています。

2018年に国連開発計画(UNDP)とインドネシア保健省(MoH)によって開発されたSMILEは、ワクチンの在庫のリアルタイムかつカスタマイズされたエンドツーエンドの追跡を実現し、予防接種サプライチェーンを強化するクラウド型デジタル・ソリューションです。特に、SMILEアプリは、インドネシア全土の12,000以上の医療施設において約4億5,400万回分のCOVID-19ワクチン配布の管理に成功しました。これにより、UNDPとMoHはSMILEの優れたシステムをマラリア対策への強化のために活用することとなりました。

WHOが発行した「世界マラリア報告書2022」によると、全世界でのマラリア患者数は2億4,700万人、死亡者数は61万9,000人と推定されています。アフリカ地域が世界の症例数と死亡者数の約95%を占めており、南・東南アジア地域の症例数は約2%となっています。マラリアは南・東南アジアの9カ国で流行しており、上位3カ国は、インド、インドネシア、ミャンマーとなっています。

MoHの最新データによると、インドネシアは2022年に399,666人の症例を記録しました。2022年12月の時点では、インドネシアの514地区のうち372地区(72.4%)がマラリアのない地域として認定されています。しかし、マラリア患者の90%以上を占めるパプア州、西パプア州、東ヌサ・トゥンガラ州東部などの地域では、マラリア撲滅の課題が残っています。

2030年までにマラリアを撲滅するというインドネシアの目標は、COVID-19パンデミックの影響によってさらに複雑化し、いくつかの課題に直面しています。複雑な地理的条件に加え、適切なデジタルツールの欠如や人々の危険な行動が、マラリア対策の物流における格差の是正への進展を妨げています。

この問題に対処するため、UNDPインドネシア事務所は新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(ADP)の支援を受け、MoHと協力し、費用対効果の高い対策とアクセスしやすいデジタル・ソリューションを特定する取り組みを行ってきました。その取り組みの1つとして、SMILEマラリアアプリを開発しました。このアプリは、物流の記録、監視、報告をデジタル化し、サプライチェーン管理を改善し、マラリアの治療薬や診断ツールの在庫切れを防止する役割を果たします。

この新しいデジタル・ソリューションを保健システムに効果的に導入するためには、医療従事者の能力向上と保健プログラム全体への投資を拡大する必要があります。UNDPとMoHは、南西スンバ地区と東ヌサ・トゥンガラ州でマラリア対策を支援するSMILEマラリアアプリを試験的に導入しました。2023年3月に、16の地域コミュニティの保健センター、南西スンバ地区の保健所、東ヌサ・トゥンガラ州保健・人口・戸籍課から集まった薬事・マラリアプログラムの保健スタッフ47名(うち52%が女性)を対象に、SMILEマラリアアプリの研修が開催されました。

「東ヌサ・トゥンガラ州はインドネシアで3番目にマラリアの流行が多い州で、2022年には15,825人が感染し9人が亡くなりました。南西スンバ地区では、約5,370人のマラリア陽性患者が確認されました。3つの高蔓延地区はすべてスンバ島にあり、同州の感染者の約80%を占めています。SMILE マラリアアプリが提供するデジタル・ソリューションを活用することで、マラリア撲滅への取り組みが加速されることを期待しています。」
東ヌサ・トゥンガラ州保健・人口・戸籍課のマラリアプログラム責任者であるアルフレッド・デュカさん
Indonesian lady
「SMILEマラリアアプリは、従来の紙ベースよりも迅速であり、報告の遅れを減らすことができます。また、マラリア治療薬の効果的な配布や物流も、長距離や山岳地域にも関わらず、確実に行うことができます。今では、自分の携帯電話でマラリア治療薬や物流を簡単に監視することができます。本当に時間を節約できます。」
南西スンバ地区保健所のマラリアプログラムオフィサー、チェンドリアニ・ドミニカ・フェルナンデスさん

SMILE マラリアアプリを通じて、医療従事者は現在のマラリア治療薬と物流の状況をリアルタイムで監視、報告し、供給者に通知ができるようになりました。このデジタルイノベーションにより、在庫切れを特定する能力が強化され、物流のタイムリーな報告が可能になり、マラリアのサプライチェーン管理を最適化するための迅速な意思決定が可能となります。

現在、南西スンバのコミュニティヘルスセンターのうち7つがマラリア治療薬と物流の記録を完了し、SMILEマラリアアプリを通じて地区保健事務所への発注を開始しています。

SMILEマラリアアプリの試験運用の一環として、 UNDPインドネシア事務所は国や地方自治体とも緊密に協力し、医療従事者の研修、媒介蚊の駆除、草の根組織や市民社会との関わりなど、マラリア対策に関連する問題を含め、保健分野における指導的立場や意思決定的立場への女性の参画を促進しています。

インドネシアにおけるマラリア対策において、誰一人取り残さず、人々を中心としたアプローチとジェンダーに対応したプログラムを採用することが成功のカギを握っています。そのためには、女性医療従事者がコミュニティや関係者と積極的に関わり、地域のニーズを把握し、平等と包摂に対応したエビデンスに基づくマラリア対策戦略を策定することが重要です。

次の段階として、UNDPとMoHはグローバルファンドと提携し、パプア州と西パプア州での追加の試験導入を通じて、SMILE マラリアアプリの利用を拡大する予定です。