障害のある子もない子も平等に- 津波プロジェクトにおけるUNDPの取組み

UNDPタイ事務所では、インクルーシブな津波対策を通じて、障害の有無にかかわらず、災害リスクに直面するすべての子どもたちの防災力の向上を支援しています。

2023年11月5日

避難訓練で教師に誘導されて整列する小学生。車いすでも避難できる経路を確保するなど、体の不自由な生徒にも配慮した包括的な避難訓練が実施されている。

Photo: UNDP Thailand / Pakin Media

「20年前、障がい者に対する人々の態度は不適切なものでした。両親が私を学校に通わせようと決めたとき、みんなは時間とお金の無駄だと言ったのです」とアルニー・リムマニー博士は話します。自身も障がい者を持つ女性であるリムマニー博士は、タイ身体障がい者協会の助教授兼教育・雇用アドバイザーとして働いています。「しかし、今では人々の意識が変わり、多くの障がい者が良い教育を受けています」とも彼女は話します。しかし、障がいのある子どもにもない子どもにも平等に教育の機会を提供する進歩が見られる一方で、災害対策においては新たな不平等や懸念が生じています。

アジア太平洋地域には、約7億人の障がい者が暮らしています。驚くことに、津波に対するリスクの軽減や対策、あるいは早期警報システムは、障がい者のニーズや権利を見落としていることが多いのです。障がい者は、災害時に負傷したり死亡したりする可能性が、最大で4倍というローウィー研究所の調査結果もあります

障がいのある生徒もない生徒も一緒に応急手当の訓練を受講

Photo: UNDP Bangkok Regional Hub

障がい者は自宅に: 津波対策からの排除 

UNDPは日本政府と協力し、「アジア太平洋地域学校津波対策プロジェクト(津波プロジェクト)」を通じて、アジアと太平洋の国々で、学校の津波対策強化を支援してきました。プロジェクトが開始された2017年から、タイを含む24の国々で避難計画の策定や避難訓練の実施をサポートすることで、障がいのある生徒も含めた津波対策の強化に取組んでいます。プロジェクトを実施する中で、UNDPタイ事務所のプロジェクトチームは、障がいのある子どもたちが災害対策に積極的に参加する機会がなく、「家にいるように」と言われて見過ごされていることに気が付きました。 

この問題に取り組むため、UNDPタイ事務所はタイ教育省の基礎教育委員会事務局(OBEC)や内務省防災・減災局、タイ赤十字社、その他の関係者と協力しています。津波プロジェクトの成果の一つとして、UNDPタイ事務所はOBECと共同で、津波避難計画や避難訓練実施のためのタイで初めてとなるナショナル・ガイドラインを作成し発表しました。このガイドラインには、避難計画や避難訓練に障害者を含める対策が盛り込まれています。ガイドラインの作成に携わったリムマニー博士は、インクルージョン(包括性)の重要性を強調し、「私たち(障がい者)が積極的にこのガイドラインに関与し貢献することで、政府が私たちと対等な立場で協力することができる」とも話しています。

「私たち(障がい者)なしでは何もできない − それが私たちの活動のモットーです」
リムマニー博士

津波プロジェクトでは、障がいのある生徒を確実に取込むための包括的なアプローチを推進してきました。プロジェクトの一環として、津波リスクが高い学校の教師を対象に避難計画の策定や訓練の実施、災害への備えのスキルを向上させるための研修においては、障がいのある生徒への支援に重点が置かれています。研修を通じて教師たちは、視覚障がいや運動障がいのある生徒など、障がいのある生徒が直面する課題についての理解を深めています。学校の津波対策に障がいのある生徒のニーズを反映し、それに応じた避難経路を設計することもできるようになりました。災害発生時の迅速かつ効果的な避難のため、クラスメートが障がいのある生徒を支援するバディ・システムも導入されています。また、車椅子を使用する子どもたちのためのスロープが学校によって設置され、避難しやすい経路が確保されました。さらに、ナショナル・ガイドラインには知的障がい、視覚障がい、聴覚障がいを持つ子どもたちが利用しやすいように、図や絵、わかりやすい表示を用いたインクルーシブな早期警報システムについての資料も含まれています。 

他にも包括的な災害への備えを促進するための様々な対策が、このガイドラインには盛り込まれています。例えば、視覚障がいのある子どもたちのためのオリエンテーションや移動の訓練、避難経路の周知などです。聴覚に障がいのある子どもたちには、災害発生時に警告信号が振動として伝わるリストバンドが提供されています。煙感知器は、光と音の両方で知らせるよう設計されており、感覚に障がいのある人にも配慮されました。ガイドラインは、障がい者の災害リスクを軽減するための効果的な実践方法について、障がいを持たない人々の理解を深めることも目的として作成されました。

早期警報システムに関するパンフレットを読む生徒。パンフレットには、知的障害、視覚障害、聴覚障害を持つ子供たちも理解しやすく利用しやすいように、図や絵、わかりやすいサインが含まれている。

Photo: UNDP Bangkok Regional Hub

差別や偏見を乗り越えるための社会的転換 

タイでは、津波プロジェクトが身体障がい者協会などの団体と協力して、津波リスクが高い学校の生徒と教員約 3,000人の能力が強化されました。ナショナル・ガイドラインは、OBECとの協力によりタイ全土の27,000校に導入されています。リムマニー博士はさらなる障がい者の災害リスク軽減のための取り組みとして、今後は農村部の小規模な障がい者団体と連携して、より広範囲にガイドラインを普及させる必要があると話します。そして、「災害時に誰もが安全でいられるように、障がい者を災害対策へ取込むことは最も優先されるべき」と話します。 

真にレジリエントな(回復力や柔軟性がある)コミュニティを確立するためには、津波プロジェクトでの活動や、チリで災害管理政策における障がい者の保護と強化のための新しい法律が制定されたように、国内外の様々な災害対策において障がい者の権利を包摂したアプローチに取組んでいかなければなりません。平等という価値観に基づいた取組みが実施されて初めて、真にレジリエントな地域社会が実現するからです。